冬のサクラ

最終話 　萌奈美は，危険な状態を脱したが，意識が戻らず予断を許さない状態だった。祐は肇に，やっぱり航一に手術を頼みたいと。萌奈美が倒れ，もうすぐ自分の目の前から消えてしまうと思った。覚悟をしていたけれど，最後の瞬間が来ることに目をそむけていた。萌奈美がいなくなってしまうなんて耐えられない。そう訴える祐に，肇は「疲れてんだよ」と。章子は航一をしかりつけた。しかし航一は「医者になりたかったわけじゃない」と反論。親の作った地位と名誉を守るため，医者になった。「でも，もうどうでもいい」と投げやりな態度。祐が，航一のところへやってきた。土下座をし，手術で助けてほしいと。「断る」と航一。萌奈美を奪った祐の手助けをするつもりはないし，実際，今手術をしても助からない。祐を追い出し，「愛する者を失う悲しみを味わうんだな」。祐は，次に肇のところへ行き，手術してくれる脳外科医を紹介してと懇願する。混乱している祐を見て，肇は「萌奈美さんの気持ち，どうなるんだよ。やってること，院長と同じだ。苦しくたって踏ん張れよ。こんな所にいるより，早く帰ってそばにいてやれよ」。祐が出て言った後，肇は追い返したことを後悔していた。安奈は「お兄さんも間違ってるってわかってると思う。わかってるけど，どうしようもないこともあるんだよ」。肇「ちゃんと聞いてやればよかった。兄ちゃん，オレしか頼る人いねぇんだ」。 　祐が萌奈美のもとへ帰ると，萌奈美の意識が戻ったところだった。萌奈美は「夢を見ていました」と。あの桜が遠くで満開になっているけれど，近づこうとしても雪が深くなって近づけない。サクラを見たいからがんばろうって思った。目が覚めてから，あのサクラ咲いているのを見るのが，生きる道しるべと考えた。萌奈美「あの場所に連れてってくれて，ホントにありがとう。大切な思い出になりました」。そんな萌奈美を見て，理由も言わず謝る祐。そして「あのサクラ咲くところ，絶対みましょうね」と約束する。しかし，医者は春を迎えるのは難しいと言う。病気と向き合う勇気を与えてほしいと言われた。祐は，萌奈美の病気について必死に勉強した。そんな時，肇から電話が。祐は「オレどうかしてた。もう大丈夫だから」。医者に言われたことを話し，「オレに何ができるか」。肇「きっと何か見つかるはずだよ」。 　琴音が章子と一緒にお見舞いに来た。琴音がうれしそうに話しかけるが，萌奈美の様子がおかしい。それに気づいた章子は，琴音に二人だけで話したいからと病室を出てもらう。萌奈美は，琴音の言っていることがわからなかったと正直に話す。だから，電話をかけることも怖くてできない。萌奈美のことを理解した章子は「航一のこと，ごめんなさい」と謝る。祐は，ガラス工場に行くと，伯父は来れるときだけでいいから仕事に来いと言ってくれた。祐がいつ戻ってきてもいいようにしていたのだった。祐が萌奈美のところへ戻ると，萌奈美は琴音の話がわかってやれず，何も聞いてやれなかったと悔しがっていた。祐は＜これがあれば大丈夫です＞と書いてあるホワイトボードを出した。文字の方がわかりやすいらしい。そんな祐の配慮に，萌奈美は「娘には手紙を書きます」。　章子は帰り道琴音に，萌奈美の具合があまり良くないことを話す。「だからこそ，私たちが強い心でママを支えてあげなくちゃね」。そして，章子は，人生は思い通りに進まないこともあると，昔とても大切な人に裏切られたことがあると言う。その時はつらい経験だった。しかし，「人はね，苦しいことをばねにできる力があるの。あなたの中にも絶対あるはずだから」と，琴音をしっかりと抱きしめた。 　祐は，ホワイトボードにいろいろ書いて萌奈美に見せる。しかし，それすら良く見えなくなってきている萌奈美だった。萌奈美「ここから見える空って小さいんですよね」と窓の外を見る。それを聞いて，広い空を見せたいと，祐は医者に外出許可を得ようとするが，かなり状態が悪く許可は出なかった。萌奈美は，琴音に手紙を書こうとするが，それも思うように行かない。苦しむ萌奈美。その間，祐は病院中を駆け回っていた。そして「見つけた」と。 　航一が院長室に入ると，そこには理恵が。理恵は「よりを戻してあげてもいい」と言うが，航一は「お前には用がない」と冷たく言い放つ。理恵「あなたは私といた方が幸せなのよ」。二人はだれにも愛されない，似た者どうしだと。航一が「出ていけ」と怒鳴ると，理恵は航一に抱きつき・・・ナイフで腹を刺した。理恵「いつかはわかりあえると思ったのに」。祐が萌奈美の病室に行くと，頭痛で苦しんでいた。航一のオペが始められようとしていたが，航一の血液型は稀なものだった。大量出血のため，備蓄されている分で足りるかどうか。萌奈美の病室では，処置が行われ，一応の落ち着きが見られた。ベッドサイドで見守っていた祐は，便箋を見つけた。そこには＜何もできなくなっていく　悔しい　悲しい　私は何のために生きて＞とある。同じように書いては捨てられた便箋がごみ箱からあふれ出ていた。萌奈美はうわごとで「サクラ・・・」と。航一の血液は，やはり確保が難しかった。その時，肇の指導医だった木村があることに気付く。そして，肇に電話連絡が。萌奈美の意識が戻った。祐は見せたいものがあると，萌奈美を連れ出す。テラスに行くと，きれいな夕日が。少しでも広い空を見せようと，病院中を探してこの場所を見つけ出していたのだった。そこへ，次郎と千尋が啓翁桜を届けに来た。２人の様子を見て察した千尋は，次郎を連れてすぐに立ち去った。祐「オレ，何の役にも立てなくて」。萌奈美「十分してもらっています」。病室に戻る途中，テレビのニュースで航一の事件を知った。理恵が逮捕されたことも。萌奈美は，琴音のことが心配になり，かけつけたくて立ち上がろうとするが，それもできない。「どうして何もできないの」と嘆く。祐「オレが東京に行ってみてきます」。 　実は，肇の血液型が航一と同じだった。章子は頭を下げ，輸血をお願いする。肇は血液を提供することを決めた。手術中，祐がやってきた。肇がいることを不思議がる。肇は血液型が同じだと説明する。琴音は「パパ死んじゃったらどうしよう」と不安になっていた。祐は「大丈夫。絶対助かる。そう信じるんだ」。手術は無事成功した。祐「琴音ちゃんもがんばったね」。去っていこうとする２人を章子は呼びとめ「ありがとうございました」と。肇は，航一のことは嫌いだけれど，役に立ってよかった。航一を必要としているたくさんの患者さんのためにも。章子「あなたたちにお会いできてよかった。お母様は愛情深い人だったんでしょうね。夫は山形出身なんです。ご縁があったのかもしれませんね」。その話にはっとする祐と肇。２人歩きながら，肇「オレの家族は，兄ちゃんと母ちゃんだけだから。今までも，これからも」。それ以上，何も言わなかった。肇「萌奈美さんはどう？」。祐「何をすれば希望が持てるのかわからなくて」と言う。肇は「やさしさでいいんじゃないの。兄ちゃんの最大の武器だろ」。祐がふと見上げると，桜のつぼみが膨らんでいた。祐「東京はもう春か」。萌奈美のもとに祐からＦＡＸが届いた。手術が成功し，琴音も元気だと。安心する萌奈美だったが，看護師に「いつまでがんばれますかね」と。肇がアパートに戻ると，安奈がごちそうを作って待っていてくれた。章子は航一に「助けてくれた人に感謝しなさい。せっかく救われた命，誰かを恨み続けても悲しいだけ。萌奈美さんを許してあげたら。求めるだけでなく許すのが夫婦です」と諭す。 　祐は，萌奈美にサクラの写真を見せる。少しつぼみが膨らんでいる。毎日写真を撮ってくると約束する。その写真は，ベッドの萌奈美からよく見える位置にボードを置いてはりつけた。約束通り，サクラのつぼみの写真だけでなく，春を感じさせるような自然の写真を撮ってきては，ボードに貼っていった。車を走らせ，寝る間を惜しんで写真を撮り続ける。ベッドサイドでうとうとしてしまう祐を見て，萌奈美は「祐さん，疲れてますね」と。祐は否定するが，萌奈美「私は疲れちゃったみたい。もう寝ます」。そう言われ，祐は病室を出た。車に乗り込むが，萌奈美の様子が気になり，走って病室へ。萌奈美は窓を開け，身を乗り出そうとするが，それもできず，座り込んでしまう。そばに祐が忘れて行ったデジカメを見つける。何気なく写真を見ていくと，そこには，二人で行った海の写真が。次にサクラの写真。日付と時間を見ると，同じ日で，時間も１時間しかあいていない。走ってきた祐が病室へ。あいている窓のそばに座りこんでる萌奈美。「空が見たくなったんです。これ以上がんばれない気がして」。祐が，萌奈美の手元のデジカメに気付く。萌奈美が，東京へ行ってきたのか，でもサクラの写真は・・・と。祐は「すみません」と謝る。今日見せたサクラは，あの丘のサクラではなく，東京の桜だった。ここより早く春が来る場所に行って，写真を撮って来ていた。「どうしても希望持ってほしくて。オレにはこんなことしかできなくて。だけどどうしてもあなたに生きていてほしくて。あなたは，ささやかな人生だって言ったじゃないですか。みんなそうじゃないですか。だけど，その人がいることが誰かの幸せにつながっている。オレはそう思います」。萌奈美を抱きしめ，「生きてください，萌奈美さん。お願いですから。誰のためでもない，あなたのためでさえなくてもいい，オレのために生きてください」。 　祐は，医者に外出許可を懇願した。医者は，外出先で何かあったら命にかかわると。しかし，治療の限界が来ており，治療を続けるのは本人に負担をかけるだけだと言う。祐は，肇に萌奈美を自宅に引き取りたいと連絡した。肇は，在宅医療と言うものがあると説明する。しかしそれはつらい現実を目の当たりにすることになると。祐「萌奈美さんが望むならそうしたい」。肇「がんばれ」。 　航一が，萌奈美のところへやってきた。萌奈美は眠っていたが，その背中に向かって話しかけた。「君を苦しめてすまなかった」。子供のころから，一番になれと言われ続けてきた。それに応えることでしか自分の価値はないと思っていた。でも，萌奈美は違っていた。萌奈美は，幸せな家族を作るだけでいいと。それがまぶしかった。しかし，自分が信じてきた道を簡単に曲げることができなかった。結果，萌奈美を追いつめ，失うことになってしまった。人生には取り返しのつかないことがあるんだと初めて知った。そのおかげで，人の痛みが分かる医者になれるかもしれない。琴音のことは，自分が萌奈美の分まで愛していくと。途中から，萌奈美は眼を開けていたが，何も言わず聞いていた。航一「初めて会ったときから，君の笑顔が好きだった。さようなら」。すると萌奈美が航一を見て「航一さん，さようなら」。 　航一は，ロビーで祐と出会った。