僕と彼女と彼女の生きる道

2004年１月６日（火）スタート
毎週火曜　２２：００〜２２：５４　フジテレビ

第１話 離婚の朝 第２話 別れの理由
第３話 悲しい抱擁 第４話 愛おしい娘
第５話 娘のために 第６話 娘との旅
第７話 元妻の復讐 第８話 凛を返せ！
第９話 和解 第10話 別離
第11話 サヨナラ凛 第12話 絆


＜第12話＞

　凛が出ていった次の日の朝。凛の部屋で，ゆらの腕枕で寝てしまった徹朗が目を覚ます。ココアを入れるゆら。それを受け取った徹朗は「ありがとう・・・いてくれてありがとう」。ゆらが「もう少しいましょうか」と言うと「凛が出ていった」と伝える徹朗。大山家では，美奈子が「よくない。こんな風に引き離すなんて」と可奈子をたしなめている。可奈子は，２人にはきちんと説明したし納得しているから問題ないと。美奈子が「わかっているはずでしょ。徹朗さんは，可奈子の知っている徹朗さんじゃなくて，凛ちゃんの大好きなお父さんになったんじゃない」と言うと「親権者は私」と主張する可奈子。「親権を手に入れたらそれでおしまい？」と美奈子。可奈子は「他に何があるの」。
　仕事に行った徹朗だが，全く仕事にならない。見かねた斉藤が「今日は帰れ」と。徹朗は大丈夫と言うが「帰れ」と斉藤。結局，徹朗は仕事を早退し，誰もいない部屋に帰っていく。「ただいま」と言っても，返事がない・・・。スーパーに買い物に行くが，いつものようにレーズンパンをカゴに入れてしまい，それに気づいた徹朗は元に戻した。その時，ゆらと出会う。「洋食屋やめようと思っている。凛がいなくなったから意味がないよ・・・洋食屋の仕事はやりたくてやった訳じゃないし，俺にも会わないけど，凛のためにやったんだ。凛を取られるってわかってたら，みどり銀行やめなかったのに」と徹朗が言うと「凛ちゃんをいいわけにしないでください」とゆら。「凛ちゃんが聞いたら，きっとこう思います。みどり銀行やめたのは，凛のせい。お父さんが辛いのも凛のせい」。これを聞いても「どうでもいいよ。もう凛はいないんだから」と投げやりな徹朗。ゆらが「親権者じゃなくなったら，凛ちゃんの父親じゃ無くなるって思っているんですか」と言っても，「そんなこと無いけど。一緒にいないから，何もしてやれないだろう」と徹朗。ゆらが「いいえ・・・頭を冷やして考えてください」と言っても，話を聞こうとしない徹朗。去っていく徹朗に「頭冷やしてください！」と叫ぶゆら。
　家に戻った徹朗。凛の絵が目にはいるが，見えないように倒してしまう。１人寂しくビールを飲む・・・。大山家では，凛が勉強をしていた。凛は「ねぇ，お父さん！」と呼んでしまい，ハッとする可奈子。「間違えちゃった。ごめんなさい」と凛。可奈子の様子を気にする凛。可奈子に「お父さんに会いたい？」と聞かれると，ちょっと考えてから「ううん。会いたくない」と勉強を始める。
　次の日。仕事を終えた徹朗は，お店のケーキを持ってゆらの元へ。「昨日はなんかごめん」と謝り，帰ろうとすると「一緒に食べないんですか」と呼び止めるゆら。徹朗は，不服申し立てについてゆらに相談する。凛が可奈子と一緒の方がいいというなら諦めると。「北島さんには，本心言ったの？言っていなくてもどっちと暮らしたがっていると思う？」。「どちらを選ぶことなんてできません」とゆら。悩む徹朗にゆらは「もっと大事なことがあるんじゃないですか」。凛の寝顔を見て考えている可奈子。そして，家に帰りながら「大事なこと？」と考える徹朗。
　洋食屋では，自分が切ったニンジンが食べられず残っているのが気になるようになった徹朗。仕事が終わり徹朗が家に帰ると，義朗が来ていた。義朗は，不服申し立てをどうするのか気にかけていた。期限は明日に迫っていた。弁護士の費用なら援助すると言ってくれたが「ありがとう。でもいいから・・・もっと大事なことわかったから」と徹朗。そして「凛，親父に遊んでもらって楽しかったって言っていたよ」。「楽しかったのは，オレの方だ」と義朗。徹朗は，倒したままになっていた凛の絵をまた起こした。そんなとき，可奈子から電話が・・・。
　ゆらの家に，凛がやってきた。可奈子が用事があるので遊んできていいと言われ，遊びに来たのだった。ゆらが「ラッキースタンプどうする？」と尋ねると「もって帰る。お母さんと暮らすことになったから」と凛。そして「ずっと凛の先生でいてくれる？わかんないことあったら電話していい？」と言い出す。すぐに答えられなかったゆらだったが「うれしい。そういってくれて」。ずっと凛の先生でいることを約束する。
　凛の部屋で，荷物の整理をする可奈子。徹朗が「話があるんだ」と言うと「私も」と可奈子。徹朗は「夫婦として上手くいかなかったから，これから別々の道をいくことになる。可奈子は，もうオレとか関わりたくないと思う。離婚したんだから，当然だと思う。でも，凛のことでは，父親と母親として協力しあえないかな。オレにできることは，やらせて欲しい。これからも，凛の父親でいさせて欲しい。離れていても父親に愛されているんだって，凛にはいつも感じてて欲しい。だから，凛に愛していることを伝え続けたい。伝え続けることを認めて欲しい・・・ダメかな・・・返事は今すぐでなくていいから・・・可奈子の話は何？」。徹朗の言葉を聞いて可奈子は「どうしていいかわからないことがあったの。でも，もう答えが出たわ。私は，親権を手にしたとき，問題は全て解決したと思った。でも，凛にとっては何の解決にもなっていなかった。だって，私が家を出る前は，凛，あなたのこと，ただ一緒に住んでいるだけの男の人ぐらいにしか思っていなかったのに，今は違う。大好きなお父さんになっている。私気づいたの。凛にとって，誰と暮らすのかは重要。でも，離れて暮らす親とこれからどうなるのかも，すごく重要なんだって。だけどどうしていいかわからなくて・・・私は，まだあなたを信用できなかったから。ここに来るまでは。あなた，ホントに変わったのね。これからもずっと凛に愛していると伝え続けてあげて。あなたは，凛の立派な父親よ」。「ありがとう。凛をよろしくお願いします」と頭を下げる徹朗。涙を流しながら可奈子は「どう思っているの。凛にとって，私と暮らすことは，いいと思ってる？」と尋ねる。徹朗は「凛は，可奈子のこと大好きだ。可奈子も凛のことを愛しているんだろう？」。「はい」と可奈子。徹朗「二度と手を離さないんだろう？」。可奈子「はい」。「だったら，何も問題ないじゃないか」と徹朗。可奈子は「ありがとう」と。
　土手で遊ぶ凛を見守る可奈子とゆら。ゆらは「ほっとしているみたいですね。凛ちゃん。お父さんと会えるってわかって」と。「ホント変わったわ」と可奈子。ゆらは「凛ちゃんのおかげだと思います」と。凛は帰り際に「お父さんの所にお泊まりする日に会える？」とゆらに尋ねる。引っ越しの前の日に会う約束をする。そして可奈子は「凛だけじゃないわね」とゆらを見る。徹朗は，１人家で，ゆらに言われた言葉を思い出していた。「もっと大事なことがあるんじゃないですか・・・凛ちゃんにとって，一緒にいる親も，離れている親も，同じくらい大切です。いくら離婚しても，凛ちゃんの父親として，母親として，２人で考えなきゃいけないことがあるんじゃないですか。凛ちゃんのために」。そして，荷物が持ち出されがらんとした凛の部屋を見ている・・・。
　弁護士の元へ，凛との面会について報告に行くと，偶然亮太と出会った。一緒に帰りながらゆらについて話をする。徹朗が「怒ると怖いですよね」と言うと「怒られたことありますか？」と亮太。徹朗が「何度か」と言うと「いいなぁ」とうらやましがる。亮太は「洋食屋と言えばオムライスですよね」と。「良かったら今度食べに来てください」と徹朗が言うと「イヤです」と亮太。亮太は，ゆらもオムライスが好きで，ケチャップのオムライスの方が好きだと徹朗に話す。
　洋食屋では，斉藤が「やってみるか」とニンジンのグラッセ作りを徹朗にチャレンジさせる。徹朗が作ると焦げてしまう。家でも練習する。味見をして「硬い」といったんは諦めビールを飲もうとする徹朗だったが，凛の絵が目に入り，また練習を続ける。お店で作ってみて，やっと納得がいく物ができた。斉藤に見せに行くと，斉藤は味見もせずに「盛りつけ」と言うだけだった。不安がる徹朗だったが，「盛りつけ」と言うだけの斉藤。徹朗が作ったニンジンのグラッセが，女の子のハンバーグに添えられた。一瞬ためらいながらもそのニンジンを食べた女の子は「おいしい」と。それを影で見ていた徹朗はガッツポーズ。その様子を微笑みながら見ていた斉藤。
　屋台に，徹朗・宮林・岸本・坪井の４人がそろった。岸本が，留学に行くという。以前は留学に行ったら会社を辞めると言っていた岸本だったが「戻ってきてから決める」と変化していた。坪井とのことは，別れる気はないが，戻ってきたときの気持ち次第だと。その後，宮林と徹朗，２人きりになる。仕事は見つかったか宮林が尋ねると「はい」と徹朗。今の仕事を続けることに決めていた。ニンジンのグラッセを美味しいと食べてもらったことがうれしくて，他の料理にも挑戦したいとうれしそうに話す。そんな徹朗を見て「羨ましいよ・・・出世考えずに生きられたらいいなと思うけど，無理だろうな」と宮林「染みついちゃっているんだよなぁ。男は仕事第一。出世しなくちゃいけないって。嫌いじゃないんだよ。出世争い」と自分の本心を伝える。
　小学校では，凛の転校が伝えられる。最後の思い出に音楽会が開かれる。石田は「お別れはとても悲しいことですが，これから先にはたくさんの人との出会いが待っています・・・きってお出会えます。大好きだなと思える人に」とみんなに話す。音楽会も無事終わり，凛が校門の前に来ると，可奈子が待っていた。ランドセルを受け取り，リュックを背負わせる可奈子。「行ってらっしゃい」。「行ってきます」と凛は，通い慣れた道を１人歩く。土手で待っていた徹朗は「凛！」と抱き上げる。そのころ，ゆらの家には亜希が来ていた。凛が神戸に行ったら，徹朗とはどうするのか聞かれたゆらは「さぁ？」。
　家に帰った徹朗と凛。リビングで，２人で過ごす。徹朗は「手紙書くからな。凛も書いて欲しいんだ。凛が思ったこと，どんなこと書いてもいいから」と。徹朗は，凛に手紙の書き方を，１つ１つ丁寧に教えていく。スケッチブックに住所の書き方の見本を書いておき，練習をする。そして，徹朗が「名前のことお母さんから聞いているな」と言うと「はい」と凛。徹朗「凛は，大山凛になる」。凛「はい」。徹朗「毎月封筒と便せんと切手送るからな」。凛「はい」。そこへ，ゆらがサンドイッチを作って持ってきた。徹朗は，クリームシチューを作っておいた。３人で過ごす楽しい時間・・・。
　大山家では，可奈子が「これからは，人の手借りて行くんだなって」と，凛との生活が，専業主婦だったときと仕事をしながらと違ってくることを気にする。美奈子は「もう決めたんだから，自信を持ってやりなさい」と。「はい」と答える可奈子。
　徹朗・凛・ゆらの３人はトランプで遊んでいた。ふと時計を見る徹朗。もうゆらが帰る時間だった。玄関でゆらを見送る凛は「約束忘れないでね」と。ゆらは「凛ちゃん」と呼ぶ。「はい」と凛。何度も凛の名前を呼ぶゆら「いい名前だね」。ゆらとも別れ，徹朗と凛は，徹朗のベッドに一緒に入る。すると凛が「どうして凛は凛って言うの？」と聞いてきた。徹朗は「お父さんとお母さんが，２人で考えたんだ。凛々しい子に育ってくれますようにって」。「凛々しい子」というのは「キリッとして，勇気のある子」と説明した。朝になり，いつもの道を歩く２人。手をつなぎ，楽しそうに歩いていく・・・。土手で２人，ハーモニカを吹く。徹朗は，あの日，ハーモニカを取り上げたときのことを思い出す。そして，次から次へと，凛と過ごした日々を思い出していった。
　新幹線のホーム。徹朗と凛，２人だけが新幹線のドアまで歩く。可奈子は，先に席について待っていた。発車ベルが鳴る。２人きりで別れの時を迎える。徹朗は「バイバイ」と。「バイバイ」と応える凛。その後は，黙ったまま・・・。２人の間に，ドアが閉まっていく。ドアの窓から一生懸命覗く凛。新幹線が走り出しても，一生懸命追いかける徹朗。こらえていた涙が一気に流れる。ホームの端まで徹朗は走っていったが，凛を乗せた新幹線は走り去っていった・・・。
　帰りにスーパーによると，ゆらと出会った。「昨日，ありがとう」と徹朗。一緒に帰りながら，徹朗は「今日は何？」と。ゆらが「カレーです」と答えると，一人暮らしだとカレーは大変だといい「オレも今日カレーなんだ」と徹朗。次の言葉を考えるが「あのさ，何カレー？」と徹朗。ゆらが「野菜カレー」と答えると「オレも」と徹朗。結局，その後は何も言えず「じゃあ」と別れる２人。

　半年後。リビングでココアを飲む徹朗の側には，凛から届いたたくさんの手紙が。徹朗も凛に手紙を書く。「今日も元気ですか。この手紙が着く頃には，ゆうき君にごめんなさいを言って，仲直りをしている頃だと思います。それにしても，凛が神戸に行ってもう半年。早いなぁって思います。凛は，お父さんの料理が上達したこと信じて無いみたいだけど，ホントにうまくなったんだよ」。その手紙を出しに行く。
　洋食屋が貸しきりになっている。斉藤は，料理の作り方のアドバイスをし，帰っていく。徹朗は，３人分食器を用意している。そこへ，可奈子と凛がやってきた。可奈子は「凛をよろしくお願いします」と出ていった。シェフとして凛を向かえる徹朗。「お客様は私の第１号のお客様です」と。凛は，３人分の食器を見て「誰か来るの？」。徹朗は「来るかどうかわからない。お父さんの大好きな人呼んだんだ。でも，お父さんのこと同思っているかわからないから」と言う。凛にはその人が誰か分かった様子。ちょうどその時，ゆらがお店に入ってきた。「来てくれないと思ってた」と言う徹朗に「どうしてですか？」とゆら。徹朗の変わりに凛が「ゆら先生がどう思っているかわからなかったんだって」と答える。食事が始まる。メニューは，ケチャップのオムライス。ゆらは，仕事を辞めてまで探していた大切な物は「見つかりました」とじっと見つめる。
　そして徹朗は，凛に「ゆうき君と仲直りできたのか」と尋ねる。凛は，仲直りできない，嫌いだと。その話を一生懸命話し始めた・・・。
　＜娘が笑っている・・・彼女が笑っている・・・ただそれだけで，オレは幸せだ＞

　それぞれが自分が選んだ道を歩きだしていた。凛を徹朗に預けた後，自信にあふれた笑顔で歩く可奈子。仕事に励む宮林。ホテルマンとして仕事を始めた義朗。校門で子ども達を向かえる石田。ラーメン大食いにチャレンジする亜希に，それを見てあきれている亮太。仲良くデートをする岸本と坪井。宮林があのバーで飲んでいると井上の姿が浮かび，やっとメガネを外す宮林。かわいい袋物を縫う美奈子。

　食事もデザートへ。凛の話は「許してあげた・・・ホントはうれしかったんだ」と締めくくられた。それを笑顔で聞いていた徹朗は「結局，ゆうき君のこと好きってことかよぉ」。
　


