僕の歩く道

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第1話　誰よりも純粋な男	第2話　教えて本当の気持ち	第3話　約束と裏切り
第4話　黄色い傘に降る涙	第5話　結婚式の奇跡	第6話　失踪!悲しい夕焼け
第7話　はじめての反抗	第8話　偽りの心と真実の愛	第9話　再会!助けて，テル
第10話　涙で，愛が見えない	第11話　僕は歩き続ける。

＜第11話＞ 　寝ている都古のそばで，動物の解説を読み続ける輝明。そこへ動物の様子を見回ってきた三浦が戻ってきた。都古の姿に三浦が驚いていると都古が目を覚ました。そして，輝明と都古は一緒に家に帰った。出迎えた里江に，都古は「家出ちゃいました」。みんながそろっての食事。レースの話になり，秀治が「輝明，レースに出るか？・・・出るんだよな」と言い出す。輝明は「出たい」と。すると秀治は「出よう！」と。それに続いて，りな「出よう」，幸太郎「出よう」。そして輝明も「でよう」。秀治は，真樹と二人きりになると，「真樹は夢ってある？」と聞いた。今更ないという真樹。秀治も同じだった。「輝明にとって，レースに出るのが夢だとしたら，オレは輝明がうらやましい」。一方で，里江は都古に，明日は堀田の所に行くという。輝明の将来について相談するために。自分に何かあった時，秀治やりなに迷惑をかけたくない。その時のための相談。それを聞いた都古は，堀田の所に一緒に行くという。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。都古ちゃんが家に来ました。レースに出ます。＞ 　里江と都古がそろって堀田の所にやってきた。堀田は，32歳の男性なら家を出て時々実家に戻る生活をしているのが普通という。今後は，適切なサポートを受けながらできるだけ自立した生活ができるようにしていくのがいいんじゃないかとアドバイスする。里江は「どこかに預けるってことですか」と不安げに言う。堀田は，自閉症の人は自分でできると言うことが好きで，干渉されるのが好きじゃないので，家を出ることは輝明にも家族にとってもいいことだと説明する。そして，グループホームを紹介する。グループホームは，苦手なことを補いながらできるだけ自立した生活をするのが目的の場所。より誇りを持って生活していけるようになると。　 　動物園の鳥小屋を見つめる輝明。三浦に輝明は「鳥はここを出たらどうなるんですか？」と尋ねる。「生きていける鳥もいれば，生きていけない鳥もいると思います」と三浦。事務所で雑談中，ロードバイクの話になる。輝明は「レースに出ます・・・40km」という。驚いた三浦は「オレ，聞いてないですよ。なんで言ってくれなかったんですか」。「ごめんなさい」と輝明。そこへ園長が戻ってくる。動物園での仕事が楽しくて仕方がない園長。その時，高野常務から電話が来た。本社に呼ばれ，来園者数も増え，本社に戻らないかという打診があった。 　都古は，千晶といつものように食事をしていた。すでに新しい部屋も見つけたという。そして明日，河原とちゃんと話をすると告げる。普通は逆じゃないかという千晶に，輝明がどこに手紙を出したらいいのか困るからだと説明する。「都古への手紙は，永遠に続くんだろうね」と千晶。輝明は，里江から都古の新しい住所が書かれたメモを渡される。名前が"松田都古"になっていたので「どうして？」と。里江は，都古から話があると伝える。 　河原の家へ1人で向かった都古。まだ河原は戻っていない。部屋の中は雑然としていた。手紙の山から，輝明からのハガキを見つけ出す。河原が戻ってくると，部屋がきれいになっており，都古が座っていた。都古を見つけた河原は，反省したし，これからは直すようにするという。それでも都古は「ごめんなさい」。離婚届が封筒に入っている。それだけ言うと，今日届いた輝明のハガキを持って，家を出ようとする。慌てた河原がそのハガキを捕まえて止めようとする。その瞬間，ハガキが破れた。都古「返して！テルからの手紙，返して！」。河原「俺たちのことより，この手紙の方が大事なのか。こんなものいつまで続けるつもりだよ！一生彼に関わって，面倒でも見るつもりかよ」。都古は「私気づいたの。テルが私を必要としてたんじゃない。私がテルを必要としてたの」と出ていった。 　また鳥小屋を見続ける輝明。仕事が終わると，あの木の下で都古と出会う。いつもの2人の挨拶が終わると，輝明「松田都古」。都古は「また松田都古になったんだ」と言う。輝明「どうして？」。都古「河原さんとの約束，守れなかったの」。輝明「結婚というのは，ずっと一緒に仲良くしようって約束すること」。都古「でも守れなかった。約束は守らないといけないのに」。輝明「河原さんと仲良くできなかったの？」。都古「うん」。輝明「都古ちゃん，悲しい？」。都古「もう悲しくない」。それを聞いてちょっと嬉しそうな輝明。2人で亀田の店でコーヒーを飲む。輝明は「ごちそうさまでした」と自分の分だけ支払おうとするが，亀田が「こういうときは彼女のも払わないと」と耳打ちする。輝明は「どうしてですか？」と質問。亀田は「ごちそうしてあげるもんなの」。輝明は「僕のお金なのに？」と納得できない。それでも亀田は「そう・・・2人で500円」と2人分支払うようにする。輝明は「2人で500円」といいながら支払う。「テル，ありがとう。ごちそうさまでした」とほほえむ都古。「どういたしまして」と輝明。 　輝明は，亀田とロードバイクの練習を続けている。都古は，園長に事情を話す。園長は，ネコ科の動物を増やす予定で，獣医も募集するところだったと，都古を再雇用すると言ってくれた。都古が帰った後，古賀は園長に本社に戻る噂があると確認する。園長は，その話は断るつもりだという。理由は，動物園での仕事が楽しいから。 　秀治・輝明・りなの3人で，亀田の見せに来た。秀治は，亀田にいろいろと世話になっているとお礼を言う。そして「一緒に走っていただけて心強いです」とレースの伴走のことも礼を言うと，「一緒には走りませんよ。別のレースに出るから」とあっさり言う亀田。伴走してくれるものだと思いこんでいた秀治は，少し驚いた。りなは，秀治に「この前の話，まだ大丈夫？」という。就職の話。秀治が「私は私がしたいようにするんだからって言っていなかった？」とちょっと意地悪く言うと，「あ，バイトの時間」と行ってしまう。家で，グループホームのパンフレットをいくつか並べ，都古が輝明に説明している。ちょっと複雑な里江。 　＜都古ちゃんへ　今日は仕事が休みでした。ロードバイクに乗りました。都古ちゃんがグループホームの話をしました。＞ 　また鳥小屋の前でじっと見ている輝明。「この場所，気に入ったみたいですね」と三浦。輝明「トビはいますか？」。三浦「トビはいません」。すると「ぴーひょろろろ〜」とトビの鳴き声をまねする輝明。夕食後，輝明が幸太郎とゲームをしに行ってしまうと，都古はグループホームの見学に輝明と行きたいと言い出す。