独身貴族a Swinging Single

episode１	なぜ僕が結婚しないのか？その理由を教えましょう・・・	episode2	一夜限りのシンデレラ!!恋に落ちた独身貴族
episode3	独身貴族に終止符!?縮まっていく二人の距離	episode4	心奪われた夜・・・ホテルで二人きり
episode5	もう恋なんてしないと決めた夜・・・	episode6	動きだした恋・・・僕は結婚します
episode７	涙のプロポーズ	episode8	僕が彼女にできること・・・最後の選択
episode9	もう戻れない・・・痛む恋の傷あと	episode10	さようなら・・・それぞれの選択
Finale	恋の結末

＜Finale＞

　完成した脚本を置いて，姿を消したゆき。誰も連絡が取れない。すると，会社にゆきから退職届が届いた。緒方はそれを守に渡しながら「社長，このままでいいんですか」と。守は「台本は完成していますし，退職は彼女の意思ですから」と冷静を装う。進は，弁護士の小林と会っていた。小林は，進にUSBメモリーを渡す。「ご覧いただければわかります」と。小林と別れてすぐ，進に電話が。進はレストランでパソコンを開き，小林から受け取ったUSBの中身を見る。そこには，進とゆきが楽しく食事をしている風景が。そこへ玲子がやってきた。玲子が進を呼び出していた。星野家に伝わるネックレスがどこにあるのか知っているかと言うことだった。守からは，それについて何の連絡もなかった。ちょうどその時，進のパソコンに映っていたのは，守とゆきがベンチで楽しそうに話している場面だった。2人で見てしまう。進「たぶん，ゆきちゃんが持ってます」。守は，一人「8月のボレロ」の台本を手に考えていた。
　ゆきは実家にいて，母親の仕事を手伝っていた。そこに1台の車が。降りてきたのは・・・玲子。ゆきに会うためだけにわざわざやってきたのだった。玲子「人は正直な気持ちを隠して生きていくことできないわ。最初に守さんがプロポーズしてくださったときに，守さんは，あなたへの想いを正直に言ったのよ」とあの病室でのプロポーズの言葉を伝えた。玲子「守さんといてわかったの。守さんと一緒にいるのは，私には無理だって。私より，あなたの方が守さんの事深く知っているっていうことを」。ゆきは「運命って決まってると思うんです。社長との出会いと今までを振り返っても，出会った瞬間運命の人だって思えるような劇的なことはなにも起こらなかったんです。きっとそういう運命じゃなかったんでしょうね。玲子さんと社長こそ，運命の2人だと思います」と言う。それを聞いた玲子「この世に運命なんてないのよ。幸せはあなた自身がつかみ取るしかないのよ」ときっぱりとした口調で言う。ゆき「いいえ。運命は存在します」。たとえば水槽の魚は干物になる運命だと言うと，玲子は「運命なんてないのよ」，その魚をガッとつかみ，海に放り込む。また海で泳ぎ始める魚。玲子「私は，さっきから穏やかに話していますが，本当はとても腹を立てているのですよ。私だって守さんが好き。でも守さんの中にはあなたしかいないのがわかったから，こうやってあなたとお話をしているのだけれど。本当の事を言えば，私はあなたの首根っこをつかまえて，海に放り投げたいぐらいでございますのよ・・・帰ります」。玲子の勢いに驚くばかりのゆき。
　「8月のボレロ」のリハーサルを兼ねたカメラテストが始まっていたが，守は進から，主演の山下が脚本家に会って話がしたいと言っていると聞かされる。守は「うまく断れませんか」と言うが，セリフのことで，このままではクランクインが遅れてしまう可能性もあると困惑している。守「少し時間をください」。守がとった手段は，沙織から携帯を借りて連絡を取ることだった。案の定，沙織からの電話に出るゆき。守「仕事の話だから聞いてください。一人の脚本家として戻ってきてくれませんか。君が書いた本です。山下さんと話すべきじゃないですか」。電話を切った守に，沙織は「ゆき，社長からのプレゼント，エンパイアステートビル，とても感動してましたよ」。守「そうですか」と答えるだけで仕事に戻ってしまう。
　守は，玲子と会っていた。あのお見合いをした場所で。玲子は，マンションのキーを返す。玲子「守さんと生活してみて，やっぱりムリだと思いました。それに，守さんのお部屋にあった母子手帳を見て出生時間から改めて占ってみたんですけど，時間を入れる前の相性では1万人に1人の相性でしたけど，ごく普通の，つまらない相性でした。1人で盛り上がっていた私がバカだったんです」と，努めて明るく話す。守「あのマンションには母子手帳はないはずです」。玲子「そうだったかしら？」ととぼけ，「そんなことどうでもいいです。今ネックレスを持っている方とお幸せになってください」。明るく去っていく玲子。一部始終を見ていた亜希子は「向こうからお断りしてきたことだから・・・こどもをうんでくださる方なら」。家がらよりも子宝・・・だと。
　ゆきが東京に戻ってきた。バス停まで迎えに来た進。ゆきが話しだす前に，進から「オレの話聞いてくれる？やっぱりオレ，ゆきちゃんと合わないと思うんだよね。クリエーター気質じゃないし。ゆきちゃん1人じゃ物足りないって言うか。ヤマタノオロチとは付き合えないだろ。だから，正式に別れたいんだ。それにさ離婚もやめになりそうなんだ」と明るく話す。山下と会うのは翌日になったからと，進は帰っていく。その後，進は小林と会っていた。小林「人生最高のものを失われたのですね」。進「いいんだ。元々兄貴とが一番お似合いなんだから。オレはそれを認めたくないばかりに，ずいぶんと兄貴の事もゆきちゃんの事も傷つけちゃったなと思って」。小林「ずっと観察していて，なんかあなたの事を好きになってしまいました。思っていたよりも，まっすぐな人間でした。同情しますよ」。進「もういいよ。彼女にとっても，1番幸せなんだから」。そして小林「離婚調停中の奥様から新しいご提案です」と，別荘も要求していることを伝える。進に同情したけれど，これはこれ。
　ゆきは沙織と再会。進と別れたことを報告した。ゆきは，進がヤマタノオロチに戻ることや，離婚が取りやめになると言ったことは，ウソだと見抜いていた。沙織「専務って，優しいんだよ」。ゆき「優しすぎるよね」。沙織「ゆきは？素直になりなよ」。ゆき「もう全て終わったことだよ」。以前のように，シャンパンを飲みながら，靴を磨く守。そこに進が帰ってきた。進「ゆきちゃんと正式に別れてきた。やっぱりさ，1人の女じゃ物足りないんだよ」。守「お前らしくないな。そんな優しいことするなんて」。進「オレ，ふられたんだぜ。兄貴がゆきちゃんに行くべきなんだよ」。守「バカなこと言ってんじゃない」。進「玲子さんなら，とっくに気づいているよ」。守「玲子さんには，正式に断られた・・・ここはしかし，ふられた男の吹き溜まりだな。弟はただ１人だと思った人にふられ，兄はあんなに献身的だった人にふられ・・・オレたち，なにやってんだろうな」。
　翌日。撮影所にゆきがやってきた。緒方に案内され，控室へ。そこには守が。ゆきは，勝手に退職願を出したことを謝罪する。守は「キネマ・エトワールとしても，脚本家を雇っておくか考えていたところです。ちょうどよかったです。本来脚本家はフリーですからね」。緒方が席をはずそうとすると，ゆきが「散歩にいってきていいですか」。スタジオでは，山下がセリフに納得いかないと言ってリハーサルが止まってしまっている。川越に呼ばれ，かけつけるゆき。そこでは，進が山下とケンカ状態。進が山下に殴られ，殴り返そうとすると，間に入った守が殴られてしまう。守を心配するゆき。見つめ合う２人。進・山下，他のスタッフたちはどこかへ消えてしまう。その様子は，どこかおかしい。水島が，ワイヤーアクション用のワイヤーを見つけ，「おかしいなぁ」とうろうろ。それで気づいた守。セット裏にいる進や山下，他のスタッフのもとへ。怒った守は「なんだ，この茶番は。なにやってんだ。山下さん，進のばかな提案にお付き合いさせて申し訳ございませんでした」。そして，進以外，全員外に出す。ゆきも出されるが，すぐ近くで話を聞いている。2人きりで話をする。進「兄貴とゆきちゃんが，２人で話すシチュエーション作りたかっただけだよ」。守「お前の筋書きか？最悪なシナリオだな。春野ゆきとオレの仲を取り持とうと言うのか。彼女に対しても失礼じゃないか」。進「いい加減，自分の気持ちに素直になれよ。オレも玲子さんも，身を引いたんだ。もう足枷は何もないはずだろ」。守「お前，なに言ってんだ。お前やってることめちゃくちゃなんだよ。迷惑なんだよ。オレは今の生活で十分に幸せなんだ」。進「幸せ？違うだろ！兄貴はただ怖がってるだけだろ」。守「どういうことだよ」。進「ただ臆病なだけだよ。傷つくのが怖いだけなんだよ。独身がいいだの，パーソナルスペースがどうのって，いろいろ理屈をこねてるけど，ただ自分が傷つくのが怖いだけで，自分の周りに壁を作って，閉じこもってるだけだろ。兄貴は人とのかかわりを怖がっている臆病者だ！」。守「なに訳のわからないこと言ってんだ！オレは子供のころから１人が好きなんだ！パートナーなんていらなんだよ！オレには，誰も，誰も必要ないんだ！」。進「それがゆきちゃんでも」。しばらく答えられない守だったが「誰であっても変わらない」と言ってしまう。進「兄貴が今後，どんないい映画を作ったとしても，兄貴は最低な人間だよ！」。守は何も言わずに立ち去る。
　ゆきは1人撮影所内を歩く。あるスタジオに，巨大ツリーを見つける。そこには守が。吸い寄せられるように近づくゆき。守「つまらないことにつき合わせて，ホントに申し訳ない。あいつ，どうかしているよ」。ゆき「社長にとっては，ホントにつまらない，意味のない茶番ですよね。でも，私，怒ってないです。腹も経ってません。専務はいつだって優しいんです。これだって，専務の優しさからやったことなんです。私，専務のその優しさにひかれていました。でも，ホントに優しかったのは，社長です。社長の優しさは，専務の優しさと違うので，最初気が付きませんでした」。初めて守と会った時，脚本について散々言った後，「セリフだけはよかった」と言われた事が，本当に自分を認めてくれているんだとわかったと。ゆき「社長だけだったんです。私を必要としてくれたのは。私，いろいろと鈍くって，みんなの気持ちにも，私自身の気持ちにも，全然気がつかなくて。気がついた時には，社長は玲子さんと結婚する時で。だけど，今はわかっています。自分の気持ちを。社長は，私にとって，大切な人です」。ゆきは，やっと自分の気持ちに気付き，自分から告白する事が出来た。しばらく沈黙が続く。守は絞り出すように，「君といると，いつも僕の心はざわついて，なにも冷静な判断gなできなくなってしまうんです。これ以上，こんな気持ちにはなりたくありません。僕は，君のことは全て忘れて，一人，静かに，生きていきたいんです」。涙を流すゆき。そして，「これ，ずっとお返しできなくてすみませんでした」とネックレスを渡す。照明が消える。ゆき「今まで，本当にお世話になりました。ありがとうございました」。スタジオを去り，ひとり歩いていくと，撮影所の前に沙織が待っていた。沙織に抱きつき，泣きながらゆきは「私こんなに人を好きになったことないのに」。
　暗いスタジオにひとり残っていた守。そこへ玲子がやってきた。なぜここに玲子がいるのか，守は不思議がる。厳しい口調の玲子「山下さんを巻き込んだ茶番，あれは私と進さんで考えたことだからです。守さん，なにをお考えなのですか。どうして素直にならないんですか。どうしてゆきさんのところにいかないんですか」。守「あなたには関係ないことで諸」。玲子「いいえ。おおありです。あなたがゆきさんと結ばれないと，私の立場がますますみじめななものになるんですよ。いったい私はなんのために，あなたとお別れ申し上げたのでございましょう」。守「大きなお世話です」。ぐずぐずする守を，玲子はいきなりひっぱたく。玲子「いい大人の男が，子供のように駄々をこねてい，意固地になって，いったい何事ですか！しっかりなさい！」。
　家に帰る守。すでに進は家に帰っていた。進「オレはもう，兄貴にはなにも言わないよ。兄貴の人生だもん。兄貴が決めることだし。兄貴が一人がいい，独身がいいって言うならそれでいいと思うよ」。しばらく黙っていた守「進。オレはどうしたらいい？」。進「兄貴はもう，とっくにわかってるんじゃないの。違う？」。なにも答えない守の視線の先には，あのエンパイアステートビルが。ゆきとの思い出が次々とよみがえってくる。一人になった守は，あのネックレスをじっと見つめていた。
　翌朝。進が起きてくると，すでに守の姿はなかった。安心したように微笑む進。ゆきは，実家でクリスマスツリーを飾っている。久しぶりに実家で過ごすクリスマス。そしてゆきが干物を干していると，誰かがあるいてきた。なかなか誰かわからない。それは・・・守だった。守とわかると，急に自分のみなりが気になってしまうゆき。ゆきが「どうして」と言うと，守はゆきの目をまっすぐ見つめて，話しだした。あの旅館で，伝えたけれど伝わらなかった，あの言葉を。「君にまだ会う前，君がテーブルに置いていった『８月のボレロ』を最初に読んだ時，書いた人間が，どういう人か，すぐわかったよ。髪の毛や服にそんなに気を使うんじゃなくて，外で遊ぶより本が好きで。本より，もっと映画が好きで。でも好奇心がおおせいで。ダイヤのネックレスよりは，野に咲く花の方が好き。いつも夢見てるけど，物事の本質を見る目があって。意思が強くて。こだわりがあって。頑固とも言うけど。いろんなところが似ていると思ったんだ。この世にそんな人間，自分だけだと思ってたのに。やっと見つけたと思ったんだ。春野ゆき。あなたは，僕にとって，とっても，とっても，大切な人なんだ」。一言一言，しっかり伝わるように話す。涙を流すゆき。守は，ゆきを抱き寄せた。そして，「これは星野家の長安の嫁が代々持っている物なんだ。君が持っていてほしい」と，あのネックレスを渡す。そして，優しくキスをした。そんな場面を偶然見てしまったゆきの母は，卒倒。