＜第11話＞

　弁護士の元を訪れた徹朗。面接をしたが不採用になったことを告げる。ただ，義朗が週３回働くことになり，経済的な援助もできるし，家事も手伝ってくれると言うことになった。それは，プラス材料になると弁護士。義朗は，自宅でネクタイを締めようとしたが，その手が止まる。そして，義朗が向かったのは，徹朗の家。キッチンに入り料理をしている。それを，凛とゆらと一緒に食べる。徹朗は，洋食屋で少しずつ認められ，にんじんの皮むきを引き続きやらせてもらっていた。夜遅く徹朗が帰ると，凛はすでに眠ってしまっていた。ただ，テーブルの上には凛とゆらからのメモがあった。ゆらからは今日の勉強のことを，凛からは「おかえりなさい，おやすみなさい」と。義朗は，ソファーで眠っていた・・・・。
　小学校へ行き，石田に今の状況を伝える徹朗。「変わったことがあったらお知らせください」とお願いする。「お恥ずかしいです。裁判沙汰になって」と帰ろうとする徹朗に，石田は「教師になって20年。今更ですが，教師として本気で子供たちに接すると言うことを考えるようになりました。それを伝えたくて」と徹朗に告げた。
　美奈子は，調査官にいろいろと質問を受けていた。徹朗の父親ぶりには「一生懸命やってくれましたけど，至らないところがあります。食事のことも気になります」と。調査官が「父親としてふさわしくないと思いますか」と尋ねると「そう思っています」と答える。美奈子は，家に帰ると，加奈子に「本当に何があっても，凛ちゃんのこと，一番に考えるって約束してくれるわね」と確認する。「約束する」と答える加奈子。その側には，凛が描いた加奈子の似顔絵が飾ってあった。
　家では，徹朗と凛が焼き肉をしていた。ゆらは，その側で，凛が描いた徹朗が働いている絵を見て「これ，飾ったらどうですか」と提案する。「そうだよな。後で飾るよ」と徹朗。そして凛に「ホントに絵が上手だな」という。すると凛はうれしそうに「おばあちゃんの家で，おかあさんの絵を描いた。お母さんも上手だって言ってくれたの」と。ふと徹朗の顔を見ると，うつむいてしまう凛。そんな凛に徹朗は「いいんだぞ。お母さんのこと話しても。楽しかったら楽しかったって言っていいんだぞ」と。
　家庭裁判所での審判。加奈子側の弁護士から，祖母に面倒を見てもらうことは考えなかったかと言われると「銀行に勤めていた頃，帰りが遅くなることもあったので」と答える徹朗。次に便秘で入院したことにふれられ，気づけなかったのかと追求されると「気づくべきでした」と徹朗。食事も作ることがなかったと言われると「今は少しずつ挑戦しています」。ただ，栄養のバランスを考えて，いろいろなメニューを出すことは，今の徹朗には難しく，加奈子ならばすぐにできると言われてしまう。追求されることが，みどり銀行に勤めていたときのことで，今は変わっていると徹朗側は主張していくが・・・。
　凛の下校の様子を見ている美奈子。男の子にからかわれる凛。その後，美奈子は凛をレストランへ連れて行く。さっきの男の子が凛のことを好きだろうと美奈子。可奈子が凛ぐらいのときに好きな男の子がいてお嫁さんになると言っていたというと「凛は，お父さんのお嫁さんになります」と笑顔で答える。徹朗のどこが好きなのか美奈子が尋ねると「一緒にジュース作ってくれたり，一生懸命ご飯作ってくれたり，雪を見に連れていってくれたり・・・それからギュってしてくれる」とうれしそうに話す。美奈子は，洋食屋で一生懸命働く徹朗の姿を見る。そして声もかけずに帰っていく・・・。徹朗は，帰り際に斉藤がスパゲティーを作っているのを真剣に観察していた。家で勉強するゆらと凛。その側には，凛が描いた徹朗の絵が飾ってあった。凛はゆらに「お願いがあります」と。
　宮林の元に１本の電話が。それは加奈子からだった。二人は待ち合わせて，話をする。加奈子は「本当に凛のためにみどり銀行を辞めたんですね」と。宮林は，徹朗のことを「いいパパだよ」。すると加奈子は「凛と暮らしたいんです。今，審判中なんです・・・」と審判のことを伝えるが，その様子は必死。「何を怖がっているの？凛ちゃんが小柳のこと好きになっていくのが怖いの？」と宮林。そして「かなちゃんと小柳が羨ましいよ。自分よりかわいい存在がいて。オレは自分が一番かわいいから」。
　夜。凛はもうベッドの中。徹朗は，ゆらから凛がお願い事を言ったと知らされる。それは「１度でいいから，お父さんとお母さんと３人で遊園地に行きたい」ということだった。徹朗は「どうしたらいいかな」とゆらに相談するが，ゆらは「思った通りで良いんじゃないですか。それが正しいと思うから」と言っただけだった。
　宮林と加奈子。「もうやり直すのは無理なんだな」と宮林。そこで加奈子の電話が鳴る。徹朗からだった。「凛が，３人で遊園地に行きたいって言っているんだ」と伝える徹朗。徹朗が言わせたんじゃないかと疑う可奈子。徹朗が否定し，もうやり直せるとは思っていないと言うと，加奈子は「だったらやめた方がいいと思う。凛が，元に戻ると期待しちゃうから」という。「きちんと話すから・・・大丈夫。凛はわかっている。３人で暮らしたくても暮らせないってわかっている」としっかり答える徹朗。
　遊園地の前。徹朗と凛が待っていると，加奈子がやってきた。徹朗と加奈子と手をつないで，はしゃぐ凛。そのころ，ゆらは亮太と会っていた。とりあえず始めた家庭教師だったが「ずっと続けたい」というゆら。亮太は「とりあえず，ゆらの友達からずっと一緒にいる存在になりたかったけど，あきらめた」と。徹朗と会ったときも，「どこがいいんだ」と思ったり，わざと徹朗に名刺を渡したり・・・。ただこの行為は「ちょっと優越感・・・のち，めちゃくちゃ自己嫌悪」。そんな亮太に「友達でいられる？」とゆら。亮太は「今は無理・・・でも，いつかまた戻れる。時間かかるけど」。
　遊園地。凛を挟んで仲よさそうな３人。ゆらは，一人家でラッキースタンプを見つめている。徹朗たち３人は，ジュースを飲むが，凛の口の周りにおひげができると「お口」と加奈子は拭こうとする。「いいの」ときっぱり断る凛。そして「お母さんもやって」。徹朗にも，凛と同じようにひげができていた。そして凛は「もう１回てんとうむし乗る！」と徹朗の手を引っ張っていく。それを不安な表情で見ている可奈子。家に帰った加奈子は，美奈子に今日のことを聞かれるが「普通に遊んだだけ」と。徹朗のことも「別に」と答えるだけ。加奈子は裁判所に提出する「凛の成長日記」とアルバムを見始める。また凛と暮らし始めたら「成長日記」を付ける続けると。「凛との思い出，７年間で終わらせたくない」。凛の部屋で，髪を乾かしてあげる徹朗。凛は「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」と言った後に「絶対もう３人一緒って言わないから」と。徹朗は，黙って凛を抱き寄せるだけだった・・・。
　徹朗は，弁護士から「凛の成長日記」のことを聞かされる。生まれた頃加奈子が書いていたことは知っていたが，今まで続いていたとは知らなかった。「これは強力かも・・・」と弁護士。徹朗は，そのコピーを読み始める。そこには，凛が初めてできたことが次々とかかれていた。家に帰り，ゆらにそのことを伝える。「凛が初めて逆上がりできたとき，ホントに感動したんだ。こういう瞬間が数え切れないほどあったんだろうけど，オレは知らない。知っているのは７歳の凛だけ・・・」。凛が生まれた頃は，加奈子が毎日話してくれるのを一応は聞いていた。そのうち，仕事が大変になって余裕が無くなってくると，聞いているふりをしていた。それに気づいた加奈子とけんかが絶えなくなっていった。そのうち加奈子は何も言わなくなった。今ならば，言っても仕方がないと加奈子の気持ちが理解できるが，そのころ徹朗は「オレは悪くない。可奈子も反省して黙ったんだ」としか思えず，ずっとうまくいっていると勘違いしていた。だから離婚をいきなり言い渡されても，さっぱりわからなかった。「もう１度，人生やり直せるなら，凛が生まれたときに戻って，凛の成長をちゃんと見たい・・・・それができないなら，これからの凛を見続けたい。どうしてもっと早く大切な物に気づかなかったんだろう」と徹朗。ゆらは「いいじゃないですか・・・気づけたんだから」と，徹朗の手に自分の手を乗せ微笑む。
　美奈子は，凛の描いた絵を見つめ，いろんなことを思い出し考えていた。加奈子の絵を描いている凛，徹朗が一生懸命働く姿，凛が言った「お父さんのお嫁さんになります」・・・。そして，徹朗は，ぐっすり寝ている凛を見ていた。
　ゆらは，亜希とと食事をしていた。亮太のことを伝えるゆら。それを聞いて亜希は「しばらくは３人ではあえないね」と。食事をしながらも，時間を気にするゆら。この日は，家庭裁判所で審判がある日だった。今回は，美奈子が証人としてやってきていた。美奈子には，まず加奈子側の弁護士から質問が。やはり，父親ぶりについて話が出され，便秘で入院したこと，学校で物を盗られ登校拒否になったこと・・・。それを認める美奈子。そして，それらは徹朗がもっと早く気づけば防げたはずで「父親失格と言うことですね」と弁護士。ずっと「はい」と答えていた美奈子が，しばらく黙り込み「・・・・いいえ」と。弁護士が「至らないところがあったと証言しましたよね」と念を押すと「そうですけど・・・でも・・・徹朗さんは，立派な父親です。父親失格ではありません」と美奈子。今回で，審判が終了。後日決定が伝えられる。加奈子は，一人待っていた美奈子の元へ。「いいわよ，それで。これがお母さんが私に与えた罰なら」と。そして，帰り道，「どうして？私の見方になってくれなかったの？」と加奈子。美奈子は「ホントのこと言っただけよ。凛ちゃんは，加奈子と暮らしても徹朗さんと暮らしても，幸せだと思うわ」と自分の気持ちを伝える。加奈子は，静かに涙を流していた・・・。徹朗は，家に帰ると，斉藤が作っていたのと同じスパゲティーを作った。徹朗と凛とゆらで，楽しく食事をする。そして，徹朗はゆらに審判が終了し，あとは結果を待つだけと告げる。徹朗の作ったスパゲティーを食べて，凛は「これおいしい！また作ってね」と。「また作るよ」と徹朗。
　洋食屋では，斉藤がにんじんの切り方を教えてくれるという。教えてくれながら「料理って言うのは，愛情をかけたらかけただけのものが返ってくるんだよ」と。徹朗が，店の準備をしていると，坪井がやってきた。彼を連れてくると言っていたので，期待していると・・・岸本が後からやってきた。「なんだ」という徹朗だったが，実は二人は・・・。その後すぐ，携帯がなった。弁護士からだった。「決定が出ました」という声。その後，涙を流しながらタマネギを切る徹朗の姿が・・・。
　徹朗が家に帰ると，加奈子がやってきた。徹朗が「何しているの？」というと，「どうせ私に親権変更されるなら，凛と暮らすの早い方がいいと思って」と加奈子。凛を迎えに来たのだった。すでに簡単な荷造りが済み，凛にも話したと。学校は，加奈子の実家から加奈子が送り迎えする。徹朗が何を言っても，受け入れない可奈子。徹朗が「今度いつ凛に会える」と聞いても「改めて連絡する」とはっきりさせない。そして「これからは母親としてしっかりやるから。私がいない間，凛を育ててくれてホントにありがとうございました」と頭を下げる。可奈子に部屋から連れてこられた凛。可奈子が「お父さんに挨拶して」と言うと，しばらく黙ったまま見つめ合う凛と徹朗。凛は「お父さん，さようなら」というが，徹朗は何も言えない。じっと見つめ合う２人。可奈子に手を引かれながらも，ずっと振り向いている凛。それを涙をこらえながら，黙って見守るだけの徹朗。２人の間のドアが閉まった・・・。
　夜になり，いつものようにやってきたゆら。チャイムをならすが誰も出てくる様子がない。不思議になりドアに手をかけると，カギがかかっておらず，簡単に空いた。家の中は真っ暗。声をかけても返事がない。凛の部屋のドアを開けると・・・真っ暗ながらも，荷物が無くなっているのがわかる。その暗闇の中に，茫然自失の徹朗の姿が。すべてを理解したゆらは，徹朗の側に寄り添う。徹朗は，ただ黙ってゆらに身をゆだねるだけだった・・・・。

＜第10話＞

　「審判になったこと，凛に話した方がいいのかな」とゆらに相談する徹朗。徹朗は「オレのわがままかな，親権欲しがるの。たった数ヶ月凛をみてきただけなのに。凛にしたって自分のことで親が争うなんて辛いだろうし」。「凛ちゃんはお母さんと暮らした方がいいと思ってるんですか？」とゆら。徹朗は「そうじゃないけど・・・」と。そして「弁護士探さないと。どうやって探すのかな」と困惑。そんな徹朗に，ゆらは亮太にお願いして弁護士を紹介してもらった。弁護士は，亮太のいとこだった。夜，明日の準備が終わった凛に「話があるんだけど」と徹朗。ベッドに座って話をする。「お父さんとお母さんが一緒に暮らせないことは，話したよな。どっちが凛と暮らすのか話し合ってきたけど，どっちも凛と暮らしたいから決まらなかった。家庭裁判所ってところで決めてもらうことにした。そこの人が家に来たりするけど，凛はいつも通りにしてればいいんだからな。わかったか」と話す徹朗。凛は「はい」と答える。美奈子がやってきて徹朗に「母親といた方がいいんじゃない？その方向で話し合って欲しい」とお願いするが，徹朗は「すいません」と言うだけ。どんなに美奈子が徹朗にお願いしても，徹朗は「すいません。ホントにすいません」と辛そうに言うだけだった。美奈子は「ごめんなさい。こんなことお願いしに来て。私も１人の母親なのよ」と逆に謝った。そこへ，家庭裁判所の調査官がやってきた。
　そのころ，ゆらはいつものメンバーと食事をしていた。亜希が「どういうつもりでつきあっているの？好きなんでしょ，小柳さんのこと」と言うと「好きだよ」とあっさり答えるゆら。「お母さん代わりになれるとは思っていない」。亮太は「もっと距離を置いた方がいい。別れるとき傷つくのは凛ちゃんなんだから」と。でもゆらは「その方が中途半端だよ。凛ちゃんに頼られたら，できるだけ答えてあげたい。私のこと信頼して欲しいし，人を信じること知って欲しいの。別れを怖がって，人を信じようとしない子になって欲しくない。昔の私みたいに」。
　徹朗は，凛と楽しくジュースを作る。それを調査官に出す凛。徹朗が席を外し，調査官は凛にいろいろ質問を始める・・・。調査官が帰り，外で遊ぶ凛を見守る徹朗。そこへ偶然ゆらが通りかかる。徹朗は，調査官が来たこと，次は可奈子と一緒にいるときの凛を見ると言われたことをゆらに伝える。徹朗は「オレと一緒の時と違うのかな。どんな風に違うんだろう。もっと楽しそうな感じなのかな」と気にする。「そんなこと言ってもしょうがないじゃないですか」とゆら。徹朗が「わかっているけど，言わずにいられない」と言うと「言っても良いですよ・・・言ってください，私には」とゆら。「不安だよ。可奈子に凛を会わせるのは」と気持ちを話す徹朗。
　可奈子と凛が過ごす日の朝。朝食中，「どこ連れていってくれるんだろうな」と徹朗。その時にはすでに凛は準備を済ませていた。家を出ると，いつもの道を歩く。徹朗が先を歩いていたが，凛が追いつき，自分から徹朗と手をつないだ。手をつないだまま，可奈子と待ち合わせの公園へ。話が終わったら動物園へ行こうと言う可奈子。そして「家に泊めたいんだけど」と。凛は，徹朗の方を見る。徹朗は「いいよ」と。徹朗が１人歩き出すと，ずっと徹朗の背中を見ている凛。そして徹朗が振り返ったときには，楽しそうに歩き出す凛の姿が。ハローワークへ向かう徹朗。「勤務時間が今と同じで，給料がいいところを」と無理な相談をする。どうしても審判に勝つために，可奈子よりいい条件にしたいと必死だった。
　動物園で，可奈子は凛に，今どういう仕事をしているのか教えたりしていた。フランクフルトを買い，徹朗と来たときと同じベンチに座ろうとする。凛はあのときのことを思い出し「ダメ！この前ペンキ付いたから」と。可奈子は，徹朗と凛がここに来たことを初めて知った。今日は大丈夫と，２人で座る。すると凛はカバンからラッキースタンプを貼った台紙を取りだし「お母さんが大切にしている物だから」と。すると可奈子は「ありがとう。迎えに行くまで大切にしまっておいてね」と言う。それを聞いてちょっと複雑な表情になる凛。洋食屋で働く徹朗。遅番がお休みと聞くと「残ってもいいですよ・・・帰っても１人なんで」と。その帰る途中，坪井から電話が。坪井と待ち合わせ，道の途中で会う。坪井は「デートに誘ってくれる人いるんです。してみようかなって。その前に言っておきたいことがあったから・・・・ずっと好きでした」。この言葉に驚きながらもあまり本気にしていない徹朗。坪井「ひどいな・・・最後まで本気にしてくれないなんて」。いったんは帰ろうとしたが「やっぱり今夜だけずっと一緒にいてもらえませんか。最後だから」とお願いする。「ごめん。坪井さんとはそういう気ないんだ」と謝る徹朗。それで坪井は「これでホントにおしまいにできます。ちゃんとふってもらえたから」と涙を流す。そこへ徹朗の携帯が鳴った。可奈子からだった。次の週末も凛を泊めたいという。電話が終わり，振り返るともう坪井の姿はなかった。徹朗は家に帰り，凛の部屋へ。誰もいない・・・。暗闇の中で溜息をつく徹朗。
　可奈子と凛の帰り道。ゆらと偶然で会う。可奈子は「母ったらおかしいの。ゆら先生とうちの小柳が親しいって」と。そして，「たぶん近い家に私と暮らすことになると思うけど，それまで凛をよろしくお願いします」。１人家に帰る凛。「ただいま」と言うが返事がない。あちこち探すが，徹朗の姿がない。徹朗の部屋に行く凛。そこにもいない・・・・と思ったら，隠れていた徹朗が現れ，後ろから凛を抱きしめた。そのままベッドに倒れ込み「なぁ，凛」と話そうとするが「なんでもない」と徹朗。
　義朗がやってきた。家庭裁判所から義朗の元にも来ると言うが，何を話したらいいのかわからないと言う。「１人で育てていけるのか？」と義朗。そんな義朗を置いて「仕事行くから」と行ってしまう徹朗。凛は部屋に残っている。どうしていいかわからない義朗。そこへゆらがやってきた。ゆらに義朗は「凛のこと何もわからなくてね。凛と話でもしようかと思ったんだけど・・・この前徹朗とレストランごっこしていたけれど，そういうのやり方わからないし・・・」と話し出す。ふと気づき「つまらない話をして」と帰ろうとする。するとゆらは「きっとすぐ仲良くなれると思いますよ。凛ちゃんのお父さんだって，最初はわからなかったみたいですけど，あんなに仲良くなれたんですから」と。そして「凛ちゃんを呼んできていただけますか。凛ちゃんのおじいちゃん」と。緊張しながら凛の部屋へ行き，凛を呼ぶ義朗。
　洋食屋では，徹朗が今までよりも仕事に熱心に取り組んでいた。その姿を見ている斉藤。家では，ゆらと凛が勉強をしていた。凛は「お母さんがね，迎えに来るまで大事にしておいてって。お母さんに来てほしいけど，お父さんと離れたくない」。そしてラッキースタンプの台紙を「大事にとって置いた方がいいですか？」と質問する。ゆらが答えに困っていると「ゆら先生が持っててくれますか？」と凛はゆらに託す。「このことお父さんには言わないでください」と凛。夜になり，徹朗はゆらに「何か言っていた？可奈子のこと」と尋ねる。ゆらは「いえ，特に」と。凛に直接聞けない徹朗だった。
　家庭裁判所で審判が始まった。養育環境についての話から始まる。今は徹朗と安定した生活を送っているが，可奈子と生活することになると神戸に行くことになる。これには「環境の変化はマイナスにならないと思います・・・問題なのは，親がどれだけ子どもを思ってるかで，場所は関係ないと思います」と可奈子。徹朗の弁護士が可奈子が凛を置いて出ていったことを責めると「そうするしかなかった」と。離婚の際親権の主張をしなかったのは，とりあえず離婚をしたかった，その後で親権は何とかなると思っていた。「もし小柳が親権にこだわったとしても，親権者の肩書きが欲しいだけで，養育は私にさせてくれると思っていた・・・小柳は，子どもを愛していませんでした。仕事第一で，家庭のこと無関心でした」と。夜，子どもが熱を出しても仕事を優先していた・・・。「昔の話です」と徹朗。それでも可奈子は「外面のいい人でした。面子を気にする人でした」。苦痛の表情で聞いていた徹朗は「オレ，ホントに変わったんだ。凛に聞いてみてくれないか」と可奈子に。可奈子は「何も言っていなかった」と言うだけ。可奈子側の弁護士に「自分の責任を認めましたね？」と言われると，徹朗は「認めました・・・確かにあのころの私は，仕事第一に考えていていました。夫としても父親としても失格だったと思っています」と認める。さらに可奈子側の弁護士は「他に家庭人として失格だったことは？」といろいろなことを持ちだし，全て否定していった徹朗だったが，最後に「不適切な女性関係は？」と持ち出されると答えられない。「浮気をしたことは？」と問いつめられ「たったの１回です！」と認めてしまう。浮気については，可奈子も当時気づいていたらしい・・・。
　そのころゆらは，１人部屋で凛から預かったスタンプの台紙を見つめていた。
　審判では，徹朗の弁護士は，可奈子が凛を捨てたことを主張する。例え追いつめたのが徹朗だったとしても，「捨てた」と言う事実は変わらないと。可奈子側の弁護士にきちんとその経緯を再度説明するように言われた可奈子は「何を言ったって，私が凛を捨てたことには変わりありません。でも，後悔しているんです」と泣き出す。「もう二度としませんから，凛の母親でいさせてください」。悲痛な表情で見ている徹朗・・・。
　法律事務所に義朗がやってきた。一方，凛の寝顔を見ている徹朗。
　宮林と岸本は，食事をしながら話をしている。宮林が徹朗と連絡取っていないと知ると，岸本は，会社を辞めた人とはつきあえないし，同期で本音で話せる人がいないという。宮林は「小柳とはこれからもつきあうよ。今は複雑だから」と言い，徹朗が洋食屋で働いていることを岸本に伝えた。「次の仕事が見つかったら，たぶん連絡してくるよ」と宮林。洋食屋では徹朗の仕事ぶりを見ていた斉藤が，徹朗にニンジンの皮むきをやらせてくれた。
　法律事務所に出向いた徹朗「とにかく不安で・・・何かできること無いんでしょうか」と。ここで初めて義朗がやってきたことを知る。義朗は，手紙を弁護士に託していた。手紙を読む徹朗。
　『徹朗が家庭を顧みなかった責任は私にあります。私も家庭を顧みず，仕事第一で，子どものことは妻に任せきりでした。子どもへの接し方がわからなかったんだと思います。徹朗は，私と同じように子どもへの接し方がわからない父親になったのです。でも，徹朗は，私と違い，子どもの接し方，愛し方を見つけたようです。現在徹朗は，子どもととても仲良く幸せに暮らしています。全て私の責任です。ですから，どうか今の幸せを壊さないでやってください』
　義朗が家に帰ると，徹朗が来ていた。徹朗は「ありがとう手紙」。そんな徹朗に義朗は「お母さんは，幸せだったと思うか」と質問するが「いやいいんだ」とすぐに取り消す。
　＜親父は言った。家族のために一生懸命働いたと。それが親父なりの愛し方だったんだと今は思う＞
　義朗の肩をもむ徹朗。そして「お袋，幸せだったんじゃない」。目をつむり涙をこらえるような義朗・・・。
　徹朗は家に帰ると，ゆらに報告した。「良かったじゃないですか」とゆら。徹朗は「親父，小さくなったような気がした」と。審判のことが気になる徹朗は「今夜もあまり眠れないのかなぁ」とつぶやく。するとゆらが「小柳さんが眠るまでおつき合いしますよ」・・・・ベッドの中で話をする２人。それぞれの部屋のベッドで，携帯電話でたわいのない話をしていた。そのうち，徹朗の返事がしなくなり，「お休みなさい」とゆらは電話を切った。携帯を耳にしたまま，ぐっすり眠った徹朗・・・。