航一「萌奈美のこと，よろしく頼む」。祐「オレの家に連れていきたいと思います。残された時間，少しでも安らかに過ごしてもらいたくて」。航一「萌奈美が望むならそうしてやってくれ」。祐「琴音ちゃんにも伝えてもらえませんか」。航一「わかった・・・萌奈美を君に奪われたわけじゃない。もうとっくに失っていたんだ」と去って行った。祐は，萌奈美に祐の家に来ないかと提案する。祐「萌奈美さんが病院の方が落ち着くと言うなら無理にとは言いません。萌奈美さんが少しでも安らげればそれだけでいいんです。考えてみてください」。航一は，家に帰ると，琴音に「ママにあってきた。会いに行ってよかった」と話す。そして，琴音に紙袋を渡した。その中には画材セットが。航一「無理に医者にならなくていい。好きな道生きればいい」。そんな姿を微笑みながら見ている章子。萌奈美も，祐も，夜，１人で考えていた。 　翌日，病室に行くと，祐「やっぱりオレの家に来ませんか。あの家でもう一度一緒に過ごしたいんです」。萌奈美「いいんですか」。祐「はい」。祐は，萌奈美を迎え入れる準備を始めた。百合を介護したあの部屋で。肇の携帯に，航一から電話が。２人で会う。航一は，石川病院に戻ってこないかと提案する。「優秀な人材育てるのも僕の責任でもあるから。いろんなもの失ったが，君に助けてもらった命を患者さんのために精一杯生きようと思ってる」。すぐに返事ができない肇。祐は，萌奈美を家に連れて帰ってきた。あの時と同じように，啓翁桜が飾ってあり，そのそばにはガラスの鳥が。祐「鳥，１羽じゃさみしいから」と，萌奈美の鳥も一緒に飾った。祐が撮った春の写真も，アルバムにしておいた。祐が食事の用意をすると，萌奈美は「すみません」と。祐「もう，すみませんって言わなくていいですよ。萌奈美さんに何かしてあげる時間が，オレには一番大切な時間なんです」。萌奈美は代わりに「ありがとう」と。 　安奈は「病院戻らないの？」と肇に尋ねる。肇は航一のことが嫌いで病院を辞めた。安奈「患者さんからも人気があって・・・人って，そんなに完璧に演じ分けられるのかな」。そこに祐から電話が来た。「頼みたいことがあるんだ」。 　肇と安奈が琴音を連れて山形にやってきた。琴音は，萌奈美が作ったレシピノートを持参してきた。「ママに料理を作るから」。キッチンで，安奈と一緒に料理を作る琴音。琴音「今まで感謝なんてしたことなかった。ママが料理作るのは当たり前だと思ってたから。ずっと一緒にいるって思ってたから。いなくなるなんて考えたこともなかったから」。安奈「おいしい料理作って，ママに喜んでもらおう」。料理が完成し，皆でテーブルを囲む。みんなが笑顔に。琴音「今までいっぱいおいしい料理作ってくれてありがとう。もっと練習して，また作りに来るから。あのサクラももうすぐ咲くよ。一緒に見ようね」。夜，肇が萌奈美の体調をチェックしていた。萌奈美は「肇さんに謝らないと」。病院を辞めることになったことを。そして航一に輸血をしてくれたこと。肇「役に立ったならよかったです」。萌奈美「祐さんにも，何度も助けてもらいました。その上にこんなことまでしてもらって。それなのに私は何もできなかった。それが心残りです」。肇「それは違うと思います。きっと兄もあなたに救われたんですよ。兄は，あなたに出会えて幸せだと思うし，今の時間が大切なんだと思いますよ」。琴音と抱き合うように眠る萌奈美。祐は肇と安奈にあのサクラの話をする。祐「こんなに春を待ちわびたの初めてだよ。最近，夜寝るのが怖いんだ。寝てる間に萌奈美さんの命が消えてしまったらどうしようと思うと。何かを失うのが，こんなに怖いと思ったことない」。肇は，何も言わず祐の肩に手を置いた。 　３人は東京へ帰って行った。祐「ちょっと外に出てみませんか」。車いすで玄関先に出てくる。萌奈美「こんな穏やかな気持ちで，もう一度空を見れるなんて思わなかった。祐さんのおかげです。ありがとう」。２人で空を見上げる。萌奈美は，病状に苦しみながらも，祐の家出の生活を続けていた。春のアルバムの中から，サクラのつぼみの写真を１枚ぬきとる。じっと見ている萌奈美。ある夜，萌奈美は「ソファに座ってもいいですか」。祐に助けられ，ソファに座る。萌奈美「懐かしい・・・あの時もこんな風に座りましたよね。またこの家に連れてきてくれてありがとう。あなたといるときの私は，いつも自由だった気がする。あなたが大丈夫って言ってくれたから，自由に生きる勇気を持てました。祐さんに出会えて，ホントに幸せでした」。祐「オレもです」。萌奈美「私の分まで生きてくださいね。あなた自身の人生を幸せに生きてください。それが私の願いです」。祐は，黙って手を握る。萌奈美は，祐の肩にもたれかかる・・・が，そのまま崩れてしまう。診療所の医者によると，もう意識が戻らないかもしれないから，覚悟しておいた方がいいと。祐は，ずっと萌奈美の手を握り，そばにいた。ふと萌奈美の指が動く。しかし，意識は戻ってないよう。ただ，「サクラ・・・さいた」とうわごとを。祐が慌てて出かけようとすると，肇がやってきた。肇は病院に連れていくのかと思ったが，祐はサクラを見せに行くと言う。肇は祐を止める。祐「もう時間がないんだ」。肇「兄ちゃんよくやったよ。萌奈美さんも分かってくれる。穏やかな最期が迎えられるように見守ってあげるしかねぇよ」。何か思いついた祐は飛び出して行った。 　萌奈美の手を取り，ずっと見守っている祐。萌奈美の顔に，サクラの花びらが。目を開ける萌奈美。その目に映ったのは満開の桜。枕元にたくさんの啓翁桜が満開になっていた。萌奈美「サクラ・・・」。祐「咲きましたよ。約束しましたよね。一緒に見るって。春が来たんですよ」。萌奈美「祐さん，ありがとう」。そういうと目を閉じ，一筋の涙が流れた・・・。祐「あなたの笑顔，もっと見たかった。あなたの声も，もっと聞きたかったよ。ホントは，もっと，ずっと一緒に生きたかった。オレはあなたを愛しています。ずっと愛している・・・愛してます・・・愛してるよ」と泣き崩れる。 　萌奈美の葬儀が執り行われた。葬儀が終わると，章子と琴音が祐たちに挨拶に来た。章子「いろいろお世話になりました」。琴音「母にサクラ見せてくれたんですね。最後まで母をありがとうございました」。航一とも話をする。航一「萌奈美の顔，微笑んでた」。祐「はい」。航一「幸せな最期だったと思う。ありがとう」と頭を下げた。みんなが祐を励まし，帰って行った。肇は今夜は泊ると言うが，祐は「大丈夫だよ。ずっと覚悟してたことだから，意外と平気って言うか。ただ，今日は１人でいたいんだ」と笑顔を見せる。肇は，連絡するから携帯は持っていろと念を押す。バスを待っている間，肇は，安奈に石川病院に戻るつもりだと話す。「兄ちゃんに頭下げる院長を見てそう思った。きっとあの人も苦しんだんだろうなって」。そして「結婚しねぇ？」と突然のプロポーズ。肇「兄ちゃんち萌奈美さん見てて思ったんだ。大切な人と一緒にいれるのは幸せなんだなって」。もちろん，杏奈はOKした。 　祐は，家で１人，アルバムを見ていた。春をつづった写真。その中で１枚だけ外されていた。それは萌奈美が手に取って見ていた，サクラのつぼみの写真だった。航一は，理恵と面会。萌奈美のことを伝えた。理恵「最後までうらやましい人。私が持てなかったもの，何もかも持ってた。私には何も残らなかった」。航一「でも君はまだ生きている。僕も君もまだ生きていける。あるのは絶望だけとは限らないよ。萌奈美が最後に希望を見つけたようにね」。 　肇が祐に電話をすると，「毎日電話しなくても大丈夫だよ」と祐。肇は，木村に会い，石川病院に戻ると伝えると祐に話した。また連絡すると電話を切る。次郎が，祐の家に来たが，何度呼んでも出てこない。家の中にはいない。携帯も置いてある。不安になった次郎は，肇に電話をする。次郎「あいつ，平気だよな。最近留守ばっかで」。祐のことが心配で，できるだけ家に寄るようにしているが，今日はかぎがかけてなくて，携帯も置きっぱなしだと。肇「兄ちゃんを探してもらえませんか。オレも行きます」。安奈には「イヤな気がするんだよ。バカだオレ。平気なわけねぇよ。命がけで萌奈美さんを愛して，失って。平気なわけねぇんだよ。兄ちゃんは，辛い時ほどなんでもねぇ顔するんだよ」。急いで山形に戻った肇。まだ祐は見つかってなかった。そのころ，祐はサクラの木の前に立っていた。家に戻ったときのことを考え，次郎が探しに出て，肇は家にいることにした。夜になり，祐が戻ってきた。肇に怒鳴られる祐。サクラの木のところに行っていたと。祐「毎日行ってんだ。毎日行って，いろいろ考えてる。これからどうやって生きて行こうか，いろいろ考えてんだよ」とアルバムをポケットから出す。それを見る肇に，何の写真か説明した。祐「結局，サクラは見せてあげられなかったんだけどさ。これからオレが何十年も見守っていかなくちゃいけないんだなって。そんなことがかけがえのないことだって，萌奈美さんが教えてくれたんだ。オレさ，萌奈美さんに会って，今までの自分から一歩踏み出せた気がしたんだよ。だからこれからは，ちょっとずつでも前に進みたい。オレが愛した人のために，前を向いて生きていきたい」。アルバムを見ていた肇は，あのサクラの写真を見つけ，たまたま裏を見ると・・・。その写真を祐に手渡す。＜祐さん　私はあなたを愛しています＞。自由にならない手で，必死に書いた萌奈美からのメッセージ。涙が止まらない祐。肇「兄ちゃんは，１人じゃないんだもんな」。祐「大丈夫・・・大丈夫。オレ，大丈夫だから」。 　石川病院でまた働きだした肇。航一は，相変わらず患者にやさしく接している。肇にも声をかけてくれている。肇と安奈のもとに，祐が作ったペアのグラスが届いた。＜２人の幸せな春がずっと続きますように。兄より＞と言うメッセージカードには，サクラの花の押し花があった。次郎は，千尋と二人仲良さそうにしている。琴音は，レシピノートを見ながら，章子と楽しそうに料理をしている。今までと同じように，ガラス工房で働く祐。春になり，あのサクラが満開になった。祐「大丈夫。明日は味方だから。春は必ず来るから」。 　＜被災された方々，そして日本中が大きな不安と戦ってる中，私たち一人一人が今できることを精一杯考えたいと思います。希望の"春"が来ることを祈って。　２０１１年３月２０日「冬のサクラ」キャスト・スタッフ一同＞＞