　進と玲子が，レストランで待ち合わせをした日。パソコンに映し出されている映像を見ながら相談をしている。玲子「引き時ですね，私たち」。進「でも，ゆきちゃん，頑固だからな」。玲子「それは守さんも同じです」。進「よし，まずどうやってゆきちゃんを家から引きずり出そう」。玲子「たとえば，こういうのはどうでしょう」。進は，いろいろな人たちに話をしていく。山下は「あの独身社長が!?」。進「協力していただけませんか」。山下「わかりました。どうしたらいいですな」。スタッフたちにも協力要請。そして，スタジオでは，映画のリハーサルではなく，"茶番"のリハーサルが入念に行われている。ケンカの流れやワイヤーアクションのタイミングを確認。そして，本番・・・。

　映画「８月のボレロ」クランクインの日。みんなが集合して見守っている。亜希子や玲子も。守の隣には，あのネックレスをしたゆき。プロデューサーの進「山下さん，映画史に残る作品にしましょう」。山下「まかしてください」。そんな様子を見守っていた守は「進，本物のプロデューサーの顔になってきたな」。ゆき「良い作品になりそうですね」。守「君の脚本のおかげだよ」。スタッフの「よーい，スタート！」の声。いよいよ撮影が始まった。

・・・Fin

＜episode１０＞

　結婚式当日。玲子は，ウエディングドレスを身につけていた。控室では，進が守に「兄貴が結婚とはね。半年前の兄貴に聞かせてやりたいよ」。数か月前までの守は，結婚は奴隷になることと豪語していた。その話をしていると，ゆきがやってきた。お祝いをいった後，先にチャペルにいっていると去っていった。守は「人は人との出会いによって変わるということだよ。今は全く奴隷だなって思ってないからね。しかし，結婚は熱にうなされた恋愛状態からするのではなく，冷静な男女が，冷静な判断によって，冷静に行われるべきだと思うけどね」。ゆきは，ひとりチャペルで守とのことを考えていた。守もゆきも，自分の本当の気持ちに蓋をして，この日を迎えていた。守と進の話を，心配そうにみている亜希子。亜希子が守に話しかけようとすると，玲子がいなくなったという知らせが入った。進は，ゆきにこの事を伝えに行く。守は，出席者に「今日の式はとりあえず中止にさせてください」と。その時，現王園に電話が入る。玲子は家に帰っているという。チャペルを出る進とゆき。進「ホントにごめんね」。ゆきは，脚本を直しに戻ると。進「急がせてごめんね。役者たちも欲しがっているんだ」。チャペルでひとり考えていた守は，すっと立ち上がり，その場を去っていく。
　現王園家。守がやってくるが，玲子は動揺していて誰にも会いたくないと言っている。現王園は守に謝る。守は「なにも問題ありませんから。大丈夫ですから」と帰っていく。家から出ていく守を部屋の窓から見ている玲子。ゆきは，脚本直しに身が入らない。守からのプレゼントについていた，エンパイアステートビルを見て，守の事を思い出していた。ゆきは，沙織と食事に行くことになった。結婚式の騒動を聞いた沙織は「逃げるにも相当エネルギーいるよね。わかんないもんだね。人の心なんて。ホントは，いろんな人がいろんな事隠して生きているのかも知れないね。正直に生きられればいいけどそうもいかないし・・・でも，本当の想い，一生隠して生きていくのは辛いことかもしれないよ」と念を押すように。ゆきは「なんでもないんだから」とムリに笑顔をつくる。そんなゆきに，玲子から電話が。そして，キネマ・エトワールに，珍しく水島がやってきた。何かいいたそうだが・・・。やっと話を切り出したが，「8月のボレロ」に出演予定の役者が，すぐ台本が欲しいと言っているという。水島「ホントのこと言いますと，まずいことになってまして」。あさってまでに決定稿ができないと，クランクイン自体が危うくなると言うことだった。
　ゆきは，玲子とレストランで会っていた。玲子は，一度二人きりで話がしたかったという。ゆきが「大丈夫ですか」とたずねると，玲子は「ご心配おかけして申し訳ありませんでした」と謝る。ウエディングドレスを着て，鏡に映った自分を見た時，急に不安になったという。数分後に夫になる守の事をまだまだ知らないということに気づいて，苦しくなって逃げ出してしまった。それで，ゆきに仕事中の守の話を聞きたいと，今回呼び出したのだった。ゆきは「脚本読む時の集中力がすごいです。集中しすぎていて，周りに人がいることを忘れてるんじゃないかと思います。たとえば，家事になってまわりが燃えていたとしても，たぶん，気づかないんじゃないかと思います。ですから，気をつけてくださいね。それから，普段は物腰が柔らかくて，穏やかで，常識的な人に見えますが，作品のこととなると急にどなり散らす事もありますし。深夜だろうが，早朝だろうが，気になった事があったら平気で電話してきます。もし風邪で寝込んでいたとしても，無理やり起こして本打ちを始めると思うんです。社長には時間と言う概念はありません。あと，社長のこだわりは異常です。社長の中でこうだって決まったら，絶対に譲りません。とにかく譲りません。少し変じゃないかなと思っても，一語一句そのままじゃないといけないんです。それにそのセリフを全部覚えていて，私が少し単語を並べ変えただけでも，ここは違いますって指摘してきます。とにかく凄いです。普通じゃないように思います。いろんなところが」と流ちょうに語る。自分の知らない守の事を語るゆきを，じっと見つめる玲子。玲子「進さんは？」。ゆき「全く違いますよ。バランスもとれていて。社長のようなことはしませんね」。玲子「そうですか。今日はお会いできてうれしいです。楽しかったです。進さんとお幸せにね」と帰っていった。
　キネマ・エトワールには，次々と台本の催促の電話がかかってきた。川越は「サボっているわけじゃないんだから」と言うが，収拾がつかない。川越は「あさってには送ると伝えてください」と決断する。やっと落ち着いてきた。それを社長室から見守っている守。その時，現王園から電話が。葉山に行くようにと言うことらしい。一方，ゆきはひとりきりで脚本を直していた。そこに進がやってくる。進「相談に乗れる事があったら・・・いや，中身に協力できることはないけど」。何か欲しいものがあったりするのならと言うが，なにも答えられないゆき。進「最終締め切り間に合わなければ，今の原稿のまま印刷しちゃうから」と会社に戻っていった。進が自宅に戻ると，以前の部屋に戻っており，守が今まで通り，メガネをかけ，料理をしていた。玲子の荷物は，業者が引き取っていったという。守「料理はいいよね。いい気分転換になる」。進「ホントはこっちが好みなんじゃない？」。玲子が作ってくれていた料理とは違い，守が作るのは和食。進「結婚しなくていいんじゃないの」。守「それはできない。それじゃお前はなんで結婚したんだ？」。進「そりゃ，相手のコツ気になって，この世にはこの女しかいないって思ったんだよ。だけど後々大間違いだったって気づいたんだよね」。」。守「完璧な女性と結婚したとしても，やがて間違いに気づくわけだ。だとしたら，好きになって結婚するだけでなく，結婚する理由はほかに会ってもいいんじゃないか。冷静な判断をして，ありとあらゆる状況考えて，その相手と結婚することが総合的に正しいと判断することに何の罪があるんだ。オレはロマンティックに身をゆだねるのほど無責任になれないんだ」。
　守は玲子とと会うため，葉山まで出かけていった。手前で車を歩き，歩いて向かう。現王園の別荘で，２人きりで話す。今回の事を謝る玲子に，守は「気にしないでください。もう一度仕切り直しましょう。もしよかったら来年に・・・」。玲子は，ゆきと会ったことを話す。玲子「仕事している守さんの事しりたくて。とても興味美かかったです」。ゆきに教えてもらった通りに，話す玲子。そんな玲子を黙って見つめている守。玲子はその視線に気づき，はっと話すのをやめた。そして，亜希子から教えてもらっていた星野家の長男の嫁に代々伝わるネックレスを自分にくれないかと言う。守は「はい。わかりました」と帰っていく。東京に戻る車の中。ゆきに電話をかけるが，つながらない。緒方に電話をかけてみると，ゆきは自宅で台本を書いているはずだという。そこで，守はゆきのアパートへ向かう。ノックをするが応答がない。その時，外出から戻ってきたゆきが守の姿を見つけ，そっと逃げ出した。守は諦めて車に戻るが，すぐ近くでゆきは見つからないように身を隠していた。
　脚本の遅れで，出演者の事務所の人間が会社の乗り込んで着ていた。このままでは役を下りることも検討すると。弁解できない川越。すると緒方が「待ったかいがある本になります。もし，今役を降りることになったら，必ず後悔しますよ。それでもよろしいんですか」と助け船を出す。相手は「明日必ずお願いします」と帰っていった。ゆき「ありがとうございます」。緒方は照れて出ていってしまう。ゆきは，川越にも謝る。川越「オレが防波堤になって，全部押さえるから。オレね，春野が納得しない本で撮影したくないからさ」。家に戻り，資料を見ていたゆきに進から電話が。すぐに来てくれと。ゆきが脚本の直しで忙しいからと断るが，業務命令だからと。2人が行ったのは，東京タワー。東京タワーのシーンから運命の再会につながるから，何かヒントになるんじゃないかと言う進の考えだった。東京タワーに上り，夜景を見ていると，ゆき「専務は私の事全部知ってるわけではないですよね。私も専務の全てを知ってるわけではないんです。ある人がいってたんです。相手に自分の知らない事があると不安になるって。専務，不安になることってありますか」。進「しょうがないことだよ。他人なんだから。全部を知るなんてできないよ。だからこそ，常に相手の気持ちを聞いて，重いやってやることが大切なんじゃないかな」。しばらくして，ゆき「ありがとうございました。部屋にいて煮詰まってました。専務は優しいですね・・・ごめんなさい。ホントにごめんなさい・・・台本遅れて」。泣きだしそうなゆきの姿を見て，何か感じとった進。そこで別れる２人。ゆきは，進との思い出を思い浮かべながら独り街を歩く。ふと目に入った映画のポスター。あの「あじさい」が上映されていた。映画を見終わったゆきの目の前に，守の姿が。上映最終日だから見に来ていたという。
　映画館の閉館時間になり，夜の公園で話をする。ゆきは，誕生日パーティーの時の話をする。守は，仕事で急用を思い出したからと謝る。ゆきがエンパイアステートビルを見せると，守「どうしたのこれ？」。ゆき「『めぐり逢えたら』に出てくるエンパイアステートビルですよね。メグ・ライアン演じる主人公のアニーには，婚約者がいますね。ある日，アニーは，サムが亡くなった妻の話をするのをラジオで聴きます」。守「彼女と触れ合った瞬間にわかった。帰りつきべき家を見つけたという感じだった。車から降りるとき手を貸してそう感じた。運命のマジックだ」。ゆき「その話を聞いて，アニーはサムこそが運命の人だと感じたんです」。守「顔も見ずにね」。ゆき「そう，声だけで」。守「トム・ハンクスでよかったね」。ゆき「結局アニーは婚約者を捨てて，エンパイアステートビルの屋上でサムと出会ってハッピーエンド。そういうお話でしたよね」。守「その通り」。ゆき「もし社長がサムだったら，アニーとハッピーエンドになりますか」。守「・・・僕は，あの話は納得いかない。あのふられた男・・・ウォルター。アニーの婚約者であるウォルターは，なにもわり子としていない。彼には何の罪もないのに，アニーが運命の人を見つけたというとんでもない理由で，突然ふられるんだ。そんな不幸ってどう思う・そんなフィル人で身勝手なこと，現実では絶対許されないよ。もし僕の運命の人サムだったら，ウォルターのこと気にしてアニーとエンパイアステートビルの屋上に行くなんて，そんな迂闊な行動は絶対にしないよ。絶対にしない」。ゆき「そうですよね」。守「そうだよ」。お互い，顔を見ずに話をする。ゆき「では，私は本の直しをしなくてはいけないので，先に失礼します」。ひとり残る守。残されたエンパイアステートビルを手にする・・・。
　夢中で曲本を直すゆき。家で一人飲む進。そこに守が帰ってきた。ゆきと会ったことは話さない。暗いリビングで，ソファに２人並んで座る。守「今度春野ゆきに会ったら，ネックレスを返してくれるよう伝えてくれないか」。進「自分でいえば」。守「完成台本切羽つまった状態だから，些細なことでじゃましたくないんだ。お前なら言うタイミングわかるだろ？頼むよ」。そのころ，脚本の直しを完成させるゆき。沙織「どうしても行くの？」。部屋の隅には，ゆきの荷物がまとまっていた。
　翌朝。会社には「８月のボレロ」の完成台本が。守と進が出社すると，さっそく目を通す。社員全員が夢中で読んでいた。その時，ゆきは・・・長距離バスの列に並んでいる。最後まで読み終わり，満足げな守と進。守「読んだ？」。進「ああ」。お互い顔を見合わせ，うなずきあう。進は立ち上がり，社員のみんなのところへ行き，「完成台本だ」。すぐに印刷所に連絡するが，今日中は無理と言われてしまう。しかし，無理を通して仕上げてもらうよう依頼する。進「今まで呼んだ中で最高の脚本なんだ。この完成台本でクランクインするぞ」。そんな仲，ゆきと連絡が取れなくなっていた。進「彼女はもう戻ってこないと思う」。