＜第９話＞

　「やり直そう」と可奈子に伝える徹朗。そのころ，食べ放題で食べ続けるゆら。その様子を見て亮太は「何か変じゃない？」と。亜希によると，ゆらがこういう風になるのは「ものすごーく疲れている」か「ものすごーく好きな人に振られた」のどちらかしかない。亜希は，亮太がゆらのことが好きなのがわかっており，さらにゆらが好きな相手が徹朗だろうと予想していた。
　徹朗の家では，徹朗が可奈子に「３人で暮らすことを考えてみてくれ」と伝えるが，可奈子は「思ってもみなかったこと言うから」と笑う。「何度も考えたの。自分がどういう人生送っていきたいのか。その中にあなたはいない」ときっぱり言う可奈子。徹朗は「もう１度考え直してくれ」と言うが，可奈子は「無理。神戸にできる美術館で仕事する予定」と。ここで初めて，凛をみるためにみどり銀行を辞めたことを知る。「母に預ければ良かったじゃない」と言う可奈子に，「自分でみたかったんだ。ホントに変わったんだ」と訴える徹朗。しかし，可奈子は「今の私にはどうでもいい。変わったとしても，私の人生にあなたは必要ない」。徹朗が「でも凛のことを考えたら・・・」と３人で暮らすことを主張するが，可奈子は「愛し合っている両親ならね・・・私があなたを愛することはもう無い。凛と２人でやっていきたいの」と取り合わない。徹朗が「凛は渡せないって言っているだろう」というと，可奈子は凛の部屋へ。そして部屋の中の物を次々と「私が作ったの」と主張する。可奈子は「この数ヶ月間，凛と離れていたけれど，それまでの７年間，いつも凛の側にいたのは私よ。凛を育てたのは私よ。凛のために生きてきたのは私よ。あなたは何をしたって言うの。たった数ヶ月凛をみただけで父親ぶらないで」。徹朗が「その通りだと思う。可奈子が凛を置いて出ていったことは，オレにも責任がある」と自分の非を認めるが，凛を渡してくれないのなら「家庭裁判所にお願いするしかない」と言い出す可奈子。
　凛を迎えに行った徹朗は，親子連れを見つめる凛を見つめる。偶然通りかかったゆらは，その徹朗の姿を黙って見つめる。そのまま去ろうとしたゆらだったが，徹朗が気づいた。家庭裁判所の調停になることを伝え「もし審判になったら・・・」と不安になる。そのまま別れる２人。凛の前では笑顔で振る舞う徹朗。凛を抱き上げ，楽しそうに帰っていく。
　徹朗は洋食屋で働き始めた。家に帰ってから，ゆらにそのことを告げる。これからも仕事をしながら職を探していくという。徹朗は，本を見ながらカレー作り。作りながら，ゆらに月謝払うのが厳しくなるから，家庭教師は以前のように英語だけにして欲しいという。するとゆらは「手伝わせてください。お金は英語の分だけで結構です」と。徹朗が甘えられないと言うと「こういう理由ならどうですか。私がここに来たいと思うから」。「ありがとう。時間があるときはよろしくお願いします」と徹朗。凛は，カレーを作る徹朗に「お父さん，しっかりね」と。「はい，がんばります」と徹朗。
　そのころ大山家では，可奈子が美奈子に今日の話をしていた。初めて徹朗がみどり銀行を辞めたことを知った美奈子。可奈子は，会社を辞めたのは，凛のためじゃなく，何か問題があったからだろうと疑っている。「自分から辞めることなんてあり得ない」と，徹朗の変化をどうしても認められない可奈子。それを複雑な表情で見ている美奈子。可奈子は「自分のやりたいことしたいって思わなかった？」という。美奈子は「忘れちゃった。今，好きなことやらせてもらっているから・・・今でもお父さんと一緒にいられて良かったと思えるし」。美奈子は「哲郎さん，ホントにそうだと思う？」と可奈子に問いかけるが，すぐに「自分のしたいようにしなさい」と。
　徹朗が作っていたカレーが完成。３人で楽しく食べる。ゆらと凛が「おいしい！」というと「だろう！」とうれしそうな徹朗。そこへ，義朗がやってきた。洋食屋で働き始めたというと「洋食屋ってなんだ・・・どうして辞めたんだ。上司の尻拭いか」と，徹朗の行動が理解できない義朗。徹朗が「今は凛との時間大切にしたいんだ」といっても，それは一時的なことで，みどり銀行を辞めることは一生を棒に振ることだと。徹朗は「オレは親父と違う・・・家族のことちゃんと考えたい」。義朗は，家族のことを考えていたから必死に働いたという。すると徹朗は「それで良かった？幸せだった？」と尋ねる。義朗は「良かったよ」と答えるが「親父が良ければそれでいいよ。オレは違うから。オレがどうしようといちいち言わないでくれる」と言う。義朗は「そうはいかないよ。お前が間違った道を進んでいるのに・・」と言うと徹朗が「会社やめて毎日何しているんだよ？」と逆に問いつめる。「何していいかわからないんだろう？教えてあげようか。親父は，会社名や肩書きにしかこだわってないんだよ。だから仕事無くしたら，何もないんだよ！」と言い放つ。ただ，義朗にはそれが悪いこととは思えない。当たり前のことだと思っている。徹朗は「親父みたいだけには絶対なりたくないんだよ！」と怒鳴ってしまう。「オレは間違っていない」と帰る義朗。義朗が帰った家には誰もいない。妻の写真をじっと見つめる義朗・・・。
　洋食屋で，休憩中の若者が話をしている。就職したい企業にみどり銀行の名前も出てきた。そして徹朗のことになり，「リストラだろう」と。しかも「大した会社じゃない」。それを耳にしてしまう徹朗・・・。洋食屋といっても，ずっと皿洗いの徹朗は，手が荒れ，薬局へハンドクリームを買いに行く。店員に尋ねると，店員は「奥さんですか？」。「自分です」と言いにくそうな徹朗。
　家で，凛がハーモニカの練習をしていると，可奈子から電話がかかってくる。迎えに行くのは時間がかかりそうだと言う可奈子。そんな可奈子に凛は「お父さん，料理作ってくれた」と言う。その真の意味が分からない可奈子は「お母さんの料理食べたいんでしょ。なるべく早く迎えに行くから」と言うだけだった。電話を切ると，少し元気がない凛。そこへ徹朗が帰ってくる。徹朗が手にした郵便物の中に，家庭裁判所からの手紙が。調停期日のお知らせだった。
　家庭裁判所での調停が始まった。凛は，ゆらと勉強しながら留守番。凛はゆらに「凛はどうなるの？お父さんと住むの？お母さんと住むの？どっち？」と質問する。ゆらは「今，話し合っているから」と。「お父さんと住んだら，お母さんにもう会えないの？お母さんと住んだら，お父さんともう会えないの？」と寂しそうな凛。ゆらは「そんなことないよ。ちゃんと考えてくれるから」と慰める。夜になり，徹朗が帰ってきた。ゆらに，調停が不成立になりそうだという。「審判になったら・・・今は可奈子の方が収入あるし・・・銀行辞めたのまずかったかな」と弱音を吐く徹朗。ゆらに「本当にそう思っているんですか」と言われると，否定をする。
　洋食屋では，仕事に身が入らず失敗をする徹朗。そのころ，義朗が店の前までやってくるが，入ることはできなかった。徹朗は，シェフの斉藤に「この仕事なめてる？」と言われてしまう。帰り道，岸本と出会う。岸本は仕事の話をし，徹朗のアドバイスを求める。元気のない徹朗は「上司に聞けば」と冷たい。家に帰り，夕食の片づけをしていると，宮林から電話が。今から来るという。偶然，その電話を聞いていた坪井も一緒にやってきた。転職が上手くいかず洋食屋で働いていることを初めて伝えた。「ずっといるつもりはありません」と言う徹朗。宮林が「知り合いの会社で聞けるとこ聞いてあげようか」と言うと「おもしろいでしょ。こんなことになって。バカだなって思っているんじゃないですか」と卑屈になるだけの徹朗。「すいません。今日は帰ってもらえますか」。帰り際に宮林が「思っているよ。バカって。俺がどう思うか関係ないだろう。自分で選んだ道，信念を持って進んでいけばいいんだから・・もう後悔しているのか」と去っていく。坪井は「ホントに心配しているんだと思います」と徹朗に言う。自分の部屋に戻った徹朗は，手にクリームを塗ろうとした時，いらだちからクリームを床にたたきつけた。そして，凛の部屋へ行く。凛の寝顔をじっと見つめる・・・。
　義朗がまたやってきた。徹朗に封筒を渡す。会社の資料が入っているという。「こんなこと頼んでないよ」と徹朗。義朗は「思ってたようにいかないんじゃないか」と言うが，それを否定する徹朗。義朗が帰った後，中も見ずに捨てようとしたが，一瞬考えてやめ，中の資料を手に取った。裁判所で，徹朗は「審判になったら勝てる見込みは？」と質問するがそれはわからないと言われてしまった。洋食屋で働いているが，ボーっとして身が入っていない。するとそこへ凛とゆらがやってきた。「社会見学です」とゆら。凛は「お父さん，しっかりね」。仕事をする徹朗の姿を，すぐ側でスケッチする凛。徹朗も一生懸命に仕事をしている。凛に，パフェが差し出された。斉藤の心遣いだった。「ありがとうございます」とお礼を言う凛。そして「もう１つください」。徹朗が「食べ過ぎだぞ」とたしなめると「凛の分じゃありません」。店の中で待っているゆらの所にも，パフェがサービスされた。徹朗の仕事が終わって，３人でそのまま食事。凛は「お父さんの洗ったお皿ピッカピカ・・・お星様ぐらい・・・すごいです。お仕事お疲れさまでした」と。徹朗は「ありがとう」とうれしそうだった。
　＜オレは娘に愛されている・・・娘はオレを無条件に愛してくれている＞。洋食屋の帰り道，３人で手をつないで歩いている。しっかりつながれた手・・・＜明日もがんばれる＞。
　義朗がやってきて，就職の話をする。「贅沢言ってられないから」とこの前の企業を勧める義朗に，「残業の多そうな所，よすよ。仕事は大切だよ・・・でも，凛と過ごす時間も大切だから。凛のために言っているんじゃない。オレが凛といたいんだ」と自信を持って伝える徹朗。義朗には，まだ理解できなかった。その時，凛が児童館から帰ってきた。児童館で作ってきた「洋食屋小柳」のメニューをうれしそうに見せる凛。その話をうれしそうに聞いている徹朗。義朗は，その姿を驚きながら見ているだけだった。凛が描いた洋食屋で働く徹朗の絵と仲良くジュースを作る２人の姿をじっと見る義朗。義朗は「お前の好きなようにしろ」と言って帰っていく。「オレのこと心配してくれてありがとう」と徹朗。義朗は，誰もいない家に帰り，鏡の前で自分の顔を見る。そして，仏壇の妻に「知らなかったよ。徹朗があんな顔して笑うなんて。あれが父親の顔という物なのか？」と語りかける。徹朗と凛は，仲良くハーモニカの練習をしていた。
　家庭裁判所。結局，調停が不成立に終わり，審判になることになった。裁判所の帰り，ゆらに会う。徹朗は，ゆらに「審判になる」と。