第８話 　琴音は「私はママに何をしてあげられるのかな」と考えていた。病院のロビーで，航一が山形に行くと言っており，理恵はひきとめようとする。「いい加減あきらめたら？あなたのことは私が良くわかっているから」。ところが，航一は理恵のほほを思い切りたたいた。航一「お前なんか，最初から相手になんかしてないんだ！」と怒鳴りつける。その様子をたくさんの人が見ていた。その中には，安奈の姿も。安奈が肇のそのことを話すと，肇は「とんでもねぇことしでかしそうな気がするんだよな」と，航一の行動を心配する。 　萌奈美が気がついた。祐「何も心配しなくていいんですよ」。琴音は，サクラが咲いているのを見たいのなら，ここに入院すればいいと提案する。自分は毎週会いに来るからと。祐「よかったらそうしませんか？ここで春を待ちませんか？」。そこへ航一がやってきた。いきなり土下座し「頼む！帰ってきてくれ。命を助けたかったんだ。家族三人で暮らそう。琴音のために」。琴音は，航一に「ママはここに入院するんだよ。特別な桜があるんだって」と伝える。萌奈美も「家には帰りません」と。航一は，あっさり承諾し，家に帰って行った。祐は，萌奈美に琴音が萌奈美のために何ができるかずっと考えていたんだと教えた。 　祐は，肇に連絡をし，萌奈美がこちらに入院することになり，自分もそばにいると伝える。そして萌奈美は医師と話をし，様々の症状について聞く。萌奈美に残された時間は，何とも言えないが，やりたいことがあれば今のうちに，と言われた。その話を廊下で聞いていた祐。安奈は「一緒にいられて良かったね」と言うが，肇は，まだ気持ちを伝えていないのがわからないと。「いいのかな，ちゃんと伝えなくて。このまま病状が進むと・・・」。 　章子に，理恵との関係がばれた。きつく注意し，「これ以上失望させないで」と。そう言われた航一は，「お母さんまで僕を否定するのか！」。今まで，章子の期待通りにしてきたのに。突然怒鳴られて驚く章子。萌奈美は，医師と話をするが，途中言われた内容が分からなくなってしまう。肇が祐の荷物を持って家にやってきた。祐は，医師にやりたいことがあったら今のうちに，と言われたと伝える。肇は「１つだけ言っとくことあるんだけど・・・」と，萌奈美には言っていることが分からなくなる失語症の症状が出てくると話す。だから，「ちゃんと思いを伝えたいなら，少しでも早く伝えた方がいい。もう時間がないんだ」。 　萌奈美は琴音と電話で話をした。琴音は「山形の人，やさしい人だね。あの人といるときのママ，きれいだった。私はいいと思うよ」と電話を切った。萌奈美は，電話を切り歩き出そうとするが，足がしびれ立っていることも難しくなった。肇を見送りに駅に行く祐。祐は「気持ち，言葉で伝えた方がいいのかな」と。肇は「相手に伝わってるかわかんねぇジャン。１つだけ後悔していることがあってさ。母ちゃん，生きてるうちに会いに来なかったのかなって。一言，ありがとうってい伝えればよかった。同じ後悔してほしくねぇんだよ」。祐は，萌奈美の外出許可をもらった。その時，萌奈美に失語症の症状が現れ始め，会話が難しくなってきていると教えられる。医師は「やりたいこと，存分にやらせてください」と。祐は萌奈美のもとへ。明日出かけようと誘う。自分が育った街を見てほしいから。 　そのころ，祐の家に男がやってきた。偶然次郎が見つける。祐のもとへ，次郎から電話が。「駐在所に来てくれ。お前の父ちゃんだっていう人が来てる」。祐は「しらねぇよ。そんな奴。追い返してくれよ」。いつも母が座っていた椅子を見つめ，母がいつも「ゆういちさんでしょ」と言っていたことを考えた。次郎は，父親だと言う男に，「あいつも苦労したんですよ」と話す。そこへ祐がやってきた。「名前，聞かせてくれませんか」。男は「片岡雄一」と名乗った。祐「オレは話すことありませんけど，母は会いたいと思うんで」と片岡を家に招いた。片岡は，線香をあげると，祐に話を始めた。百合とは山形に単身赴任している間に出会った。当時は転勤が多かった。百合が身ごもっていることを知らず，東京へ。一度百合が東京に来て，その時初めて祐を生んだことを知った。残念ながら，肇の父親ではなかった。片岡「苦労をかけてしまって，住すまなかった。百合さんはかけがえのない人でした。その思いを伝えることができなかった」。祐「ご家族がいたからですよね」。片岡「心の底から愛しているから，言えないっていうか。言葉にした途端，薄っぺらくなりそうで」。祐「あなたの名前だけはずっと覚えてました」。片岡「ありがとう」。 　琴音の寝姿を見ている航一。部屋を出ると，章子に「体にだけは気をつけてね」と。その様子に，不審がる章子。航一は，車でどこかへ出かけて行った。朝，祐が起きると，すでに片岡の姿はなかった。たたまれた布団の上には，メモと通帳・印鑑が。毎月５千円ずつ，ずっと貯金されていた。祐は，肇に電話をする。「気持ちを伝えるのやめるよ。言ったら，萌奈美さんが苦しむから。重荷になることしたくないんだ。それよりしてあげられることした方が」。肇「ホントにいいんだな」。祐「思いっきり楽しませてあげたいんだ」。肇「わかったよ」。 　萌奈美を待つ間，病院の前で幼い子供を連れた夫婦に出会う。この子を絶対幸せにする，笑顔にするのが生きるあかしだと話していた。萌奈美が祐のところへやって来る。そのころ石川病院は大騒ぎになっていた。大事なオペがあると言うのに，航一が行方不明になっていた。理恵は，章子に，航一にはいろいろと相談されていただけだとごまかす。しかし，章子は「うちの仕事辞めていただきます。ずるがしこい人間が一番嫌いなの。二度とこの病院に足を踏み入れるんじゃない！」ときつくいい渡す。 　祐は萌奈美を思い出の場所へ次々と連れて行った。すごもりをしているリスの姿。展望台には，昔次郎が千尋との恋が成就するように書いた落書きがあった。雪の林では，祐が木をたたくと祐の頭上に雪が。実は，すぐ下の祐のところではなく，萌奈美のところに落ちる珍しい場所だったよう。そしてあのサクラの木の下へ。萌奈美「春はまだですね」。祐「でも必ず来ます。約束しましたよね。一緒にまたこのサクラを見ようって。春になったらまた来ましょう。満開の桜，また見ましょう」。萌奈美「私，どうしてもやりたいことがあるんです」。そのころ，萌奈美の病室に現れた航一。外出していると聞くと，祐の家へ。無理やりにでも入ろうとする。 　萌奈美は，祐の家で料理をする。しかし，手がうまく動かず，かなり苦労している。それでも祐の手助けを断り，１人で作り続ける。あの日作ることができなかった，肉じゃがが完成した。涙をこらえながら食べる祐。萌奈美「考えたんです。祐さんのために何ができるんだろうって。これぐらいしか思いつかなくて。それが私の人生なんだなって。ささやかでしたけど，悪くなかった。最後の最後には祐さんに出会えた。これが私の祐さんへの精一杯の気持ちです」。祐「ありがとう。オレ，忘れません」。祐は，千尋の家へ啓翁桜をもらいに行く。「病室に飾ろうと思ってさ」と言う祐に，千尋「大切な人なんだね・・・」。 　萌奈美が祐の家で１人待っていると，航一が現れた。萌奈美は「戻らないと言ったはず」と言うが，力ずくでも連れ出そうとする。航一「僕を愛してほしかった。僕だけのために生きてほしかった。あの男が現れるまで何の問題もなかった！」。萌奈美「それは違う！本当の気持ちに蓋をしてしまったの。開ける勇気がなかったの。その勇気を祐さんにもらったんです」。萌奈美がどうしても自分のもとに戻らないとわかると，航一はポケットからメスをとりだした。ちょうど祐が帰ってきて，外の車を見てあわてて中へ。祐と航一がもみ合う。祐が航一を殴りつけた。祐「いい加減にしろよ！萌奈美さんは，必死に生きようとしてるんだ。どうして分かってあげないんだよ」。航一「僕は萌奈美を愛してるんだ！」。祐「だったら最後ぐらい思うように生きさせてあげてください。あなたがホントに萌奈美さんを愛しているのなら」。萌奈美萌頭を下げる。航一は「萌奈美への思いは，君にい負けたと思っちゃいない」と言い残し，車で帰って行った。祐が部屋に戻ると，萌奈美が倒れていた。病院に運ばれ，救命処置が施される。それを呆然と見ているしかできない祐。病院のロビーに肇がやってきた。祐「どうしたらいいのか・・・オレ，やっぱり無理だ。萌奈美さんがホントに消えてしまうなんて耐えられない。院長に頼んでみる。院長なら助けられるんだろう」。肇「何言ってんだ・・・」。

第７話 　祐と萌奈美はホテルにやって来ていた。ホテルでも，萌奈美は琴音のためのレシピノートを作り続けていた。そばにいてあげられないからせめてこれだけでも残してあげたいと。しかし，ペンを持つのも難しくなってきた。祐「もう休んだ方が」。そう言われ，やっとベッドへ。偶然，萌奈美が祐と出ていくのを見てしまった琴音は，自室にこもっていた。章子は，航一に「いったいどうなってるの」と尋ねる。航一は自分のことが信用できず，手術を受けないと言って出て行ったと説明する。章子は「出て言ってもらうしかないわね」と言うが，航一は「ダメだ。出るなんて許さない！萌奈美は僕の妻なんだ！」と激怒し，家族写真の入ったフォトスタンドを叩きつけた。驚いてみている章子。ホテルでは，萌奈美がベッドの中で「悔しいです。時間がないのに。やりたいことがあるのに」と。そんな萌奈美に，「明日のことを考えましょう」と祐。「まだできることたくさんあると思うし。大丈夫ですよ」。そのころ，肇と安奈は，祐から連絡がないってことは無事に連れ出せたのだろうと話していた。 　朝。レシピノートが完成した。萌奈美は，琴音にきちんと話をするという。「わかってもらえないかもしれないけど」。祐「わかってくれますよ」。祐の母親にも，祐の思いは伝わっていたから。一方，航一は理恵に連絡し，萌奈美をどこかに呼び出せと命令する。石川家で，章子が航一が激怒していたことを考えていると，萌奈美が帰ってきた。萌奈美は，章子に謝る。そして，初めて琴音が病院から出て行くところを見たということを知る。ショックで琴音は学校を休んでいた。その時琴音が，萌奈美の前に姿を現した。萌奈美は琴音に，手術はしないで他の病院に入院すると話す。「パパとは一緒にいること出来ないから」。琴音「あの人のせい？」。萌奈美は「それは違う」と，説明しようとするが，「聞きたくない」と琴音は行ってしまう。章子は，萌奈美に航一が信じられないと言う理由を尋ねる。萌奈美は，正直に手術のことを伝える。そして，琴音のことは忘れたくないんだと，自分の気持ちをきちんと伝えた。章子に琴音のことをお願いし，家を出ていくことにした。その時，理恵から電話が。心配だから話を聞かせてほしいと，自分のマンションに呼んだ。萌奈美は，キッチンの隅の料理本の間にレシピノートを置いて出て行った。その時，携帯をその場に置いてきてしまう。祐は，肇のアパートにいた。東京に出てきたとき持参した啓翁桜が散り始めていた。その花を手にとり「大丈夫」と。 　