何も聞いていなかった秀治達。里江は説明しながらも，「元気なうちは家で過ごさせたい」と言う。都古は「元気なうちに少しでも自分のことができるようにしましょうってことじゃないですか」と強く言い出す。秀治は「その時になって考えればいいじゃない」と。都古は「その時じゃ遅いかもしれないから今からやろうって」と強い態度に出るが，ふと我に返り「すみません」。 　秀治は真樹と二人になると，「さっきの話だけれど，オレがずーっと輝明の面倒見るっていっているわけじゃないから」。「でも，そうしたいと思い始めているでしょ？」と真樹。秀治は「輝明には迷惑かけられっぱなしで，イヤな思いもたくさんした。なんでオレがこんな思いしないといけないんだ・・なんで輝明は俺の弟なんだ・・って，何度も思った。でも，しょうがないよ。輝明は俺の弟として生まれてきたんだから・・・すまない」。秀治の言葉を聞き，真樹は「ずっと認めたくなかったんだけど・・・私が幸太郎を追い詰めているって気づけたのは，輝明さんのおかげなのよね。先のことはわからないし，一緒に住めるかどうかもわからない。でも，輝明さんには感謝しているから」と自分の気持ちを伝える。「ありがとう」と秀治。1人考え込む里江。それを見かけたりなは，そばに座る。里江は「輝明のこと，どう思う？」と相談する。りなは「お兄ちゃんがしたいようにするのがいいと思う。どう思っているんだろうね」。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。都古ちゃんが家に来ました。ごはんを食べました。＞ 　動物園。園長に「本社に戻ってください」と直訴する古賀。園長は，相手にしない。しかし，ふと顔を上げると，職員みんなが真剣な顔で見つめている。輝明もその仲間に加わる。園長は「ここで働きたいんだ。ここの動物園をもっともっと良くしたいと思っている」と主張するが，「本社に戻ってそれをやってください」と三浦。古賀も「本社にもいてくれないと困るんです。動物に愛情ある人が」と。 　レースの下見に，亀田と一緒に来た輝明。途中で鳶の声が聞こえ止まる。「ぴーひょろろろ〜」と輝明。周りを探すが，その姿は見つからず。 　都古がまた獣医として復帰することが，朝会で発表される。続いて，園長が来年度本社に戻ると発表する。みんな拍手。 　輝明は，レースに向けて練習に励んでいる。練習には，みんなが交替でつきあった。秀治の家族やりな，都古だけでなく，動物園の仲間も。練習のため，足に靴擦れができると，その手当は里江の担当。レース用の服は，都古と一緒に買いに行く。そして，動物園の仲間からは，黄色い水筒がプレゼントされた。着実に準備が進んでいく。相変わらず，出勤前には都古との約束をしたハガキを見ている。それをじっと見ていたりな。そして，相変わらず鳥小屋をじっと見ている輝明。 　亀田「オレが教えられることは，全部教えた。最後にもう一度この言葉を贈る・・・走るのは気持ちいいだけじゃない。辛いときだってある。風を感じ，空を感じ，大地を感じながら，つらさを乗り越えた時，そこにはどんな世界が待っていると思う？それは，ロードバイクに乗る者だけが感じることができる世界なんだ」。じっと聞いている輝明。 　レース前夜。みんなで食卓を囲んでいると，一番張り切っているのは秀治。「しっかりな」と言葉をかけるが，「そんなこと言うから緊張しちゃったじゃん」とりなに言われる。秀治は「大丈夫だからな。とにかく落ち着いてな」と行っている自分が一番落ち着きがない。部屋に戻ると，輝明は，ツール・ド・フランスのビデオを見ている。里江は「大丈夫かな」と心配しているが，都古は「久しぶりにテルと一緒に仕事をして，ホントに驚きました。覚えた仕事はきちんとやっているし，動物たちのことたくさん覚えています。動物園で働いて，テルにとっての新しい世界ができたんだなと思いました」と。里江は「ロードバイクもきっとそうね。テルの新しい世界なんでしょうね」。都古「まだあると思います。テルの新しい世界」。都古はグループホームがそうなんじゃないかと。「テルにとって，最初の一歩を踏み出すことは，とても大変なことだと思います。踏み出せてもうまくいかないことの方が多いかもしれません。でも，最初の一歩を踏み出さないと，前には進めません」。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。都古ちゃんが家に来ました。明日はレースです。＞ 　手紙を書き終えた輝明の所へ，りなが入ってくる。気持ちが落ち着くようにお守りを持っていた方がいいとアドバイスする。輝明がベッドに横になると，里江が入ってきた。眠っている輝明を見つめる里江。そして机の上の幼い輝明の写真を握りしめ，涙を流す。 　いよいよレース当日。輝明は，レース用の服に着替えるとき，胸からお守りを下げた。カードケースの中には，都古との約束のハガキが。「お守り」と胸に当てる。お弁当の用意をする里江と真樹。秀治・りな・幸太郎はコースを確認している。みんなが興奮状態。そこへ支度を終えた輝明がやってきた。みんなに「かっこいい」と褒められ嬉しそう。レース会場に行くと，園長・古賀・三浦も来てくれていた。 　スタート地点に着く。耳をふさいでいる輝明。沿道から心配そうに見守る家族や仲間。亀田は，自分の店でテルのことを心配している。堀田も遠くから見守っているよう。輝明のそばには，秀治がいてくれた。輝明は「走るのが気持ちいいだけじゃない。辛いときだってある。風を感じ，空を感じ，大地を感じながら，つらさを乗り越えた時，そこにはどんな世界が待っていると思う？それは，ロードバイクに乗る者だけが感じることができる世界なんだ」と早口で言っている。秀治に支えられ，ピストルの音を我慢する。ピストルがなると，お守りを押さえ，秀治の合図でスタートを切る。 　順調に走り出す輝明。初めのうちは，集団の中でしっかりペダルをこいでいた。途中のコースが見える場所まで移動し，見守る家族と仲間。それぞれが輝明との思い出を思い出していた。徐々に集団から後れていくが，それでもマイペースで走り続けていた輝明。しかし，次第に辛くなり，とうとう止まってしまう。水筒で水分補給をする。その頃，里江が「輝明」とつぶやく。都古も「テル」と。その声が聞こえたかのように，お守りに手を当て，また走り出した。ゴール地点で待つ家族と仲間。次々とゴールしていく。やっと輝明の姿も見えた。ところが，どこからか「ぴーひょろろろ〜」という声が。突然輝明が止まり，コースを外れてどこかに行ってしまう。秀治達が驚いて追いかけようとすると，里江が「待って・・・待ちましょう」と。 　輝明は，ロードバイクを走らせ，トビの姿を探し続けた。やっとトビの姿が見え，そのトビが羽を広げて飛び立った。悠然と飛ぶトビの姿をじっと見ている輝明。心配しながら待っている家族や仲間の前に，また輝明が戻ってきた。無事ゴールをすると，みんなが駆け寄る。そして輝明は「お母さん・・・僕グループホームに行く」。「はい」と里江。