＜episode９＞

　朝。玲子と過ごす守。結婚式の話をしている。そこへ進が起きてきた。進が結婚式の日取りを尋ねると，2人そろって「1週間後」と答える。玲子のはまっている占いの結果。時間がないので，身内だけの結婚式になる。それを聞いて進は「ゆきちゃん，誘っていい？」とたずねる。守は「もちろんだよ」と答える。それを聞いて，不安そうに見つめる玲子。キネマ・エトワールには，「8月のボレロ」の準備稿が届いていた。川越は，そろそろ自分がプロデューサーになれるんではないかと，ゆきに進への"営業"を頼み込んだ。その川越が社長室に呼ばれた。何かミスをしたのかと緊張する川越。守と進の前で，緊張しきる川越。進は，「8月のボレロ」には若い世代が関わった方がいいだろうと判断し，川越を自分の下でプロデューサーとして働いてほしいと伝えた。守は「この作品は好きですか？」とたずねてきた。川越が好きだと答えると，守は「専務と2人でいい作品にしてください」と言った。社長室を出た川越は，会社のみんなに報告。みんな一緒に大喜び。ゆきは，社長室の守の事が気になっていた。
　「8月のボレロ」のスタッフ顔合わせ。川越が紹介され，一言挨拶することになったが，緊張しきって何も言えなくなる。守も静かにやってきて，部屋の隅で見ている。ベテランスタッフからヤジが飛ぶ。進がフォローをする。覚悟を決めた川越「初めて『８月のボレロ』を読んだのは，ずいぶん前になります。その時なんてひどい脚本なんだろうと思いました。これなら自分でも書けると。春野さんの手で何度も何度も直され，今ある作品になりました。それ読んだ時，正直な来ました。心からいい脚本だなと思いました。物を作るのがどういうものか思い出したんです。この業界には行って１０年近くになります。でも，最初の気持ちに戻って，いい作品にしたいと思います」。しっかり話す川越に，スタッフも納得。顔合わせが終わり，守は進に「川越君，良かったね。お前らがいれば安心だな」と出えていく。そのあと，進はゆきに，守と玲子の結婚式の事を話し，出席してくれるよう伝える。「正式なパートナーとして紹介したい」と。家に帰り，ゆきは沙織にその事を伝える。沙織は次は進とゆきの結婚じゃないかと言うが，まだ進の離婚調停は終わってない。沙織に，玲子の事を聞かれ，理想のカップルだと。ゆきは守の事を語りだす。話が止まらない。ゆきは「あの変わり者の社長が結婚できるんだなと思うと，世の中捨てたもんじゃない・・・結婚に向かない人。どうどう生活に向かない人」と。そんなゆきを見て，沙織「反対なの？社長の結婚」。ゆき「大賛成だよ」。
　「8月のボレロ」のロケハン。重要な「運命の再開」のシーン。ゆきも一緒に行くと。川越「社長みたいなこと言うな」。守は，自分の関わっている作品は全部ロケ場所回って脚本に反映さえていた。進は亜希子に紹介したい人がいると電話をする。離婚調停も，ゆっくりだが進んでいる。亜希子は，食事会に連れて来るようにと言った。ロケハン現場。ゆきは，イメージ通りの場所で感動して，川越の言葉かけにも気づかないほど。スタッフも一番いいと，みんなが納得していた。ゆきは，自分でも写真をたくさん撮っている。ロケハンから戻ると，すぐに社長室に行き，「結婚おめでとうございます」と言った後で，ロケハンの事を話す。嬉しそうに報告し，夕方の設定にしたいと相談。守は，進と川越に任せているからと，自分は関わろうとしない。川越から，守がロケハンして脚本を直すと言っていたので，アドバイスが欲しいと言っても，守は忙しいと断る。
　食事会。亜希子と進とゆき。現王園と玲子と守。それぞれ向かい合っての食事。ここでゆきは，初めて玲子が日本映画の会長の娘だと知った。玲子と進は，お互いのパートナーのいいところを楽しそうに言い合う。でも，2人は映画に詳しくない。守とゆきについて語るには，映画抜きではできない。進と玲子がわからずに困っていると，守とゆきがフォローし・・・逆に守とゆきが楽しく会話をしてしまう。そんな様子を見ている現王園。食事会の最後，ゆきが「8月のボレロ」の制作を許可してくれたことに対してお礼を言うと，現王園は「お礼なら，守君に。彼ほど『8月のボレロ』に惚れて込んでる人いませんよ」。守が，会長にお願いしたことを，初めてゆきは知った。
　家に帰ったゆきは，沙織に仮の話として相談をする。本当は結婚したくない男。ある事件を解決するために，婚約者の父親にお願いをしなくちゃいけない。沙織「泣けるわぁ。自己犠牲の話弱い。そのために結婚するんでしょ」。ゆき「やっぱりそうなのかな」。守と玲子は結婚式の話をしている。結婚式まであと3日。ゆきがイメージ通りと言っていたロケ場所が，主演のスケジュールに合わず，却下になってしまった。代わりの場所を川越がスタッフに紹介する。スタッフは納得はしていないが，イメージと違うが仕方がないと。スタッフの態度に，川越は落ち込んでしまった。玲子のウエディングドレス合わせに付き合う守。そこへ，現王園から電話が。2人で話がしたいという。守は，玲子に仕事でいったん出るがまた戻ってくると去る。不安げに見送る玲子。現王園と守。玲子は遅くできた子供で，心配だらけの親バカになってしまう，と現王園。「君は，玲子のどこにひかれたんだ」。守は，言葉に詰まり，「照れてしまって，うまく言えません」。現王園「今なら引き返すことだってできるんだよ」。守「私は，玲子さんと結婚したいと思っています」。現王園「玲子の悲しむ顔見たくないんだ」。守「大丈夫です」。
　会社で，ゆきは守の事を気にしている様子。玲子は守のところへ行き，ロケ場所の写真を見せて意見をもらおうとする。守「『8月のボレロ』のことは任せています」。玲子「わかっています。でも，どうしても見ていただきたくて」。守は聞こうとしない。なんとか食い下がろうとするゆき。この作品を一番理解している守の考えを聞きたいと。それでも守「私には関係ないことです。話は終わりです。出ていってください」と強い口調で断る。ゆきは，写真の入ったアルバムを置いて出ていく。その写真を家で見ている守。進が，結婚したら家を出た方がいいのか，ゆきも一緒に住むか等と話しかけても，聞いている様子がない。進はあえて「亜希子おばさんも呼んじゃう？」と言ってみる。それにも応えない。代わりに，守は進にロケ場所を見ているかとたずねるが，進はどこも見ていなかった。それを聞いた守「それならいいんだ・・・亜希子おばさんだけは，ダメだぞ」。ゆきは，同じ写真を見ながら脚本を直していた。
　キネマ・エトワールにスタッフが集まっていた。そこで初めてゆきはロケ場所の変更を知った。人気のある場所で，撮影日時と主演のスケジュールが合わない。最初の場所が１番だと，主張するゆき。スタッフは「気にしているのは脚本家さんだけ」と冷たく言う。ゆきは，映画の一番大切なシーンだから，と力説。スタッフは，理想だけではダメ，素人は困るといいだした。そして，ロケハンに脚本家を連れてきた川越を責め始める。川越は「わかった。こっちでいこう！ここじゃないとダメだ。スケジュールは，オレがどうにかする。主役の事務所に頭を下げても」。会社を出て，川越と緒方が話をしている。川越は，今まで自分がかっこよく見えることだけを考えていた。今回は，この作品が好きで，自分のことはどうでもいいと考えるようになった。失敗しても，人に嫌われても気にならない。緒方は，いつもゆきのかたを持つのはムカついていたけど，今回はムカつかないと言った。２人とも，少しずつ変わっていっていた。川越は，電話で進に報告する。進は，川越を褒めた。いつものレストラン。ゆきが脚本を直していると，進がやってきた。「ロケハン付き合って」と。緒方は，守が捨てたゆきへのプレゼントを持っていた。どうしたらいいか悩んでいる。進とゆきは，高級マンションへ。どう考えても，「8月のボレロ」には必要のない場所。進「ここでいい？・・・オレたち，一緒に住まないか」。ゆきは「突然のことで頭回らなくて。ちょっと考えていいですか」。進「ちゃんと考えてね」。
　緒方がプレゼントを手に考えていると，ゆきが戻ってきた。緒方「社長結婚しちゃうんだって？・・・ずっと気になってたんだけど」と，誕生日の日の事を話す。守が結婚する前に話しておいた方がいいだろうと。ゆきに会いに屋上にいったが，すぐに戻ってきてプレゼントを捨てていったことを話す。ゆきは，守と会っていないが，屋上にいったということを聞き，進とのキスを見られたことに気づく。緒方はそのプレゼントを，ゆきに渡した。緒方「ハートの付いたビル，意味あるの？」。あのやりとりを思い出すゆき。ゆきは，1人，あのロケ場所の夕方の様子を見に行った。階段を下り，途中で座って夕陽を見つめている。そして，守もやってきた。守は，階段の手前で夕陽を見ていた。お互い，それぞれの姿は見えず，気がつかない。ゆきが立ちあがった瞬間，立ち去る守。一瞬，守の後姿を見たゆきは，慌てて追いかける。その途中，工事の資材が崩れ，ゆきが下敷きに。その音に気付いて戻ってくる守。必死に名前を呼び続ける守。救急車の中。ゆきの手をとる守。病院につき，診察を受けると，ケガは大したことなく，脳にも異常はなかった。その結果を聞いた守は，ゆきに会わずに帰っていく。ゆきは，救急隊員に助けてくれた人の名前を聞く。守が助けてくれたと知り，守の姿を探すが，もう姿は見えなかった。
　守の家。玲子は「明日式場で」と帰っていく。進「明日だね・・・兄貴，もう二度と聞かない。本当の事言ってくれよ。このままでいいの？」。ゆきは家に帰り，今日の出来事を沙織に話す。沙織「明日だね。いいの？」。ゆき「なにが？」。沙織「ゆきは，このままでいいの？」。ゆき「だからなにが」。沙織「社長の結婚」。守と進。守「万が一，お前が思っている通りだとしても，今オレたちが選んだそれぞれの道が一番いい道なんだ。お前とオレと，お互いのためにも，会社のためにも。一時の感情は理性によってきれいさっぱり忘れることができる。だから，心配するな。もう全て決めたことだ。おやすみ」と部屋へ行ってしまう。ゆきは，沙織に「今日，いろんな事が１本の線でつながったの。前々からうすうす気づいていたのかもしれないけど。もしかしたらその気持ち見ないようにしていたのかな」。沙織「その気持ちって？」。ゆきはそれには答えず，守とのいろいろな思い出を思い出し・・・ないながら「でももういいの。だって，明日結婚式なんだもん。もう手遅れだから」。暗い部屋，１人考える守・・・。