航一が萌奈美に電話をするが，誰もいないキッチンでなっているだけ。いらだつ航一。そこへ肇が「やめさせてもらいます」とやってきた。航一「バカな兄貴のせいで，君も気の毒だな」。肇「あなたの病院で働きたくないからです」。航一「兄弟そろってあまたが悪いな」。肇「あなたほど不幸じゃありませんから」と出ていく。萌奈美は，大学病院に行き，入院治療をしたいと伝えるが，断られてしまう。航一の手術を受けるのが一番だと言うが・・・。いつもより早く帰ってきた肇。病院を辞めたことを祐に伝える。肇「謝ったりするなよ」。祐は「ありがとうな」と。 　琴音は１人部屋で考えていた。そして，萌奈美の携帯が鳴っているのを見つける。祐からだった。電話に出る琴音。「山形の人ですか？ママを返して」と言って切ってしまう。萌奈美は，理恵のマンションへ。萌奈美が「夫とは一緒にいられないから」と言うと，理恵は病気を抱えているのに「すごい勇気だね」と。萌奈美は，病気になって１日１日の大切さが身にしみた。もう自分をごまかしたくないと思ったと話す。理恵が「私にできることがあったら，何でも言ってね」と言ったとき，玄関のチャイムが鳴った。やってきたのは航一だった。航一自身も驚いている。理恵は「呼び出せって言ったの，あなたじゃない」。二人の関係に気付く萌奈美。航一は「こんな女ことはどうでもいい。君に行くところはない。病院だって断られただろう」と萌奈美に迫る。肇が病院を辞めたことも言ってしまう。萌奈美の行動が，皆の人生を狂わせている。祐のことも苦しめるだけ。しかも萌奈美には居場所がない。「愛してるわけでもないんだろう」。出ていく萌奈美。それを追いかけようとする航一。理恵が引き止めるが，航一は「もう終わりだ。もう少し利口な女だと思ってた」と切り捨てる。萌奈美は，ホテルで１人悩んでいた。そこへ祐から電話。しかし，萌奈美は電話に出ることができなかった。祐に関わると余計苦しめるだけだと，航一に言われていたから。 　石川家。航一は，章子に，萌奈美を力づくでもなぜ止めなかったのかと。章子は「何も聞いてなかった」と言い，そして手術に関するウソは「とんでもないことよ」とたしなめる。航一は，記憶なんてなくなっても生きている方が大事だと言い張る。しかし，章子は，それを決めるのは患者自身。子供を忘れたくないのは母親としては当然のこと。「もういいでしょ。好きにさせてあげたら」。航一は「冗談じゃない！ずーっと僕のそばで，僕だけのために生きていけばいいんだ」と鳥かごにあたる。その様子を見た琴音は「パパやめて！」。その言葉に，ふっと我に返る航一。 　肇と安奈が出かけ，肇がごみ出しをしてアパートの部屋に戻ってくると，いつの間にか部屋の中に航一が。航一は「萌奈美はどこだ」と祐につかみかかる。祐がいくら知らないと言っても聞かない。祐は「知ってても話つもりありません。萌奈美さんは，残された時間を悔いなく過ごしたいと思ってるんです。その手助けをしたいだけです」。航一「金も地位もないお前に，何ができる」。祐「あんたなんかより，ずっと萌奈美さんを大切にできる」。激怒した航一は，祐を本棚に何度も叩きつけ，首を締め付ける。「お前の好きにはさせない」。 　萌奈美は，琴音の学校の前で待っていた。琴音に話しかけるが，走って逃げてしまう琴音。なんとか追いつき，話をする。琴音の成長していく姿を見るのが楽しかった。琴音の母親になれて幸せだった。しかし，航一とは本当の家族にはなれなかった。考え方がいろいろ違いすぎて，離れて暮らすことにした。一番大切なのは琴音だと。すると琴音は「だったら，私も連れて行くはずじゃん。みんな勝手なこと言って，ママもパパも大嫌い」と走って逃げる。追いかけようとするが，頭痛に襲われ追いかけられなかった。祐が萌奈美がいるはずのホテルに電話しても出ない。心配になり走り出す祐。航一は，あちこちのホテルに電話をかけ，萌奈美を探し続けていた。オペの時間を忘れるほど必死に。祐がホテルのロビーで待っていると，萌奈美が戻ってきた。琴音には最後まで話を聞いてもらえなかったと話す萌奈美。娘のことを苦しめ，周りの人に迷惑かけて・・・」。祐が「病院は？」と尋ねると，航一に言われたことを思い出し，祐に迷惑がかからないよう，大学病院に入院することになったとウソをつく。「たくさん助けてもらったのに，何一つ返せなくてごめんなさい」。祐「そんなことないです」。部屋に戻ろうと下も何が倒れそうになり，抱きとめる祐。しかしすぐに手を離した。萌奈美に何か言いかけるが，結局何も言えなかった。ベッドで１人泣く萌奈美。 　航一がやってきたことを聞いた安奈は「家宅侵入じゃないですか」と怒ってる。肇は，さすがにもう「好き」とか「愛している」と萌奈美に伝えたんだろうと言うが，祐は「苦しめるだけだから。一番大切なのは琴音ちゃんだから，オレも大事にしたいんだ。いいんだよ，それで」。安奈「強いなぁ。そんな風に人を愛せるなんて」。祐「そんなことないよ」。　航一は，章子に「連れ戻すのが先だ」と。そんな航一に，章子は「少しは萌奈美さんの体を心配したら。長く生きられないんだから」。その言葉を偶然琴音が聞いてしまう。萌奈美は一人ホテルで悩んでいた。そんなとき浮かんできたのが，祐の言葉「泣きたくなるとここに来るんです」とあの丘の風景だった。 　琴音が持っていた萌奈美の携帯に，祐から電話が。「オレが言うのもおかしいんだけど，お母さん，ずっと君のこと大切に思ってる。それだけはうそじゃない」。琴音は思い切って聞いてみた。「ホントなんですか？長く生きられないって」。祐「それは・・・」と答えられずにいると，電話を切る琴音。祐が萌奈美が宿泊しているホテルに行くと，既にチェックアウトしていた。フロントに祐宛の手紙が預けられていた。＜祐さん。私のせいで弟さんまで巻き込んでしまったこと，本当に申し訳ありませんでした。お詫びして取り返しのつくことではありませんが，せめてこれ以上はご迷惑をおかけしたくないのです。出会ったときから，祐さんの前では，ありのままの自分でいられた気がして。それが私にとってはすごく幸せでした。ありがとうございました。さようなら＞。手紙を読むと駆け出す祐。大学病院へ行ってみるが，萌奈美の入院予定はないと言われた。琴音は，キッチンの料理本の中に，萌奈美が作ったレシピノートを見つけた。そこにはたんにレシピが書かれているだけでなく，琴音との思い出，琴音への思いがいっぱい詰まっていた。探す当てもなく呆然としている祐のもとに，次郎から電話が。萌奈美を駅前のバス乗り場で見かけたという。それを聞いた祐は，琴音に電話をした。琴音と待ち合わせすると，萌奈美が行っていると思う場所のメモを渡す。祐は「僕，心配だから山形行くけど」。琴音は「ママの病気悪いの知らなくて，どうして手術うけないんだろう。死んじゃうかもしれないのに」と疑問を投げかける。祐は，記憶を失う危険性が高く，寝たきりになる可能性もある。琴音のことを忘れたくないから手術を受けないんだと教える。「琴音ちゃんが一番大切な人だから，手術をうけないことにしたんだ。お母さんの思い信じてあげてください」と去っていく。 　祐は，思い出の丘に向かう途中，座り込んでいる萌奈美を見つける。祐の姿を見て驚く萌奈美。祐「次郎ちゃんからあなたを見たと聞いて」。祐は，萌奈美をおぶってサクラの木まで連れて行く。萌奈美「あの桜の木をもう一度見たくて。結局迷惑を・・・」。祐「そんなことないですよ」。萌奈美「娘にもつらい思いさせて。どうしても私の思いだけは伝えたかった」。祐「きっと伝わりますよ。萌奈美さんと琴音ちゃんには一緒に生きてきた絆があるじゃないですか。大丈夫」。萌奈美「大丈夫・・・そうですよね」。２人でサクラの木を見ていると，琴音がやってきた。駆けよる萌奈美。しっかり抱き合う二人。琴音「ごめんね。ママのこと大好きだよ。死なないで」。２人をそっと見守る祐。萌奈美「ここはね，ママにとって大切な場所なの。このサクラ木のみたら元気になる気がして。ママはあと少ししかいそばにいてあげられない。だけど，ずっとどこかで見守ってるからね。自分が信じたとおり，まっすぐに生きて行って。ママのたった一つの願いだよ」。そういうと倒れてしまった。航一が，萌奈美の居場所を探していると，米沢の病院から電話が。そこに萌奈美が運ばれて行った。

第６話 　萌奈美の手術に向けての検査が行われた。肇のアパートでは，祐が航一に言われたことを話していた。安奈は許せないと怒っているが，肇はそれでよかったという。祐は，手術が終わるまではこの部屋に居させてほしいという。それに対して二人は問題なかった。安奈は，祐に萌奈美へ手紙を書くように勧める。会えなくても手紙で気持ちを伝えたらいいんじゃないかと。検査の結果，萌奈美の手術は３日後に行われることになった。航一「僕が救ってあげるからね」と，やさしく萌奈美に言う。しかし，後３日ですべてが終わると考えていた。理恵に誘われても，冷たくあしらう。 　肇は病院の食堂で，他の医師たちが萌奈美の手術の難しさについて話しているのを聞いてしまう。記憶障害はもちろん，意識障害で寝たきりになる可能性があると。それを院長は覚悟の上で手術をする。それを知ってしまった肇は，カルテを自分で見て，いろいろ調べ始めた。祐がバイト中に公衆電話からの着信が。しかし，航一の約束があるため電話に出られない。仕事が終わってから，残されたメッセージを聞くと，３日後に手術が決まったと萌奈美の声で。アパートに戻ると，肇が萌奈美の手術のことを伝える。記憶を失う可能性が高く，航一も覚悟の上の手術だと。肇の指導医も手術チームに入っているから詳しく聞いてみると言う。祐は，萌奈美から３日後に手術だと言う連絡があったことを２人に教える。その部屋には，祐が持ってきた啓翁桜が咲いていた。 　航一は，肇の指導医に肇のことを尋ねていた。指導医は「ガッツがあっていいい」と肇のことを評価していた。病室では，琴音が章子との生活は微妙だと言う。萌奈美が「おばあちゃんと仲良くしてね」と言うと，何も知らない琴音は「とりあえず，ママが退院するまでのことだし」と明るく答える。祐は，萌奈美への手紙を書き始めた。航一は，病院で肇のことを観察し始めた。また，理恵は，石川家で章子に，萌奈美はウソをついていたと暴露する。病院の中で，周りから無視され始める肇。指導医も，肇の担当を外された。周りでは院長を怒らせたと思われており，孤立していく。章子は，萌奈美の病室に乗り込んできた。「男の家で暮らしていたそうね」。萌奈美は，心配されるようなことはしていないと。しかし，章子はウソをついていたのはやましい気持ちがあるからだと，「恥を知りなさい！」と怒鳴りつける。