輝明「トビは，タカ目タカ科に属する鳥です。関西では，トンビとも言います。ほとんど羽ばたかず，尾羽で巧みにかじを取り，上昇気流に乗って上空に舞い上がる様や，"ぴーひょろろろ〜"という鳴き声ではよく知られており，日本ではもっとも身近な猛禽類です」。 　里江と真樹がごちそうを作っている。「お兄ちゃん，何時に来るの？」とりな。輝明は，グループホームで生活を始めていた。どうもそこでの生活も気に入っているらしい。里江は「電話してみる」とグループホームに電話をかける。しかし，電話の途中でがっかりし始める。電話を切ると，みんなに輝明は帰ってこないと告げる。りなが「どうして」。「僕にだって予定がある・・・だって」と里江。 　グループホーム＜ありがとう＞から輝明が出てきた。自転車に乗り，ポストでハガキを投函する。その先で待っていたのは，都古。輝明「都古ちゃん，こんにちは」。都古「こんにちは」。輝明「手紙出したから」。都古「うん，待ってる」。そして2人で自転車をこぎ始める。まっすぐな道を2人並んで・・・ 　＜都古ちゃんへ　今日は仕事が休みでした。都古ちゃんと自転車に乗りました。都古ちゃんが笑っていました。＞ 　TOP

＜第10話＞ 　輝明に泣きつく都古。輝明はいつものように「手紙出したから」。「うん，待ってる」と答える都古。都古は，輝明から離れ「ごめん」と。輝明が「どうしたの」と聞くと「何でもない」と答える。今から動物病院へ仕事に行くという都古に，輝明は「約束だからね。結婚って言うのは，ずっと一緒に仲良くしようって約束すること」という。家に帰り，輝明は，いつものように手紙を書く。 　＜都古ちゃんへ　今日は仕事はお休みでした。ロードバイクに乗りました。都古ちゃんが泣いていました。＞ 　手紙を書き終えると電気を消し，ベッドへ。すると涙が輝明の頬を伝わった。輝明は，涙をぬぐうことなく，そのまま横になりしばらくそのままだった。 　亀田の店。コーヒーを飲む輝明に，亀田が語る。「ロードバイクに出会ってしまった者は，やがて新しい自分に出会うことだろう。ロードバイクに乗っているとね，新しい世界が見えてくるんだよ。走るのが気持ちいいだけじゃない。辛いときだってある。風を感じ，空を感じ，大地を感じながら，つらさを乗り越えた時，そこにはどんな世界が待っていると思う？それは，ロードバイクに乗る者だけが感じることができる世界なんだ」。輝明は何も言わなかったが，自分の部屋に戻ると，ロードバイクのレースのチラシをじっと見ていた。 　秀治がやってきて，りなの進路の話をしようとする。その時，輝明がチラシを持ってやってきた。りなは「見に行きたいの?」と尋ねるが返事がない。「もしかして出たいの?」とりなが聞くと，「出たい」と答える輝明。40km走るレース。秀治は，競争の意味もわからないし，たくさんの人が集まる場所だからと反対。里江も「ちょっと輝明には難しいかな」と反対の様子。反対されても何も言わず，「お風呂はいる」と行ってしまう輝明。りなは秀治と里江に「無理かどうか，やってみないとわからないじゃない」という。しかし秀治はりなの進路の話に戻す。りなは「もういいでしょ」と行ってしまう。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。亀田さんの店に行きました。レースに出たいです。＞ 　都古は，翌日の来客のための準備をしていた。河原の友達が来る予定になっていた。河原は，8人も人が来ると狭いという話から，マイホームや子供のことを話す。「子供がいるってことは家庭円満ってことだし。子供がいたら離婚になんか・・・」。ハッとする都古。河原も慌てて「いたんだよ」と友達の話にすり替える。次の日，食事の準備をする都古。河原はワインを買いに行くという。都古も，ニンジンを焦がしてしまったので買い直すと出ていく。スーパーで棚にぶつかり，ジャガイモが転がった。それを機に，都古の中で何かが崩れた。河原がワインを買って家に帰ると，都古の姿がどこにもない。クローゼットを見ると，都古の服がなくなっていた。そして代わりに結婚指輪が残されていた。1人電車に乗る都古。着いた場所は海。 　夕食中，秀治はりなの就職の話を持ってくる。その話をしていると，幸太郎が「輝明おじちゃん，どうしたの」と。輝明の目からは涙がこぼれていた。みんなが見守る中，立ち上がった輝明はごはんをよそっていた。里江に言われ，ティッシュで涙を拭くが，何もなかったかのように食事を続ける輝明。里江が動物園でのことを聞いて原因を探ろうとするが，特に何もないよう。りなは「何でもないんじゃない」。真樹が驚いて「泣いているのに?」というと，「たまに変なときに泣くことがあるんです。良くわかんないけど」とりなは説明する。それでも心配している里江。輝明の部屋の机には，都古へのハガキと並んでレースのチラシが置いてある。眠っている輝明を，見守っている里江。それを通りかかったりなも見ている。里江はりなに輝明がぐっすり寝ているという。「何でもないだよ。なんかあったら眠れなくなるんだから」とりな。一方，旅館に泊まっている都古は眠れなかった。携帯にはひっきりなしに河原から電話がかかってくるが，出ようともしなかった。 　翌日，輝明はいつものように動物園へ。りなが起きてくると，里江が動物園に行くと準備をしていた。りなが「わざわざ行くことない」というが，念のために話を聞いてくると。輝明と三浦は，掃除の途中で話をしていた。ロードバイクは休みの日に乗っていると言う輝明に，三浦は「気持ちいいんだろうなぁ」と。輝明は「風を感じ，空を感じ，大地を感じながら，つらさを乗り越えた時，そこにはどんな世界が待っていると思う？それは，ロードバイクに乗る者だけが感じることができる世界なんだ」と亀田の言葉を言う。その頃，里江は園長と古賀と話をしていた。動物園では変わった様子はなく，もし何かあったらすぐに連絡をしてくれると言う話だった。夜遅く帰ってきたりなに，里江が何もなかったことを話すと，「そんなこと最初からわかってたじゃん!」と怒鳴って言ってしまう。 　相変わらず眠れない夜を過ごす都古。亀田の店で，レースのポスターを見つめる輝明。ロードバイクに乗る亀田と輝明。 　秀治は里江に「りな，目的があって家出るって言ってるんじゃないんじゃない？お袋を心配させたいだけなんじゃないかな。子供の頃から，お袋は輝明のことで頭がいっぱいだった。特に昔は今より自閉症を理解してもらうの大変だったから」と話す。そのりなは堀田に相談していた。家を出ようと思っているが，輝明のことを考えると複雑だと。それで最近，夜眠れない。堀田は「輝明さんのこと心配なんですね」と言って，「今日はあなた自身のことをお聴きしましょうか」とりなの話を聞く。 　秀治は，里江に話し続ける。「お袋はわかってたはずだよ。りなが寂しい思いずっとしてたこと。お袋に甘えたくても甘えられなかったこと。お袋はりなにずっと甘えてきたから」。涙をこらえる里江。そこへ輝明が帰ってきた。