＜第８話＞

　ハローワークに向かう徹朗。そこには長蛇の列ができている。その列に並ぶ・・・。家では，凛がゆらから英語を教わっている。その時電話が鳴が，凛は，電話を見つめてなかなか出ない。やっとでるが，それは間違い電話。ゆらが「誰だと思ったの？」と尋ねても答えない。そこへ徹朗が帰ってきた。ゆらは，会社を辞めたのにスーツ姿の徹朗を不思議がる。「ハローワーク行ってきたから」と徹朗は，転職が上手くいかなかったことを告げる。ゆらは，出なかった電話がその時の電話だと気づく。徹朗は「パニックになって，つい電話かけちゃったけど，そんな電話かけられても困るだろうし・・」という。でもゆらは「いいですよ，かけても・・・パニックの時，かけてください」。
　徹朗のハローワーク通いは続く。スキルに合わせた仕事を見つけてはくれるが，残業だけはできないと主張する。「ホントに正社員希望しているんですか」と言われてしまう。ゆらは，亮太と待ち合わせをしていた。ゆらは亮太に「私，好きな人がいる」と打ち明ける。それでも亮太は「まだ下りないから」と宣言。そして凛は，下校途中可奈子に出会う。久しぶりの再開を抱き合って喜ぶ２人。喫茶店へ行き，話をする。可奈子は「ホントにごめんね。黙っていなくなって」と凛に謝る。凛は「パリ？」と元気に答える。「パリにいたの」という可奈子は「ご飯ちゃんと食べてる？」と。凛は「はい」と答えるが，徹朗がご飯を作らず，お弁当を買ってきたりしているだけだろうと可奈子。「はい」と凛が答えると「できるだけ早くお母さんが凛と暮らせるようにするから」と可奈子が言う。
　徹朗が家に帰り出前を取るというと，凛が「お父さん，ご飯作らないの」と言い出す。「作れなくなったから」と疲れた様子の徹朗。珍しく凛は「ご飯作ってよ」としつこく言ってくる。久しぶりにいらだち，大きな声を出してしまう徹朗。しかし，すぐに「ごめん」と謝る。そんなとき，宮林から電話がかかってきた・・・。
　スーパーで買い物をするゆらと坪井が出会う。ゆらは改めて凛の家庭教師をしていることを告げる。坪井は「凛ちゃんのデザートはプリンとナタデココどっちがいいと思います？」と小柳家でご飯を食べることを臭わす。別れ際，「またお会いするかも知れませんね」とゆらに言う坪井。そして初めて自己紹介。ゆらは「北島三郎の北島です」と。それで２人は別れたが，実は坪井一人ではなく，宮林も岸本も一緒に買い物に来ていたのだった。徹朗の家で，みんなが集まった。凛の隣に座り，世話を焼く坪井。みんなで仕事の話をする。宮林は課長になったが，徹朗だったら新しい職場ではすぐ部長だろうと。徹朗は，転職が上手くいかなかったことを言うことができなかった。食事会も終わり，岸本と坪井が２人帰っていく。岸本は「小柳さん，彼女いるのかな。女の髪の毛見つけちゃった」。凛とは違う髪の毛があったと。すると坪井は「じゃ，与作・・・北島三郎」というが「わかんねぇ」と岸本。そして坪井は「凛ちゃんには絶対勝てないよね。どんなにがんばっても２番にしかなれない・・・私，１番がいいな」と寂しそう。
　宮林は，ソファーで眠ってしまっていた。徹朗がテーブルを片付けていると，ふと目覚め，ビールを飲むという。そして「いい話だよな。娘のために出世を諦めて転職するなんて・・・オレ悪人。極悪人」と言い出す。宮林は，井上とは合わず，早く自分を評価してくれる部長が来てほしいと願っていた。「そしたら死んじゃった。悲しむよりも先に，ちょっとホッとしたんだよ」と打ち明ける。「ホントの極悪人は，そういうこと黙ってますよ」と徹朗。帰ろうとする宮林に，徹朗が「どうして急にそんなこと」というと，宮林は「お前がライバルじゃなくなったから」と徹朗の出世を気にしていたことを初めて打ち明ける。
　凛は，ベッドの中に入ったものの，眠れない。そこへ徹朗がやってきた。凛は「お父さん，凛の家はここだよね」と。「どうかしたの？」と徹朗はなぜそんなことを言いだしたのかわからなかった。それには答えず「お休みなさい」と凛。
　ハローワークで相談していると，電話が鳴る。義朗からだった。義朗は，どうしても徹朗が仕事を辞めた理由を聞きたいと言う。「そんなこと話している時間ないから」と徹朗。義朗が「この前みたいに黙って切るな」というと「切らせていただきます」と冷たく電話を切ってしまう徹朗。再度相談しようとすると，また電話が。相手も確かめず「今忙しいんだよ！」と怒鳴ってしまう。「じゃでなきゃいいのに」という声は，可奈子だった。可奈子と待ち合わせをする徹朗。
　夜。ゆらと凛。凛は「お父さん，元気ないんだ」と心配している。仕事のことは何も聞いていないという。ゆらが「一緒に遊園地行く？」と尋ねると，凛は「３人がいい・・・凛とお父さんと，お母さん。３人で住みたい。どうして一緒はダメなの」と。初めてゆらに可奈子と会ったことを伝える。そして凛は，ラッキースタンプのことを思い出し，がんばって貼ったスタンプ台を広げ「これ見せれば３人一緒でって言うかな」と期待している。そのころ，徹朗と可奈子は話し合いをしていた。可奈子は，凛に「きれいになった」と言われたことを嬉しそうに話す。新しい生活も落ち着き，キュレーターとしての仕事も順調で「だから迎えに来たの。これからは私が凛と暮らす。その方がいいでしょ」。徹朗が「凛は渡せない」というと「世間体が悪いから？」と以前の徹朗しか知らない可奈子は，徹朗が否定しても理解できない。徹朗「凛を愛していないんだろう」。これには「愛している」と答えた。あのときは，気持ちが不安定でそういうしかなかった。新しい人生を踏み出すには，凛を捨てる覚悟が必要だったと語る。「凛を捨てたんだ」と徹朗。可奈子は「落ち着いたら迎えにくるつもりだった」と。話を聞いても「とにかく，凛は渡せない。勝手に会うのもやめてくれ」と徹朗。「凛の気持ちはどうかしら」と可奈子。
　徹朗は家に帰ると，凛に「お母さんに会ったんだってな」と話す。凛は「３人一緒がいい」と部屋へこもってしまう。徹朗は「ちゃんと話しただろう。お父さんとお母さんは離婚したって」と話をするが「３人一緒がいい！」と凛はベッドに潜り込み，話を聞こうとしない。徹朗はゆらに「可奈子，凛に一緒に暮らそうって言ったんだ」と打ち明ける。ゆらは「ちゃんと話すれば理解できるんじゃないですか」と。仕事のことも。難しいことは理解できなくても理由を話してもらえたことで安心するだろうと。徹朗は「可奈子と会ったことどうして話さなかったと思う？母親の方がいいのかな・・・全く可奈子のヤツ今更なんだって言うんだよ。家を出てから凛を見ていたのはオレだぞ」と。ゆらは「でもその前はずっとお母さんが・・・」。そして「凛ちゃん，お父さんとお母さん，どっちか選ぶなんてことできないんだと思います」と言って，帰っていく。徹朗は凛の部屋へ。凛は眠っていたが，徹朗が声をかけると目を覚ました。「話あるけど，眠いか」と徹朗。すると凛は起きだし，黙ってお風呂の用意をし始めた。「お父さんと口ききたくないのか？」と徹朗が聞いても黙ったまま，顔を見ようともしない。「そうか，こうしよう。ちょっとだけここに座ってくれないか。お父さんが話すことがわかったら，こうしてくれないか・・・わかったら，ピースだ」。凛は，徹朗の側に座る。徹朗は，まず仕事のことを話した。転職ができず，今は大変なとき。だけれど，元気を出すし，落ち着いたら料理も作ると。「わかったか？」という徹朗に，ピースを出す凛。そして次に可奈子のこと。離婚をしてもう仲良くできないこと。凛は悪くないこと。３人一緒に住むことはできないこと・・・「わかったか？」。一瞬動く指をギュッと握りしめる凛。手はグーのままだった・・・。次の朝。凛は元気がない。徹朗が「ジュース作ろう」と言っても返事もしないし，徹朗の方を見ない。一緒に家を出るが，凛はさっさと先を歩いていってしまう。
　可奈子の泊まっているホテルに，美奈子がやってきた。いきなりビンタをする美奈子。「自分が何をしたのかわかっているの」。可奈子が「凛のことはごめんなさい。今は，凛と暮らしたい」というが，美奈子は「またいつか自分の都合で手放すことあるんじゃない」と。「２度と手放さない」と言う可奈子。「自分の人生取り戻したら，迎えに行くつもりだった。わずかの間だからって我慢していた・・・でも例えわずかの間でも離れちゃいけなかった・・・ホントは会いに来ちゃいけなかったのかも知れない」と反省し泣き出す。美奈子は「ずっとここに泊まるつもり？お布団干してきたの・・・家に帰ってらっしゃい」と優しく話しかける。
　徹朗は，面接をするが勤務時間が限られるので受け入れてもらえない。その足で，小学校へ向かう。クラスで母親に作ってもらったバッグをうれしそうに見せていた子がいたが，そのバッグを凛が取り上げ床に投げつけてしまったという。しかもその子に対して謝らない。徹朗は，石田に，３人で暮らしたがっているがそれはできないと伝え，凛がそれを認めたくないと，今の状況を説明る。石田は「悪いことしたと心を痛めています。今日の所は，叱らないでそっとして置いた方が」とアドバイスする。教室に一人残っている凛を迎えに行き「帰ろう」と声をかける。帰り道，土手に座って中華まんを食べる２人。何も話さない。すると，凛がそっとピースサインをしているのが徹朗の目に入った。「昨日の話，わかってくれたってこと？」と徹朗が言うと，うなずいてピースをしている凛。「ごめんな，凛」と徹朗。そのまま黙って食べ続ける２人・・・。
　＜人はなぜ，愛する人を傷つけてしまうのだろう・・・＞
　電話をする徹朗・・・。そしてゆらの家へ。
　＜なぜ，ただ愛することだけできないのだろう＞
　徹朗は「オレ，変わったかな」と。「はい。すごく変わったと思います」とゆら。すると徹朗は「思ったんだ。凛のために，やり直せないかって。今のオレなら，やり直せるんじゃないかって。可奈子と・・・どう思う？」。「私に聞かないでください」と黙ってしまうゆらだったが「やり直せるなら，それが一番いいと思います」。徹朗がどれだけ変わったのか，ちょっとうれしそうに話すゆら。「とにかく今の小柳さんは，何より凛ちゃんを大切にしていると思います。だから・・」と次の言葉が出てこない。徹朗は「オレが変われたのは，凛のおかげ。それから・・・北島さんのおかげだから。ありがとう」と家を出ていく。残ったゆらは，一人泣き出した・・・。
　可奈子が家に来た。凛は公園へ行っていなかった。可奈子が来ることも伝えていなかった。部屋を見渡した可奈子は「変わってないのね」。紅茶を入れるという徹朗に，ちょっと驚く可奈子。それでも「凛に聞いてくれた？私と暮らすこと。ホントにこのまま凛と暮らすつもり？」と。徹朗が「オレ，変わったんだ」というと，可奈子は「どんな風に？」。徹朗は「それは，可奈子の目で確かめてくれないか・・・もう１度ここで，３人で暮らさないか」と切り出す。
　楽しそうにはしゃぐ親子連れを見つめる凛。いつものメンバーで食べ放題を楽しもうとしているゆら。そして徹朗は「やり直そう。オレと可奈子と凛の３人で」。

＜第７話＞

　職場。座る人のいないイス・・・。支店長がやってきて，井上のことを説明する。命は取り留めたが，まだ危険な状態。宮林が言うには，井上が飛び降りた理由は，常務にならなかったかららしい。しかし，発表は今日のはず・・・「すでに知らされていたらしい」と宮林。昨夜話したときの井上を思い出す徹朗。父の病院へ，着替えなどを届けに行く徹朗。頼まれたアンパンを渡すが，義朗はつぶあんじゃないと文句を言い出す。「だったら自分で買えよ！」と怒鳴り返す徹朗。こんなつまらないことで口論になってしまうが，徹朗は「どうして骨なんか折ったんだよ！どうして入院なんかしたんだよ！・・・面会時間が気になって，井上部長のこと気づけなかった・・おやじのせいだからな！どうしてくれるんだよ！」と義朗に当たっていた。何も知らなかった義朗は，徹朗から事情を知らされる。ちょっと落ち着き「ごめん・・・今度はちゃんとつぶあん買ってくるよ」と言って去っていく徹朗。
　家に帰ると，玄関にはゆらの靴が。井上の状態を心配するゆらに「まだ意識は戻らないんだ」と伝える。ゆらは一旦帰ろうとしたが，徹朗の様子が気になり帰れない。徹朗は井上のことを話し始める。「常務になれなかったから死のうとしたらしいんだ・・今思うと，夕べの井上部長おかしかった・・なんで気づかなかったんだろう」。落ち込んでいる徹朗のために，ココアを入れるゆら。「凛ちゃん，心配していましたよ」とゆら。「凛の前で，こんな顔していたらダメだよな」とゆらのいれてくれたココアを飲む。「おいしい・・誰かにいれてもらったココアの方が美味しいよな。前は，こんなこと思ったことも無かった」。
　朝。凛の前では，明るく振る舞う徹朗。「ジャーン！これから，毎朝特製ジュース作るから」と，ぎこちない手つきでバナナジュースを作り始める。できあがったジュースを「美味しい」と飲む２人の口には，ジュースのヒゲが仲良くできていた。職場では，まだ井上のことが心配で，休憩コーナーで話す徹朗，宮林，岸本。「元気になったら，井上部長，会社はどう受け入れるんでしょうね」と岸本。宮林は「会社はいざというとき冷たいからな」。徹朗は何も言わない。そこへ，坪井が井上の意識が戻った報告に来る。ホッとするみんな。徹朗は，一番にゆらに電話で知らせていた。電話を受けたゆらもうれしそう。
　休日。掃除をしているとき，凛が「今日，遊園地行きたい」と言い出すが，「ごめん。どうしても行きたいところがあるんだ。留守番していてくれないか」という徹朗。徹朗が向かったのは，井上が入院している病院。同じ頃，ゆらは，友人の結婚パーティーに出席していた。結婚よりも恋をしたいという亜希。一方亮太は「好きになったら結婚を考える。奥さんにはいつもきれいでいて欲しい」と，ゆらを意識して話していた。病院で，徹朗は井上と面会することができた。井上は，驚くほどおだやかな表情をしており，徹朗が「井上部長」と呼ぶと，「オレはみどり銀行東兜町支店の法人営業部長だったんだよなぁ・・全てのことが遠い昔のことに思える・・遠い昔のことなんだ」。徹朗がその意味を尋ねると，そして突然「シクラメンのかほり」を歌い出す。これは井上のカラオケの十八番。徹朗に，正直にどう思うか尋ねてきた。徹朗も遠慮なく「やめた方がいいと思います」と答える。理由は「ああいう歌はうまい人歌わないと・・」。「下手だもんな」と井上。さらに徹朗は「下手だけならいいんですけど，下手なのに気持ちよさそうに歌われると・・・」。「もっと早く言ってくれよ・・・言えないか」と井上。２人とも楽しそうに話す。そして井上は「新しい職場では，歌うのよすよ」。井上は，みどり銀行に戻るつもりはなかった。「出世争いにも負けたことだし，のんびりやるよ・・・奥さんに怒られちゃったよ。息子と娘にも・・」と泣き出す井上。でもすぐおだやかな表情に戻り「新しい仕事，上手くいくといいな。子どものことも。お前ならきっと上手くいく・・・オレ，もう大丈夫だから」。
　病院の帰り，徹朗がスーパーによると，結婚パーティー帰りのゆらに会う。いつもの格好とは違いドレスアップしたゆらに，ハッとする徹朗。井上のことを「思ったよりずっと元気だった」と伝える。帰り道，２人で話しながら歩いているところを，偶然美奈子に見られる。凛が遊園地に行きたがっていたから，今度一緒に行こうと誘っていると，美奈子が声をかけてきた。ゆらと別れた後，「すてきな人よねぇ」と言った後で，美奈子は「誰かとおつき合いすることがあっても，凛ちゃんのことだけは，ちゃんと考えてあげてね」と言う。徹朗が「はい。でも，そんなことまだ考えていません」というと「そうよね。いくらなんでも早いわよね」と美奈子。その日の夜。井上の病室があわただしくなった・・・・。
　次の日の朝。職場で，井上が亡くなったことを知らされる。「オレ，昨日，会ったんだけど・・・オレ，昨日，話したんだけど」と呆然とする徹朗。井上の葬儀の後の忌中払い，いつものメンバーで食べている。岸本が「納得行きませんよ，出世できなくて死ぬなんて」というと「男のプライドが許せなかったんだろう」と宮林。坪井は「バカみたい」と泣いている。宮林は「井上部長が特別じゃない。男のプライドが何よりも大切建ち王人多いよ」。岸本は「オレは井上部長みたいにはならない」という。そんな中で，徹朗は淡々と食事をしていた・・・。
　新しい部長がやってきた。徹朗には「お前も負け組か」と一言。その日，飲み会でカラオケボックスへ。マイクを離さないことで有名な香山部長。１曲歌い終わると，流れてきたのは「シクラメンのかほり」。でも誰も歌う人がいない。部長が「消せ！」と叫び，消されるが，また流れてきたのは「シクラメンのかほり」。何度か繰り返され，はっと思いついた宮林・岸本・坪井が徹朗を見る。徹朗は，そーっとピース。まだ「シクラメンのかほり」のイントロが何度も続いていた・・・。徹朗は，「シクラメンのかほり」を口ずさみながらトイレへ。手を洗うとき，そこに表示された「禁煙」を見て，あの日の夜，井上部長が「専務になったら，全面禁煙にするかな」と言っていたことを思い出す。こらえきれずに泣き出す徹朗。
　＜人は彼を負けた人間と言うだろう。でも，オレは，彼が安らかに眠りについたと信じている。彼は最後の最後に，かけがえのない家族の存在に気づいたのだから＞
　ベッドの上に座って考え込む徹朗。そこへ凛がやってきた。「どうした？眠れないのか？」と徹朗。凛が頷くと「こっちおいで」と自分の隣に呼ぶ。凛を抱き寄せ「ありがとな。ありがとう，凛。お父さんの子どもに生まれてきてくれて，ありがとう」。
　職場。「お世話になりました。ありがとうございました」と退職の挨拶をする徹朗。坪井から花束が渡される。その日の夜，徹朗が店で食べていると，坪井がやってきた。宮林と岸本も来るはずだったが，仕事が終わらず今夜は無理と言うことだった。「徹朗さん」と呼ぶ坪井に困惑する徹朗だが，坪井は「会社辞めたから，小柳代理じゃおかしいでしょ」と。「小柳さんでお願いします」と徹朗。もうビールも飲まないと。その時電話が鳴る。義朗からだった。病室で知り合った人に頼まれた融資の話を聞いてやって欲しいと。徹朗は「みどり銀行の社員でなくても良ければ」と初めて会社を辞めたことを伝える。驚く義朗に「キングバーンスタイン証券に行くんだよ。ヘッドハンティングされたんだ」と。これに大喜びする義朗だが，すぐそれはウソで近所の信用金庫に行くと。今度は怒り出す義朗。「どうしてオレに断りもなく辞めたりするんだ！お前が一人前になるまで，誰が育てたと思ってるんだ。誰が立派に育てたと思っているんだ！定年を向かえた途端に，どうして親不孝ばかり・・・」。徹朗は何も言わず電話を切ってしまった。徹朗は，席に戻るとビールを頼み，飲み始めてしまった。
　ゆらと亜希は，映画の帰りだったが，ゆらがトイレに行きたくなり，近くのお店に入る。そこは，偶然にも徹朗と坪井が食事をしている店だった。すでに酔いつぶれている徹朗。それを見つけたゆら。「知り合いの者です」というゆらに，坪井は「徹朗さん」と呼んだり，まるで徹朗の恋人のように振る舞う。何も知らず酔いつぶれている徹朗。ゆらが帰るときも，まだ徹朗は眠っており「せっかくのデートだけど」と坪井はゆらに言う。そして，家に連れて帰ったのは坪井。玄関から引きずってくると，凛の姿が。凛を見て驚く坪井。凛が「お父さん，寝ているんですか」というと「お酒飲み過ぎちゃって」と坪井。凛に部屋を教えてもらい，徹朗を引きずっていく。そのころ，ゆらは，一旦ベッドに入ったものの，眠れずにいた。結局起きだし，目に留まった焦げ付いた鍋を磨き始める。その鍋は，井上の意識が戻ったとうれしそうに報告する徹朗と電話で話していて焦がしてしまったものだった・・・。
　朝。凛がなぜか不機嫌。「坪井さんと凛がベッドまで運んでくれたのか・・・ごめんな」と謝る徹朗。凛はまだ不機嫌なまま「坪井さんにも迷惑かけたんだから，謝らないと」と。「はい。そうだよな・・ごめんな」と謝るだけの徹朗。不機嫌だった凛は「今日のジュースは？」。徹朗が「バナナとリンゴでどうだ」というと，凛も笑顔になる。作り始めると電話が。新しい会社からで，今日来てほしいという内容だった。完成したジュースを「おいしい」と飲む２人には，またヒゲができていた。そして徹朗は「次の会社に行くまでゆっくりできるから，料理に挑戦しようと思うんだ」と。すると「えーっ！」と信じられない凛。楽しそうな２人。
　徹朗が，新しい会社へ行くと，徹朗の条件が受け入れられなくなったと切り出される。９時から５時残業なしという条件で受け入れると言ったのは，新規部署で働いてもらうためだったが，その計画が延期になってしまったのだった。その変わりに，法人営業部長として受け入れたいと。そうなると，９時〜５時というわけにはいかない。「条件を変えるわけにはいきません」と徹朗。これで採用の話はなくなってしまった。呆然と帰る徹朗。ゆらに電話をかけてみるが，出ない。ゆらは，誰からの電話かわかり，迷いながらもでなかった。キッチンには，きれいに磨かれたあの鍋があった・・・。
　そのころ，一人留守番している凛の元に１本の電話が。可奈子からだった。「ごめんね，連絡しなくて。お母さん，凛と一緒に暮らしたいの」という可奈子。凛は「うちに帰ってくるの」と喜ぶが，可奈子の言葉は・・・「その家には帰らない。お母さん，凛を迎えに行く」。