萌奈美は「彼はそんな人ではありません。仕方なく置いてくれただけです」と強く言い返す。納得しない章子。 　祐がアパートに帰ってくると，肇は病院でのことを話す。「これ以上かかわれねぇわ」。萌奈美の命は助かるからいいだろうと。祐「それだけじゃダメなんだ。大切なものを守るために，止めなきゃ」。肇「なんでオレの人生邪魔されなきゃいけないんだ！山形帰ってくれ」と，アパートを飛び出して行った。祐は安奈に「行ってあげてくれるかな」。安奈は，肇を後ろから抱き締めた。肇の気持ちはわかる。がんばっていい医者になるのが祐への恩返しだから。肇「結局オレは，自分が大事なんだ」。安奈が「みんなそうだよ」と言うと，肇「兄ちゃんは違う」。安奈「そうだね・・・人との出会いって，自分の力じゃどうしようもないのに人生変えちゃったりするからね。私は肇ちゃんと出会えてよかったよ」。萌奈美は，病室でレシピ集を作りながらも，頭痛に悩まされる。なんとか持ちこたえながら，必死でレシピ集を作り続ける。そして，公衆電話から祐に連絡を取る。やっぱり悩みながらも，電話には出ない祐。萌奈美が病室に戻ると，航一が。琴音に電話をしようとしたけれど，時間が遅いからやめたとウソをついた。航一が「手術は不安か？」と尋ねると，萌奈美は「あなたを信じてるから。終わったら，私たちのこれからのこと，ちゃんと話しあいたいと思ってます」ときっぱり伝える。肇が起きだして風邪薬を探していると，祐がしょうが湯を作った。昔からそうだった。２人で思い出を語り合う。大学受験の前に高熱を出した肇。そんな肇をおぶって，東京に出てきて走り回った祐。大学合格の知らせを受け，嬉しかったという祐。祐「わりぃな。足引っ張るようなことを」。肇には立派な医者になってほしい。邪魔するようなことはしたくないけれど，翌日航一に会って直接確かめると言う。「萌奈美さんのこと，ほうっておけないんだ。ごめん」と頭を下げた。そのことについては何も言わず，肇は「ありがと。おやすみ」と自分の部屋に戻った。 　章子は，航一に萌奈美のウソについて話をしていた。萌奈美のことは，回復するまでに考えないといけないと。離婚は体裁が悪いが，出ていってもらおうかと。もちろん，琴音のことは石川家に置いていく条件で。すると航一は「手術さえ終われば」と言う。その言葉を不思議がる章子。肇は，同僚に「要領よくやらないとバカ見るぞ」と言われる。また，安奈は，病院の屋上で偶然萌奈美と出会った。萌奈美は，祐と連絡が取れないと伝える。安奈は，一生けん命バイトしているから，仕事中は電話に出れないんだろうと話す。萌奈美「厚かましいお願いをしてもいい？もしも私に何かあったら，いろいろありがとうございましたと，祐さんに伝えてほしい。感謝していると」。 　祐は航一を訪ねて行った。治せると言ったのはウソなのかと問い詰める。航一は，それはウソではなく，命を救う自信はあると。それを信じるかどうか。祐は，自分の思い通りにするなんて許されることじゃないと。航一「君の存在がすべて不幸にしているんだ」と，肇にも影響があるとはっきり言った。祐「弟は関係ありません」。すると，航一はカッターを持ち出し，壁にかかっていた絵を切り裂く。それを放り投げ，祐が突然暴れ出したということにして，警備員に祐を連れださせた。祐「萌奈美さんが思う通りに生きてほしいだけです。でもあなたは違う・・・萌奈美さんの命は，あなたのものじゃない！」。萌奈美は看護師から，院長室に不審な男が来て暴れたと言う話を聞いた。その男が祐ではないかと思った萌奈美は病院内を探しまわった。今度は見つけられなかった。祐は，仕事を休む連絡をした。肇は，病院で完全に孤立していた。そんな肇に航一は，祐が乗り込んできたことを伝え「入れ知恵したのは君か。医療の世界は狭い。すぐに他で働けるほど，甘いもんじゃない」と脅迫する。 　安奈は，偶然ゴミ箱から，祐が萌奈美に宛てて書いた手紙を見つけた。また琴音は，萌奈美に手作りのお守りを届けると，一生懸命作っていた。萌奈美も，琴音のためにレシピ集を作り続けていた。航一は，脳の模型をもとに手術をイメージしていた。安奈は，帰ってきた肇に，祐の手紙を見せた。＜あなたがこれを読むころ，オレは山形にいると思います。あなたの力になりたいと言いながら，結局何もできずにすみません。でも，これを読んでいるあなたは元気ですよね。それなら，オレは何も言うことありません。誰のものでもない，あなたの人生を生きてください。オレは，それだけを願ってます＞。安奈は，屋上で託された萌奈美の言葉を肇に伝える。肇は，考えた挙句「オレに，間違ってないって言ってくれる？」と安奈に。安奈「肇ちゃんは，間違ってないよ」。肇は「サンキュー」と出て行った。 　祐は，警備員に追い出されながらも，土下座をして入れてもらおうとしていた。もちろん，入れてもらえるわけがない。それでもあきらめきれず，少し離れた柱の陰から，警備員の様子を観察し続ける祐。そこへ肇がやってきた。「部外者は入れないんだよ。これがないと」と自分の身分証を見せる。祐は心配するが，肇は「患者のこと考えるのが立派な医者」と，青いマフラーを祐にかける。肇の身分証を使って，２人で病院内へ。病室近くまで来ると，裏にタクシー呼んで待たせておくと言って去ろうとするう肇に，祐はマフラーを返し「ありがと」。祐は，萌奈美の病室へ行き，「大事な話があるんです」。手術の危険性を萌奈美に伝えた。萌奈美は，今までの航一の信じられない部分を思い出していた。萌奈美は「ホントだと思います」と意思を決めた。祐は，萌奈美の手を取り，「ここを出ましょう。今すぐに」。２人で病室を出，廊下を進んでいくと，航一に見つかってしまう。逃げずに対峙する萌奈美。萌奈美が航一ではなく祐を信じると言うと，驚く航一。萌奈美「私がなぜ自分の命をあきらめてまで手術を受けないことを選んだのかわかりますか。琴音を忘れたくないからです」。萌奈美にとって，一番大事なことは母親でいること。航一はその一番大切なことを勝手に奪い去ろうとした。幸せな家庭を作ることが夢だったが，航一は，最後まで心で向かい合おうとしなかった。何一つわかってくれようとしなかった。萌奈美「最後は私は私でありたいんです」。２人で病院を出ていき，肇が呼んでおいてくれたタクシーに乗り込む。そんな２人を，お守りを届けに来た琴音が目撃してしまう。それに気付かず，タクシーで去っていく２人。琴音「ママ，なんで・・・」。

第５話 　肇のアパートに，祐が啓翁桜を持ってやってきた。一方，萌奈美は，琴音のアルバムを見ていた。その時，航一が帰ってきて，なぜ再検査に来なかったのかと問い詰める。萌奈美は「もう受けてるんです」と結果を伝える。航一が「なぜだ」と言うと，萌奈美は自分の体のことではなく，他の病院で検査を受けたことが気になるのかと。そして，手術を受ける気持ちはなく，再検査を受けた大学病院で治療をすると宣言する。限界まで入院はしないつもりなので，琴音には話をしないでほしい。航一は，思い通りにならず激怒する。萌奈美「私の人生は，あなたのものではない。最後ぐらいは後悔したくはない」。 　祐は，肇と安奈に航一と会ったことを話す。病院でのイメージとの違いに驚く二人。祐は，航一に会って，萌奈美が記憶が戻るのを恐れていたり，1人旅をしたりした理由がわかったような気がすると言った。萌奈美が手術を受けないという決断をしたことは，祐にもつらいんじゃないかと言われると，祐は「萌奈美さんが決めたことだから。思う通りに生きてほしい。そのためにできることだけ考える」という。安奈「これだけ思ってくれる人がいるのは幸せなこと」。 　夜中，1人考えていた航一は，何やらいい考えが浮かんだようだった。朝になると，人が変わったように話す。山形での検査結果を見て，「手術は難しいとは感じなかった。僕が手術すれば成功する可能性が高い。記憶無くす可能性も高くない。萌奈美を失いたくない」と萌奈美に再検査を懇願する。答えを出せない萌奈美。祐が，肇のアパートで情報誌を頼りにアルバイト探しをしていると，突然航一がやってきた。そして，航一が手術すれば治せる自信がある。しかし，それほど手術をして助けようとは思ってない。「君のような男とこそこそ会って，家族を裏切る母親は，娘のためにならない」。航一にとって大事なのは娘だけだった。娘を母のない子にするのは忍びないから，萌奈美のことを記憶から抹消することを約束するなら，手術をして萌奈美を助けると言いだす。「命を握っているのは君のモラルなんだよ」。萌奈美は，石川病院で検査を受けた。祐は1人考える。病院では，肇にも声をかける航一。「つまらんことに足を引っ張られないように，気をつけろよ」。 　萌奈美は理恵に会い，病気のことを告げる。航一がいるから安心だろうと言われるが，「病気と向き合うのは自分だから，夫あてにしてもね」と言う。そんな萌奈美を見て，理恵は「強くなった気がする」。祐は，居酒屋でアルバイトを始めた。皿を洗いながらも，萌奈美のことを考えていた。石川家では，琴音が美大に行きたいけれど，医者にならなければいけなんだろうと萌奈美に言う。萌奈美は，好きな道に進めばいいと。航一は，検査結果を1人で検討していた。祐が家に帰ると，肇は院長にはじめて声をかけられたと心配している。安奈はビビり過ぎだと言うが，祐は「ごめんな。オレのせいで」。肇「謝るなら東京なんかに来るな！」といらだつ。肇は，頭を冷やしに出て行ってしまう。安奈は，肇は祐のためにもいい医者になるとがんばっていると話す。祐は，わかってはいるが，何かせずにはいられないと。安奈は，それでいい，祐の存在が萌奈美には大きいだろうと祐を励ます。 　航一は，検査結果から自分が手術すれば治すことが可能だと告げる。それでも迷う萌奈美。記憶をなくす可能性が0ではないことが不安だった。すると，航一は「あの男のことか」と。「琴音のことです！」と萌奈美。航一は，琴音のためにも手術してほしいと話し，2〜3日中には入院できるよう準備するようにと。大学病院へ行く萌奈美。航一に言われたことを担当医に伝える。航一なら第一人者で，難しい手術ではあるが，成功する可能性はあるということは否定できない。航一に任せるのが一番いい選択だと言う。祐は，航一に言われたことをずっと考えていた。そこへ萌奈美から電話が。 　東京タワー展望台。祐と萌奈美がやって来ていた。萌奈美は，東京に出てきてから，日々の生活の追われているうちに，あっという間にここまで来てしまったと。東京タワーにも今まで上ることもなく，一度は来てみたいと思っていた。そして，航一が手術すれば記憶を無くさずに手術が成功する可能性が高いと言われたことを伝えた。「生きられるものならば生きたい。