何も言わず2人を見ている輝明。秀治が「どうした」と尋ねると「出たい」と言うだけの輝明。それがレースのことだとわかると，秀治は「まだそんなこと言っているのか」と。それでも輝明は「出たい」の一言。すると秀治は「出たいなら自分1人でやれよ！人の手を借りて当然だと思うな！人に迷惑をかけて当然だと思うな！ずっと兄妹が面倒見てくれるなんて思うな！」と声を荒げる。何も言わず行ってしまう輝明。「輝明に当たらないで」と涙声の里江。それでも秀治は続ける。「お袋，気づいていたよね。小学校の時，輝明のことでオレがいじめられてたの。じゃ，輝明がクラスで問題起こす度，輝明の担任がオレに不満をぶつけてたことは？」。涙ぐむ里江は声を振り絞って「そんなことがあったの」。秀治「ああ，いい迷惑だったよ」と去っていく。1人泣く里江。 　りな「母に何か話をしようとしても，ちょっと待っててって言われました。母はお兄ちゃんのことしてました。母の話は良く聞かされました。ほとんどグチです。お兄ちゃんのことで疲れると，私にグチをこぼすんです」。堀田「辛かったですね」。りな「しょうがないと思っていました。父はお兄ちゃんのこと母に任せっきりにしていたし，母は本当に辛そうでしたから」。堀田に「あなたのおかげでお母さん，ずいぶん助かったんでしょうね。でも，りなさんはずっと我慢してきた。自分の気持ちを抑えてきたんですよね。本当はどうしたかったんですか」と言われると，「お母さんに甘えたかった」と声を出して泣き出した。 　自分の家に戻った秀治。真樹がテレビで見たという，自閉症の人たちのグループホームの話をすると，「黙っててくれないかな」と厳しい口調の秀治。チラシを見つめる輝明。りなは帰ってくるとお風呂に入った。いつものようにビデオを見る輝明。お風呂からあがったりなは，里江の背中を見つめる。そして黙って肩をもむ。「りな，ごめんね」と里江はりなの手を握りしめる。後ろから抱きつくりなの頭をなでる里江。その姿を黙ってみていた秀治。秀治は，輝明の部屋へ。くずかごにあのチラシが入っていた。秀治は「レース出たいの？」と尋ねるが，何も答えずビデオを見ている。秀治「小学校の時の運動会，覚えてる？かけっこ。輝明，競争の意味わからなくて，コースをちゃんと走れなかったんだよな。自転車のレースのコースって・・・」。「お兄ちゃんが手を引いてくれた」と突然話す輝明。「かけっこ。お兄ちゃんが手を引いてくれた。ありがとう」。はっとする秀治は「さっきはごめん。キツイこと言って」。そして，くずかごからチラシを取り出し，机の上に置く。 　旅館で携帯のアドレスを見ている都古。「大竹」の所で止まるが，時間を見ると深夜。電話をかけられない。次に止まったのは「お母さん」。じっと見つめ考え込む都古だったが，携帯を閉じてしまう。輝明が，いつものように仕事から帰ると，電話が鳴った。しかし，母の姿がない。緊張しながら電話に出る輝明。受話器から聞こえるのは波の音だけ。すると「都古ちゃん？」と輝明。慌てて切る都古。電話を切ったあとでりなが降りてきた。りなが「誰から？」と聞くと「都古ちゃん」と輝明。りな「何だって？」。「何も言わなかった」という輝明の返事に驚くりな。電話を切った都古は「ごめんね，テル。約束守れなかった」。そして旅館に帰る途中，千晶から電話が。 　ジンジンの世話をしていた輝明は，元気がないことに気づく。三浦に相談し，獣医に診てもらうことに。そのころ，都古は浜辺で千晶と会っていた。千晶に「しばらくここでのんびりするのもいいんじゃない」と言われると，のんびりもできずどんどん落ち込むだけだと答える。実は家を出る１週間ぐらい前からほとんど眠れていなかった。千晶に「帰ろう。安心して眠れる場所に」と言われると「どこに帰ればいいの」と都古。千晶が「家においでよ」と話していると，どこか遠くを見ている様子。「お母さんのこと考えていた？」と千晶。母親も年を取り変わったんじゃないかと。それでも都古は「お母さんの所には絶対帰らない。昔も今も，お母さんの所は私が安心できる場所じゃないから」と。それでも都古は母親が住む団地までやってきた。洗濯物を取り込む母の姿を見つける。しかし，声をかけることはせず，その場で電話をかけた。すでに河原から連絡があり，都古が家を出たことを知っていた。母親は，都古の話を聞こうともせず，「どうせ都古が悪いんでしょ。離婚なんて絶対ダメよ。親が離婚しているからって言われるから」。そういわれた都古は自分から電話を切る。バス停で１人泣く都古。 　そのあと都古が向かったのは，動物園だった。誰にも会わないようにしながら園内を歩く。暗くなるまで残っていた。テンジクネズミの部屋に近づくとジンジンに声をかける。すると輝明がやってきた。ジンジンが元気じゃないので残って世話をしていたのだった。２人で事務所へ。三浦も残っていたが，動物たちを見回りに行っていて今はいなかった。輝明のすぐ後ろに座る都古。輝明は「手紙出したから」といつもの挨拶。「うん，待ってる」と都古も嬉しそうに答える。そのあとは，輝明はアメリカンビーバーの説明を音読し始める。そんな輝明の後ろ姿を，ほほえみながら見ている都古。読み終わった輝明が，ふと後ろを見ると，都古が眠っていた。そっと自分の上着を掛けてあげると，また別の動物の説明を読み始めた。 　TOP

＜第9話＞ 　幸太郎が輝明に500円を返しに来た。これで5千円全額返済できたことになる。輝明は，幸太郎から帰してもらったお金を持って自分の部屋へ。幸太郎も付いていく。輝明が飼育係になってから1年が経っていた。秀治はりなの進路を気にする。里江は，何かやりたいことがあって卒業後は家を出たいと言っていたと秀治に言う。"私には私の人生がある"・・・そうりなは言っていた。里江は「ちょっとどきっとしちゃった。心のどこかで，私に何かあっても輝明にはりながいてくれると思っていた・・・」。秀治が「オレはあてにされてないんだ」というと，「あてにされたら困るでしょ」と里江。返答に困った秀治は「あぁ・・・」と答えただけだった。おこづかい帳をつける輝明。ロードバイクを買うお金ももうすぐ貯まる。 　三浦が"飼育係一日体験"のポスターを貼る。その日は給料日だった。園長から明細を渡される輝明。園長は「一年が経ちましたね。これからもよろしくお願いします」と。「貯まった・・・60万円。貯まった」と輝明。「貯金ですか」と聞かれると，「積み立てです」と輝明。「欲しい物があります。60万円です・・・ロードバイクです」。園長が「大きい買い物だね」というと，「はい。今のより大きい自転車です」と輝明。 　園長と古賀が2人で昼食をとっている。園長に息子に会いたくないかと聞かれた古賀は，別れた妻に会わせて欲しいと話をするつもりだという。園長は，飼育係一日体験に来てもらったらどうかと提案する。早速古賀は，別れた妻に会いにいく。 　輝明は，里江とりなと一緒に給料の仕分けをする。ロードバイク積み立てが60万円に達成。みんなで拍手。ロードバイクを買いに「りなも一緒に来て」と輝明。