＜episode８＞

　朝。玲子と過ごす守。すでに進は出かけていた。進は，水島に呼び出され，新社長から「８月のボレロ」に待ったがかかったと伝えられる。出資してくれる会社を見つけなければ，このまま映画化は見送られてしまう。進は守に報告。守は，スポンサーを探すよりも，制作を先に伸ばす方がいいとアドバイスする。スポンサーが増えると，その分作品への要求も増える。要求に応えることで，変な方向に進んでしまうのではないかと心配していたのだった。それでも進は，理解のあるスポンサーを見つけると意気込んでいた。進は，ゆきにも報告。スポンサーを探すから大丈夫だと。それから必死にスポンサー探しを始める。しかし，昔と違い，なかなか出資しようという企業は見つからず，次々と断られてしまう。ゆきがレストランでひとりで脚本を直していると，進がやってきた。スポンサー探しは大丈夫だと言うが，その場でも断りの電話が入ってくるぐらいだった。守は自宅のソファで脚本を読んでいたが，進が帰ってくると，さっと隠してしまう。そして，またスポンサーは無理して探すなとアドバイス。守「ムリに頼み込むと，いろんな条件をつけてくる。本来の形で映画の制作ができなくなる」。進「大丈夫」。守「焦るなよ」と寝室へ向かおうとする。進は，自宅で仕事の話をすることに疑問を持つが，守「あの決まりやめた。外，寒いから」とあっさりルールを破棄。
　携帯ゲーム会社のモバイルピクチャーズからリアクションがあった。進が出向いていくと，担当者は出資はOKだという。ただし，親会社の谷中リゾートの会長に脚本家を連れて会いにいってほしいと。会長のワンマン経営で，契約する会社にはみんなお願いしていることだという。しかもすでに予定も入れられており，翌日石川にいってほしいと言われた。進は，その日離婚調停が入っていた。そこで，守とゆきで行くことになった。気まずい雰囲気の車の中。指定された旅館に行き，会長の谷中に面会する。しかし，くわしい話は翌日にすると。今日は，誕生日パーティーなので泊って行けという。こちらの都合はお構いなし。強引に決められてしまう。会場に連れて行かれると，ドンチャン騒ぎ。ただ，この社長の言うとおりにしておかないと出資の件はなくなってしまうと言われた。仕方なく付き合うことにする2人。離婚調停から会社に戻ってきた進は，疲れ切っていた。離婚調停は地獄だと。まだまだ離婚は成立しそうにない。緒方は「心配じゃないんですか」と。守は，ゆきの事が好きだから。進は，脚本家として好きととらえている。緒方は，守のゆきへのプレゼントの件を知っている。進「社長は仕事しか興味ないし，婚約者いるんだよ。日帰りだから心配ない」と，心配する様子はない。そこへ，守から一泊することになったという電話が入る。守とゆきは，パーティーも終わり，別々の隣同志の部屋へ。お互い，同じ時間に部屋の露天風呂に入る。そして，同時に「ムーンリバー」を口ずさむ。守は，ゆきもお風呂に入っていることに気付き，声をかける。そして，お風呂上がったら原稿を持ってきてほしいと。最終稿に目を通しておきたいから。
　ゆきは守の部屋へ，脚本が入ったパソコンを持っていく。守は星空を見上げていた。ゆきも一緒に見上げた・・・。2人で過ごす夜。守「進とうまくいってる？」。ゆき「いつもよくしてもらってます。今回もずっとスポンサー探してくれて。本当に感謝しています」。ゆきは，進の子供時代のことを尋ねる。守「今と変わらないよ。人気者で，親戚中のアイドルだった。女の子にもててたしね。進のそういう性格って，今花開いてるよね。人から好かれてて，敵がいない」。守の子供時代の事も尋ねる。守「真逆だったね。要領悪かったし。親戚からは，おとなしくて，覇気がない子だと思われてたんじゃないかな。友だちも少なかった。友だちと外で遊ぶよりも，家で本を読んだり，映画を見る方が好きだったよ」。ゆきのこども時代は，いじめられっ子でひきこもりだった。その時に見た映画が「あじさい」。守は，「あじさい」は試写室で見たと。父親に連れられ，編集室にいったり，sh社会にいったり。守「あの頃，スクリーンは世界につながってたな」。ゆき「私も。映画を通じて，世界を知ってるつもりになってました」。守「片っぱしから，映画観てさ」。ゆき「特に好きな映画はセリフ暗記するまで見てました」。守「セリフもだけど，監督や，出演者や，カメラマンや・・・」。ゆき「編集や，美術や，衣装」。守「全部暗記したよ」。ゆき「ノートまで漬けてたんですよ」。守「だから，DVD並べられたんだ」。楽しく会話する2人。守は，「８月のボレロ」を最初読んだ時から，書いた人間がどういう人かすぐわかったと。「髪の毛や服にそんなに気を使う人じゃなくて。外で遊ぶより，本が好き。本よりもっと映画が好き。でも，好奇心旺盛で，ダイヤのネックレスよりは野に咲く花の方が好き。いつも夢見てるけど，物事の本質を見る目があって，こだわりが合って，意思が強くて。ま，ガンことも言うけど」。ふとゆきの方を見て，守は言葉をつづけた。「いろんなとこが似てるなと思ったんだ。この世でそんな人間，自分だけだと思ってたけど，ついに見つけたと思ったんだ」。ゆきは眠ってしまっていた。守「春野ゆき，そんなところで寝てると風邪ひくぞ」。
　翌朝。目が覚めたゆきは，いつベッドに入ったのか覚えてなかった。やっと，谷中との打ち合わせ。谷中は，若いころは自分でも映画を作っていて，映画監督になることが夢だったという。谷中「やるんだったら，ちゃんとした映画を作りたい」と力強く宣言する。打ち合わせを終え，ゆきは安心するが，守は「ああいう人の方が危険な気がします」。会社に戻り，守は，進に話したいことがあると。モバイルピクチャーズと組むのはやめた方がいいといいだす。進「モバイルピクチャーズのこと？」。守「他に何があるって言うんだ」。モバイルピクチャーズは，他の映画でいろんな要求をしてもめているという。進は「オレがうまくやる」と譲らない。進が回った252社のうち，応えてくれたのはたった1社。以前のように集まらない。この機会を逃したら映画化はない。それほど厳しい状況なんだと。「オレに任せるって言っただろ。最後までやらせてくれ。オレを信じて」。
　進はモバイルピクチャーとの打ち合わせへ。さっそく最初の要求が出された。ゲームのキャラクターを映画の中に使ってほしいと。ゲームをやるような登場人物たちじゃないと，難色を示すゆき。セリフに入れることだけは断ったらしい。進「映画ではよくあることなんだ」と，昔の映画のエピソードを話す。次に，主人公の職業を弁護士に変更しろと言う要求。ゆき「本気でいってます？それはきついです」。落ち込んで会社に戻ったゆき。川越が心配して聞いてきた。事情を知った川越は「オレが代わりに書こうか」・・・は，冗談。こういうことは社長に相談した方がいいとアドバイスする。ゆきは守に相談した。守は，クリエイターとしては正しい考えだが，ビジネスの面も必要になると。守「リンダー・シガーって女性ご存知ですか？ハリウッド映画の問題点を見つけるプロです。彼女がこんな意味の事を言っています。映画やドラマには，とてもひどい脚本が多い。なぜなら，スポンサーやエージェントや役者や現場のいろんな要求を入れて何度も何度も書き直し，元々あった素晴らしい脚本が台無しになってるから。でも，台無しになった後でも，ちゃんとしっかり機能する脚本，それがプロの脚本だ，ってね。実際弁護士は無理でしょう。でもどこかに現実的な着地点を探してもらえませんか。相手を拒絶するのではなく，相手の要求を検討したという行為を見せることも大切ですからね。たしかに，専務は今とっちらかってるかもしれません。けど，最後の最後には，正しい判断をする男です。信じてあげてもらえませんか」とアドバイス。ゆき「わかりました。社長のその言葉を信じてみようと思います」。ゆきが出ていくと，脚本を手に，何かを決心したような守。守にアドバイスされたゆきは，進に脚本全体を壊さない範囲なら変更を受け入れると伝えた。進「ごめんね。ムリばっかり言って」。そして，次の谷中との打ち合わせに，ゆきも来て欲しいと言った。守は，自宅に帰り，玲子に「お父様に会わせていただけますか」と伝える。玲子への初めてのお願いだった。アパートに戻ったゆき。必死に脚本を直すゆきを，沙織は「最近笑わなくなったね」と心配している。
　谷中との打ち合わせに，進はゆきと一緒に行く。谷中は，映像クリエイターに勝手に映画の予告を作らせていた。あくまでの谷中のイメージで。あまりにも違いすぎる映像。しかし，進はその場では否定することができない。ゆきと2人になってから「あれはひどかった。でも仕方ない」と言う。理想ばかりじゃ映画はつくれないと。ゆき「専務がいいなら，私もいいです」。しかし，誰もいない会社に戻ったゆきは泣き出してしまった。そこに社長室から守が出てきた。なにがあったのか尋ねる。ゆきは，予告編の話を伝え，「いろいろと自分が間違っていたことがわかりました。やっぱりプロになるって難しいんだなって。まだよくわかってなくて。でも大丈夫です。がんばりますから。大丈夫です」と出て行ってしまう。進が家に帰ると，守が待っていた。ゆきに会ったと。進「言いたいことあるんでしょ」。守「お前わかってるよな。彼女の本当の気持ち」。進「わかってるよ。本当にやりたいことと，モバイルピクチャーズの要求が全く違うって事は，わかってるよ。本打ちしたんだよ。毎日，毎日。今の脚本は，オレとゆきちゃんが作ったもんなんだ。でも仕方ないだろ。現実ってそういうもんだろ。理想の脚本書いて，そこにどれだけ現実を落としこんで行くか。それができなきゃ，映画化なんかムリだよ。大丈夫だよ。ゆきちゃんだって，納得してるんだから」。守「納得？けど泣いてたんだ。彼女は泣いてたんだぞ。お前は，彼女の夢をかなえるために，水島部長に土下座してまで映画化を頼みこんだんだろ。彼女の笑顔が見たくてそうしたんだろ。なのにどうだ。今，彼女は泣いてんだぞ。お前がやりたかったことは，本当にそういうことなのかよ」。珍しく声を荒げる。進「どうすればいいんだよ。兄貴は映画化したくないのかよ。プロの脚本家としてデビューさせたくないのかよ。完成した映画を見せたくないのかよ。この作品を成立させるためには，妥協しなければならない事があることぐらい，十分すぎるぐらい知ってるだろ。最後まで作り上げてこそプロじゃねぇのかよ」。守「妥協するだけがプロの仕事じゃない」と部屋へ行ってしまう。ゆきは，自宅で泣きながら脚本を直している。
　会社に亜希子がやってきた。最近よく来る。守「どうしたんですか？何か心配ごとでも？」。亜希子「守，いいの？玲子さんのこと。今日行くんでしょ。お父様には，仕事の事頼みに行くのよね。愛娘の婚約者の頼み事ですもの，会長がOKするのは当たり前。でもそれがどういうことかわかってるわね？2度と引き返せなくなるのよ」。守「十分わかってるつもりです」。進はゆきと，谷中との打ち合わせ。谷中は，ゆきが直した本が気にいらない。自分の思いが伝わってないと，自分で脚本を書いてしまっていた。それをもとに直せばいいと。ゆきが拒否すると，「脚本はただの設計図」と言い出し，設計図だけでは売り物にならないと。どう変えてもいいものだと，軽く扱っている。どうしてもゆきができないというと，谷中「アマチュア根性が抜けてない。プロに徹底してほしい」と言い出す。ずっと黙っていた進が「いい加減にしろよ。だったらアマチュアでけっこうです。設計図のためにどれだけ苦労しているか，どれだけ命を削って書いて言うrの科，お前は知ってるのか！クリエーターの魂を理解できないあんたなんかに出資してもらわなくて結構です」。そういって，脚本を取り返し，ゆきを連れて出て行ってしまった。一方，現王園家に出向いた守。玲子の父，日本映画の会長に会う。守「今日はお願いがあってきました」。進は，日本映画の水島に，出資者を見つけられなかったと報告する・・・が，水島は「復活したよ」。会長の　鶴の一声で，予算が下りたという。大喜びの進。急いで会社に戻り，報告。ゆきだけじゃなく，会社のみんなが喜んでいた。その様子を，そっと見守っている守。ゆきは，社長室に行き，日本映画に話をつけたのではないかと。しかし守は「何のことでしょう」と知らんぷり。帰ろうとする守に，進が報告。守は「よかったな」と一言言って帰っていった。
　自宅に戻り，玲子と食事。玲子は「こうなるとわかっていたんですね。進さんがモバイルピクチャーズの出資を断るって」。守「昔からそうなんです。弟は，僕と違っていろんな事にがまんして，いろんな人に気を使える人間なんです。でも，結局最後の最後には，どんな結末が待っていようと，自分の信念に従って行動する。進は，そういう男です」。玲子「それを見越して父に出資を願い出る。弟さん思いの守さん，ステキですね」。守「すみません。お願いしてしまって」。玲子「いいんです。でも，進さんのためだけなんですか」。守「もちろんですよ」。夜。1人部屋で脚本を読む守・・・。