でも，記憶を失うリスクも0じゃない。迷ってるんです」。祐「迷って当たり前です」。萌奈美「祐さんがいてくれるだけで，心強いです」。今日，祐に会ったことで，心残りが1つ減った。東京タワーに上って，祐との思い出ができた。萌奈美「自分の生きてきたこの世界がいとおしい」。公園で大道芸を見て，2人で笑う。そんな何でもない毎日が続いていくものだと思っていたが，それは違うということに気付いたという萌奈美。祐は，萌奈美の手を取り，しっかりと握った。しかし，その手の力が抜け，萌奈美が倒れてしまった。 　救急車で病院に運ばれた萌奈美。祐が付き添っていたが，やっと気付くと，「そろそろ限界なのかも」と。そこへ，琴音がやってきた。そっと病室を出る祐。その祐を追いかけてきた琴音。萌奈美は，琴音に救急車を呼んで付き添ってくれた人と説明していた。琴音は，祐に礼を言って，また萌奈美のもとへ戻って行った。祐は，結局バイトに遅刻してしまい，注意を受けてしまう。家に戻った萌奈美と琴音。今夜は琴音が夕飯を作るという。「元気でいてもらわないと困るよ。まだカレーしか作れないんだから」と。 　航一は理恵と会っていた。理恵は，航一と一緒になる日が来るのは楽しみだけれど，萌奈美の強さは支えてくれる人がいるからかもしれないと。そして，「彼にあなたは勝てない気がする」。その言葉に激怒した航一は，理恵の首を締め始める。じりじりと。航一「手術さえしてしまえば・・・」。ギリギリのところで手を離した。萌奈美は，琴音が料理できるようにレシピを作ろうかなと。理由を知らない琴音は，素直に喜ぶ。 　遅く帰ってきた肇に，夜食を作る祐。肇は，自分がぐれなかったのは，祐が作ってくれた金メダルと茶色い弁当のおかげだと。医者になれたのも祐のおかげ。祐は肇に「院長の腕はすごいのか」と尋ねる。肇によると，全国から患者が集まってくるほどだという。肇「兄ちゃんは，あの人のために十分がんばったと思う。でも命は救えない。今度は，兄ちゃんが幸せになること考えてくれ。今度はオレが金メダル作ってやる」。航一は，まだ手術を迷ってる萌奈美に自分のことを最優先に考えろと。「僕を信じてくれ」。 　祐は，萌奈美に電話をかけた。「少しだけ会えますか。大事な話があるんです」。海辺の公園で会う2人。祐は「手術受けた方がいいと思います。成功する確率高いなら。娘さんのためにも，生きなけりゃいけない人だから」。萌奈美「私もそうすべきかなと考えていました。祐さんに言ってもらって，吹っ切れました。手術を受けます」。祐「大丈夫です。きっと成功します」。萌奈美は，今でも丘の景色を思い出すという。祐が「大丈夫です」と言ってくれたことで気持ちが楽になったと。「記憶がなくならなかったら，いつかあのサクラが咲く姿を見てみたい。祐さんと一緒に」。祐「見ましょう，一緒に」。去っていく萌奈美の後姿を見送る祐。 　そして，祐は，石川病院に航一を訪ねて行った。祐「萌奈美さんを助けてください。お願いします」。航一「私との約束は？」。祐「萌奈美さんには，もう二度と会いません」。 　航一は，大学病院の萌奈美の担当医と電話で話していた。担当医が「おつらいでしょう」と言うと，「生きていてほしいんです。たとえ記憶を失っても」と航一。

第４話 　うずくまる萌奈美を，後ろから見ていた航一が「どうしたんだ」というと，萌奈美は「なんでもありません」と真実を伝えない。萌奈美は，残りの人生は自分自身の手で選び取ることを決心していた。祐のもとに，肇から電話が。祐は，萌奈美と会ったことを伝える。今東京にいることが分かると，安奈はウソをついてまで鍋に誘って，肇の家に招いた。安奈は「会って話を聞いた方がいい」と。章子は，萌奈美に何か言いたげだったが，何も言わずに帰って行った。章子を見送りながら，萌奈美は，琴音と一緒に空を見るだけでも幸せだと。肇の家で鍋を食べながら，肇は萌奈美の病気のことを伝える。肇は「兄ちゃんにできることはない」と言うが，安奈は「一緒に苦しんでくれるだけでいい」と。すると肇は「だったら好きとちゃんと言え」。祐「何かオレにできること，あると思うんだ」。 　祐は，次の納品が終わったら仕事を辞めると宣言。伯母は心配しているが，伯父は「あいつの人生だから」と送り出すつもりでいる。一方，萌奈美は，再検査した病院で手術をする決心がまだつかないという。医者は，時間はないし，「あなた一人の命ではないのですから」と。萌奈美は，理恵から料理教室のイベントで啓翁桜を飾りたいので，土曜日に山形へ一緒に行ってほしいと言われる。今の萌奈美が窮屈そうに見え，好きなように生きた方がいいとアドバイスも。しかし，萌奈美は，山形行きを断る。萌奈美が帰った後，理恵は，山形行きを断られたから「山形の男，本気かも」と，航一に電話で伝える。祐は，中里に東京で暮らす決心をしたことを話す。心配する中里。祐は，萌奈美は１人で不安を抱えていても，きっと家族の前では笑っている。「何かできると思いたいんだ」。 　珍しく早く家に帰ってきた航一。航一は，理恵は病院として大事なパートナーだから，一緒に山形に行ってほしいという。院長夫人として付き合いも必要。「行けない理由でもあるのか？よろしく頼むよ」と頭を下げる。祐が新しいガラスの鳥を完成させる。萌奈美は，デジカメでガラスの鳥とサクラを見ている。そんな萌奈美を，じっと見つめている航一。　章子は，萌奈美に，山形に行ってから変だという。石川家の嫁として，家と病院のことを第一に考えなければいけない。「じゃなきゃ，この家にいる意味ない」。 　萌奈美と理恵は山形にいくため，新幹線に乗り込む。しかし，理恵に電話が。新幹線が発車しても理恵は戻ってこない。すると萌奈美に電話があり，仕事のトラブルでいけなくなったから，１人で行ってほしいと。ホームで不敵な笑みを浮かべながら，新幹線を見送る理恵。肇と安奈は，祐を迎え入れる準備をしていた。東京に出てくると言う祐に一緒に住もうと提案していた。祐も家を出る準備を進めていた。そして，千尋のところへ，啓翁桜をもらいに行く。千尋にも東京にいくことを告げる。萌奈美は，バスを降りて一旦は行こうとしていたが，引き返す決心をした。そこで祐と偶然出会ってしまう。何も言わず立ち去ろうとすると，なぜかそこには航一の姿が。困惑する萌奈美をよそに，航一は「稲葉祐さんに挨拶しないでいいのか。お世話になったんだろう」と萌奈美に言うと，祐に挨拶する。萌奈美は，祐のことは一切口にしていなかったので，さらに困惑する。航一は気にせず，夕飯に祐を誘う。 　その夜，レストランで，萌奈美は航一になぜ知っているのか尋ねるが，全く相手にしない。そこへ祐がやってきた。慣れない場所で，緊張しきっている祐に，余裕の表情を見せる航一。祐は，萌奈美を泊めることになったいきさつを話す。ただし，みんなでじゃんけんして決めたとウソをつく。航一は，祐の父親について尋ねる。一瞬答えに困るが，正直に話す祐。航一の隣で，萌奈美が頭を押さえつらそうにしている。それを気にする祐。全く気付かない航一。航一は，祐に，住んでる世界が違うこと，二度とは会わないだろうということを，婉曲ながらはっきりと話す。その時，萌奈美が倒れた。慌てる航一。そして祐には「もう用はない。君にできることはない！帰れ！！」と怒鳴って追い返す。石川家では，章子が琴音に，最近の萌奈美の様子をたずねている。そこへ，萌奈美が倒れたという電話連絡が入る。航一は，貧血で倒れたと伝えた。運び込まれた病院で，航一は萌奈美の病気のことを知る。病院の外から，心配げに見ていた祐。それに気付いた航一は，祐のもとへ。祐を問い詰める航一。航一は「金が欲しいのか」と，祐にお札を投げつける。祐「金なんかいりません」。航一「二度と現れるな」。祐は，投げつけられたお金を拾い，航一に手渡す。「受け取れませんから」。 　萌奈美が気がついた。航一は「話があるって，再検査のことだったんだな」と。自分の病院で再検査すると。検査結果から，治療の仕方を決めるという。そして，祐にはお金を渡して帰らせたと。それでもしつこいようなら警察を呼ぶという。そして，ホテルに帰るときには，萌奈美の携帯を持って行ってしまう。航一「君は僕の言う通りにすればいいんだ」。夜勤の肇のところへ，祐から電話が。祐「自分がどうしようもなく無力に感じるとき，どうしたらいい？」。研修医の肇は，そう感じることが多いが，「ありがとう」と言ってくれた患者さんの笑顔を思い出し，「こんなオレでもいないよりまし」「ちょっとは誰かの助けになってる」と思うようにすると。肇は，祐が弱音を吐くのを初めて聞いた。「オレは，兄ちゃんが苦しむのイヤだ」。 　萌奈美は，祐に連絡を取ろうにも電話番号がわからない。番号案内に聞いても登録されておらず，記憶をたどっても思い出せない。あきらめて病室に戻ろうとすると，ナースステーションのカウンターにあのガラスの鳥を見つける。たった今，男性がここに置かせてほしいと置いて行ったという。慌てて病院内を探す萌奈美。やっと玄関を出たところで祐を見つけた。駆けよる萌奈美。ガラスの鳥を見つけたというと，祐は萌奈美のために作ったと。萌奈美「夫がすみませんでした」。祐「大丈夫ですよ」。萌奈美は自分の気持ちを祐に話す。検査を受けることになれば手術を受けることになる。記憶を無くしてしまうかもしれない。しかし，手術を受けなければ・・・。自分で答えを出そうと考え続けたけれど，答えが出せなかった。「恐いんです。この世から消えてしまうことも。すべてを忘れてしまうことも」。祐は，萌奈美の手を取り握り締め，「たったひとつ，この世にたった一つ大切にしたいものがあるとしたら，その大切なもののために生きたいとオレは思います。萌奈美さんもそうじゃないですか。だからオレ，東京に行こうと思ってます。一生に一回ぐらい東京で暮したかったし。オレ，しゃべるのは下手だけど，聞き上手って言われるし。泣きたいときは，オレが引き受けますから」。萌奈美「ありがとう」。 　伯父・伯母・中里に見送られて，家を出ていく祐。萌奈美は，航一の病院に検査に行かなかった。残りの人生を自分自身の手で選び取ることを決心していた。再検査した病院には，手術は受けないと宣言した。忘れたくないものを忘れてはいけない。大切なもののために自分は生きたいと。＜最後に羽ばたく勇気をあなたが与えてくれたから＞。