「えぇー」と不満を漏らしながらも，りなは一緒に店に行く。ところが，店頭には輝明の欲しいロードバイクがなかった。在庫があれば取り寄せてくれることになった。 　都古は河原に，休日に千晶を家に呼んでもいいかとたずねる。河原は「断ったらオレがイヤだと言ったみたいだろう」と，渋々許可する。だたし，以前のように休みの日は家でゴロゴロしているとは言わないようにと釘を刺した。 　＜都古ちゃんへ　今日はサイクルショップに行きました。ほしいロードバイクがありませんでした。ざいこがあればとりよせです。＞ 　亀田の店でコーヒーを飲む輝明。そこへりながやってきた。ロードバイクの在庫があり取り寄せができるという知らせを持って。動物園の事務室では，古賀が園長に別れた妻と話をしたことを伝える。息子は，父親は死んだと思っているから，きちんと話をして会いたいかどうか聞いてみるということだった。そして，もし会えるなら，飼育係一日体験に来て欲しいと話した。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。ロードバイクのざいこがありました。とりよせです。＞ 　千晶が都古の家に来た。河原は，わざわざ限定のケーキを買って来る。千晶に河原は休みの日何をしているのか聞かれた都古は，図書館で調べ物をしたり，体を動かしたりしていると答える。今日は，入院中の動物がいるから病院に行くという河原。都古と河原のやりとりを聞いていた千晶は，ケンカしたのではないかという。「河原さんの機嫌うかがってるみたい」。否定する都古。千晶は「うらやましいよ。ホントに好きな人と結婚できて」。千晶は夫婦げんかもうらやましいと。そういわれいらだつ都古。「私は結婚しないと思っていた。誰かを信じて裏切られるのが怖いから」。好きな人ができても，本気で好きになろうとせず，自分をさらけ出さず，距離を置いてつきあってきたという都古。千晶が「河原さんのことは，本気で好きになっちゃったんでしょ」というと，「良くわかんないけど・・・誰よりも私のことをわかってくれて，ありのままの私を受け止めてくれる人なんだと信じたかったんだと思う。そう思いこもうとしたんだと思う」。でも違ったと。河原は，自分にとっていい奥さんなら誰でも良かったんじゃないか・・・。実は，都古は自分の親のことで辛い思いをしていた。幼い頃，激しい夫婦げんかをする両親。母親は，すぐにでも離婚したいが，子供がいるから離婚できないと。そう話しているのを聞いてしまう幼い都古。そんな経験をしている都古は，1人になりたくないから河原とは別れないという。千晶に，このあと違う人との出会いがあるんじゃないかと言われても，「誰も信じられないと思う」。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。チキンカレーを食べました。ジンジンをおふろに入れました。＞ 　思い出の大きな木の下に来た都古。幼い頃のことを思い出す。幼い都古前には，パック詰めのお弁当。他に誰の姿もない。すると，外からベルの音が。輝明がやってきて，やっと笑顔になる都古。そんなことを思い出していると，携帯が鳴った。里江からだった。2人は喫茶店で久しぶりの再会。話の中心は輝明。ロードバイクを買うことについては，「輝明だって，人生楽しむべきでしょ」と里江。本当なら，将来のことを考えて，少しでも貯金をさせたいが，楽しみも必要だと。仕事の方は順調で，飼育係の仕事は輝明も気に入っている様子。「テル，頑張っているんだ・・・私も頑張らなきゃな」とつぶやく都古。そして「テルががんばってるなら，中途半端に会わない方がいいですよね」という。「さぁ，どうだろう・・・」と里江。 　飼育係一日体験の日。園長は朝会で，中学男子3名が体験に来ることを告げ，さらに「自閉症の18歳の男性が，もしかしたらいらっしゃるかもしれません」と話す。一日体験は，古賀と輝明が担当した。古賀がいろいろ説明をし，実際の仕事を輝明がやってみせる。いろいろな仕事を輝明と一緒に中学生がこなしていく。古賀は時折，周囲を見渡し，息子の姿を探す。結局，息子が現れることなく，一日体験が終了した。園長が，園内を見回っていると，ある青年とすれ違う。ふと気づく園長「来た!」。いつものように輝明と古賀が仕事をしている。ふと古賀が輝明の方をみると，輝明は何かをじっと見つめていた。その視線の先には・・・息子の姿が。古賀は「こんにちは」と挨拶するが，その先の言葉が出てこない。すると，輝明がほうきをさしだし「飼育係一日体験にようこそ」と。そのほうきを受け取る息子。古賀が言葉をかけ，父子一緒に掃除をはじめる。体験が終了し，動物園の門の前まで一緒に出てきた。何か言おうとする古賀に，息子は「15時23分の電車に乗ります」と。「じゃ，また」と見送る古賀。歩き出した息子は，ポケットに手を入れた。その姿を見て，輝明が「一緒」と一言。古賀も同じようにポケットに手を入れて立っていた。息子は，迎えに来た母親と一緒に帰っていた。 　里江は，堀田に輝明を都古に会わせて大丈夫かどうか相談に来ていた。都古が結婚したばかりの頃，不安定になったことがあったので，心配していた。堀田は，今の輝明ならば，仕事面でも落ち着いているので，大丈夫だろうと。ただし「エクスポージャー不安を起こすかもしれないですけどね」。夕飯の時，里江は輝明に，都古を家に呼んでもいいかどうか尋ねる。輝明「都古ちゃんに会ってはいけません」。しかし，里江に「今の輝明なら大丈夫よ」と言われると，すぐに「都古ちゃんいつ来るの?」と。里江は「今度の日曜日」と教える。都古も，河原に輝明にあってもいいかどうか尋ねた。河原は「まだつきあうつもり?彼のお母さんに会ってくれって頼まれた?」といい顔をしない。それでも，一応は許可してくれた。 　その日から輝明は，何かにつれ「都古ちゃん，いつ来るの?」と里江に聞いてきた。その都度答える里江。都古は，千晶と食事に行き，そこで以前パーティーで出会った河原の大学時代の友人を見かけた。挨拶に行こうとすると，ちょうど河原のうわさ話をしているところだった。その内容は・・・河原の離婚は，元妻の方が積極的で，河原は逆に「別れないでくれ」と懇願していたぐらい。"バツイチ"という状況が許せず，すぐに再婚した。河原は「人からどう見られるかが一番重要な男」。そんな話を聞いてしまい，立ちつくすだけの都古。 　都古が家に来る当日。三浦に「ロードバイク来ました?」と聞かれた輝明は「来ません。都古ちゃんが来ます」と答える。帰り道，あの大きな木のところで都古と出会う。都古に「その服新しいの?似合っているよ」と言われると，輝明は「都古ちゃん，その服似合ってないよ」と言う。都古が「久しぶりに会えて嬉しいな」と言うと，輝明は「嬉しくない」と言う。都古が「お腹すいたね」と言うと，輝明は「すいてない」と言う。でも「グー」と言う輝明のお腹が鳴る音が。それでも輝明は「すいてない」。都古が「行こうか」と言うと，輝明は「行かない」。都古は「行くよ」と歩き出す。