＜第６話＞

　「会社を辞めさせていただきたいんです」と言い出した徹朗。仕事の引き継ぎがあるので，来月末での退職を切り出した。退職後は，自宅近くの信用金庫へお世話になると。定時で帰れるが，給料は今までの半分・・・。「後悔する日がくるぞ」と井上。そして「ムカツク！」と。徹朗がこの程度のヤツだったと見抜けなかった自分に「ムカツク」ということだった。
　夜。凛は，ゆらと漢字の学習をしていた。徹朗が自宅へ帰ろうとすると，マンションの前に石田が待っていた。徹朗が石田を連れて帰ると，一瞬にして凛の表情が硬くなる。挨拶すらできない。徹朗と石田が話をするため，凛はゆらと部屋へ。石田は，カバンの中から，凛が盗られた下敷きと靴をとりだした。クラスの女の子２人が盗ったという。凛の困っている顔を見るのが面白かったから，というのが理由だったそうだ。盗られた相手の気持ちを考えるように指導したという。盗った子達も反省している。そして，休んでいる間の連絡等のプリントを手渡し「教師になりたての頃は，こんなにためないで届けていたんですけどね・・」という石田。徹朗は，きちんと対応してくれた石田に感謝し，これで凛も学校へ行けると安心した。しかし凛は「行きたくないです」というだけだった。
　職場では，井上がいつも以上にピリピリしていた。明日は人事の発表。井上の昇進もかかっていた。その日，宮林といつものように食事をするが，「井上部長が常務になったらお前は安泰だな」という宮林。しかし，徹朗はそんなことを全く気にしてない。「来月一杯でやめるんですよ」とさらっと言う徹朗。「冗談だろう」と驚くだけの宮林を置いて，仕事へ向かう。夜。宮林を自宅へ連れてくる。ゆらは，食器を片付けながら徹朗達を普通に迎える。それに驚いてしまう宮林も，家庭教師と聞いて安心する。徹朗と宮林が会社を辞める話をしているのを，偶然聞いてしまうゆらだったが，何も聞かなかったように帰っていった。徹朗と宮林は，ビールを飲みながら話を続ける。残業も転勤もない信用金庫へ転職するという徹朗に「いいのかよ」と宮林。そんな宮林のことを逆に意外だと思う徹朗「反対しないと思った」。宮林は「あれほど出世したかったお前が」と言うが「ホント，出世したかったですから」とさらっと言う徹朗。「なんで，そんなさっぱりしているんだよ」という宮林に「ですよねぇ」と他人事のような徹朗だった。
　朝。美奈子がやってくる。学校へ行けない凛のことをみるために来てくれたのだった。一緒にお手製お子さまランチ食べながら，学校の話をすると，うつむくだけで返事もできなくなる凛。勉強が遅れないように一緒に勉強しようと美奈子が言うと「ゆら先生としています」と凛。英語だけでなく，他の教科も教えてもらっていると聞いて驚く美奈子。徹朗は，義朗が入院している病院へ向かう。義朗はケガをした原因を言わず，「第２の人生を楽しんでいたのに・・」と。家に帰って，美奈子に義朗の状況を伝える。義朗は，階段を下りようとして足をすべらせ，骨折してしまったのだった。美奈子は「入院してよかったんじゃないの」という。趣味もなく，近所づきあいもなかった義朗に，家にいるのは辛いんじゃないか。「自由になればなるほど，不自由に感じるタイプよ」。
　ゆらがお風呂から上がると，亮太から電話がかかってきた。上司にたてついて自己嫌悪に陥り，酔っぱらって電話をかけてきていた。「話を聞いてくれよ」という亮太に「もうお風呂入っちゃったから」と断る。ゆらの態度に「迷惑？」と亮太。それには答えずに，一旦電話を切ってからもう１度電話をするという。それならいいと電話を切る亮太。
　徹朗が営業へ行こうとすると，宮林が呼び止める。「今夜つきあってくれ」と。美奈子が来てくれていることを知っているので，断りにくい。徹朗が仕方なくつきあうと・・・合コンだった。そのころ，ゆらがいつものように家庭教師に来ていたが，それを複雑な表情で見ている美奈子。ゆらと話をし「週４日も？・・すっかり頼っちゃっているみたいで。迷惑なら言ってくださいね」と美奈子。徹朗の方は，合コンにまったく乗り気じゃない。女の子がいろいろアピールしてきても，テンションが低いまま。徹朗がみどり銀行を辞めることを知ると，女の子は「会社を始めるとか？」と言い出すが，徹朗は相手にしない。徹朗が洗面所で家に電話をかけていると，宮林もやってきた。その時，女の子達の話し声が。彼女たちは「みどり銀行」の人が来るからと楽しみしていただけであって，やめると聞くと文句。「クビなんじゃない」「仕事できなさそう」と勝手に言っている。帰り道。「『みどり銀行』って言うだけで人の見る目が違うんだよな」という宮林は「仕事できないヤツって思われてどう？誰よりも仕事できるお前が」というが，徹朗本人は気にしていない様子。「プライドとか無いのか」と言う宮林に，徹朗は「どうしたんですか？宮林さんがムキになること無いじゃないですか」。　
　徹朗と別れた宮林は，偶然，井上が歩いていくのを見つける。偶然を装って，井上と一緒に飲もうとする。宮林が「誘ってもらったことがないから」というと「嫌いだもん。かっこいいから」と井上。格好良くて仕事ができると，嫉妬され上司にかわいがられないから，わざとメガネをかけ，わざとダメなヤツとアピールするところが嫌いだと。井上は，宮林が誰よりも出世や肩書きが気になることを見抜いていた。「安心しろ。お前の仕事ぶりは評価しているし，ちゃんと上にはそう伝えてあるから」と言った後で「一人で飲みたいんだ」。
　徹朗が家に戻ると，美奈子に「北島さんのことなんだけど，ちょっと甘えすぎなんじゃない」と注意される。「気を付けます」と徹朗。ゆらの家には，亜希が来ていて，ゆらを合コンに誘うが，家庭教師を理由に断る。融通が利くはずなのにと不思議がる亜希だったが「好きな人できた？」。これには何も答えないゆら。徹朗がベッドの中に入った途端，凛の泣き声が聞こえてきた。慌てて凛の元へ走っていく徹朗。「お母さん」と泣きじゃくる凛を「大丈夫だから」と抱きしめる徹朗。
　義朗の入院する病院へ行くと，義朗はちょっと出ているときだった。隣の人は「来るなら花ぐらい持ってきてあげたら」とアドバイスする。実は，義朗のお見舞いに来ているのは，息子の徹朗だけだったのだった。同室の他の人の枕元には，花が飾ってあったり，お見舞いの品が置いてあったりする。義朗の所だけ，何もなかった。家に帰ると，徹朗はゆらに「小学生の頃思い出したんだ」と話を始める。義朗が盲腸で入院したことがあった。その時には，たくさんの見舞客が訪れ「親父ってすごい人」と思った。お中元・お歳暮も毎年たくさん届き，徹朗が結婚した後は，母親が徹朗の元へもそれを送ってきたぐらいだった。ところが，ある時からそれが届けられなくなった。徹朗は，その時は深く考えなかったが，ちょうど届かなくなったのは，義朗が55歳になり役職から退いた頃だった。お見舞いの花も，お中元・お歳暮も，「義朗」にではなく，「会社名」「肩書き」に贈られたものだった。「北島さんがキングバーンスタインをやめた理由，今ならわかる気がする」と徹朗は，ゆらに会社を辞めることを告げる。「そうですか」と冷静に答えるゆら。徹朗は「驚いた？」というが「はい」と冷静なゆら。「もっと何か言うかと・・」という徹朗に，ゆらは「何か言って欲しいんですか」。徹朗は「凛のこともなんとかしなくちゃ」と。早く学校へ行けるようにしたい。するとゆらは「気分転換できるような所に行くって言うのは？」とアドバイス。徹朗が，クラッカーを探しに席を立つと，「間違っていないと思います，会社やめること」とゆら。それを聞いて「そう・・よかった」と安心する徹朗。
　徹朗と凛は，電車に乗ってお出かけ。一面の雪景色へ。雪の中，楽しく遊ぶ２人。雪の中に座り，「学校どうするんだ」と徹朗。凛は何も答えない。徹朗は「行くの怖いのか？行きたくないならいいよ。お父さん，待つから」と。そして凛に会社を辞めることを告げ「どう思う？」と。凛には答えられなかったが，徹朗が「考え方が変わって，今までと違う生き方をしたいんだ・・・凛ともっと一緒にいたいんだ」というと，満面の笑みで徹朗を見つめる凛。そして，雪合戦を楽しむ２人・・・。
　＜娘は，母親のいない寂しさをずっと抱えて生きていくだろう。だけど，１分１秒でも長く娘には笑顔でいて欲しい・・・＞
　ゆらの家にお土産を持っていく２人。お土産は・・・凛が作った小さな雪だるまだった。
　＜・・・愛されていると感じて欲しい＞
　次の日の朝。徹朗が出勤しようと玄関で靴を履いていると，学校へ行く支度を終えた凛が出てくる。「学校へ行くのか？」と徹朗が言うと「はい」と凛。２人で学校へ向かうが，凛の表情は硬い。徹朗も心配してみている。学校の門の所まで行くと，いつものように石田が児童を迎えていた。門の前で，立ち止まる凛。徹朗も石田も，凛を見守っている。徹朗は「無理しなくていいぞ。ここまで来ただけでもがんばったから」と。ふと顔を上げた凛が何かを見つける。じっと見ていた凛は，学校の看板を指さし「お父さんが学校の中にいます」と。「校」という文字の中には「父」が含まれていた。「お父さんが一緒にいてくれると思ってがんばります」と凛は，門の中へ。石田にもちゃんと挨拶をし，しっかりとした足取りで校舎へ向かう。お互いに黙って頭を下げる徹朗と石田。
　職場では，井上がみんなのまで徹朗の退職を発表する。その後，徹朗が休憩コーナーに行くと，坪井が来て「どうしてやめちゃうんですか・・寂しくなります」と。「オレのことからかえなくなるから？」と徹朗。複雑な坪井・・。すると岸本がやってきて，みんなヘッドハンティングされたと噂しているという。「どこの会社行くんですか」と岸本が言っても「知らない会社だよ」と徹朗。岸本は，井上がこのまま昇進すれば，徹朗は最年少支店長間違いなし・・そんな状況を捨ててまで転職するなら何か魅力があるんだろう「じゃないと奥さんも転職には反対するだろうし・・」という。「奥さんならいないよ。離婚したから」とあっさり伝える徹朗。
　夜，一人残る徹朗が帰宅準備を始めると，井上が戻ってきた。「人事の発表，明日ですね。やっぱり落ち着きませんか」と徹朗。井上は自分のイスに座り「自宅のソファよりこのイスの方が落ち着くんだ」という。そして徹朗は「すいませんでした。育ててもらったのに期待を裏切るようなことをして・・」と謝るが，「うぬぼれるな」と井上。時間を気にする徹朗は「父が入院して，面会時間が厳しいところなので失礼します」と先に帰っていった。帰ろうとする徹朗に「小柳・・・おつかれさん」と声をかける井上。一人残り，禁煙に成功していたはずの井上だが，タバコを吸いながら考え込む・・・。
　急いで病室へ向かう徹朗。手には花束が。ドアを開けようとすると，義朗のうれしそうな声が聞こえてきた。「息子はみどり銀行に勤めているんですよ」と話す。話し相手も「立派な息子さんで」と誉める。そんな会話を聞いた徹朗は，中にも入らず出ていってしまった。お風呂上がりのゆらの元に電話が。徹朗からだった。「親父の顔が見られなくてさ・・・ごめん。変な電話で迷惑だよな」と徹朗。「電話一旦切ってもいいですか」というゆらは，急いで徹朗の元へやってきた。「わざわざごめん」と徹朗。ゆらは「話したいことがあったみたいだから」。徹朗は「会社やめること親父に言えそうになくてさ。言っちゃいそうなんだよ。オレは親父みたいに，肩書きだけでしたいきられない人間にはなりたくないって。親父は，そんなこときれい事だとか，何でわざわざそんな人生選ぶんだとか言うんだろうなぁ・・・オレ，うれしかったよ。間違ってないって言ってくれて」。ゆらは「私も辞めるとき悩みましたけど・・今も思うんです。どの道を選ぶかよりも，選んだ道でどう生きるかの方が重要なんじゃないかって」。徹朗が「なんかありがとう。わざわざ来てくれて・・・どうしてきてくれたの」というと，答えられないゆら。黙ったまま見つめ合う２人・・・。その時，徹朗の携帯が鳴った。慌てて出ると・・・「井上部長が・・・・飛び降りた・・・」。
＜第５話＞