第３話 　航一に「どこにいってた」と追及された萌奈美は，コンビニに行っていたとごまかした。そして，萌奈美は意を決して，キッチンのごみ箱に，祐の携帯番号をメモした栞を捨てた。航一は早朝，萌奈美の財布の中をあさった。さらにデジカメの中の写真もチェック。その中にあったガラスの鳥とサクラの写真の日付が前日であることに疑惑を抱く。祐が家に帰ると，あの桜がすべて散っていた。翌日，やけに張り切って仕事に取り組む祐。肇にバスターミナルでのことを聞いた安奈は，祐のことを気にしていた。萌奈美が駆けつけたことを知らない祐。 　朝食もとらず出ていく航一。萌奈美の話を聞こうともしなかった。肇が家に忘れた携帯に祐から電話が。安奈が電話に出る。そして，萌奈美がバスターミナルにやってきたことを伝えてしまう。そのあとは，仕事に集中できなくなる祐。萌奈美は，航一の病院に行くも，そのまま帰ってしまう。その姿に肇も気付く。そして，同僚から院長の妻だと教えられ驚く。萌奈美は別の病院へ行き，検査をした。一方，航一は萌奈美が山形の病院には入院していないことを知る。荒れる航一の姿を見て，理恵は楽しそうにしている。 　祐は中里に話をする。中里は「どうしたいわけ」と祐に尋ねる。祐は，自分でもわからないが，放っておけないと。中里は，子どもの頃の”ウサギの花子”の話をする。病気のウサギを看病するため，ずっとそばについていた祐自身が倒れてしまった。あの時は「すげーと思った」。そして，中里「あの人のこと忘れろ。それしか言えない。でもどうにもなんねぇなら，お前がくたびれてぼろ雑巾みたいになったら，抱きしめてやるよ」と。萌奈美は検査結果をたった一人で聞いた。悪性の脳腫瘍。手術も難しい。すべて取り除くことは無理で，手術することで記憶を無くしてしまう可能性がある。家族のことも忘れてしまうかもしれない。治療自体は一刻を争う。もし手術しなければ，残された時間は最悪数カ月・・・。 　安奈は，肇に祐に話してしまったことを告げる。安奈は，萌奈美を必死で背筋を伸ばして生きてる感じの人と思い，そんな人がどんな気持ちでやってきたのかと。肇は，祐が傷つくのが嫌なだけだった。祐は，秘密の場所にやって来ていた。サクラの木に向かって，「オレどうしたいんだろう」と語りかける。検査結果を知った萌奈美は，街中で呆然としていた。琴音のことをずっと考えていた。航一は，イライラしながら，萌奈美が山形でどこにいたのか調べるように依頼していた。祐は，慌てて洗濯ものをとりこんだとき，誤ってあのガラスの鳥を壊してしまった。それを見て，はっと何かに気付いたように，「萌奈美さん」とつぶやく。 　萌奈美と琴音は，仲良く料理をしている。琴音「結婚するときは，いっぱい料理を教えてね」と言うが，その言葉も今の萌奈美にはつらい。祐のもとへ，肇から電話が。飲んでるふりしてテンションをあげて話す肇。萌奈美の夫が，院長であることを祐に教える。完璧な人だから心配する必要はないし，病院にも来ていたから検査もしたはずだと。すると祐は，肇に，萌奈美の検査結果を調べてほしいとお願いする。肇は「あの人のことは忘れろ」と電話を切ってしまう。祐は，割れてしまった鳥の羽を手に，１人心配していた。 　夜遅く帰宅する航一。萌奈美が話をしようとしても，どなるだけで相手にしてくれない。それなのに，突然口調も変わり，「今度一緒に山形に行こう。冬に咲くサクラが見てみたい」と言い出す。夜中，航一は，何かあるはずだとキッチンのあちこちを探しまわっていた。ゴミ箱の中もあさった。そして，あの栞を見つけてしまう。翌朝，何も言わず出かけてしまう航一。仕事中，祐の携帯に電話が。表示を見ると公衆電話からだった。電話に出るが何も言わない。祐が「萌奈美さんですか」と言うと，切れてしまう。実は，航一がかけてきたのだった。話を聞いてもらえない萌奈美は，航一にメールで話があるから今夜待っていると伝える。さっきの電話が気になった祐が萌奈美のところへ電話をかけるが，話し中だった。 　萌奈美は理恵のマンションへ。次の講習の試食ということだった。理恵は，萌奈美から何かを聞きだそうとしているよう。萌奈美は，手がしびれコップを落としてしまう。濡れてしまったので，バスルームへタオルを借りに行くと，そこには男性もののバスローブが。肇が仕事の合間に携帯を見ると，祐から大量のメールが届いていた。肇は，祐に電話をかけた。どうしても萌奈美の検査結果を調べてほしいという。実は肇も気になり，調べてみたが，検査をして形跡がなかった。それを聞いた祐は，バスの時刻を確認するが，すでに最終バスが出ていた。いてもたってもいられず，祐は軽トラックを発進させた。そのころ萌奈美は，琴音のアルバムを見ながら，航一の帰りを待っていた。夜中になっても航一は帰らず。電話をかけてみるが，出ない。航一は，理恵と一緒だった。理恵は，萌奈美の大事な話は「別れ話だったりして」と翻弄する。その時，調査結果が伝えられ，祐の家にいたことが航一にわかってしまった。１人待ち続ける萌奈美は，デジカメのサクラとガラスの鳥の写真を見ていた。 　ソファで１人朝を迎えた萌奈美。航一は帰ってこなかった。夜通し車を走らせた祐は，萌奈美に電話をかけた。東京に来ていることが分かると，萌奈美は「私，いってもいいですか」。祐「はい」。病院で理恵と打ち合わせをした章子は，萌奈美のことを「役に立たない」と。理恵は「彼女心配ですよね」と。悩んでる感じで，それは山形に行ってからだと。萌奈美は祐のもとへ。航一は，調査報告書の祐の写真を見ていたが，祐の目をペンで刺す・・・。 　萌奈美は，子どもの頃家族でドライブが夢だったという。子供のころ両親が離婚し，母親が一人で育ててくれた。忙しくしている母にドライブを連れて行ってほしいとは言えなかった。その母も，５年前に亡くなっていた。幸せな家庭を作ろうと思い，家族でドライブをしようと思ったが，娘は車に弱くドライブに行きたがらないと笑顔で話す。祐「少しドライブしませんか」。２人で東京湾岸へ出かけた。萌奈美は，祐に再検査の結果を伝える。家族にも伝えてないと。夫の病院ではなく，別の病院で検査したということも。萌奈美は，１人じゃ抱えきれず，夫に話そうとしたが，まだ話せない。話せば手術を勧められるはずだと。結局答えが出せずにいるという。萌奈美は，こんな話を聞かせても困るだろうと。祐は「聞かせてください。オレでよければ」と言うが，萌奈美「聞いてもらってよかった。ホントに感謝してます。だからもう大丈夫です。もう大丈夫ですから。稲葉祐に会えてホントによかったです。今までホントにありがとうございました」と頭を下げる。日が暮れて，握手をして別れる二人。祐は名前を呼ぶが，振り返らない萌奈美。泣きながら歩いていた萌奈美は，しばらくして振り返る。しかし，もう祐の姿が見えなかった。そして前を向くと・・・そこには航一の姿が。萌奈美を見つめていたが，何も言わず言ってしまう。萌奈美が家に帰ると，章子が家に来ており，夕飯の用意もしていた。 　夜の街，１人考える祐。部屋の前，１人頭痛に苦しむ萌奈美。そんな萌奈美を，何も言わず見ているだけの航一。

第２話 　萌奈美の検査をした病院で結果を聞く祐。萌奈美の脳には腫瘍があり，頭痛や記憶喪失もその腫瘍が原因かもしれない。手のしびれや視界が狭まるなどの症状が出ると，日常生活に支障があるどころか，最悪の場合命にかかわる。その萌奈美は，元いた場所に戻ったと，日常生活を送っていた。１人旅は，息抜きのつもりだったと明るく報告するが，食事をしていた航一は，突然表情が変わりテーブルを叩きつけた。しかし，何事もなかったかのように笑顔で「卵，ちょっと焼き過ぎだね」。萌奈美は，いるべき場所はここだと信じようとしていた。祐は，ガラス工房に１日休みを取ると伝えた。行かなければいけない所があると。 　萌奈美は，理恵の料理教室に来ていたが，手がしびれ鍋を落としてしまう。料理教室の後，理恵とお茶をしながらおしゃべりをする。息が詰まって１人旅に出たという萌奈美。理恵は幸せに見える家庭なのにと不思議がるが，萌奈美は，航一は何を考えてるか分からないときがあると。萌奈美の様子を見て，理恵は「山形で何かあった？」と気付く。萌奈美は何もなかったという。理恵は，何かあったら何でも相談してほしいと言った。病院での航一は，やさしい院長だった。周りから見ると非の打ちどころがない人物。 　祐は，中里のところへ行った。萌奈美の連絡先を教えてほしいと言うが，中里は電話だけでいいだろうと。祐は，ちゃんと会って話した方がいいと思っていた。一見幸せそうな石川家の食卓。しかし，航一の目つきは怖い。そこへ中里から電話がかかってきた。途中，祐と代わる。誰からの電話か怪しむ航一。祐が「会って話したいことがある」と言うが，萌奈美は「お世話になりました」と航一に気付かれないよう電話を切ってしまう。中里は，自分が代わりに伝えると言うが，祐は萌奈美が言っていた言葉，過去の断片を思い出すと息苦しさがあるというのを思い出し，どうしても行きたいと。会って病気のことを伝えるだけだからと，電話番号と住所を教えてもらった。中里「深入りしても，いいことなんかないんだぞ」。キッチンの萌奈美を恐い目で見つめる航一。航一は「山形で世話になった人に，礼をした方がいいんじゃないか。もう会うこともないんだし」と。萌奈美は，何か送っておくと答えた。 　夜行バスで東京へ向かった祐は，肇のアパートを訪れた。伝えなければいけないことがあるという祐に，肇は「ストーカーじゃあるまいし，会いに行くな」とくぎを刺す。肇が病院に行ってしまうと，安奈「会いたいんですよね」。祐「会わないといけないんです」。安奈は祐を手伝うことにした。萌奈美は，章子の呼びだしで車で出かけた。その留守中，安奈が家を訪ねてきた。祐は，近くの公園で１人待っていた。安奈が戻ってきて，留守だったと伝える。萌奈美は，運転中に頭痛に見舞われ，視野もせまくなってしまった。危うく前の車にぶつかりそうになる。公園では，祐が勘違いしている安奈に「伝えなきゃならないのは，そういうことじゃないんだ」と。近くでは空の写真を撮る女性がいた。その姿を見て，萌奈美を思い出し，「どんな気持ちで空撮ってたのかなぁ」。 　萌奈美は，章子を病院に連れて来ていた。そこには理恵が，章子と病院の食堂について打ち合わせをするために来ていた。萌奈美の紹介で理恵は栄養士として，この病院で働くことになっていた。章子は，萌奈美に居眠り運転をされると困るから，帰りはタクシーで帰ると伝える。本当のことを伝えられない萌奈美。肇は，病院で萌奈美に似ている女性後姿を見ていたが，まさか萌奈美本人とは思ってもみなかった。萌奈美は，自分の異変に気付き不安になっていた。しかも，航一に頼まれ車を洗車すると，座席からイヤリングが出てきたが，自分のものではなかった。 　もう一度，安奈が石川家を訪ねた。萌奈美が，ちょうど頭痛に苦しんでいるときに安奈がやってきた。安奈は，変な人につけられていると萌奈美を誘導して，公園まで連れてきた。祐の姿を見て戻ろうとする萌奈美。