「行かない・・・行かない」と言いながら付いていく輝明。そしていつものように自転車のベルを鳴らし，「都古ちゃん，こんにちは」。「こんにちは」と都古。輝明「手紙書いたから」。都古「うん，待ってる」。その頃，家では里江がりなに"エクスポージャー不安"について説明していた。人と関わるときに生じる不安で，普段わかることがわかりにくくなったり，好きな人に変なことを言ってしまったり，あまのじゃくの反応をしてしまうこと。ただし，輝明はひどい症状は出ないだろうと言われてきた。 　輝明と都古が帰ってきた。里江は都古に「変なこと言ったりしなかった?」。「言ってました」と笑顔の都古。食事をしながら，楽しく話をする。輝明がどんどん新しい道に挑戦しており，りなのバイト先のファミレスにも行ったと。そのことを都古に褒められると，「得意そうな顔してる」とりな。すると輝明は「ロードバイク早く来ないかな」と言う。りなが「行きたいところある?」と聞くと「ある」と輝明。りなが「どこ?」と聞くと，「内緒」と輝明。りなが「教えてくれなきゃ道教えられないよ」と言うと・・・「困った顔してる」とりな。「教えて」と言われても，やっぱり「教えない」と答える輝明。玄関で都古を見送るとき，りなは「都古さん幸せそう」と。その夜，いつものように都古にハガキを書く輝明。 　ある日，仕事が終わり，みんなが動物園から出てくると，一台のトラックがやってきた。りなが降りてきた。そう，ロードバイクが届いた。みんなが珍しそうに自転車に近づいていく。それでも動かずじっと見つめている輝明。三浦に促され，自転車のそばにやってくる。自転車をじっと観察し，「ベルがない」と一言。亀田が開店の準備をしていると，輝明がロードバイクを押してやってきた。「おー，来た来た」と亀田。「乗るか?」。「乗るか?」と輝明。公園でロードバイクの練習をする2人。転びながらも，徐々に乗りこなしていく輝明。 　都古からのお礼の手紙が大竹家に届いた。りなは「都古さん，幸せそうだったぁ」と。里江も「ご両親といろいろあったから，温かい家庭持ちたかったと思うの。幸せそうで，ホント良かった」。都古は，輝明からのハガキを読んだ。そこに書いてあったのは・・・ 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。都古ちゃんがウチに来て，ごはんを食べました。都古ちゃんが元気じゃありませんでした。＞ 　ハガキを読んで涙ぐむ都古。涙をこらえながら，外に出ると，「来た・・・」。ロードバイクに乗った輝明が近づいてきていた。輝明は「都古ちゃん，こんにちは」といつものように挨拶する。涙をこらえる都古は返事ができない。輝明は「こんにちは」とまた挨拶する。やっと「こんにちは」と答えた都古は，輝明の胸に飛び込む。それでも輝明はいつものように「手紙出したから」。都古は泣きながら「うん，待ってる」。 　TOP

＜第8話＞ 　堀田の元を訪れた輝明は，新しい仕事や新しい道を覚えたことを報告する。堀田は「とても素晴らしいことですよ，新しいことに挑戦することは」と言う。その言葉を誇らしげに聞く輝明。自転車で亀田の店の前に来ると，輝明は自転車を止めた。店の前に立ちつくしていると，りなが偶然通りかかる。りなに「この店入りたいの?」と聞かれると「うん」と答える輝明。すると亀田が店の中から顔を出した。親しげな2人に驚くりな。亀田が店の中に誘うと，りなが「兄は初めての場所だと緊張して・・・」と説明するが，その言葉を遮るように「大丈夫」と輝明。亀田は特に不思議に思うことなく「ゆっくりどうぞ」と輝明を招き入れた。輝明が家に帰り，里江に喫茶店でコーヒーを飲んできたことを報告すると，里江はとても嬉しそうだった。「新しい喫茶店」と輝明。また"新しいこと"が自分からできた。そこへ秀治がやってきた。里江の精密検査の結果を聞きに来たのだったが，里江が「何でもなかった」と言うと安心した。そのことを真樹に報告すると，真樹も安心した様子だった。真樹は，宿題が終わった幸太郎に絵の具セットをプレゼントする。絵画教室にまた通ってもいいと。嬉しそうな幸太郎。夕飯が終わり秀治が部屋に戻ると，りなは里江に「都古さんがいなくても，もう大丈夫そうだね」と言うが，里江は職場の方を心配していた。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。チキンカレーを食べました。ジンジンのつめを切りました。＞ 　ハガキを受け取った都古は，安心した様子。都古は，教授夫妻との食事会の帰りだった。なぜか教授夫妻と別れてから，河原の機嫌が悪い。都古には原因がわからなかった。 　動物園の事務所では，公募したレッサーパンダの赤ちゃんの名前をみんなで選んでいた。その輪に輝明も入る。園長は本社にいた。みんなで園長は本社に戻り出世するんだろうと話をしている。三浦が「出世かぁ〜」とつぶやくと，輝明も「出世かぁ〜」と繰り返す。その頃，本社の常務室では，園長と高野常務が話をしていた。常務は「フラミンゴってどうしてピンク色になるの?」と園長にたずねる。ただし，視線は動物園の来場者数をまとめた書類から離れない。園長が答えられないと，常務が自分で答えた。わからなくてもいいという常務。「久保君の仕事は，来場者集を増やすことなんだから」。動物園の来場者数は減少を続けている。常務は，障害者雇用でイメージアップするより，来場者数が増えるようなイメージアップを考えろと。このままじゃ本社に戻るどころか，園長という立場も危ない。動物園に戻ってきた園長は，焦っている様子で，レッサーパンダの名前を早く決めてマスコミ発表をすると伝える。園内を掃除しているとき，輝明は三浦に「出世かぁ〜・・・"出世かぁっ" てどういう意味ですか?」とたずねる。うまく説明できずに，三浦は「大竹さんは知らなくてもいいことです。わからなくても大丈夫ですよ」。 　朝，机の上の都古のハガキを読み返し「約束です」と笑顔の輝明。朝会で，休園日の今日，マスコミを呼んでレッサーパンダの名前を発表すると園長が伝えた。しかし，古賀は双子の片割れ・クッピーの体調が悪く，マスコミ取材を延期して欲しいと伝える。焦っている園長は「今更中止なんてできないよ」と。クッピーの体調は思わしくなく，田原獣医の判断も休ませるというものだった。それを古賀が伝えても，「別に死ぬわけじゃないだろう」と園長は聞かずに，マスコミ取材を強行突破。取材後，クッピーの容態が悪化した。古賀が園長に「非常に危険な状態」と報告すると，驚いた園長は「もし何かあったら困るよ」というだけ。 　田原獣医と一緒にクッピーを見守っていた輝明だったが，退勤時間になったので，いつものように帰って行った。その頃，テレビのニュースでレッサーパンダの名前を発表する園長の姿が映った。それを見ていたりなと里江は，後ろの方で掃除をしている輝明の姿を見つけ喜んでいた。園長は，職員みんなが集まっているクッピーの部屋へ行った。古賀に「先にあがってください。