＜episode７＞

　朝。進が起きてくると，すでに守は仕事モード。しかも寝ていない。守は「仕事をしたい気分なんだ」と言うが・・・。進は，守に「正式に付き合うことにした。OKももらった」と報告する。守は「よかったな」と。玲子がやってきて，朝食の準備をする。会社に行くと，守は，新刊10冊を川越に手渡す。映画の原作として使えそうな本だから原作権が取れるかどうか調べてほしいと。川越は「あの人いつ寝てんだろう」と不思議がる。進とゆきは，日本映画の水島に，脚本がまだ完成していないため，まだ時間がかかるということを伝える。水島はそのことに驚き，今の脚本で山下智久が出演を検討しているという。山下智久ならぜひお願いしたいとう進。来年早々に撮影に入りたいという水島。それならば，まだ脚本を直す時間があるとほっとする。水島「これ以上どこ直すって言うんですか」。ゆき「ギリギリ粘りたいんです」。日本映画を出た2人。進は，山下に認められたこの脚本はついている，だからこのままでもいいのではないかとゆきに話す。ゆきは「まだまだです。社長もそういってますし」。会社に戻り，守に報告する。守は，この映画の仕切りを進に任せる。ゆきが，本打ちはどうするのかと言うが，守は他の企画もあり，進に任せると。話を終えると，本に目を落とす守。しかし，ゆきが社長室を出ていく時には，そっとその背中を見つめていた。進から他の社員にも，「八月のボレロ」映画化の話が伝えられる。そのため，ゆきは脚本に専念。人出が減るが，進は川越に「君だけが頼りだ」と声をかけ，その気にさせる。
　にぎやかな社内で，脚本の手直しを始めるゆき。専念しているとはいえ，近くで電話が鳴ったり，川越が声をかけてきたり，進が励ましに来たり，全く落ち着かない。ゆきは，進に場所を変えていいかと言う。進も一緒にカフェにいってみるが，そこには子供連れが多数おり，騒ぎ声がしたり，子供がぶつかってきたり，やっぱり落ち着かない。結局，アパートに戻って直すことに。進も一緒にやってきた。ゆきは，進に，良くするための一番のポイントはなにか聞いてみる。うまく答えられない進。登場人物もよくわかってない。守は，ゆきの脚本をに目を通していた。緒方が資料を持ってきて，部屋を出るとき「大丈夫ですか」と声をかけるが，「大丈夫」と言う守だが，顔は疲れ切っていた。ゆきの直しはなかなか進まない。沙織が帰ってくると，進は帰って行った。沙織が詮索するも，仕事をしていただけで，進と何もなかったと，ゆき。守が自宅で玲子の手料理を食べている時に，進が帰ってきた。玲子の料理を絶賛する守だが，食事が終わると会社に戻るという。家を出る前，守は進に脚本のことを確認。進「全然問題ない」。それを聞いて，守は会社に戻っていった。
　水島から連絡があり，山下が週末までにどういう方向性に直すのか脚本を読んでみたいと言うことを告げられる。時間は2日しか残されていない。ラストシーンを直しているゆき。どうしたらいいか悩んでいる。ゆき「社長も気にしている部分でした」。その言葉を気にする進。会社では，本の山が次々とできてくる。守が大量に読んでは，資料を作るように持って来るのだった。その仕事量は，社員全員で処理する量だった。川越「よく倒れないよな」。その時，亜希子がやってきた。守が毎日残業していると聞いてやってきたのだった。亜希子「体，大丈夫？」。守「全然問題ないです。若返ったみたいに疲れないんです」。亜希子が玲子とのことを尋ねると，守「順調です」。亜希子「ホントに大丈夫なのね？」。話が終わるとすぐに仕事に戻る守。亜希子は心配そうだった。進とゆきは，本打ちを進めていくが，進のアドバイスに納得いかないゆき。ゆき「どうしていいか，わからないんですけど」。ぎくしゃくする2人。進も疲れ切ってしまっている。川越が大量の本を前に，こういう仕事はゆきが向いているのに，と愚痴をこぼしているところへ，さらに本が運ばれてくる。
　ゆきのアパートで本打ちを進める2人。明日の午前中には持っていかなくてはいけない。それにはもうまとめに入らないと間に合わない。そういう進に，ゆきは「中途半端なものを出しておけばいいというんですか。どういうところがダメなのか言ってください」とイライラしてしまう。ゆきが「社長はどういう理由でダメなのか明確に・・・」と言いだすと，「社長じゃないし」と進。結局，ぎくしゃくするだけで，進は帰ってしまった。入れ替わるように帰ってきた沙織に，ゆきは「恋愛と仕事が一緒の関係って最悪なのかも」と愚痴をこぼす。沙織は「変人社長とはうまくいってたでしょ？」と。ゆきは「恋愛０だよ!?ケンカばっかりで。でも今の本打ちより，ずっと前に進んでいたのかな」。ゆきは，守との本打ちを思い出していた。そして，守にメールをする。＜納得いかない脚本を山下さんに渡すことは・・・＞。自宅の書斎のデスクで眠ってしまう守。玲子はそっと毛布をかけて，帰って行った。
　進とゆきは，水島を介して，山下と顔合わせをしていた。直した脚本を読んだ山下は，「前回の方が好きです」と言う。途中でもいいからとせかせてしまった自分が悪いから，「納得いくまで直してください」と。前回の稿は，本当に面白かったし，もっともっと面白くなる可能性がある。じっくり焦らず直してほしい，そのために，スケジュールもあけておくとまで言ってくれた。帰り道，進は一緒に本打ちをしようと言ったが，ゆきは「このまま本打ちしてもいい方向にいかないと思う。1人で考えたい」と断った。守は，ゆきからのメールを読んでいた。＜充実していたし，楽しかった。もう一度本打ちさせてください＞と言う，守との本打ちをお願いする内容だった。返信をしようとした時，進が戻ってきた。１人で戻ってきたのは，うまくいったからお休みにしたと嘘をつく。守は守で，寝ていないけれど大丈夫だと嘘をつく。そのあとすぐ進は「嘘をついていた。うまくいってないんだ。オレはいらないって言われたんだ。正直わからなくなった。兄貴は元々クリエイティブな才能あるんだから。ゆきちゃんも，兄貴に頼りたいんじゃないかな。しょうがないよ。どう直していいかわかんないだから」。守「作品にとって，１番大切なものは何かわかるか？それはその作品を作る人間が，その作品を好きかどうかだよな。じゃ，今回，この作品を一番好きなのは誰だ？」。進「ゆきちゃんじゃない？」。守「じゃ，彼女にとって，一番いい環境を整えるのがお前の仕事だよな。プロデューサーが１００人いれば１００通りのやり方があるんだ。お前はお前が一番やりやすい方法で，彼女にとっての環境作ってやればいいんだよ」。それを聞いて進「ありがとう」と出ていく。
　必死に環境づくりについて考える進。途中，おでんの屋台を見てひらめく。そしてゆきに電話をかけ，公園で待ち合わせをした。進は，美味しいおでんを買ってきた。環境作りが大切と言われたことがあり，考えた結果，おでんだったと。進「結局，食い物になっちゃったけど」。ゆき「やっぱりラストシーン地味ですか？」。進「いいと思うんだけどな。情景浮かんだもん」と，やっと素直に脚本の感想を言うことができた。ただ，進が「草原」と思っていたところは，「海辺」のつもりで書いていたと。進「うまく言えねぇなぁ。だけどね，ホントにいいと思ったんだよ」。ゆき「ありがとうございます。やっとこれでいんだと，そう思いました」。２人でおでんを食べながら，進「がんばろうね」。１人仕事に打ち込む守。楽しく本打ちができるようになった進とゆき。守は，ゆきの脚本をカバンに入れ，会社を出ようとしたが・・・突然倒れてしまった。
　進とゆきは，病院に駆け付けた。過労と言うことだった。４日間，ほとんど寝ていない状態だったという。玲子もかけつけてきた。すると，そっとゆきは病室を出た。廊下で待っていると，進と玲子が出てきた。守が目を覚ましたと。ゆき「会わない方がいいと思います。いつもケンカになってしまうんです」。玲子は必要なものを取りに自宅に帰るといい，進も入院手続きに席をはずす。ゆきは病室へ。ゆき「どうなるかと思いました」。守「メール拝見しました。ちょっと大変そうですけど，大丈夫ですか」。ゆきは，自分の環境を整えるために，進がおでんを買ってきてくれたことを話す。そして「専務は純粋なんです。純粋にいいって言ってくれたその一言で，いろいろあった迷いもふっきれました。これでいいんだって。本当にそう思えたんです。社長のように，具体的なアドバイスがあるわけじゃないけど，１人で戦ってるんじゃないんだって。一緒に作ってるんだって。あの時そう思い得たんです。だから，がんばって専務と２人で最後まで書きあげます」。守「それはよかったです。進を信じてあげてください」。ゆきが病室を出ると，進はソファで眠っていた。そのすぐ隣に座るゆき。そんな２人を見て，そっと立ち去る小林。
　病室には玲子。守「あなたに話さなければいけない事があります」。それを聞いて，覚悟を決めたような玲子「春野ゆきさんのことですね。あの方こうおっしゃってました。あなたと会うとケンカになっちゃうから，今日は会わない方がいいと。私は心からうらやましいと思いました。私は，あなたと一度もケンカしたことがないんです」。守「僕は，ずっと自分には，結婚なんて必要ないと思っていました。誰かが隣にいる人生より，１人で生きる人生の方が充実している，そう思っていました。だってそうでしょ。趣味趣向が違う，考えてる事が違う，一緒に楽しいと思える保証はない。そんな誰かと人生の貴重な時間を共有するなんて，なんてもったいないことだと考えていました。でも，彼女と会って変わりました。考えてることが違うから知りたい。知ってほしい。違うから面白い。でも仕事する上で，基本的な価値観が一緒で，お互いが面白いと思うものを探していく感覚，頭を悩ませる時間は，この上なく楽しかった。でも，彼女に僕は必要ありません。簿kも，これ以上彼女にないかを求めたりする気はありません。大切なことを気づかせてくれただけで，僕は彼女に感謝しています。正直，僕とあなたは世間のカップルとは違うかもしれないけれど，僕らのやり方で，僕らの関係を築けませんか？僕は・・・あなたにとって，必要な人間になりたい。そして，これから２人で，穏やかな人生を歩いていきたいと思っています」。一言一言，しっかりと，涙をこらえるように話す守。玲子のほほには涙が伝っていた・・・。

＜episode６＞

　守がいつものように朝食を取っていると，進が帰ってきた。進は，守のスーツ姿に疑問を抱く。そう，今日は休日。守は，会社に行くという。守「仕事したい気分なんだ。いいだろ」と妙に明るい。進が守に，パーティー会場に来たけれどなぜ途中で帰ったのかと問いただすと，急な打ち合わせができたからだとウソをつく。そして進は「どうして朝帰りなのか知りたい？」と言い出す。無視して何も答えない守。進「ゆきちゃんとホテル行って来た」。守「ゆきちゃん？・・・ああ，春野ゆきか。おめでとう。よかったじゃないか。念願かなって」と気にしないそぶり。進「本気でいってるの？ゆきちゃんのことどう思っているのさ」。守は「構成力はないな・・・直しには時間がかかると思うよ」と脚本の話にすり替える。進「この年になって，ちょっとマジかも。兄貴には悪いが，遠慮なくいかせてもらう」と宣言。守が「遠慮なくいったんだろ」と言うと，進は，ホテルにいったのはウソだ話す。ゆきは脚本の直しをしたいからと帰り，進は他の社員たちと朝まで飲んでいただけ。守は「俺から見てもお前と春野ゆきはお似合いだよ。なぜお似合いだと思うかわかるか？お前の相手らしくないからだよ。まじめで，清潔で，バカじゃないし，意思が強い・・・がんばれよ」と家を出る。ゆきは，進とのキスを思い出し，1人騒いでいる。それを沙織に見られ，昨夜のことを報告することに。キスだけだった聞くと，沙織は「本気ってことだよ」。マンションでも，最近は女性と会わないと。
　守は，会社ではなく亜希子の家へ行っていた。亜希子は，そんなに結婚が嫌なら無理することはないと言うが，「約束は約束」と会社を売ると宣言。代わりに，二度と結婚しろとは言わないと。守「決めました。僕は，現王園玲子さんと結婚します」と突然言い出した。お互いの事をよく知るために，結婚前に一緒に住むとまで。亜希子は逆に驚く。そのあと，守が会社に行くと，ゆきが会社で脚本の直しをしていた。妙に明るい守。そんな守を不思議がるゆき。ゆきが，今まで直した分の脚本を見てほしいと持ってくるが，テーブルの上に置いておいてほしいと言うだけの守。脚本についてゆきが話しだしても，聞こうとしない。しかも，関係ない仕事を依頼してくる。仕方なく社長室を出ようとするとき，ゆきはネックレスを持ってくるのを忘れたと話す。守「思い出したとき持って来てくれればいい」と気にしていない様子。社長室を出ると，ゆきの携帯が鳴った。進からだった。昨日のことで話があると。ゆきが会社にいると言うと，不安な進。会社を出る前，ゆきは守に今日中に脚本の話をしたいと言うが，「忙しいから」と断ろうとする守。それでも話がしたいから戻ってくると伝えて出ていくゆき。
　緒方は，偶然，進とゆきがカフェで会っているのを見てしまう。進は，会社に守もいたろうと。ゆきは「社長，ちょっと変じゃないですか」。不自然に明るく，脚本を読んでくれようとしない。脚本に興味がなくなってしまったのだったらショックだと。あの脚本があるから会社にいられる。脚本が認められない時が，実家に帰るときと思っていた。「信じていれば映画化されるよ」と進。そして花束を渡す。ゆきが「誕生日終わっちゃいましたけど」と言うと，進は「オレたち，付き合ってるわけでしょ」と。その会話を緒方はこっそり聞いていた。守は，脚本が気になりながらも，手に取ろうとしない。ゆきが会社に戻ると，もう守の姿はなかった。机の上には，キレイなままの脚本が・・・。ゆきは，アパートに戻り，守から預かったネックレスを取り出してみる。沙織に脚本の事を聞かれたが，脚本の手直しは進まない。社長の様子が変だと。優先順位はいつも脚本が１位だったのに，他の仕事を頼まれるとは・・・と怒りだす。沙織「社長には怒ってばかりだね」。そんなことはないといいながらも，怒りながらゆきは守に電話をかける。守は，気にしながらもでない。ゆきからの電話が切れた後，知らない番号から電話が。出てみると，ゆきが，沙織の携帯からかけてきたのだった。本打ちをしたいというゆきだったが，「今日は遅いから」と守。しかし，まだ夜の7時。ゆきは，今まで時間は気にせず，脚本の打ち合わせをしていたのにと。守は「明日話しましょう」と一方的に電話を切ってしまう。そのころ緒方は，気を紛らすように飲んでいた。川越を呼び出し，進がゆきに告白していたと愚痴をこぼす。
　翌日。川越は，急にゆきに優しくなる。ゆきは，守に脚本がダメなら言ってほしいと言うが。守は「たまたま忙しくて」とごまかす。それでも，ゆきは今まで本打ち優先で，時間も場所も無視して呼びだしていたのに，興味がなくなっちゃったのかと。守「そんなことありませんよ」。ゆき「この間からちょっと変ですよね。私，何かしましたか」。守は時間がないだけといいはる。
　進が家に帰ると，様子が一変していた。まるで違う部屋。今まで見たことないようなものがいっぱい。しかも玲子が出迎えたため，部屋を間違えたかと思ってしまった。家の中では，守が玲子の手料理を食べており，べた褒めしている。いちゃつく2人に呆然とする進。玲子が自分の服などをしまいたいと言うが，守は，クローゼットの中の靴はここに置くしかなく，スペースがないと。仕方なく，部屋の隅に置いたままにしている。玲子は，一応泊ることはせず，翌日朝くると約束して帰って行った。進「どうしたの？なにこれ」と。守「僕から亜希子おばさんにお願いしたんだ。これで会社売らずに済む」。進「なに自己犠牲アピールしてんだよ。ムカつくんだけど」。守「ムリなんかしてない。やってみると，そんな嫌じゃない。結婚は，相手のコト好きか嫌いかじゃない。自分を失うほどの恋をした人と結婚したところで，うまくいく保証はない。４０度の熱がある状態と同じなんだから」。進は「なんか忘れようとやけになってないか」。守「恋とは無縁の状態で結婚した方が，より冷静に判断してるって事になるんだ」とあくまで問題はないと言いはる。
　翌日。会社に行くと，緒方はゆきのことを怒っているが，川越はゆきの肩を持つ。その時，ゆきに日本映画の水島から電話が。「八月のボレロ」の映画化を検討したいという水島。脚本が良くなったと聞いて。実は，進からお願いされたという。映画化するために，土下座までした進。守と進が打ち合わせしているところへ，ゆきが話を聞きに行く。映画は今年中にイン・来年春公開するため，2週間で決定稿までいかなければならないと。守「まだ直しが必要なんだだ。この脚本じゃ映画のクオリティが保てません」と反対。進「春野ゆきをメジャーデビューさせるチャンスなんだよ。もうそろそろ動きだしてもいいでしょ」。守「最新稿は，以前に比べて格段に良くなっています。特に，ラストの会話はね。ここおは彼女が自分で考えて書きなおした部分です。でもまだ世に出す段階ではありません」。ちゃんと脚本を読んでくれていたことがわかり，笑みがこぼれるゆき。進は「映画化する気がないだけじゃないですか」と反論。守「最良の状態で彼女がデビューした方がいいと言ってるだけです。デビュー作が成功すれば，次につながる。しかし，失敗すれば，デビューするより難しいかもしれません。そんなこともわからないんですか。このままの脚本で映画化するって事は，彼女の才能をつぶす可能性があるって事です！」。進「たとえ失敗しても，デビューした方がいいじゃないですか。まずはデビューする。そっちのが大切ですよ。たくさん仕事すればいいじゃないですか・・・ゆきちゃんはどうしたい？」。ゆき「以前は，とにかく映画になって世に出ていくのを夢見てました。でも，今は，違います。社長に何度もダメ出しされて，だんだんわかってきたんです。最初の脚本のままだったら，一生恥ずかしい思いをしていました。社長の意見に賛成です。もう少し時間をください」。２人の真剣な表情に，進「なんでこうなんだよ。わけわかんねぇよ」と出ていく。守「あれはいい男です。彼が仕事であんなに一生懸命なの初めて見ました。純粋に彼の善意からの行動だったと思います」。その言葉を聞き，一礼してゆきも出ていく。２人を見送った守は，脚本を見つめる。
　ゆきは，進に追いついた。進「浅はかだったよ。ゆきちゃんの才能つぶすなんて考えてなかった」。映画化されればそれでいいと。進「怒ってないの？」。ゆき「専務がいってた通り，やってみないとわからないですよ。今の脚本のままじゃいやって事だけなんです。もっといい脚本にしたいって」。進「やっぱりオレってバカだよ。最初に聞けばよかったんだ。単純にいいことだと思ったんだ。見たかったし，ゆきちゃんの映画。それから，ゆきちゃんの４転んでるところも。でもクリエーターの気持ちなんて，兄貴みたいにわから中ら，結局傷つけてしまった」。ゆき「こんな嬉しいコトしてもらったの初めてです・・・オレたち付き合ってるわけでしょっていってましたね・・・私は今，あなたと付き合っています」。
　脚本をテーブルに置き，会社を出る守。家に帰ると，玲子が出迎えた。部屋の隅に置かれた，玲子の荷物。クローゼットの中の靴のコレクションをじっと見つめる・・・。進は，小林と会っていた。進「もうなにも要りません。全てあいつの言う条件のみます。なにを失ってもいいです」。小林「いいことがあったようですね」。進「冗談じゃない。人生で１番大切なものを見つけたんです」。守のマンションに，亜希子がやってきた。守は，ソファで眠っている。亜希子「順調なんですか」。玲子「式場のお話なんかしたんですよ」。テーブルの上には，パンフレットがたくさん。亜希子は「順調そうね・・・」と応えながら，「順調過ぎるわ」と心配そう。守の部屋にいってみる。部屋の様子は全く違う。クローゼットの中には，あの靴はなく，玲子の荷物が入っていた。亜希子が尋ねると，玲子「守さんが捨てたみたいですよ」。呆然としている亜希子。
　ゆきは，自分の部屋で脚本を直す。そのテーブルから，あのネックレスのケースが落ち，手に取ってみる。
　進は，幸せそうにまだ飲んでいる。
　守は，ソファで眠っている・・・。