追いかける祐。萌奈美は「困るんです。こういうの。あの時の私は記憶がなかったんです。忘れてもらえませんか」と言う。祐は「どうしても伝えなくてはいけないことがあって。それだけ聞いてください」と，検査結果のことを伝える。萌奈美が置いて行った荷物を手渡し，一旦その場でわかれるが，すぐ呼びとめ，「きっと大丈夫です。大丈夫ですから」と萌奈美に言った。祐は，公園からの帰り道，「オレの役目はこれで終わりだ。終わったんだ」と。萌奈美は家に帰ると，最近の体の異変と祐の言葉を思い出していた。そして，航一のもとには，萌奈美に関する調査報告書が届いていた。女のウソは男のウソより根深いことがあるという言葉に，さらに疑惑を抱く航一。 　萌奈美は，病院に戻り，航一を訪ねるが，重要なオペが続いているからと面会を拒否される。しかし，航一が外に出ていくのを目撃してしまう。駆けよるが，すぐにタクシーに乗って去ってしまった。家に帰ると，琴音は友達の家で夕飯を食べるという留守電メッセージが。家には誰もいない。理恵に相談しようと電話をかけるが，留守電。誰も頼れず，不安になる。また頭痛にも襲われる。気を紛らすため，デジカメの映像を見る。そこに，祐のガラスの鳥を見つけ出す。あの啓翁桜も。同じころ，バスを待つ祐も啓翁桜の写真を見ていた。 　安奈は肇に今日のことを報告した。祐が夜行バスで帰ると聞くと，肇は駆け出し，祐のもとへ。肇が祐のところに来たころ，祐の携帯が鳴った。萌奈美からだった。何か様子が変。祐が「１０時のバスで帰るから何かあったなら・・・」と言ったところで萌奈美は電話を切ってしまった。祐は，萌奈美の病気のことを肇に教えた。肇「兄ちゃんの出る幕じゃねぇよ」。祐「でも，電話してきたんだ」。肇「冷静になれよ」。祐「なれるかよ。オレはただ・・・わかってるよ。来ない方がいいってことぐらい。オレがいなくても大丈夫ってわかってるから。彼女が大丈夫ってことだから」。肇「もし来たら？・・・これ以上言っても無駄か。好きにしろよ。だけど俺は反対だ。もうなんか背負い込んで苦しむ兄ちゃん見たくない」。電話を切った萌奈美が時計を見ると，９時１０分。迷っているうちに，刻々と時間は過ぎていく。９時３０分。家を飛び出す萌奈美。タクシーに乗り込む。バス停にバスがやってくる。ギリギリまで乗り込まない祐。タクシーが止まり，走りだす萌奈美。バスに乗り込む時，振り向く祐。萌奈美がバス停に到着するが・・・バスは走りだした後だった。バスの中で，祐は持っていた啓翁桜の写真を見つめていたが，それを破った。呆然とバスを見送る萌奈美の姿を，離れたところで見ている肇。マンションの一室で，航一に，萌奈美は山形でいいことあったんじゃないかと伝えていた女性は・・・理恵だった。萌奈美が家に帰ると，航一の姿が。「どこに行ってたんだ」。

第１話 　街中で偶然見かけた女性。祐は，なぜかその人に惹かれてしまう。その女性は，冬に咲く桜を見にやって来ていた。しかし，栽培農家にいくもまだ開花してはいなかった。その女性は，バイクのひったくりに遭ってしまう。その際，塀に頭を強打。その様子を偶然見かけた祐。祐「大丈夫ですか？・・・大丈夫ですよ」と微笑みかける。診療所へ連れて行くが，何もしゃべらず，バッグをひったくられたため身元を証明するものもなかった。駐在所の中里に頼まれ，祐はその女性を家に連れていくことになった。彼女の持ち物はデジカメだけ。そこに映っているのは，空の写真がほとんど。何かわかるかと女性は写真をチェックし続けた。すると突然鳴りだした風鈴の音にびっくりする。祐の母・百合が祐を呼ぶために鳴らしていた。百合は認知症でほとんど寝たきり状態。祐一人が面倒を見ていた。居間に戻ってきた託すに，女性は，自分は記憶がないことを告白する。女性がチェックした写真の中にサクラを見つけた。祐は”啓翁桜”という桜で，雑誌でも紹介されているからそれを見に来たのではないかという。祐が作ったガラスの鳥を見ると，何か引っかかる女性。 　中里は，祐の幼なじみ。家に来たついでに，女性に祐のことを話す。百合は，恋多き女性で有名だった。恋が始まると家を出ていき，恋が終わると戻ってくる。祐は，年の離れた弟・肇の面倒を見て，肇が独り立ちすると，今度は百合の面倒を見ている。祐は苦労していると。その祐自身は，自分の母親だからできる限りのことはしたいと言っている。兄弟そろって，自分の父親のことは知らずに育った。それでも祐は，自分のことを忘れても生きてさえいてくれれば，と懸命に介護をしていた。 　女性の記憶喪失を調べるため大きな病院へ連れて行く。日常の常識は覚えているけれど，自分に関することだけを忘れている状態。詳しい検査結果は後日わかる。女性は，白衣を見ると何か反応し，不安な気持ちになった。病院の帰り道，祐は女性をある場所に連れていく。雪原の中の大きな一本の木。祐の秘密の場所。その木は桜。祐が幼いころ，この場所を見つけたときも冬。その木は枯れてしまったと思っていたが，春になると満開の桜が咲いていた。「冬の間寒さに耐えて，咲く日を待っていたんだな」と思った祐。泣きたくなるとここにきて，この木を見て「大丈夫」と言うとその木になることができた。今でも時々この場所に来ている。祐「ここに誰かを連れてきたのは初めて」。女性は，家事を少しずつ手伝うようになった。 　とある家。少女が母の帰りを待っていた。その家には，カナリアが。 　女性が，百合のそばで，世話をしていた。女性は，百合に話しかけていた。最初は自分のことが分からない不安があったが，今は逆に思い出す方が怖いと。その時，百合の容体が急変した。心機能が低下していた。祐は，百合のそばにいるときは，いつもしっかり手を握っていた。今回も。それは，５歳ごろ大泣きした時に手を握ってくれて「大丈夫。ここにいるから」と言ってくれた。それで安心した思い出がある。たった一度きりの思い出だったが。祐は，ずっと一晩百合の手を握り続けた。朝になり，百合が目を覚まし「祐」と呼びかけてきた。そして，祐の手を自分から握り，「ありがとね。ごめんね」と言葉をかける。祐のことをなでながら，その言葉を繰り返す。涙が止まらない祐。しかし，祐をなでる百合の手の力が抜けていき，目を閉じた・・・。 　東京の病院。肇と安奈が話をしていると，肇の携帯が鳴った。祐からの連絡だった。 　とある家。連絡もなく戻らない妻を心配する男性。娘は捜索願を出そうと言うが，その母は，捜索願を出すと病院にも色々と影響が出てくるので，もう少し待ってからと止める。 　百合の通夜の時に肇が戻ってきた。祐は「ありがとうって言ってくれた」と言っているが，肇は「オレはそんな風に言えない」という。母親らしいことは何もしてくれなかった。肇は，百合に対する文句を吐き出す。それを止めようとする祐。大声での騒ぎに，拒否反応を示した女性。翌日の葬儀。女性に肇は，兄は犠牲になってきたからこれからは自由に生きてほしいと思っていると伝える。そして，葬儀が終わり，祐が挨拶している間に，時間がないからと祐に黙って家を出て行った。それを知った祐は，祭壇に置いてあった百合のお気に入りの青いマフラーをつかみ，バス停へ走った。バス停には，まだ肇がいた。肇は，女性のことを心配している。身元が分からない状態で恋に落ちることをないように。肇「兄ちゃんには幸せになってほしいんだよ」。祐「大丈夫だよ，オレは」。そして「これを持っていけ」とマフラーを差し出す。百合が，肇のために編んだマフラー。肇の好きな青い毛糸で編んでいた。最後のころは，もう網目がめちゃくちゃだった。祐は，自分は最後の時に一緒にいられたから，そのマフラーは肇が持って行くようにと。肇は黙って受け取り，バスに乗って帰って行った。祐は，そのあとあの秘密の場所へ。 　とある家。そこでは明日まで戻ってこなければ捜索願を出そうという話になった。男は，急患で呼び出されたと家を出るが，向かった先は女性が出迎えるマンションの一室。 　百合の部屋で，祐は「今は後悔ばっかりです」と。しかし，女性は，百合は幸せそうな笑顔をしていたと。祐はよく頑張っていたと話す。百合は祐と過ごせて幸せだったはず。でなければあの笑顔はできないから。そう言われて祐は涙を流す。そして女性「お食事もうすぐできますから」と自分で言った言葉に，何か思い出せそうになる。 　中里が身元が分かったとやってきた。バッグがとなりの駅のごみ箱から見つかったのだった。携帯とお金はなくなっていたが，免許証は残っていた。女性の名前は，石川萌奈美。東京に住んでいた。自宅の電話番号も分かったが，すぐに電話をかけようとしない。不安を紛らすため，食事を作り続ける。そんな萌奈美を見て，祐は「また明日考えましょう」と。夜，眠れない２人。自分がいるべき場所に戻るべきだとわかっているが，恐い。時々思い出す断片が，息苦しそうだという。祐「もしも，万が一でも幸せでなかったら，ここのい戻ってくればいい。大丈夫。オレはいつもここにいますから」。そういって萌奈美の手を握る。安心する萌奈美。祐は「萌奈美さん」と何か言いたげだったが，言い出せなかった。萌奈美「このまま時間が止まってもいい感じ」。 　翌日，今日は電話するという萌奈美。仕事に出かける祐に，好きなおかずを訪ねる。祐「肉じゃがかな」。祐を見送るが，萌奈美はなかなか電話をかけられない。スーパーに買い物に行ったとき，公衆電話を見つけ，意を決して電話をかけた。電話に出た少女が「ママでしょ」と。すべてを思い出した萌奈美「琴ちゃん・・・？」と娘の名前を呼んだ。夫・航一にも連絡がいくが，そのそばには女性の姿が。航一と琴音が山形まで迎えに来た。航一は，萌奈美が本当に１人旅だったかどうか調べさせていた。その連絡がちょうど来たが，１人旅立ったことは証明された。そのころ，祐が家に戻ると萌奈美の姿がない。心配するがテーブルの上に＜スーパーに買い物に行ってきます＞とあった。その時，萌奈美のために買っていてあった桜が咲いているの気付いた。萌奈美は一人，喫茶店にいた。 　祐が萌奈美を追いかけるように街にいくと，喫茶店から航一に連れられて出てくる萌奈美の姿を見つける。お互いの姿に気付いた２人。離れたまま見つめ合う。そして祐は声に出さず＜大丈夫だから＞。不安そうだった萌奈美は，笑顔になった。そのままタクシーに乗り，去って行った。それをじっと見守る祐。祐は，喫茶店のマスターからスーパーの袋を手渡される。肉じゃがの材料が入っていた。そんな祐のもとに，萌奈美が検査を受けた病院から連絡が来た。そして，肇が病院ですれ違った医者が航一だった。そのネームプレートには”石川医院院長”とあった。病院を訪れた祐に，医者は萌奈美は至急再検査が必要だと伝える。