後は僕たちでやりますから」と言われ，その場に居づらい雰囲気もあったので，そのまま帰って行った。途中，焼き芋を買う輝明を見つける。輝明は，都古と一緒に焼き芋を食べたあのベンチで焼き芋を食べる。その隣に座る園長。「私たち以外一致団結のようだね」と園長。何も答えない輝明。「いいねぇ，大竹さんは」と園長。黙々と焼き芋を食べていた輝明は「ごちそうさまでした」と。園長は，そのまま帰ろうとしたが，輝明は「テルは動物園の飼育係です。テルの動物園の動物たちが元気でいられるように一生懸命にお世話をしてください。約束です」と都古のハガキの文面をいい，歩き出す。その後ろ姿を見送るだけの園長。 　動物園の職員が集まってクッピーを見守っていると，輝明が戻ってきた。みんなが温かく迎える。古賀も嬉しそうに見つめる。輝明は，家に帰るのが遅くなると電話をする。園長がいないと知った里江が「だれがいるの」とたずねると，輝明は職員全員の名前を言う。それを聞いていた古賀が電話を替わった。里江は「輝明がいても大丈夫ですか?」と，逆に輝明がいると迷惑じゃないかと心配するが，「そんなことはありません」と古賀。電話を切ると，涙ぐむ里江。残った職員みんなで夜食のピザを食べる。輝明ももちろん一緒。その後も，みんなでクッピーを見守っていた。眠そうな輝明も一緒に。するとクッピーが水を飲んだ。みんな一安心。よくわからない輝明に，三浦が「ちょっとだけ元気になったと言うことです」と教える。でも眠い輝明はあくびをするだけ。「眠いですよね。寝てる時間ですよね」と三浦が言うと，その場の雰囲気が和み，笑いがこぼれた。古賀が付き添って輝明が帰宅。里江は職場できちんとできているのか古賀にたずねた。古賀は「ちゃんとやっていますよ。うちの飼育係の1人として」と。 　次の日の朝会。園長が「クッピーの病状が快復に向かい何よりです」というと，その場がしらけた。古賀が「まだお客さんの前には出せませんから」というと，今度はそれに従う園長。動物園には，双子のレッサーパンダを目当てにやってきた人たちがたくさんいたが，文句を言って帰ってしまう。自ら謝罪する園長。遅くまで残っていた園長は古賀に「私を責めたければ責めればいいだろう」と。そして帰ろうとするが，古賀が「僕は園長を責められるような人間じゃありませんから」といい，立ち止まる。古賀は「動物たちに愛情があるフリをずっとしていたじゃないですか。僕は，自分の子供に愛情があるフリすらできなかった」と，初めて自分の子が自閉症だと告白した。さらに話をしようと，古賀が「コーヒー飲みます?」というと「コーヒーはイヤなんだけど」と園長。その後2人は居酒屋にいた。古賀は「ありのままの息子を受け入れることができなかった。ひどいでしょ」と。でも園長は「ありのままの息子さんを受け入れることができなかった古賀さんは，少なくともありのままだったんでしょ」と言う。園長自身は「ありのままの私でいたことがないような気がする」。本当は，本社に戻ってもたいしたことはないと思っているけれど，"男は出世しなければならない"という考えがあるから，"負けたやつ"と思われたくないから，本社に戻ることに必死なんだと。古賀が「僕だって息子を捨てました」というと，「今は後悔しているでしょ」と園長。古賀は，輝明と出会って考えたという。「僕はこれからも変わることないよ」と園長。「出世しなければならないし，動物たちに愛情があるふりをしなければならないし，それから，障害者に理解があるフリも続けなければならない」。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。チキンカレーを食べました。クッピーが元気になってきました。＞ 　千晶と食事をする都古。河原は，友達と飲んでいるから，今日はカラオケにも行こうと言っている。遅くなって帰宅すると，すでに河原は帰ってきていた。不機嫌な河原。友達を連れてきたのに，家にいなかったことが不満だという。この間の教授夫妻との食事の時に不機嫌だったのは，休みの日にゴロゴロしていると都古が言ったから。無趣味な男と思われたくなっただけ。都古が「自分の都合ばかり言わないでよ」と言うと「オレは都古と一緒になるために妻と別れたんだ!」と言ってしまう河原。すぐに「ごめん，言い過ぎた」と謝り，都古も「ううん。今度から気をつけると」。そういいながらも，何か違和感を感じている都古。 　輝明は，里江から園長に手紙を渡すように言われた。朝会後，言われたとおりに手紙を渡した。 　＜最近の輝明は，落ち着いて毎日を過ごせています。正直申しまして，河原都古さんの退職後，輝明は皆様とちゃんとやっていけるのだろうかと心配しておりました。しかし先日私にとってとても嬉しい出来事がありました。クッピーの具合が悪くなったとき，輝明も残ってお世話をしたいと電話をかけてきました。そんな輝明を飼育係の1人として，皆様が受け入れてくださっていると感じ，胸が熱くなりました。園長さんをはじめとする職員の皆様には，感謝の気持ちで一杯です。理解ある園長さんに出会い，輝明は本当に幸せです。今後もどうぞよろしくお願い申し上げます。＞ 　手紙を読んだ園長は，1人でりんごを切る輝明を外からそっと見つめていた。そして返事を書こうとするが，何も書けない。帰り道，また焼き芋を買う輝明に出会う。今度は園長も焼き芋を買って，2人で並んで食べた。園長が輝明に今までの仕事をたずねると，すらすらとたくさんの職場をあげた。園長が「今までの仕事，うまくできなかった?」というと，輝明は「できることが多いのが良くて，少ないのが悪いってことじゃないの。自分ができることを一生懸命にやればいい」と里江に言われた言葉を言った。でも園長は「私の場合そうはいかない。結果を出さなきゃ」。その後は，黙々と食べるだけだった。 　園長は"高野常務来園用チェックシート"を手に，園内を見回った。途中，園内を掃除する輝明を見つけたが，その時に子供達に声をかけられた。マレーバクの場所を聞かれ答えたが，その後の質問「マレーバクって，マレー半島と関係があるんですか」には答えられなかった。すると少し離れた場所にいた輝明が，すらすらと説明を言い始めた。子供達は嬉しそうに輝明の元に駆け寄る。園長は，輝明に教えてもらった言葉を思い出す。 　高野常務が来園した。輝明期がりんごを切っている調理室にやってきて，輝明の仕事ぶりを見る。その後事務所に来た常務は「どういう従業員教育をしているの。調理室にいる飼育係，挨拶はしないし，話しかけても無愛想で目も合わせようとしない」と。園長が説明する前に，常務が「でも変わってるなぁ。りんご切るのに定規を使ってるんだよ。知ってた?切り終わったりんごもきちんと並べてるしさ。理由聞いても黙々と切っているんだよね。それでさ，定規使わなくていいんじゃないって，定規取ったら，なんかブツブツ言い出して・・・」とおもしろがって定規を見せると，「なんてことしてくれたんだ!!」と園長が怒鳴り，その定規を取り上げる。