　職場。井上が徹朗と岸本を呼んだ。岸本の企画が具体的にすることになった。岸本がリーダーで，徹朗がそれをサポートする。徹朗が井上にお礼を言うと，たまたま時期がよかっただけで「岸本を調子に乗らせるなよ」と釘を刺す井上だった。それを知らない岸本は「一生小柳代理に付いていきます」と。
　凛は，上履きのまま帰宅した。それを見つからないように，ベッドの下に隠した。夜になり，徹朗は凛に電話で遅くなると連絡する。この日はゆらが来ている日。凛はゆらに学校のことを聞かれると，ちょっとうつむき黙ったまま。そして「ゲームやろう」と話をそらした。その様子が気になるゆら。そのころ徹朗は，坪井と食事をしていた。相談事があると言うから誘いに乗ったが，相談は何も無いという坪井。お酒も飲まず，警戒している徹朗に「そんなに警戒しなくても」と坪井。警戒はしていないという徹朗だが，３年前のことというだけで，うろたえてしまう。「困らせようとは思っていないですから。たまにはご飯食べてくれたっていいじゃないですか」と坪井。それでも困っている徹朗に「ホントにご飯だけで帰してあげますから」と坪井。
　朝，徹朗は，洗濯物の中から体操着袋を見つけ凛に持っていく。すると凛はあわてて上履きを隠した。徹朗は，なぜ凛が上履きを隠したのかわからなかった。２人そろって家を出るとき，徹朗は凛の靴が違うのに気づく。やっとうわばきの件が納得がいった徹朗は「うわばきのまま帰ったな。履き替えるの忘れたんだろう・・ドジだなぁ」と徹朗。凛は「違います」ときっぱりと言う。そして「無くなりました」とやっと事実を伝える。落ち込む凛に「気にすることはないって。いたずらのうちにも入らないよ」と徹朗。手をつないでいつもの道を歩く。
　会社での会議で，井上が年度末キャンペーンについて説明する。各自の目標は「50件２億円」。これから忙しくなる。家に帰り，リビングのテーブルで食事をする徹朗と凛。徹朗が学校の話を聞くと話したがらない凛。まだ靴は見つからない。さらに「体操着袋もなくなっちゃいました・・・お母さんが作ってくれた袋なのに・・」と泣き出してしまった。次の日の朝，徹朗は，凛に今回の出来事を先生に言うように話す。「なるべく早く帰るから」と徹朗。職場に行くと，井上が今夜の接待の話を始める。「今夜はちょっと・・急な用が入ってしまって」と断る徹朗。接待は以前から決まっており，接待先は徹朗の担当になるはずだった。徹朗の態度に怒った井上は岸本に接待に来るように言い「お前が担当だ」と，徹朗にも聞こえるように伝える。
　夜。徹朗が帰ると，まだゆらも残っていた。凛は結局担任に伝えることができなかった。なぜ取られるのかも，全くわからなかった。ゆらと２人きりになると徹朗は「なんで人の物盗ったりするのかなぁ」と。「いじめられているんじゃ」と心配するゆら。「先生に伝えた方が」というゆら。「わざわざいいに行くのも・・」という徹朗に「連絡帳使うとか」とアドバイスする。早速連絡帳に書こうとする徹朗。それを見て帰ろうとするゆらだったが「どういう風に書いたらいいのかな」と徹朗。
　そのころ，会社には，岸本と坪井が残っていた。坪井が岸本に「私，どんな子に見える？」と言い出す。坪井は，子どもの頃からまじめでいい子だった。それがイヤで殻を破ろうと「３年前悪いことしちゃった・・・やめとけばよかったかな。おかげで好きになっちゃった・・・なんてね」。何も知らない岸本は「わかんねぇ・・・」。一方，徹朗は連絡帳への書き方をゆらに指導してもらっていた。何度も何度も書き直し，やっとできあがった。
　次の日。職場で井上に謝罪をする徹朗だったが，井上は「岸本でよかったよ。先方とスキューバダイビングの話で盛り上がったし・・・それとも，お前もやるのか？」とイヤミを言う。何も言えない徹朗。気にする岸本に「気にすること無いよ」と。徹朗が残業していると，宮林がやってきた。成績グラフを見て「今月出遅れているなぁ」と徹朗に言う。徹朗の成績はかなり悪かった。「すぐ挽回しますよ」と徹朗。その時ゆらから電話が来た。凛がゆらの家に来ているという。今日は下敷きが無くなってしまったらしく元気がなかったと。「なるべく早く迎えに行きますから」と徹朗。
　徹朗がゆらの家に行くと，凛は眠っていた。凛の寝顔を見ている徹朗に「体操着袋なくなって，お母さんへの思いが一気にあふれたみたいです」とゆら。凛は「お母さんは凛にあえなくて寂しくないの？」と言ったという。それは，凛がお母さんに会えなくて寂しいということだった。徹朗は「やっぱり会いたいんだろうなぁ」と。しばらく沈黙する２人・・・。すると「泊まっていってもいいですよ」とゆら。ちょっと驚く徹朗に，仕事も大変だろうから凛を今晩預かっても大丈夫と。「一緒に帰るから」と徹朗。
　朝。凛は気分が悪くなり吐いてしまった。会社に電話をすると井上はいなくて，坪井が出る。病院行くから遅れると伝える徹朗。凛のためとは言わなかった。病院へ凛を連れていく。結局時間がかかり，１日休むことになった。家で，凛を休ませながら仕事をする徹朗。夜になってゆらがやってきた。凛は精神的なことで体調を崩したという。学校がイヤになってしまったのだった。ゆらは「先生と話し合った方が」と言う。徹朗が「いちいち聞かなくてもやってくれるだろう」というと「怠慢な先生だったら・・・」と心配するゆら。徹朗は「親が出ていったら嫌われるんじゃないかな」と躊躇する。しかし，ゆらの真剣な顔を見て「行くべきだよな」と決心する徹朗。
　学校へ行き，徹朗が凛のことを話す。「すでに対処しました。犯人探しするつもりはないですから。クラス全員に人のもを盗らないように道徳教育をしました」と石田。それを聞いて納得した徹朗は，仕事へ向かう。会社へ戻ると，井上にまた接待の話を持ちかけられるが，「お話ししたいことがあります」と徹朗。別室へ行き２人きりになる。徹朗は接待はなるべくはずして欲しいと伝える。すると井上は「接待も仕事の内だ・・それとも接待のない総務に行くか？」と。「それもや無を得ません」と言い出す徹朗に，井上は「50件，２億円達成してくれ。絶対やれ！」というだけだった。
　深夜遅くまで家で仕事をする徹朗。疲れ切っている。ふと携帯に目が止まり，しばらく見ている。結局，携帯を手に取り，電話をかける。かけた相手は・・・ゆらだった。「寝てた？・・ごめん切るよ」と徹朗。ゆらは「疲れているみたいですね」と話し相手になってくれた。「ちょっとね」と答える徹朗。ゆら「凛ちゃん，学校行けるようになるといいですね」。徹朗は「ホントごめん」と電話を切った。その後徹朗は凛のベッドの側に座り込んだ・・・。
　休日。美奈子が来て，凛と一緒にハンバーグを作っていた。そこへ義朗がやってくる。「納得行くように説明してくれ」と離婚のことを聞き出しに来たのだった。徹朗は凛のことを考え「公園で遊んでおいで」と外に行かせる。そのころ，ゆらは，亮太とテニスを楽しんでいた。途中，亜希もやってきた。その時，凛から電話が。遊びに行きたいという内容だった。ためらうゆらだったが，待ち合わせをすることに。「かまいすぎ」という亜希に，ゆらは「近くにいる大人がその子のことみてあげられるなら，いいんじゃない」と。徹朗の家では，どういっても納得がいかない義朗がいた。美奈子が「夫婦のことは当人にしかわからないことが」と言うと「徹朗にも問題があったとでも？」と。徹朗が「終わりにして欲しいんだけど」と言っても「一家の恥ってわからないのか。最初から間違っていたんだ。結婚する前に子どもができて」と怒るだけだった。徹朗は「凛の前で言わないでくれ・・・凛は今大変なんだから」と。美奈子も今回のことは知らず，徹朗が説明をする。義朗は，甘やかせてきたからだと怒るだけ。徹朗が「担任とちゃんと話をするから」というと，義朗は「学校であったこといちいち親が出ていったら先生に嫌われるだろう。全て任せておけばいいんだ」と徹朗と同じことを言う。納得行かないまま帰っていった義朗。徹朗は美奈子に謝るが「なれているから」と美奈子。徹朗が「なんで退職したのに背広とネクタイなんだろう」と苦笑すると，美奈子は「お父さんらしくていいじゃない」と。その時，ゆらから電話がかかってきた。公園で待ち合わせした２人は，今体操着袋を探しているという。徹朗は場所を聞き出す。２人が探しているところに徹朗もやってきた。３人で夜まで探し続ける。「今日は見つからなかったけど，また探そう」と徹朗。
　朝。学校へ向かった徹朗。石田と話そうとするが「やることはやった」と取り合わない石田。徹朗が「なんで盗られたかもわからないままで・・また同じことが起きるかも知れません」と言っても，「これ以上何をしろというんですか！」と門を閉めてしまう。石田は，他の教員から徹朗が校長と会っていると聞き，慌てて校長室へ。ただ，校長も石田と同じ考えで「犯人を見つけると，そのこの人権問題もある」と説明する。石田は「犯人はいるんですかね」と言い出す。「なくしたのかも・・・盗まれたフリをした可能性もありますよ。お宅はいろいろと問題あるようですから。親の気を引くためうそを付いたと考えられませんか。問題を全て学校に押しつけられてもね」。この担任の態度に「うそは付きません！」と徹朗。石田が「自分のお子さんだけは正しいと？」とイヤミっぽく言うが，「私は凛の父親です」と徹朗。そして「ホントにやっていただけたんですか」と詰め寄ると，石田は「公務員は学校全体に奉仕する身です。お宅の子だけ特別に関わるわけには行きません」きっぱり言う。すると徹朗は「一公務員として行儀よくしている方が大切だと言うんですか」と言い返す。石田が「これ以上私にどうしろと」というと，「本気でやってください！建前は結構ですから，大人が本気で話せば，子どもも本気で聞くと思います。問題も解決すると思います」と真剣な徹朗。「やってくれないのなら，凛が安心してこれるようになるまで，毎日でも来ます」と宣言する。これには校長も「わかりました。もう一度調べなおしましょう」と。校長室を出てくると，慌てて追いかけてくる石田。「担任としての立場がありますから。必ず私を通してから校長にあってください」という石田を見て笑い出す徹朗。「失礼します」と何も言わず去っていった。
　＜まるでついこの前のオレを見ているようだった。あの先生は，子どものことより自分の面子が大切なのだ。どうして人はそれほど必死に面子を守ろうとするのだろう＞
　学校からの帰り道，木に引っかかっている体操着袋を見つけた。うれしそうにゆらに電話をする徹朗。「あったよ！・・・かなり汚れちゃっていて，凛が見たらショックだと思うんだ。洗濯してから見せた方がいいと思う？それともちょっとでも早く見せた方がいいともう？」。ゆらも「どっちがいいんだろう」と悩んでいると「なっ，迷うだろう」とうれしそうな徹朗。夜，ゆらが凛に勉強を教えていると，徹朗が「じゃーん」と洗濯した体操着袋を凛に見せた。喜ぶ凛。体操着袋を抱えたまま勉強をする凛を見つめる徹朗。そんな徹朗を見つめるゆら。
　職場では井上が徹朗に「よくやった」と。グラフを見ると，いつものようにトップになっている徹朗。すると徹朗が「お話があります」と。別室へ。井上は「さすが小柳だ」と誉める。徹朗の申し出は総務に行くという発言の撤回だと思っていたが，徹朗が言った言葉は・・・「会社を辞めさせていただきたいんです」。

＜第４話＞

　朝。いつもの食卓。いつものようにココアを飲む徹朗だが，凛がじっとココアを見ていることに気づく。「飲みたいのか？・・自分でそういいなさい」と徹朗。徹朗は，ココアの準備をすると凛は「自分で作ります」と。徹朗は作り方を教え，凛が一人でココアを作るのを見守る。職場。１つ契約を取ってきたと井上に報告。その後トイレで，宮林と会い，今の生活を聞かれると「何とかやってますよ」と徹朗。夜。家に帰ると，いつもの弁当屋の弁当ではなく，商店街で買ってきたコロッケを用意する徹朗に，ちょっと元気のない凛が，テストの結果を見せる。45点という結果を見て「ダメじゃないか，ちゃんと勉強しないと」と叱る徹朗だが，凛は黙って部屋に行ってしまう。
　次の日。学校へ出向き，担任の石田と話す。以前はきちんとできていたけれど，可奈子がいなくなってから成績が悪くなったという。小学１年生では一人で勉強することは難しいと言われ驚く徹朗に，石田は「叱ったりしていないですよね」と確認する。徹朗が家に帰ると，ゆらがまだ残っていた。徹朗は，勉強ならお父さんが後で見ると言うが，凛は「お風呂に入る時間です」と。徹朗が明日見るというと，凛は「急な残業になるかも知れません」。徹朗は「早くお風呂に入って寝なさい」と少しいらだつが，その時，徹朗は石田に言われた言葉を思い出す。そして「昨日は怒ったけど・・ごめん。悪かったな」と素直に謝る。やっと笑顔になった凛は「お風呂に入ります」と立ち上がり，ゆらにもさよならをする。ゆらも帰るが，徹朗が追いかけてきた。「来てもらう回数多くしてもらえないかな」とお願いする。できれば週４日，他の教科も教えて欲しいと。ゆらは，他の生徒も教えているので，確実に４日来ることは難しいと困惑している。「都合のいい日だけでいい」と徹朗が言うと，ゆらの都合に合わせて来る日を決めると言うことで決まった。帰ろうとするゆらに「あのことってホント？キングバーンスタイン証券勤めていたって？」と徹朗が言い出す。ゆらが肯定すると「社員？・・なんでやめたの？」と質問する。徹朗には，ゆらの行動が理解できていない。ゆらが驚いていると，それ以上は聞くのをやめた。
　職場。井上から，先月の目標が達成されたことが発表された。壁には成績グラフが。トップは徹朗。それを見ている宮林・・。昼食を徹朗と宮林が一緒にとっている。宮林は「オレより先に課長になるんじゃないか」と言う。宮林は，徹朗にいい子を紹介すると言うが，徹朗は「今は仕事で結果出したいですから。羨ましいです。自由にやってて」。そんな徹朗に「オレは出世に興味ないもん」という宮林。徹朗が職場の休憩所にいると，坪井がやってきて「今夜ダメですか」と。答えを躊躇している徹朗。そこへ，井上がやってきて「今夜つきあってくれるか」と。これには「大丈夫です」と即答。坪井の誘いは断った。
　夜。ゆらの家の前に，亮太が来ていた。近くの公園で話をする２人。「何で今更好きなんて言うの」というゆら。亮太は「ゆらが会社やめたからかな」と，自分よりも収入がよかったから言い出せなかった。でもゆらは「ただの仲良し」だという。すると亮太は「試しにしてみる？キス・・何か変わるかも知れない」と。「ちょっと考えてみる」とゆら。一方徹朗は，井上と２人で食事。このとき，初めて井上は，徹朗が娘と２人で暮らしていることを知る。出張や今日のようなときは，お母さん（美奈子）に来てもらっているという徹朗は「仕事に影響が出ることはありません」ときっぱり言う。先月の成績もトップだった徹朗は自信があった。しかし井上は「すみれ銀行に取られた分はどうする」と厳しい。もっと徹朗が分析をしっかりやれば取られずにすんだはずだと。「申し訳ありません」と徹朗。井上は「子どもが待っているならもういい」というが，「会社に戻ります」と徹朗。徹朗が職場に戻ると，岸本が残っており，企画書を持ってきた。それは一度ボツになった物。「だめなもんはダメだよ」と取り合おうとしない徹朗。徹朗は家に戻ると，まず凛の部屋を覗く。そして，美奈子に「もうこんな遅くなること無いですから」と。美奈子は「今夜は仕事だったんだよね？」と確認する。徹朗は「もちろんです。つきあっている人もいません」と断言する。美奈子は「本当に大丈夫？仕事でいろいろあるの理解できるけど，凛ちゃんにあたるようなことがあったら・・」と心配する。徹朗は「それは気を付けます」と約束する。
　職場では，宮林がまた妹からの電話の相手をしている。今度は子どもが初めてトイレでうんちをしたという話。「自分の感動を感じて欲しいって・・親ってそういうもん？」と宮林が尋ねるが「たぶん」としか答えられない徹朗。そこへ，不機嫌な岸本がやってくる。徹朗も不機嫌に。事情を知らない宮林が不思議がると「むかつきますよ。バカな上司の下で仕事するのは」と岸本。宮林はなだめるつもりで，将来を考えたら徹朗にかわいがってもらっていた方がいいと言うが「この会社にずっといるつもりはない」という岸本。徹朗は「お前みたいのが会社をダメにするんだ」と言い放つ。すると岸本は「小柳代理みたいのが会社をダメにするんです」と言い返す。
　徹朗は，昼休み，父親と会う。「定年の日どうする？」と徹朗。「家でゆっくりするよ」という義朗。そして義朗が「仕事どうだ？」と尋ねると，「問題ないよ。一人あほな部下がいるぐらいで・・同期の中で１番に課長になれそう」という徹朗に，義朗は「課長ぐらい誰でもなれる。せめて最年少支店長になるとか・・・あほな部下がいるって言ったが，お前の責任だ」。部下を家に招いて，手料理でもご馳走すればいいという義朗に「最近の奴らは煙たがるよ」と徹朗。まだ離婚ことは言い出せない。そんな徹朗に義朗は「お前は黙って，オレの言うとおりにやれば間違いないんだ。今までだってうまくやってきたんだ」と。徹朗が会社に戻る途中，岸本に偶然会い，岸本は「もう１度考えてみてください。若手に新しいことをやらせてください」と懇願する。それに対して徹朗は「オレの言うとおりにやれば間違いないんだ」と父と同じ言葉を言う。
　家に帰ると，凛がゆらにココアを作ってあげていた。凛は「お父さんも飲みますか」と。「もらおうかな」と徹朗が答えると，ニコニコとうれしそうな凛。３人で凛の作ったココアを飲む。するとゆらが「同じことしている」と微笑む。徹朗と凛は，同時にスプーンでココアをかき混ぜていた。その姿がそっくり。その時，徹朗は父の言葉と同じ言葉を言った自分のことを思い出す。「知らず知らずのうちに似てるもんだなって思って」と徹朗。
　休日。部屋でパソコンに向かう徹朗に，凛は「公園に行って来ます」と。徹朗は，凛のことをちらっと見ただけで返事をする。ゆらは，自分の部屋で亜希と会っていた。「子ども達にはまっている」というゆら。「心の奥のキラキラしたものに触れたような気がする」。徹朗は，仕事が一段落して，やっとまだ凛が戻ってきていないことに気づく。だいぶ時間が経っていた。公園へ行ってみる徹朗。一人ぽつんと座っている凛。帰りたがらない凛は「練習がしたいです」と。逆上がりができないらしい。「何で出来なんだよ。他の子はみんなできているんだろう」と不思議がる徹朗。凛は，この言葉にしゅんとしてしまう。その様子を見て「できないこともあるな」と徹朗は言い，一緒に家に帰る。
　次の日の朝。凛を起こす徹朗「今日から朝練だ」。公園へ行き，毎朝逆上がりの練習をすることになった。朝は２人で練習し，徹朗が家に帰ってからは，２人で洗濯物をたたんだり，宿題をやったり・・・。公園で練習中，ゆらに出会う。逆上がりができないのは，クラスで残り３人。必死で練習している凛。ゆらが「負けず嫌いなのかな」というと徹朗は「最後の一人になりたくないだ」と。最近は，学校によって運動会で順位を決めないと言うが，「順位を付けた方ががんばれる。まぁ，どっちにしろ凛はがんばり屋だから，いいんだけど」と笑顔で語る徹朗。その様子を見て「うれしそうですね」とゆら。徹朗は，ゆらに「どうしてキングバーンスタイン証券をやめたの？オレなら絶対やめないよなぁ。でも北島さんは女だから・・」と。ゆらは「簡単にやめた訳じゃありません。仕事を辞めるのはやっぱり勇気がいりました。仕事以外何もなくて，仕事やめたら何者凝らないんじゃないかって思いましたから・・・一度立ち止まってみたかったんです。立ち止まらないと自分に大切な物に気づかないまま時間が過ぎていくと思ったんです。立ち止まるには，会社を辞めるしかなかったから」。「見つかった？大切な物」と徹朗。ゆらは「まだです」。徹朗は「会社やめて不安じゃないの？」とさらに尋ねる。「会社にいた方が不安でした」とゆら。「よくわかんないけど・・」と徹朗にはまだゆらの気持ちがわからない。ゆらは「いつか見つかると思いますよ」と前向き。
　義朗が定年を迎える日。徹朗は「離婚のこと言えていないんだよな」と宮林に。宮林は，今日はさすがに言い出せないから「親父さんねぎらわなきゃ」と。義朗は，特別な気持ちで会社に出向くが，仕事は全くない。周りだけが忙しく動いている。静かな１日が，終わった。一人そっと帰ろうとする。するとある一人が気づき「お疲れさまでした」と声をかける。それをきっかけにして，全員が拍手。小さな花束が渡される。義朗がその場を去ると，何事もなかったかのように仕事を続ける。しかも，義朗の机は即座に片付けられていった・・・。寂しく会社を出る義朗は，一人でバーで飲んだ。実家では，徹朗が寿司を用意して待っていた。お酒の匂いがする義朗に，徹朗が「送別会？」というと「ああ」とうそを付く義朗。２人でビールを飲みながら過ごすと，義朗は仕事の自慢話を繰り返す。一番仕事が盛り上がっていたのは「昭和49年だったなぁ」という義朗。徹朗は自分が生まれた年だと思うが，義朗からは一言もそのことは出てこなかった。ただただ，どれだけ自分が足を引っ張り合いながら，仕事でがんばってきたのか・・という話だけだった。そんな父に徹朗は「オレが子どもの頃，キャッチボールしたいと思ったこと無い？」と聞いてみた。「それがどうした。覚えてないよ，そんなこと」と素っ気ない義朗。そんな父に「離婚したんだ」と徹朗が突然打ち明ける。「オレとはもう一緒にいられないって・・オレが捨てられたんだ」と徹朗が言うと「みっともない！女房に捨てられるなんてもってのほかだ！・・・何故今日なんだ!?」と義朗は激怒。徹朗も「オレだってよくわからないよ！」と大きな声を出す。「気分良く酔うつもりだったのに，これじゃ酔えないよ・・」と義朗。皿を片付ける徹朗。義朗はソファーで眠ってしまった。その義朗にそっと毛布を掛ける徹朗。寝ている父に向かって「長い間おつかれさまでした・・・親父，それでよかった？」と話しかけ，家に戻る徹朗。
　次の日，徹朗は，ソファーに横になり考え込んでいた。そんな徹朗に「逆上がりの練習お願いします」と凛。いつものように逆上がりの練習。その場を通りかかったゆら。徹朗は，ぼーっと見ているだけだった。その時，凛が逆上がりに成功した！「見た!?」とうれしそうな凛。「見たよ，凛！」とうれしそうな徹朗は，凛を抱き上げ，「すごいぞ！」と誉める。凛は，ゆらにも報告し，２人が徹朗を見ると・・・嬉し泣きで顔がくしゃくしゃの徹朗がいた。眠っている凛の姿を見ている徹朗。＜親父が今までの人生で守ってきた物がなんなのか，オレにはわからない。でもオレにわかっていることが一つだけある・・・＞。晴れ晴れとした顔で会社に向かう徹朗。職場に行くと，井上に仕事の報告と岸本の企画を見て欲しいと言うことを話す。そして夜，家に帰る＜オレは今・・＞凛が笑顔で「お帰りなさい」＜この子が何より愛おしい＞・・・「ただいま」と徹朗。