＜episode５＞

　社長室。「女性とは送り届ける生き物であって，生活を共にする生き物ではない。誰かと生活をすることは，僕にとっては苦行でしかありません」と持論を語る守。女性誌の取材だった。ただ，今の守は，「結婚は必要ない」と断言できなくなっていた。ふとゆきの姿が目に入り，手のぬくもりを思い出していた。そのころ，もうすぐ撮影が始まる作品に出演する予定だった俳優がドタキャンの連絡をしてきた。制作に間に合わせるため，社員総出で俳優たちのスケジュールの確認をする。すると，ゆきが大物俳優のスケジュールが空いていることを確認する。みんなはムリだという。見えない"格"と言うものがあって，そんな大物が出相手にしてくれるわけがないと。進も「絶対無理。もし成立したら，なんでも言うこと聞くよ」。銀座で裸で逆立ちしてもいいと。ゆきは，絶対ということはない，プレゼンしてくると出ていく。守には，緒方から今月誕生日を迎える社員のリストを渡される。経費削減のため，プレゼントを出すのはやめた方がいいんじゃないかと緒方は言うが，守は父の代から続けてきたことだからと「やめる気はありません」ときっぱり。そのリストの中に，ゆきの名前を見つける。守は，あくまでもさりげなく，20代の女性が欲しいものをリサーチ始める。緒方は「ダイヤのネックレス」。川越は，ビンゴの賞品と同じようなのでいいんじゃないかと言う。いろいろ商品を挙げるが，ピンとこない。川越が，守は何が嬉しいのか尋ねると，守自身はプレゼントが嫌いだという。他人の趣味を押しつけられるのは迷惑。どうせプレゼントをくれるなら，事前に相談してほしいと。それを聞いて川越は「すみませんでした・・・直接聞くっていうのはどうですか」。
　守が会社を出ようとすると，進が亜希子を連れてきた。亜希子は，進と話があるから守はいなくて問題ないという。ゆきは，山下の所属事務所に来ていたが，担当は社長でアポがないと会えないという。ゆきが「1分でもいいので」と必死に訴えていると，偶然近くに来た社長が1分だけ話を聞くと言ってくれた。キネマエトワールで，亜希子は，守が約束を守らないから，会社を売るといいだす。進は，自分もこの会社を愛しているから売らないで欲しい，とお願いする。それならば，守を説得するようにと言われてしまう。
　外に出た守は，街中でゆきと出会う。ゆき本人に，20代の女性が欲しがっている物を聞いてみる。あくまで，企画として。ゆきの答えは「運命の恋」。守「『めぐり逢い』。ケーリー・グラントとデボラ・カー」。ゆき「『めぐり逢えたら』の方です。トム・ハンクスとメグ・ライアン」。奥さんとの出会いを語るセリフ。車から降りるときに手を貸したときに，運命を感じたという。守は自分の手を見つめる。ゆきは，そんな恋をしたいと。映画では，赤いハートの電飾の付いたエンパイヤ・ステイト・ビルで運命的な出会いをする。映画の話に花が咲く。ゆき「好きになったら自分で感情コントロールできないんです。逆らおうとしても無駄なんです。私もあんな風に運命の恋をして結婚したいなと」。守「そんなに奴隷になりたいのか？」。ゆき「自由は欲しいです。独身がいいってこともわかります。テレビのリモコン独占できますからね」。守「"あなたが寝てる間に"だろ」。これも映画のセリフ。一目ぼれは認められないと言っていたのに，運命の人に出会ってしまったという・・・。ゆき「結婚なんて，元々不完全なもので，完全な状態のものってないんじゃないですか。お互いに補完し合って成り立つものですよね。完全に理解しあえる人なんていませんよ」。守「だから僕はいやなんだ」。ゆき「ただのわがままな子供じゃないですか」。守「狂ってる状態にあこがれている方がこどもだよ」。ゆき「恋も知らないで，よくプロデューサーなんてやってられますね」。守「じゃ，君は死んだ者にしか死の話は書けないと思ってるのか。だからあの程度の脚本しか書けないんだよ」。言い負かされたゆきは「会社に戻ります」とベンチから立ち，去っていく。ゆきが去った後，1人の男が隣に座る。小林弁護士だったが。守「あなた誰？」。ひとり会社に戻る途中のゆきは，「どうしてこうなっちゃうんだろう」と守と話していると調子がくるっていることに不思議がる。そして，ネックレスの事を話すのを忘れてしまったことに気づくが，そのまま戻ることに。
　その後，守は，今度は玲子と偶然出会う。ゆきは，山下の事務所の社長と話をし，あとは山下本人の答え待ち，と報告する。川越は。業界の常識知らないからできるんだろうと驚いていた。注意しているのではなく，川越なりに褒めていたのだった。そのころ守は，玲子とティータイム。いつもは「なるほど」「たしかに」しか言わない守が，珍しく自分から質問をした。「コントロールできない感情ってありますか？僕と会ってると，感情のコントロールがきかなくなりますか」。玲子は「いいえ」ときっぱり否定。そして，女性が欲しがるプレゼントを聞いてみる。玲子から出てきたのは，「車」「宇宙旅行」「別荘」「クルーザー」「ヘリコプター」。でも一番は，女性なら誰でも欲しがる物で・・・「子宝です」ときっぱり。思わず笑ってしまう守。守は持論通り，玲子を送り届ける。家には入らず，そのまま自宅に戻る。まだ早い時間で，ハウスキーパーが仕事をしている最中だった。その一人が，沙織。守は，ゆきが欲しがっている物を聞いてみる。誕生日プレゼントだとすぐに気づかれるが，あくまで会社からのプレゼントで，その事も黙っていてほしいと。沙織は，スニーカーがボロボロだと言っていたが，「ゆきは，物とかじゃないです。心がこもっているかどうかです」。そのころ，進のもとに，山下の所属事務所社長から電話が・・・。
　守は，ゆきへのプレゼントを購入。しかし，しばらくベンチに座って考え込んでいた。同じベンチで，ゆきと話したことを思い出していた。仕事が終わるころ，沙織がキネマエトワールにやってきた。進との事はどうなっているのかと。パーティーの日から，ゆきの様子がおかしくなっていたという。進に抱きしめられたゆきだったが，あの日はそれだけだった。ちょうどその時，進からゆきに電話が。会社にいることを告げると，すぐにやってきた。進は，ゆきに「最悪だ・・・かけに負けた」と。そう，出演OKが出た。なんでも言うことを聞くと。一緒にいた沙織が，明日ゆきの誕生日だと教える。進「それだ。28回目の誕生日を，今まで見たことも経験したこともない，素晴らしいものにするよ。それで決まりだ」。一方，守はネットでなにやら探していた。オークションで見つけたものがあり，電話をかけている。進が帰ってきて，その様子を見ている。電話を終えた守は，明日，日帰りで北海道に行く伝える。進は，亜希子が怒っていたことを伝える。「マジで人手に渡るよ」。守「オレに死ねって言っているのか」。進「結婚が嫌なんじゃなくて，玲子さんが嫌なだけじゃないの？他の子だったら，良かったりして」と探りを入れる。守は，一瞬言葉に詰まり，「どういうことだ」と。そして今度は守が「女の子連れ込むのやめてるじゃないか。誰か一人の子，本気で好きになってるって事じゃないのか」と。進は「オレの勝手だろ。でも，兄貴の結婚の話は違う。会社の運命がかかってるんだから。ちゃんと現実見てくれよ」。
　翌日。沙織は，ゆきに"勝負下着"をプレゼント。ゆきがオシャレしてアパートを出ると，超高級車で迎えに来る進。まずは，高級レストランで食事。そのころ，守は旭川空港に。タクシーで向かった先は，小さなおもちゃ屋。そこで世界限定100個，日本には3個しかない物を受け取る。進は，次にヘリコプターで東京の夕日を見せる。そして，移動中の車の中，黙っているゆきを気にする進。ゆきは「胸がいっぱいで。しゃべったらこの感動が体から出て行ってしまいそうで」。進「沈黙にはそういう意味もあるんだな」と黙ったままゆきを見守る。その車は，ホテルに向かっていた。守は，東京に戻るが，渋滞に巻き込まれ進まない。進は，黙ってホテルの部屋へ向かうが，1人焦っているゆき。進「子どもじゃないんだから，ここまで来て入らないってことないだろ。いいね」とドアを開ける。ゆきは必死に抵抗するが・・・。ドアを開けると，キネマエトワールのみんなが。サプライズパーティだった。守の乗った車は全然動かない。守は「走る！」と車を降りて，夢中で走った。パーティーの最中，進はゆきを屋上に連れ出す。キレイな夜景を見せたいと。進「良いデートだったね。オレはそう思ってたけど・・・」。守が向かっていたのは，パーティーが行われていたホテル。走って部屋の前まで来ると，息を整え・・・プレゼントを渡す練習。どのパターンがいいか悩んでいると，緒方が顔を出す。緒方から，ゆきが屋上にいると聞いた守は，そのまま屋上へ。そのころ，進は「さっき襲われると思った？いつもならとっくに手出してると思うんだよね」とゆきに話す。そこへ，守が。ゆきが「じゃ，どうしてですか」とたずねると，進はゆきを引き寄せ，キス。それを目撃してしまった守は，黙って引き返す。プレゼントを持ったまま部屋を出るが，行ったん部屋に戻り，プレゼントが入った紙袋をごみ箱に捨て，出て行ってしまう。守の様子を気にした川越が追いかける。緒方がごみ箱に捨てられたプレゼントを拾い，中を見てみると，箱にはリボンと，赤いハートがついているエンパイア・ステイト・ビルのオブジェが・・・。ひとり歩いていく，守。屋上の2人。進「オレの気持ちは，本当だから」。夜の街，うつむいたまま一人たたずむ守の背中。ふと，顔を上げ，歩きだした・・・。
　社長室。取材を受ける守。「女性とは送り届ける生き物であって，生活を共にする生き物ではない。誰かと生活をすることは，僕にとっては苦行でしかありません。だから，ぼくには結婚は必要ないんです」。