＜第３話＞

　朝。凛のハンカチにアイロンをかけている徹朗。「おばあちゃんの所に行くのは，音楽会終わってからにしよう」と凛につたえる。「ありがとうございます」と凛。まだよそよそしい２人。ゆらの部屋で電話が鳴る。音楽会に出られるようになったことを告げる凛からだった。凛は「ありがとうございます」と徹朗に頼んでくれたゆらにお礼を言う。徹朗は，職場で，まず宮林に離婚を報告。たった今，離婚届を提出してきたところだった。宮林が，飲みに誘うと「凛がいるから」と断る徹朗。その言葉に宮林は「結局このままずっといたりしてな」というが，徹朗はすぐに「いないですよ」と否定し「あと１週間ですから」と。そして仲人だった井上にも報告。徹朗は，会社のみんなにはまだ知らせないで欲しいとお願いする。「お前の評価は離婚ぐらいで変わらない。今まで通りやってくれよ」と井上。
　家に帰る途中，スーパーによる徹朗。パンの前でしきりに考え込んでいる。その姿を見つけたゆら。徹朗は「残り１週間，ちょっとは父親らしくしようと思って」とゆらに伝える。ゆらは笑顔で話を聞いている。そしてゆらは一旦その場を離れるが，徹朗は「いつものパンがないんだけど，どっちがいいかな」と質問する。レーズン入りの食パンかスティックパンか。「どちらでもいいと思います」と微笑むゆら。悩んだあげく，徹朗は両方をカゴの中へ。次の日の朝。そのパンを目の前にして，じっと考え込んでいる凛。徹朗が「迷っているのか？」というと，しばらく考え「両方食べてもいいですか」と凛。
　徹朗が職場に行くと，他の社員は来ていなかったが，坪井だけがすでに来ていた。坪井は，相談があるからと，夜食事に誘う。徹朗は「今夜はちょっと」と断る。諦めた坪井に「１週間後なら。仕事が早く終わったときなら」と徹朗。ゆらは，いつものメンバー・亜希，亮太と食事をした帰り。亜希は別の道を行き，亮太と２人きりになる。亮太が真剣に「好きだ」とゆらに伝えるが，ゆらは冗談だと思い笑い飛ばす。その時，凛から電話が。徹朗とゆらは，そば屋で待ち合わせをする。仕事で忙しい徹朗に合わせてだった。ゆらが可奈子のことを話し始めると「元妻ですか」と徹朗。正式に離婚したことを伝える。ゆらによると，凛は母親のことを知りたがっている。ただ，徹朗には聞けないので，自分なりに話を作って納得しているという。その作り話は，お母さんは日本一美味しいケーキ屋さんで，凛のために美味しいケーキを習っているという。「凛と話しますから」と徹朗。
　夜。キッチンのカウンターではなく，リビングのテーブルでピザを食べる徹朗と凛。相変わらず会話は少ないが，自分から話しかける徹朗。そして，可奈子のことを伝える。今パリにいて美術の勉強をしている・・と話をしていると，お互いのピザが垂れそうになり・・「垂れる！」と２人同時に叫んで，２人同時にピザを口へ。一瞬，微笑み合う２人・・でもすぐに元に戻ってしまう。また話を続ける。「お母さんは帰ってこないんだ。離婚ってわかるか」と徹朗が言うと，うなづく凛。「お父さんとお母さんは離婚したんだ・・・ごめんな」。それには凛は何も答えず，沈黙が続いた・・・。
　土手でハーモニカを吹く凛。待ち合わせをしていたゆらがやってきた。凛は両親の離婚を告げ「おああさん帰ってこないんだって。もう凛のお母さんじゃないの？」とゆらに尋ねる。「そんなことないよ。どんなことがあっても，凛ちゃんのお母さんは，凛ちゃんのお母さんだよ」とゆら。徹朗は，会社で宮林に，凛の母親に対する作り話を話す。「何考えているのかわからない」と徹朗。岸本は「大人は子どもの気持ちはわからなくて当然だと思っていた」という。その理由はわからないけれど。
　実家に帰った徹朗。酒のつまみを作る父親を珍しい物を見るかのように見ている。母が亡くなってから１年ぐらいして，こういうこともするようになったという義朗。きれいになっている部屋を見て，女性がいるのかと疑う徹朗だった。徹朗が子どもの頃，義朗が浮気をしていたのは，子どもながらに気づいていたという。「当たり前だろう。男なんだから」という義朗。義朗は「最近は女房から離婚を言われる男もいるんだ・・情けないったらありゃしない」と。この話の後に，何故来たのか尋ねられた徹朗は「近くに来たからよっただけ」と答える。徹朗は，クローゼットの中から自分の小学時代のものを探している。自分が小学１年の頃，何を考えていたのか調べるためだった。１つのダンボールから見つけだしたのは，小学１年の時の文集だった。
　凛の部屋で，眠っている凛やまとめられている荷物を見つめる美奈子。徹朗が帰ると「お父さんに話せた？」と美奈子が尋ねた。「タイミングが悪かったみたいで」と徹朗。実は，徹朗は義朗に離婚を伝えに言ったのだったが，結局言い出せなかった。美奈子は「申し訳ありませんでした」と謝る。上手くいかないのなら，無理して結婚生活を続ける必要はないと考える美奈子だったが「母親が子どもを手放すなんて・・私にも責任があります」と徹朗に謝る。徹朗は「こちらこそ申し訳ありません・・・凛はオレが見るべきなのに・・」。すると美奈子は「実際問題，哲郎さんが凛ちゃんをみるなんて負担でしょ・・妻にこんな風に子どもを押しつけられたら困るわよ」と徹朗の心を見透かしたように言う。「すみません」と徹朗。徹朗は，自室での仕事も終わり，ふと実家から持ち帰った文集に目が止まる。自分の書いた文章を見つけ読み始める。タイトルは「手」。それを読み始め「ホントにオレが書いたのかよ」と徹朗。
　朝からハーモニカの練習をしている凛。ハーモニカの音に起こされる徹朗。ハーモニカを吹いている凛の元へ，徹朗がやってきた。手にはハーモニカが握られていた。「吹いてもいい？」と徹朗は一緒にハーモニカを吹く。以前のように，徹朗と凛は，一緒に家を出る。前とは違い，凛がちゃんと付いてきているのか気になる徹朗。凛のスピードを考え，一緒に歩く。徹朗は凛に話しかける「いよいよ音楽会だな・・・がんばれよ」と。「はい，がんばります」と答える凛。徹朗は，凛の後ろ姿をしばらく見送る。向こうから来る自転車が，凛に向かってくると，心配している徹朗。凛はうまく避けたが，自転車に怒りを感じる徹朗だった。
　凛の音楽発表会が始まった。石田は，転校の前の想い出になるように，とみんなに伝える。演奏が始まった・・・しかし，途中で間違え，ハーモニカが吹けなくなった凛。とうとう泣き出してしまった。家に帰った凛は，ゆらに電話をかけるがでない。ゆらは，携帯を家に忘れ，亮太と食事をしていた。「大事な話があるから」２人で食事をしていると思っているゆらだが，亮太はもう話したと。亮太の「好きだ」という言葉を，すっかり忘れているかのようなゆらだった。改めて伝え，大学の時から10年間好きだったという亮太。その言葉に「とりあえず食べていい？」とゆら。
　得意先と仕事の話をしていた徹朗。そこに社長の孫がやってくる。小１の孫がかわいくてしょうがないと話す社長。「思いも寄らないところが自分に似ている」のがうれしいという。すると，徹朗も急に笑顔になり自分もそうだと話し出す。どっちのレーズンパンにするか悩むところとか似ていると，本当にうれしそうに話している。
　徹朗が家に帰ると，落ち込んでいる凛の姿があった。何があったのか気になる徹朗。すると凛が泣き出してしまった。どうしていいかわからない徹朗は，とりあえず凛と目線を合わせるように座った。そして，ぎこちなく手をさしのべ，そっと抱き寄せる。ぎこちない抱擁だったが，徹朗の子どもの頃の作文を思い出す。＜手はなんのためにあるのかしっている？ぼくはしってるよ。手は，なかよくなりたい人とつなぐためにあるんだ。そして，かなしんでいる人をだきしめてあげるために，手はあるんだよ＞。ギュッと抱きしめた徹朗。ゆらは，食事から帰り携帯をチェックすると，何度も凛から電話が入っていた。ただ，最後の電話からかなり時間がたっていた。凛は１人ベッドの中。まだ眠ってはいない。徹朗は，リビングでビールを飲みながら，何か考え込んでいた。宮林の「本当にこのまま〜」，美奈子の「負担でしょ」という言葉を思い出し，考え込む。
　凛が美奈子の家に行く前日。２人で凛の荷物をまとめた。その後は，いつものようにパソコンに向かい仕事をしようとする徹朗。凛は，１人リビングでお気に入りの動物ビデオを見ている。仕事が手に着かない徹朗は，凛の元へ行き「どこか行くか？」と。凛は「いいんですか？」とちょっと驚く。どこに行くか・・・２人はテレビ画面を見つめる。２人がやってきたのは動物園。次々と動物を見ていく２人。最初のうちは，ぎこちない感じだったが，徐々に笑顔が出てきた。動物の動きに，同じように反応する２人。そのころ，ゆらが凛に電話をかけるが，誰も出なかった。
　徹朗と凛は，ベンチに座り，フランクフルトを食べていた。凛の口にケチャップが付いているのを見ると，ティッシュを差し出す徹朗。凛がうまく拭けないと，拭いてあげた。そろそろ帰ろうと立ち上がると・・・そのベンチはペンキ塗りたて。２人の服には白いペンキがべったりと付いてしまった。大笑いする２人。徹朗は凛のペンキを拭いてあげるが，ペンキは消えない。２人の笑い声が響く・・。＜ただそれだけで心が温まった。こんな気持ちは初めてだ＞。ペンキが付いたままの服で，家路に向かう２人。その時，凛の手から赤い風船が飛んでいってしまった。それをずっと見ている２人。＜ただそれだけで，悲しくなった。こんな気持ちも初めてだ＞。風船の行方を見続けていた徹朗は「このままお父さんと一緒に暮らさないか」と凛に伝える。凛は，ビックリして徹朗を見ていたが「はい！」と元気に返事をした。さらに徹朗は凛と手をつなぐ。これにもビックリする凛。「風船をもらいに行こう。今度はちゃんと握っているんだぞ」と徹朗。２人は来た道を戻っていった。
　ゆらの携帯が鳴る。凛から・・・と思って出たが，徹朗からだった。徹朗は「お願いがあります。凛の家庭教師をお願いできないでしょうか。ずっと一緒に暮らすことにしたから・・・お願いできますか」と。「わかりました。お受けします」とゆら。徹朗は「よろしくお願いします」と。電話を切った後，ほっとしているゆら。徹朗は，電話を見つめ考えている。そのそばには赤い風船が。凛の部屋のドアを見つめ，自分の部屋へ入ろうとする徹朗・・・。