＜episode４＞

　朝。朝食を用意し，食べ始める守だったが，進の事が気になってしまう。「うーん，おいしい」と言うひとりごとも，なぜか大きくなっていく。どうしても気になり，進の部屋をのぞくと，進は帰ってきていなかった。電話でゆきは進と食事中だと言っていたが・・・。キネマエトワールでも，川越と緒方が，進とゆきの話をしていた。川越は，絶対ホテルに泊まったと。信じたくない緒方だったが，その時現れた進は，前日と同じ服。家に帰れなかったという。そのあとすぐに来たゆきは，着替えをしている。それで納得したい緒方だったが，川越は，現場の人間はいつでも着替えを持っていると意地悪を言う。
　守が出勤の準備をしていると，チャイムが鳴る。進が返ってきたのかと思えば，亜希子だった。約束を守らなかったと激怒している。そして，守のいいわけもきかず，「プロポーズ」を探していると，家中を探し回る。守は，大事詞似ている靴をいじられたり，キレイに整頓された部屋をいじられて気が気でない。亜希子が見つけ出したのは，守が母親からもらったネックレス。これは，星野家の妻に代々受け継がれてきた物。亜希子は「これを玲子さんにお渡しなさい」と命令。
　明日は，最新作映画「太陽の食堂」の完成披露試写パーティーの日。日本映画からは，キネマエトワールの社員にもドレスコードがあると伝えられる。「ブラックタイ」。それを聞いて，ドレスを持ってないゆきは困ってしまう。ゆきが，招待客の確認をしていると，守がやってきた。ゆきは，守に，日本映画の牧村はこの映画乗り気じゃないのかとたずねる。守によると，この映画はビジネス的に期待できないからだという。守「興行成績が悪くても，今まで自分が関わってきた映画で，１本も嫌いなものはないよ。だから『太陽の食堂』も，かわいくて仕方がない」。この映画は，たくさんのボランティアが協力してくれた。その中でも，全日本農業組合の高砂と国原にはとてもお世話になったという。守「お金に変えられないものだよね。なんでもお金で換算していると，作る喜びを失ってしまう。自分が自分でなくなる気がする」と。ゆきは，２人を試写パーティーに招待することを提案する。席はなんとかすると。日本映画との打ち合わせを終えた進は，２人のやりとりをそっと見ていた。その進に，緒方がいつものように食事に連れて行ってほしいという。上の空の進は，ついOKを出してしまう。喜んで川越に教える緒方。それを耳にして，ちょっと気になってしまうゆき。緒方と食事中の進に電話が。仕事中だと切る進だったが，「仕事中」と言う言葉を気にする緒方。進は，離婚協議中で，奥さんの弁護士からで，仕事中とごまかしたと。離婚は，結婚の１００倍のエネルギーを使うと言う進。結婚するまでは加点方で，結婚してからは減点法の世界。進が「いったいオレからいくら取るつもりなんだよ」とぼやくと，「１億６２００万・・・とんで５８００円です。今のところ」と言う声が。すぐそばのテーブルに，小林の姿が・・・。
　ゆきは，ドレスコードを調べたが，カクテルドレスが必要とわかり，困り果てる。それを知った沙織は，進に相談したらいいんじゃないかとアドバイスする。進と緒方が食事を終えて街を歩いているところへ，ゆきから電話が。ドレスを持ってないから会社待機にしてほしいと。進は，これから会社に来るように言う。電話を切ると，進はどこかに電話をして打ち合わせをしている。ゆきがシネマエトワールに行くと，進が待っていた。そこには，たくさんのドレスと靴・バッグ・アクセサリーが。そしてスタイリストもスタンバイ。進「好きなもの選んで」。次々とドレスを試着。みんなが納得したドレスを選び，それに合う靴・バッグ・アクセサリーも身につけてみる。進は「全部プレゼント」と。
　進が外に出ると，守が待っていた。守「お前がんばってるのわかるんだけど，この映画はそんな大仰な宣伝するような作品じゃないと思うんだ。小規模上映して，ネットや口コミで評判獲得して，長く興行続けて。そういう地道に稼いでいく作品だと思うんだ」と伝える。進「それじゃ，いつまでたっても制作費回収できないでしょ」。守「で，今日は春野ゆきと食事にいったの？」。進「いや。気になるの？」。守「毎日連れ歩かれたら，彼女の『八月のボレロ』直し遅れるから」。進「それだけ？」。守「他に何があるんだ」。そして，進はなんで外で話さなきゃいけないのかと言う。守「仕事の話は家でしないって約束だろ」。"外"は・・・マンションの目の前だった。
　翌日。パーティー会場。進がプレゼントしたドレスに身を包んだゆきの姿に，息をのむ守・進，そして川越。ひとり控室に戻った守が窓の外を見ると，亜希子と玲子の姿が。うんざりする守。あのネックレスを見ながら妄想が・・・。朝起きて，レコードに針を落とそうとすると，リビングからワイドショーを見て大笑いする玲子声が。朝出かけようとすると，ラッキーカラーの服に着替えさせられ，ラッキーグッズを持たされ，お弁当を渡され，最後には行ってきますのキスを強要され・・・。妄想で気分が悪くなる守だった。
　男子トイレでは，進のマネをしている川越が。進「愛にはいろんな形があっていいと思うんだ。でも，オレはそっちじゃない」と逃げる。一方，女子トイレでは，緒方がゆきに，進と寝たんだろうとさりげなく迫る。ゆきが完全否定すると，「今後専務の誘い断ってね」と緒方。パーティー会場に，招待客が続々とやってくる。大物脚本家小野寺がやってくる。受付をしていたゆきは，脚本家脂肪であることやファンであることを告げる。日本映画の水島は，テレビ局の人間を１０名連れてきた。高砂と国原もやってくる。ところが，ゆきは，テレビ局の席を１０席用意するところ８席しか用意していなかった。急きょ，補助席を用意することになったが，パイプいすに座らせるのかと文句を言う水島。高砂と国原が，自分たちが補助席に座ると申し出てその場はおさまった。進は水島に謝罪し，ゆきは高砂と国原に謝罪する。そして，進はゆきにどうしてこうなったか追及する。ゆきは，くるかどうかわからないテレビ局の人間に席を用意するよりも，映画製作に協力してくれた高砂と国原を招待したかったと。守「映画にとって，マスコミがどれだけ重要か，全然わかってない！あの２人に見てもらったところで，マスコミのような宣伝の効果は得られないんだよ」。ゆき「お世話になった方に見てもらうのは，大切なことじゃないんですか。口コミで広めてくれるかもしれませんし」。進「ビジネスと言うものを全然わかってないんだ。君が判断するようなことじゃない」と行ってしまう。
　パーティー会場で，元気のないゆきを見つけた守。ゆきのところへ行き，「すまなかった。余計なこと言ってしまって。専務のコト許してやってくれる？」。守は，すぐに呼ばれて立ち去る。会場には，亜希子と玲子も来ている。亜希子は，守に「例の物を」と。守は「控室にあるんで，今持ってきます。待っててください」と出ていく。ネックレスをカバンから取り出し，控室を出るが，足取りは重い。正面から玲子がやってくる。妄想を思い出し，守「ムリだ！」。偶然通りかかったゆきに，ネックレスを渡し「持ってて・・・隠して」と走って逃げる。なにがなんだかわからないゆきだったが，言われたとおり，控室のカバンに隠す。
　緒方と話していた小野寺。ゆきのことが気になって仕方がない。緒方にゆきのことを紹介してもらう。ゆきは，素直に小野寺のファンとして話をしている。その姿を見た川越は「手が早いからな」と心配している。この状況じゃ大丈夫だろうと思っていたが，さりげなく手を触っているのを見ると，やはり心配だった。緒方は「いいきみでしょ」と言いながらも，不安になってしまう。守も，気にかけていたが，他の客と話をしている間に，２人の姿が消えてしまった。小野寺は，ゆきの脚本を読んだことがあり，しかも今日持ってきていると，巧みにだまし，部屋へ連れ込んでしまう。守が，川越にゆきのことを尋ねると，小野寺の紹介してしまったことや手を触っていたので心配だったという。それを聞いてすぐ飛び出す守。進は，緒方と話をしている。緒方がなんで離婚をするのかとたずねると，進は「不自由なんだよ。２人で暮らすって言うのは。オレはそこから逃げ出した」。緒方「私だったら，専務が不自由に感じること絶対しないのにな」と。進「最高の女性なのかもしれないね」。そして，ゆきの事が気になり，緒方から事情を聞いた。
　守は，フロントに息子だと嘘をつき，小野寺の部屋を教えてもらった。エレベーターがくるのももどかしく，階段を駆け上る。小野寺は，脚本を取ってくるといいながら，シャワーを浴びに席を立つ。ひとり取り残されたゆき。シャワーの音とダブルベッドに不安になり，逃げ出そうとするが，扉の前では男がガードしていた。その時，チャイムが激しくなる。部屋に戻されるゆき。男が扉を開けると，守が無理やり入ってこようとする。扉をしめられるが，守は足を挟み，強引に中へ。男に殴られても，ゆきを連れ戻そうとする。突然，男が倒れた。ゆきが花瓶で男の頭を殴ったのだった。２人，手をつなぎ走って逃げだす。小野寺がシャワーを浴びて，喜んで出てくると，部屋には頭を抱えて転がる男の姿だけがあった。ずっと手をつなぎ走り続ける２人。進もゆきを心配してパーティー会場を出て探そうとする。バルコニーに出ていくと，手をつないで走る守とゆきを発見する。黙って見ていると，玲子が守を探しにやってきた。進「あそこ」と教える。玲子も２人の姿を見つけた。息を切らし，ほてるの庭の隅に座り込む守とゆき。守「よかった。無事で。あのスケベじじい」。ゆきが，守の靴が片方ないことに気づく。大笑いする２人。２人の目の前には，キレイな夜景が。
　高砂と国原が，進に映画のチケットを買いたいと言ってきた。プレイガイドでは売ってくれないという。枚数がないと言われた。その枚数を聞くと，５万枚と言う答えが。全日本農業組合の北関東支部に所属しており，支部だけで１００以上。なので，５万枚は必要だと言う。自分たちの野菜の活躍をみんなに見てもらいたいという２人。高砂「また映画作るなら，声かけてください。宣伝します」と帰って行った。進は，自分の判断よりも，守やゆきの判断が正しかったことに気づく。
　ひとり戻った守。そこへ亜希子が姿を見せ「あなたは玲子さんと結婚したくないんじゃない。誰とも結婚したくないんでしょ」。守「そうです」。亜希子「それは許されません。約束したんですから」と厳しい表情で去っていく。一人たたずむ守。ゆきと手をつないだ時の感触を思い出しながら。その奥の方には，ウェディングドレスとタキシード。一方ゆきは，進に謝罪する。ゆき「今日は失敗続きでした」。招待客の数だけでなく，小野寺とのことも。ゆき「社長，殴られても立ち向かってすごいですよね」。それを聞いた進は，突然，ゆきを抱きしめた。守は，１人・・・。

＜episode３＞

　代役を果たしたゆきがメイク室に戻ると，そこにはゆきの脚本が。ちゃんと名前は「春野ゆき」に戻っている。進の分の朝食も用意し，食事をしている守。そこへ進がやってきて，日本映画との件について守を責める。守は「仕事の話は会社で」と話を聞こうとしない。進は，話を変え，ゆきがきれいだったと素直に話すが，守はプロのメイクとスタイリストがつけばキレイになると気にもしない様子。進は，ゆきを食事に誘おうと思っていることを守に伝える。守は「ご自由に。今まで許可を求めたことなかっただろ」と気にする様子はない。二人が話すダイニングの周りを，見知らぬ女性がうろうろしている。毎度のことながら，進が連れ込んだ女性。進は，ゆっくり休んでいていいと女性にいっていた。亜希子に呼びだされた守。亜希子は，守を責めた。守は全く弁解しない。亜希子は，玲子に今すぐプロポーズしろと命令する。いやがる守の目の前で，玲子に電話をかける。守に電話に出させるが，何も言えない。亜希子は，勝手に大事な話があるから夜7時にマンションに来るように約束してしまう。進は，日本映画の水島に謝罪をする。あくまでも低姿勢で，相手を持ち上げ，進らしいたくみな交渉術で相手を気持ちよくさせ，なんとかうまくいい含めることに成功。完全に関係を切るのではなく，しばらく様子を見てほしいと。水島は「あなたが社長になる方がいい。経営者の器を持っている。あなたもそう思うでしょ」。守は，社長室にいながら，玲子へのプロポーズの妄想をしてしまう。それだけで憂鬱。
　ゆきは，守に脚本のお礼をいう。守は「あたりまえのことをしただけ」と。ゆきは，脚本を直したいから，もう一度見てほしいとお願いする。そんなゆきを見ていた川越は，ゆきに他の人の仕事まで押しつけて，いじめ始める。そんなとき進が，川越を持ち上げ，いい気分にさせて，ゆきを連れ出す。進は，ゆきと2人きりで会社を出ていく。ゆきは，川越が怒っているのではないかと心配するが，進は大丈夫だと。川越のようなタイプは，人の顔を見て対応を変える。強い者には弱く，弱い者には強く出る。「自分に似ている」と進。その様子を，こっそり見ている弁護士の小林。
　守はマンションに戻る。7時10分前。玲子との結婚を妄想して憂鬱。靴の手入れをしていると，たくさんの子供たちに囲まれ，騒がれ，じゃまされ・・・。7時になり，インタフォンが鳴る。いやいや応じる守。その時，朝の女性がまだいることに気づく。初めは慌てて帰そうとした守だったが，あることにひらめき，そのままいてほしいと。進は，ゆきと食事。楽しく話す2人の様子を，こっそり撮影する小林。進は，ゆきに映画の好みを聞く。偏っているというゆきだったが，一番好きなのは「あじさい」。進は，守も一番好きだという「あじさい」の良さがわからないという。ゆきは「"ヤマタノオロチ"と同じ趣味か・・・」とつぶやく。ゆきは，進に"ヤマタノオロチ"の話をする。その話を聞いた進は，大笑いしながら「それ，オレだよ，オレ」とあっさり認める。「兄貴が女遊びできるわけがない」。いよいよ，玲子が守の部屋へやってきた。そこにはキレイな女性が。守「オレの，これっすよ」とぎこちなく小指を立てる。「女は，他にも，大勢いるんだ・・・オレってやつは，ひとりの女じゃ，満足できないたちなんですよね」と，ぎこちなく話す。玲子の反応は・・・「すばらしい！男子たるもの，女の１人や２人，いいえ，３人・４人でも相手にする甲斐性があるべきです。会社を背負って立つ男の人なら特に」。玲子の父親がそうだったと。女性と握手をし，一緒に頑張ろうといいながら，子供だけは作らないでとお願いする玲子。守の作戦は失敗に終わった・・・。
　家に戻ったゆきは，沙織に進のことを楽しそうに話している。沙織は「専務のコト，気になってない？専務の方も脈ありだと思うよ」と言う。進が家に戻ると，守が床に大の字に倒れていた。守「パーソナルスペースって知っているか」。人は他人と接触するとき，無意識に物理的な距離を置き，個人空間を守ろうとする。その空間が"パーソナルスペース"。北欧人は，バス停に並ぶとき，他人と数メートル距離を置く。「僕のパーソナルスペースは，北欧人のさらに倍だ」。それを聞いて，「近かった？」と慌ててはなれる進。ため息をつく守。
　翌日，ゆきが会社に行くと，川越に進が何か話してなかったかと尋ねられる。川越は，自分の評価が気になって仕方がない。ゆきは「自分に似ている」と言っていたと言う。それをいい方に解釈した川越は大喜び。「後継者だ」と勝手に思い込んでいた。進は，小林と会っていた。元妻からの新たな請求。4673万円と言う高額に驚愕。進と結婚していなかったら稼げたであろう利益，逸失利益分だった。進が会社に戻ると，会社のテレビリモコンが見つからず，川越が会社のみんなに探させていた。社長室には亜希子が来ていた。進は，水島と交渉してうまく収めたと伝える。それを聞いて安心した亜希子は，守の社長就任には反対だったといいだす。昔から，進の方が守より優れていることはみんなが知っていたと。キネマエトワールは進で持っているという。
　ゆきは，外で沙織と待ち合わせをしていた。その時，守から電話。脚本についての質問だった。ゆきが答えると，すぐに電話を切る。そして，また電話。また質問をし，疑問が解消すると電話を切る。そしてまたまた電話。その繰り返し。ゆきは，沙織に謝り，電話を受けながら，守のマンションへ向かう。守は，そのやりとりを楽しそうにしている。電話の最中，マンションのインタフォンが鳴った。ドアを開けると，ゆきの姿が。笑顔になる守。手元に脚本がないと，答えづらいから来たという。脚本について話し合う・・・はずが，ゆきに指定された席は，かなり離れていた。守がリビングのソファで，ゆきがダイニング。これでは意味がないと，ゆきは守の隣に座る。ほんのちょっと後ずさりし，ちょっとだけスペースを開ける守。しかし，1冊の脚本を前に，熱心に話し合ううち，二人の距離は縮まっていった。その時，守のお腹が鳴った。ゆきが夕食を作ると言うが，守は「僕がいつも作ってるモノは　作れないと思うよ，食材もないし」と言う。それでも，残りモノで何か作ると，動きだすゆき。守は，脚本の中にあった「自分を見失うほどの恋」についてどう思うかとたずねる。ゆきは「素敵だと思う。素晴らしいことじゃないですか」と。守は，ある科学者の言葉を引用して話す。恋愛している状態は，40度の高熱を発している状態とまったく同じ。冷静な判断はできない。そんなときに，結婚を決めるのは実に愚かしいことだと。ゆきは「そんなこと言ってるから，結婚できないんです」。守「一生結婚しなくていい事を願うね」。万が一，書類上結婚したとしても，一緒に暮らすのは不可能。向かいか，隣に部屋を借りて住んでほしい。できれば別のマンションが理想的。「誰かが，僕のパーソナルスペースを犯すのは，絶対に耐えられない」。料理が完成した。見た目だけでイヤな表情をする守。でも，一口口にして「もっとひどいかと思ったけど，食べられないわけじゃない」。ゆきの地元の料理，"けの汁"だった。守は「もっとひどいかと思ったけど・・・もっとひどいかと思ったけど・・・」と食べ続ける。素直に「おいしい」と言えない守。
　進が家に戻ると，守とゆきがぴったりとくっついている後ろ姿が。脚本の手直しに夢中な2人。進がなにを言っても，2人の間に入れない。ゆきが帰った後。進は「兄貴が女連れ込むの，初めて見た」と言うが，守は「連れ込んだんじゃない。仕事の話をしてただけだ」と。進「仕事の話は，会社で・・・じゃなかった？」。守「あれは・・・たまたま。事故だな」。北欧人以上のパーソナルスペースはどうなったんだと思う進。夜中置きだした進は，ベッドに横になる守を見て，いろいろ思い出していた。社長に合うのは進だ，進の方が優秀だ・・・。こどもの頃。親戚のみんなから，なんでもできる褒められるのは進。誰にも相手にされないが，父親にだけは認められていた守。進は，ふと思い立ち，本棚から「あじさい」のパンフレットを取り出し，ぱらぱらめくってみた。
　進は，有名弁当を持って水島のもとへ。「あじさい」のパンフレットを差し出し，水島に話を聞く。評論家には評判良かったが，「当たらなかった」を連発。進は，「あじさい」をリメイクしたいと言い出すが，水島は「ありえないですよ」。ビジネスにならないと一蹴。芸術性を求めるのは，他の連中に任せると。進は「そうですね」と。水島は，なにをしに進が来たのかと疑問に思った。キネマエトワールでは，川越が，またゆきに仕事を押し付けていじめていた。戻ってきた進は，またゆきを連れ出す。出ていくときゆきが，みんなで必死に探していたリモコンを見つけた。川越の私物のカバンの中に入っていた・・・。守は，まだゆきの脚本を，夢中で手直ししている。
　進は，連れ出したゆきに「あじさい」の良さを聞きだす。ゆきは「うまく説明できないんですけど・・・」。なぜか見終わった後，ずっと心に残っている映画がある。それが「あじさい」。その話をしていると，守から電話が。もちろん，脚本の話。楽しそうに話しだしたゆきだったが，進の視線に気づき，「今専務と食事していて」と電話を切ってしまう。ゆき「社長って，才能ある人だと思いますけど。集中すると周り見えなくなっちゃうし，話止まらないし，子供みたいだし。相手の都合なんか気にしないで電話してくるし。全く空気読めない人ですよね。それに比べて，専務は，人の気持ちも分かるし，その場和ませてくれるし，真逆です。社長は，変わり者すぎ」。それを聞いて，進「褒められてるのかな・・・褒められてる気がしない」と，急にまじめな雰囲気になる。「みんながそういうんだ。ガキの頃から，星野家のスターは兄貴じゃなくて，オレだと言った。会社を支えてるのはオレだって。それは違う。みんなわかってないんだよ。会社支えてるのは，いつだって兄貴だ。オレは何一つ兄貴にかなうことないんだよ。親父だけ気づいていた。だから，兄貴だけかわいがって，あとを継がせたんだ」。しんみりとしてしまうが，「・・・・なんてね。信じた？信じたでしょ。女の子口説くときに，効果的なのは意外性。どう？きゅんとした？」とお茶らけてみる。そんな進の表情を見て，心配するゆき。タクシーに乗る時に，ゆきは「大丈夫ですか」とたずねるが，進は「大丈夫だよ」と答える。
　ひとりマンションで脚本の手直しを考える守。ひとりバーで飲んでいる進。ひとり落ち込んだ表情だった進の事を考えているゆき。そして，ボロボロの台本を置き，ゆきの「星野専務と食事していて」の言葉を思い出した守の表情はせつなかった。
　

＜episode２＞

　守は，進にゆきの脚本を「ダイヤモンドの原石のようだ」と，日本映画の水島に説明するように話す。しかし，進は高倉の原稿として水島に渡した。水島は，中身を確認することもなく，高倉の名前だけで企画を進めるとことを決めた。守は，玲子とゴルフに来ているが，相変わらず「山手線」で乗り切っているので，話の内容は全く覚えていない。玲子が守の家を訪れると言っているが，全くわかってない様子。亜希子は，キャディとしてこっそりその様子を見ている。守が，いつものようにひとりで食事を楽しみ，靴の手入れをしていると，亜希子から電話が。そこで初めて玲子がやってくることを知る。「山手線のせいだ」と守。守は断るつもりだったが，亜希子は日本映画との契約が正式に決まり，制作ひが振り込まれるまでは安心できないと脅かす。進は，小林から離婚の慰謝料が１億円だと知らされる。小林「まずはこの金額を」と，まだかかると暗にほのめかす。ゆきは，川越のもとで現場で働き始める。神崎と言う有名女優の撮影現場だった。
　玲子がやってくる７時が近づく。落ち着かない守。玲子がやって来た時のことを，いろいろ妄想してしまい，落ち着かない。なんとか靴の匂いをかいで落ち着こうとする。それでも，過呼吸状態になってしまう。７時が過ぎ，玲子が本当にやってきた。脱ぎっぱなしの靴を守が直す。部屋を案内してほしいというので，一緒に部屋を見て回る。大事な靴も，平気で触って適当に扱ってしまう。そして玲子は，風水をはじめとする占いをもとに行動をする。高価なお皿に盛り塩をし，ワインとグラスの相性を無視し，赤ワインセラーに白ワインをしまい・・・守のこだわりに一つも合わない。がまんできなくなった守は，仕事と偽り部屋に逃げ込む。そこで靴の匂いをかいで落ち着こうとする。ゆきは，現場で失敗ばかりで，川越に怒られてばかりだった。いじめにも思える川越の叱責。それから救ったのは進だった。優しく接する進。
　やっと帰る玲子を見送る守。守は，１人になると叫んでいた。それを偶然通りかかったゆきが見つける。今でも，「やまたのおろち」は守のことだと信じているゆき。ゆきが先に歩きだすと，その後ろを歩きだす守。ゆきは，ついてこないでほしいと言うが，同じ方向に守のいきつけのホテルがあった。ホテルのバーにいくという守。その時ゆきのお腹が鳴ってしまった。守はゆきを誘う。が，バーカウンターの端と端に座る２人。ゆきがおかしいと指摘すると，一緒に座った。守が，ホテルのバーやレストランで食事をするのは，ホテルは出張客や旅行客が多く，１人で食事をしていてもおかしくないから。ゆきは帰ろうとするが，２人前からしか頼めない料理があるからいてもいいという。守は「結婚生活は奴隷」と言い切る。古代ローマの，ローマ市民と奴隷の違いは，自分の人生を自分で選択できるかどうか。ゆきが，気楽につきあえる人はいるはずだというと，守は「いない」と断言。たとえ，他の人より気楽に過ごせる相手がいたとしても，0.1のストレスはある。それが5年10年経つと，10にも100にもなる。自分も不幸になりたくないし，相手も不幸にさせたくない。ゆきが，1人でさびしいと思うことはないのかと言うと，1年に2日ぐらいはあると言う。ただし，たった2日のために，365日のうち363日を無駄にしたくない。「女性は像」と言う言葉を信じている。眺めるのにはいいが，家に置いておきたくない。その言葉を聞いて，ゆきは出て行った。
　撮影現場。ゆきは，わがままな神崎に嫌われてしまい，いじめられる。ゆきのせいで撮影が止まってしまったとされ，川越に「帰れ！」と怒鳴られる。日本映画との打ち合わせ。その場には進しかいない。進は，守が体調が悪く，自分に一任されていると嘘をつく。進が覚書にサインをし，一時金が支払われることになった。これで映画の制作が始まる。現場から追い出されたゆきは，日本映画から戻ってきた進に出会う。進は，落ち込んでいるゆきを見て励ました。進は，川越に呼ばれ現場へ。ゆきは偶然，水島たちが「８月のボレロ」と言う高倉の脚本の話をしているのを聞いてしまう。社長室に乗り込んで行くゆき。高倉の名前で脚本を出したのか，粗末に扱わないと言ったのは嘘なのか，と問い詰める。事情がわからない守。ゆき「あなたがやったんですよね！」。守「そんなことしていません。あの脚本を，高倉の作品と偽って提出できると持っているのですか？そんなすぐにばれるような浅はかな事をすると思っているんですか。あなたは，自分の能力を買いかぶっているようですね。正直，君には失望しました。僕は周りから変人と思われているかもしれませんが，映画制作に関しては不誠実な対応を取ったことは一度もありません」。ゆきは「一度もウソをついたことがないと言う人間を信じません。あなたも同類です」と出て行ってしまう。ゆきと入れ替わりに，緒方が入ってきて，日本映画から制作費が振り込まれたことを伝える。家に帰ったゆきは，友人に早とちりではないかとたしなめられる。ゆきの脚本を認めてくれた唯一の人物のだから，疑わないで信じてみてはと。
　守は，撮影所へ行き，進に問いただす。守「そんな恥知らずな事よくできるな！すぐに取り返して来い！」。進は，あの脚本はすでに日本映画の物になっているからできないと。守「なら僕がいく」。進「オレがうまくやるから」と止める。あくまで時間稼ぎだと。高倉の新しい脚本ができれば，差し替えればいいと。そうすれば誰も傷つかずに済む。守「そういう問題じゃない！人の尊厳の問題だ！春野ゆきと言う女性の人格と，高倉と言う有名脚本家の人格の両方踏みにじっているんだぞ。春野ゆきは傷ついているんだ。わからないのか」。進「頼むからオレに任せてくれ」。うまくいけば，守も結婚しなくて済むし，会社の助かる。進「今回は目をつぶってくれ。会社も厳しいんだ。オレだって親父が作った会社，他人に渡したくないんだよ」。なにも応えず，出ていく守。
　守はゆきの居場所を探した。アパートを尋ねるが留守。電話をかけ，追いかける。目の前に見つけるが，そのまま電話で話す。帰れと言われて帰ってきたというゆきに，上司が帰れて言う時には戻ってくることを期待している場合もあるから戻った方がいいとアドバイスする。ゆきは，すぐ戻るといい，守に謝ろうと振り向くと，守の姿を見つけた。ゆきが，さきほどの態度を謝ると，守「謝るのは僕の方です。申し訳ありません」と深々と頭を下げる。全てを認めて謝罪する。ゆきは，作品は自分の一部だから，知らない間に他人の名前をつけられてるのはものすごいショックだと。ただ，もう戻ってこなくてもいいと言う。脚本家になろうと思ったのは，シネマ・エトワール制作の映画「あじさい」を見てから。自分のつたない脚本が，その映画を作った会社の役に立つなら本望だと。
　守は日本映画へ行き，水島にすべてを明らかにして，謝罪する。なにを言われても，謝るだけ。水島は，裁判も覚悟しろと言う。そんな水島に，守は「ひとつお願いがあります。脚本を帰してください」。すでに脚本の権利は，日本映画にある。守「それでもお願いします。違約金ならお支払いします」。水島「そんなことじゃない。信用の問題なんだ」。それでも頭を下げる守。日本映画と2度と仕事をしないと言っていることと同じ。水島「こんなゴミみたいな本のために，うちとの付き合いをなくすなんて，バカな男だ」と脚本を床に投げ捨てる。拾い集める守。そして「ありがとうございます」と言い出す。「あなたにはこの本の良さが，一生わからないでしょう。価値のわからないあなたに，この本を渡さないで正解でした」と出ていく。
　神崎が楽屋から出て来ず，撮影がストップしている。顔が映らないから，他の人でもいいだろうと，わがままを言っている。そのころ，ゆきが撮影所に戻ってきて，スタッフみんなに謝っていた。進の現場へ。もう時間がなく，待てない状態。進は，ゆきを代役にすると言いだす。メイク担当に，ゆきを委ねる。守も，ゆきの脚本を手にスタジオにやってきた。そこへ，変身したゆきが入ってくる。その美しさに，一同驚愕。進を微笑みながら見つめるゆき。進と見つめ合う。そんなゆきを見つめる守。神崎が，自分が目立つように変更するなら戻ってもいいと言うが，進はいいように言って帰す。進がゆきをエスコートして撮影が始まる。そんな2人を黙って見守る守。
　