＜第２話＞

　職場で，井上から注意を受ける。徹朗が「娘のことでちょっとありまして」というと，「奥さんに任せられないこと？」と井上。入院をしたがもう退院で「これからは仕事に集中できますから」と説明する徹朗。また，小学校へ向かい，石田に転校の話を伝える。できれば今すぐに転校させたいという徹朗だが，石田は凛が音楽会でハーモニカを吹くことを楽しみにしていると。すると「凛と相談して決めますから」と相手に合わせる徹朗。家に帰ると，凛の退院に付き添った美奈子が食事を作って待っていた。凛の引っ越しについて，美奈子にも「できるだけ早く・・」と徹朗は言うが，美奈子は来週旅行の予定があると。すると「旅行は行ってきてください。あと１週間，オレが見ます」と徹朗。そこへ，ゆらから電話がかかる。レッスン日の連絡だった。ゆらが「昨日は失礼なこと言ってすみませんでした」と謝ると徹朗は「気にしていませんから」と冷たい一言。
　ゆらのレッスン中。母親が大事にしていたラッキースタンプをゆらが拾う。「お母さんが大事にしていたから拾わないと」と必死に拾い出す凛。そして泣き出してしまった。徹朗が帰宅すると，ゆらが「お話ししたいことが」と待っていた。凛は，母親が出ていったのは，前日ラッキースタンプが入った箱をひっくり返し，それを片付けなかったからだと思いこんでいると。徹朗にはそれが大事なことだとは思えなかった。「悩むなんて大げさな」と徹朗。それでもゆらは，真剣に「自分のせいじゃないって伝えてください」とお願いする。
　朝。徹朗が支度をしていても，いつものように凛が起きてこない。部屋に行くとまだベッドの中。「１人で行きます」と凛。徹朗が部屋を出ようとすると，箱が落ちラッキースタンプが散らばってしまう。必死で拾う凛。それを見ていた徹朗は，昨夜のゆらの言葉を思い出したが，そのまま黙って出ていってしまう。
　職場に行くと，宮林に「疲れた顔しているぞ」といわれる。「あと１週間の辛抱だから」と美奈子に預けることを伝える徹朗。宮林は，一人暮らしの経験のない徹朗に「１人は寂しくなるんじゃ・・」というが，徹朗は「２人でいて息が詰まるよりましだ・・」とつぶやく。仕事帰り，徹朗がスーパーに行くと，ゆらの姿が。ゆらは店員に賞味期限を見せ，値引きのはずだと主張する。その様子を見ている徹朗。徹朗に気づいたゆらは「私，恥ずかしいことしました？」というが，徹朗は「オレの妻でもなんでもないんで」・・自分の妻だったら恥ずかしいという。徹朗が家に帰ると，リビングでテレビを見ていた凛は，テレビを消して部屋へ向かう。徹朗が「おばあちゃんの３回忌でおじいちゃんの家に行くけど，どうする？」と尋ねても黙ったままだった。
　休日。徹朗は，１人実家に戻る。可奈子が来ないことを責める父・義朗。すべて可奈子に任せようと思っていたようだった。徹朗は，本当のことが言えず，町内会の用事でどうしても来られないと。義朗は「女房にわがまま言わせてどうする」と徹朗を責める。そのころ，凛は１人で，土手でハーモニカを練習していた。偶然ゆらが通りかかり，寒いから帰ろうと言うが「帰りたくない」と凛。
　徹朗が家に帰ると，ゆらが来ていた。「頼まれごとをされて」とゆら。徹朗が帰ってきたことを知ると「まだ帰らないで」とこっそり頼む凛。夕飯は，寿司をとり，３人で食べることに。凛とゆらはいろいろ話しているが，徹朗は１人テレビのニュースに見入っている。そのうち，テレビの前のソファーに移動してしまった。そんな徹朗を呆然と見ているゆら。いつのまにかソファーで眠ってしまった徹朗。ゆらは，後かたづけをしていた。凛の頼まれごととは，音楽会でハーモニカを吹きたいこと，そのために引っ越しはその後にして欲しいこと，そのことを徹朗に伝えて欲しいと言うことだった。徹朗は「転校先でもあるんじゃないの？・・・あるって凛に言っておいてください」と言ってしまう。ゆらに「私が？」と言われ，慌てて「ちゃんと納得するように話しますから」と言い直す。「家庭教師以上のことはしてくれなくて結構ですから」と言う徹朗だったが，「ついでに悪いけど，それを下に置いておいてもらえます？」と当たり前のことのようにすし桶の片づけを頼んだ。
　職場では，宮林が妹の愚痴を電話で聞かされていた。その愚痴とは「家族の団らんがない」。それを聞いた徹朗は，食事をしながらの団らんなんてドラマの中だけの物で，「普通」はない物だと。徹朗が小さい頃から家族の団らんがなかった。宮林が「あったよ」というと，ドラマの中でやっていたキャッチボールやサッカーをやったことがあるか言い出す。宮林が「したよ」というとさらに驚いてしまった。岸本は，父親がやりたがったのでつきあってやっていたという。それが「普通」だろうと。「みんな自分が普通か」と宮林。「したんだ・・キャッチボール」と驚いているだけの徹朗。徹朗は，会議の準備をしていた坪井にも聞いてみた。ただ，坪井の父親は幼稚園のころに亡くなっていた。徹朗は坪井に，ふさぎ込んでいる娘と「どう接していいかわからない」と告げる。「奥様に聞けば」と坪井。徹朗は，旅行中だからとごまかす。
　ゆらは，友人達と食事をしていた。その時に，徹朗の愚痴を言う。「何もわかっていないのに・・」。その時，凛から電話がかかってくる。雷が怖いと泣いていた。ゆらは勝手には家に行けないと，凛に話しかけながら励ましていた。仕事中の徹朗の元にゆらから電話が。凛の様子を伝え，早く帰って上げて欲しいと。徹朗は，そんなことは大したことじゃないと思っていた。終業時間になっても，残業を自ら行っていた。仕事も終わり，家に帰る。玄関先にゆらの靴が無くほっとした。しかし，ふと見たバスルームになにやら影が。バスルームを覗くと，ゆらの服や靴が干してあった。やはり，ゆらは駆けつけていたのだった。
　凛の部屋に行く徹朗。凛は黙々とラッキースタンプを貼っていた。そのそばにゆら。徹朗は凛に「寝る時間だろう」と厳しく言うが，凛は無視して貼り続ける。部屋を出てから，ゆらに「レッスンの日以外は来ないでください」と徹朗は怖い顔で伝える。「お酒飲んでます？」とゆら。「一杯だけです」と徹朗。そして，淡々と凛の様子を伝えるゆら。ゆらが来るまで泣いていた凛は，その後，ずっとラッキースタンプを貼っていた。お母さんが大事にしていたスタンプを自分が貼れば帰ってきてくれると信じていると。「オレを責めるんですか」と徹朗。ゆらは「様子を伝えただけです」と。そう聞こえないと言う徹朗に「やましいことがあるからじゃないですか」とゆら。徹朗は「子どもが泣いているからって仕事放り出すわけいかないだろう・・会社出たときにはもう雷はなっていないし，凛だって寝ている時間だし・・だから１杯だけ飲んだだけだし・・仕事終わってそういう気持ちになることあるんだよ。家庭教師の北島さんには，大きな組織で働くってどういうことかわからないと思うけど。それにオレたちは，分かり合っているから・・・見た目よりも・・・それが親子ってもんだから・・・オレは，凛のために仕事をしているんだ・・オレは間違ってないし，やましいことなんかない」。そんな徹朗に「何もわかっていない」と。徹朗は「わかっている！」と怒鳴る。そんなやりとりが続くが，ゆらは「凛ちゃんを愛していないことも？」と言い残し去っていこうとする。そしてさらに「私が家庭教師をする前に勤めていた会社は，キングバーンスタイル証券です。そこにはあなたの会社の100倍の社員がいました」ときっぱりと伝える。
　ゆらが帰った後，凛の部屋に行く徹朗。凛は必死でスタンプを貼り続けていた。徹朗が「さっきから何しているんだよ」と声をかけても答えない。「わかってるよ。無視だろう」と部屋を出ていく徹朗。
　可奈子から連絡が入り，２人きりで会うことに。徹朗が「いつから離婚を考えていたんだ」というと「１年前から」と可奈子。ラッキースタンプを貼っていたときにふと考えてしまったと。全くわからない徹朗。可奈子は，大学を卒業したら美術の勉強をする予定だった。凛ができ徹朗と結婚したために，それは実現しなかった。だからパリへ行きたいと。「凛は？可奈子は母親だろう」と徹朗が言うと，「でもあなたの母親じゃない。まだ母親と思えた頃はよかった・・・あなたの家政婦だった。これ以上一緒にいたくない」と気持ちを伝える可奈子。さらに徹朗が「凛のことは愛しているだろう。どうして連れていかない」と問いつめると，「一緒にいられない。母親失格だから・・・あの子生んでなかったらって考えちゃう・・・愛していない。凛を愛していない」と。その言葉に「うそだろう」と呆然とする徹朗。可奈子は「凛のことだけは私が悪い。いいの，私，せめて」というが，徹朗はもう何も言えない。可奈子と別れ，１人歩く徹朗。
＜昔，誰かが言っていた。子どもは何のために生まれてくるのか。それは愛されるために生まれてくるのだと。オレに妻を責める資格などない。オレも娘を愛していないのだから・・・娘は，何のために生まれてきたのだろう＞
　徹朗は，家に帰ると，真っ先に凛の部屋へ。凛は，スタンプを貼りながら眠ってしまったようだ。布団の上には，必死になって貼ったスタンプが。徹朗は，そっとスタンプを片付ける。凛の手の中のスタンプを取ろうとすると，目を覚ます凛。そして「お母さんは，凛のこと嫌いになったから帰ってこないの？」と徹朗に尋ねる。徹朗は，それには答えられず，「連絡帳」とノートをめくるが内容は見ていない。そして「お母さんと会った。凛のこと大好きって言っていたぞ」とうそを付く・・。凛の部屋を出て，ソファーに座るこむ徹朗。その後ろには，ゆらの姿が。今日が最後のレッスンの日だったので，凛とご飯を食べたりして過ごしていたという。何を言っても黙っていた徹朗が「教えてくれないか。オレはまずなにをしたらいい？・・・凛の父親として」。ゆらは「ハーモニカを買ってください」と。徹朗は「持っているじゃないか」と不思議がるが，ゆらは首を横に振る。
　凛がいつものように土手でハーモニカを練習している。そばで見守っているゆら。すると，凛のハーモニカ以外にもハーモニカの音が聞こえてきた。少し離れたところで，ハーモニカを吹く徹朗の姿。凛は，徹朗に気づき，ゆらの顔を見る。凛と徹朗のハーモニカの音が重なって聞こえてくる・・・。

＜第１話＞

　いつもの朝。いつものように新聞を読みながら，可奈子がいれたココアを飲む徹朗。いつものように家事をこなす可奈子。そんないつも朝。突然，可奈子が離婚を切り出す。徹朗は全く本気にせず冗談だと思っている。しかし，可奈子は本気だった。何がなんだかわからない徹朗。大事なミーティングがあるから「帰ってから話そう」と家を出ていく。家を出る前「ゴミ出そうか？」といつもと違うことを言ってみる。そんな徹朗にあきれる可奈子。徹朗は，かなり動揺しているようで，靴ぺらをそのまま持ってきてしまったほどだった。
　職場・みどり銀行で，いつものように仕事をこなす徹朗。左遷させられる先輩が挨拶に来ても，適当にあしらい，自分の仕事に専念する。そんな徹朗は，上司の井上に信頼されている。井上に，夜接待に出るように言われると，可奈子のことはあったものの，仕事を優先してしまう。夜遅く帰宅した徹朗。玄関には娘・凛の靴がちゃんとそろえてあるがそれには気づかず。家の中は真っ暗。自分たちの寝室にも可奈子の姿はない。慌ててクローゼット等を見て回るが，残っているのは徹朗の物だけ。きれいに半分のスペースは空になっていた。
　次の朝。ベッドにそのまま寝てしまった徹朗が目を覚ます。キッチンに行ってみるが，やはり可奈子の姿はなかった。トイレから人の気配。可奈子かと思ったが，中から出てきたのは，凛。「何でいるんだよ」と驚く徹朗。凛は，何が起こったのか知らない様子だった。呆然と徹朗達の部屋を見回す凛に「お母さんは旅行に出かけたんだ」と話す。徹朗は，キッチンに何があるのかさえわからない。いつものココアさえ見つからない。そのそばで，凛は自分の分のパンと牛乳を準備していた。やっと見つけたココアを飲み，新聞を飲む徹朗。離れて座っている凛。徹朗は，凛に何を話しかけていいかわからない。ふと凛が「お母さん，いつ帰って来るんですか」と質問する。「すぐ帰ってくるよ」と徹朗。
　徹朗の出勤時間に合わせ，家を出ようとする。すぐに出ようとする徹朗に「うんちがまだです」と凛。徹朗が「学校ですればいい」というが「お父さんは学校でうんちできたんですか」と凛。仕方なく待つ徹朗。家を出ても，自分のペースで歩く徹朗。必死で付いていく凛。家のカギのこと，徹朗の電話番号のこと等，次々と自分のペースで伝える徹朗。凛は１つ１つ「はい」と答えていく。凛と別れると，可奈子に電話をする徹朗だが，留守電になっており，話ができない。まだ小１の凛には母親が必要だ，きちんと話し合おう，連絡をくれ，とメッセージを残す。
　昼休み。徹朗は，先輩・宮林に「かなちゃん出ていったって？」と言われ驚く。宮林の元に可奈子から連絡があった。離婚を考え直すことはない，子どもは育てて欲しい，パリに行くという事務連絡的な内容。離婚の原因が全く思いつかない徹朗。宮林は，３年前，職場の女の子・坪井と遊んだことがばれたんじゃないかと言うが，徹朗はそんなわけはないと。結局，まだ何がなんだかわからない。凛は，学校から戻ると，徹朗達の部屋を見回す。やはり母・可奈子は戻っていなかった。
　徹朗が帰宅すると，見知らぬ女性が来ていた。凛の英語の家庭教師・ゆらだった。徹朗は，凛になぜ教えなかったのか注意するが，レッスン日の変更があり，可奈子が凛に伝えてなかったんだと，ゆらが説明する。ゆらは可奈子の留守の理由を尋ねる。凛は答えなかったと。「旅行って言っていませんでした？」といらだつ徹朗。ゆらは，凛が元気がなかったと心配するが「子どもは気分屋ですから」と徹朗。凛のレッスンの後，ゆらは友人達と食事をしていた。ゆらは，年収4000万円も稼ぐほどだったが，１年前会社を辞め，今は英語を教えるか提供死をしている。年収の変わりに「７時間の睡眠」を得たというゆら。
　徹朗の家に，可奈子の母・美奈子が訪れた。凛を置いて家を出たと聞き，驚いてやってきたのだった。離婚の原因が分からないと伝える徹朗。凛は，そっとドアの隙間から２人の会話を聴いている。美奈子は，凛を引き取ろうかと提案。その言葉に，ふっと笑顔を見せる徹朗。だが，美奈子は，天候も必要だし，環境が急に変わるのもかわいそうだ「実の父親のところで生活するのが一番いい」と言い出す。すると徹朗も「子どものことはできるだけ父親が見るべきだと思います」と言ってしまう。「慎重に考えましょ」と美奈子。
　次の日の朝，前日とはうって変わって，すごく元気で明るく振る舞う凛。徹朗が用意したパンも，一瞬戸惑うが，徹朗に「いつも朝はそれだろう」と言われると「美味しいです」と食べる。新聞を読みながら徹朗が，美奈子の家へ行く話を切り出すと「お父さんと一緒がいいです」と凛。それでも徹朗は，凛にとってはその方がいいと，天候の手続きのため学校のことを知ろうとする。「担任は？・・男か？女か？」と話を進める。凛が何も答えないので，新聞から目を離すと，泣いている凛。何で泣いているのか，全くわからない徹朗は戸惑うばかり。とりあえず，この話を終わりにすることに。家を出るときには，凛は，もううんちも済ませたと，元気に振る舞う。
　仕事で大きなトラブルが起こった。その対応に追われる徹朗。そんな徹朗の携帯に，何度も電話がかかってくる。凛からだった。それは，何をしたかという報告で，徹朗からすればたわいない話だった。そして「いつ帰ってくるんですか」と凛。イライラしながら話を聞いていたが，仕事の電話が入ると電話の途中で放り出し，そちらを優先してしまう。なんとか仕事も一段落し，宮林と一杯飲んでいた。なぜ離婚なのか理解できないと打ち明ける徹朗。できちゃった結婚で，最初の頃は大変だったけれど，やりくりして２９歳にして念願のマイホームをもてた。夏には毎年家族旅行。「去年はハワイに連れていってやった。誕生日には，毎年ピアスをプレゼントしてやっているし，可奈子のやつ，何が不満だって言うんだ。子どものことだって，運動会やお遊戯会には，必ずビデオを撮りに行ってやった。どんなに仕事で疲れていても，立ちっぱなしでビデオを撮ってやったんだ」と「〜やった」ことを主張する。宮林は，凛が待っているから帰ろうと促す。そこへ凛から電話がかかる。徹朗は「会社。仕事だよ。早く寝なさい」と切ってしまい，まだ帰ろうとしなかった。「離婚したければしてやってもいいんだ。公開するのはあっちだからな」とつぶやく徹朗。徹朗が家に帰ると，ソファーで寝ていた凛は，笑顔で出迎える。
　美術館に来ている可奈子を見つけた徹朗。徹朗の姿を見つけると，逃げ出す可奈子。徹朗とは話し合おうとしない。タクシーに乗り込んだ可奈子に，徹朗は「１つだけ教えてくれ。どうして離婚したいんだ」と。「ホントにわからないの？」と可奈子。そして，タクシーを出してしまう・・・。
　凛は，英語のレッスン中，急に元気をなくす。ゆらが気にすると，「凛は，いい子だと思う？」と凛。一方，徹朗は大事な取引先に謝罪に行っていた。その時，携帯がなった。自宅からだった。謝罪中に携帯がなり，相手を怒らせてしまう。携帯には出ず，謝罪を続ける徹朗。
　ある夜，徹朗は，凛の担任・石田に呼び出された。毎日のように忘れ物があり，宿題もやってこない。連絡帳に書いても何の変化もないと。家庭の変化を隠さず教えてもらえないと，担任として配慮できないと言われてしまう。家に帰ると「恥をかいた」と凛に言ってしまう。
　休日。ちらかる一方の部屋の掃除を始める。凛が，枯れかけた花が生けられている花瓶の水を変えようとすると，徹朗が声をかけてやめさせようとする。驚いて花瓶を落としてしまう。慣れない家事にイライラしながら取り組む徹朗。凛の宿題や次の日の用意もみてやらなくちゃいけない。夜になって，やっと仕事に取りかかれるが，リビングからハーモニカを練習する音が。いらだつ徹朗は，凛のハーモニカを「うるさい！」と取り上げてしまう。
　仕事中，携帯がなるが自宅からとわかると無視してしまう徹朗。その時，凛は腹痛に苦しんでいた。「お母さん・・」と泣く凛。救急センターに着いた徹朗。ゆらが待っていた。徹朗の最初の言葉は，すぐに来れなかったいいわけ。そんな徹朗に「どうしてそういう言葉が？」とゆら。凛の腹痛の原因は，ひどい便秘。徹朗が不思議がると，一緒に家を出たいために毎日我慢していたという。それを聞いて徹朗は「一緒に出るのを楽しみにだったみたいで。電話もよくかけてくるし，帰りを待っていてくれるし・・なついてくれているんです」という。しかし，ゆらはそれは違うと。母親が帰ってこないというのが理解でき，その上父親まで帰ってこなくなるのが怖い。だから，ホントはレーズンのパンが好きでも，黙って用意してもらったパンを食べたりしていた・・・。徹朗が「でも，なついてくれているのは変わらない」と憤慨すると，「捨てられたく無かっただけです」とゆら。凛は，徹朗が自分のことを迷惑に思っていると感じていた。そして，凛自身も，自分の父親だが他人のように思っている。それでも捨てられたくない。「どんな父親でも，たった１人の父親だから」。凛の気持ちを，ゆらから伝えられた徹朗・・。
　凛の枕元へ行き「凛，ごめんな。これからはちゃんと凛の話聞くから・・・元気になったらどこ行きたい？行きたいところあったら，行ってごらん」と徹朗。凛は「おばあちゃんの家に行きたい。おばあちゃんと一緒に住みます・・・今まで迷惑かけてすみませんでした」と。その言葉に，ハッとするような，それでいてホッとするような顔をする徹朗。徹朗が廊下へ出ていくと，美奈子がやってきた。美奈子に「凛をお願いできますでしょうか」と徹朗。凛の元へ行く美奈子。徹朗は，ゆらに「今日は本当にすみませんでした。お恥ずかしいところお見せしてしまって・・自分の子どもに捨てられるのみっともない・・父親失格だし」という。するとゆらは「ホッとしているんじゃないですか」と行って去っていく。
　帰宅した徹朗は，仕事に取りかかる。＜図星だった。オレはほっとしている。オレは，娘を捨てたかったのだ。誰だって，何かを守るために，何かを捨てて生きている＞。パソコンのキーボードをたたく手が止まる。いきなり机の上の物を放り出し，思いっきり机を拳でたたく徹朗。＜オレはいったい何を守ろうとしているのだろう＞