それを見ていた古賀や三浦が呆然としている。園長は「失礼しました。これ，彼にとって必要な物なんです」と言って，事務所を飛び出した。必死に走って輝明の元へ。輝明は「・・・1963年ジャック・アンクティル。1964年ジャック・アンクティル・・・」とパニック状態。「大竹さん，大丈夫?」と園長は定規を元の場所に置く。輝明はツール・ド・フランスの歴代優勝者名を言うのをやめ，園長を見つめる。徐々に落ち着いていく輝明。園長が「りんごを切ってください。いつものように」と言うと「はい」と作業をはじめる。 　里江に返事を書く園長。手紙をカバンに入れ，帰ろうとする園長に，古賀が「今日のは違いますよね。障害者に理解のあるフリなんかじゃ」。それには答えず，仕事の話をする園長。「来園者数増やさないと，本社戻れないんでね」。またいつもの場所で焼き芋を買う輝明に出会い，また2人で食べる。 　＜勤務中の輝明さんですが，お母様の教え通り，自分ができることを一生懸命やっていらっしゃいます。私たちが仕事を共にしていく上で，まだまだ輝明さんに戸惑うことがあるかと思います。でも，ありのままの輝明さんを受け止められるよう努力していきます。ありのままの輝明さんは私たちを戸惑わせるだけでなく，私たちに大切な何かを気づかせてくれる存在なのですから＞ 　黙々と焼き芋を食べる輝明に，園長が「フラミンゴがピンクになるのは，フラミンゴのえさになるプランクトンに含まれる色素のせいなんだよ。知ってた?」と言うと，「ヒナはフラミンゴミルクという・・・」とすらすらとフラミンゴの説明をはじめる輝明。びっくりしながらも，嬉しそうに見つめる園長。 　TOP

＜第7話＞ 　りなが輝明に，簡単な文で結婚について説明しはじめると，「わかってる。結婚って言うのは，ずっと一緒に仲良くしようって約束すること」と輝明。都古に教えてもらったと。「僕も都古ちゃんと約束した」。輝明の机の上には都古からのハガキがおいてあった。出勤前それを読み返し，「約束です」と満足そうな笑顔。 　自転車のカゴにロードレーサーの上着を入れ，いつものようにハガキを投函してから動物園へ。一人でテンジクネズミの世話をしていると，古賀がやってきて「今日は新しいことやってみようか」と提案する。テンジクネズミの爪切りのやり方を，丁寧にやさしく教える古賀。こわごわながらも爪切りに挑戦する輝明。輝明ができる仕事も増え，ヤギのえさやりも一人でできるようになっていた。一方，都古は，主婦業も河原の動物病院での仕事もこなし，充実しているようだった。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。ジンジンのつめを切りました。チキンカレーを食べました。＞ 　幸太郎が塾の試験の日。真樹は幸太郎を励ますつもりで言葉をかけるが，幸太郎にはプレッシャーにしかならなかった。輝明は休みで，自転車でいつもの交差点に来ると，ロードレーサーに出逢った。カゴの中に上着があるのを見つけると，自分のだと伝え返してもらう。そして「うちの店，すぐ近くだからコーヒーでも飲んでいけば?」と誘うが，輝明は「知らない人に付いていってはいけません」という。ロードレーサーは「僕，亀田」というが，輝明はわからなかったのか「ぼく，かめだ」と繰り返すだけ。亀田は苦笑いしながらも「僕の名前は亀田」と言い直してくれる。すると輝明にも伝わり「僕の名前は大竹輝明です。よろしくお願いいたします」と自己紹介する。亀田がそのまま行こうとすると「コーヒーのお砂糖はスプーン一杯です」と言い出す輝明。亀田にも伝わったようで，一緒に付いてくるように促した。自転車で後ろをついていく輝明。その頃，家では，里江と真樹がお茶をしていた。輝明が外出中だと聞くと，真樹はどれぐらい一人で行けるのかたずねる。里江によると，時刻表の見方は得意で，電車だと遠くまで行くことができる。ただし，自転車の場合は行動パターンが決まっていて，決まった道以外は行けない。決まった道を外れることは，輝明にとってはとても大変なことだという。亀田の後ろを走っていた輝明だったが，ある道を曲がったところで突然止まった。亀田は気づかずに行ってしまう。進みたくても進めない輝明は困った様子。亀田は店について，やっと輝明が付いてきていないことに気づいた。不思議そうに輝明の姿を探す亀田。輝明は，しばらくその場でがんばってみたものの，結局はいつもの道へ戻ってしまった。 　試験中，時計を見て焦りはじめた幸太郎は，思わず隣の子の答えを見てしまうが，すぐに見つかってしまった。塾からの電話で呼び出された真樹は，家に帰ると猛然と幸太郎を責めはじめた。事情を知った秀治は「少し塾を休んだら」と提案するが「こういうときだけ口出さないで」と真樹に叱られてしまう。真樹は幸太郎を「お母さんに二度と恥をかかせないで」と叱りつける。翌日，気持ちが乗らないまま塾に向かおうと家を出た幸太郎だったが，ふと思いつき，自転車に乗ってどこかに出かけていった。輝明が一人で仕事をしていると，幸太郎がやってきた。輝明の仕事ぶりを，ずっと側で見ている幸太郎。輝明は，一人でいろいろな仕事をこなしていた。そのまま一緒に自転車で家に帰る。でも幸太郎は，真樹には塾に行ったふりをしていた。 　りなと都古と千晶がお茶をしていた。りなは都古に輝明の近況を伝え，心配ないという。都古は都古で，主婦業と獣医の仕事を両立していると。りなも千晶も，そんな都古のことをうらやましがっていた。りなは，彼氏が迎えに来て帰って行く。千晶は二人きりになると，河原が結婚後変わっていないかどうかたずねる。変わらないという都古だったが，パーティー用の服は都古の好みを無視し，自分好みの服を選んだと。「選んでくれたってことでしょ」と千晶。 　動物園で仕事をする輝明の側には，今日も幸太郎がいた。事務所で輝明が飼育日誌を書いていると，その隣では三浦がポスターにする絵を描いていた。三浦が「うまくできていると思います?」とたずねると，「うま」と答える輝明。三浦は「うまいっすか」と嬉しそう。また「うま」と答える輝明。するとある職員が「お馬さんの"うま"じゃないの?」と。三浦が「馬に見えます?」というと「はい」と輝明。三浦は「ヤギなんだけど・・・」。「馬」と輝明。笑って見ている幸太郎。絵が得意というので，三浦の代わりにポスターの絵を描く。実は以前，幸太郎は絵画教室に通っていた。今でも絵が好きだという。今日も，輝明と幸太郎は一緒に帰るが，途中で光太郎が塾の終わる時間に合わせようと，遊びに誘う。いったんは一緒に行こうとした輝明だったが，幸太郎が進んだ道は輝明が進めない道。結局「行かない」という輝明を置いて，幸太郎は一人で遊びに行ってしまう。 　里江は，人間ドックの結果，検査入院することになった。そのことを告げると，真樹は輝明の夕飯を作ると言ってくれる。ちょうどその時輝明が戻り，里江がこのことを伝えた。その夜，真樹がいなくなると幸太郎は秀治に「テルおじちゃんって，大学行ってないんだよね。勉強しなくて良かったんだよね」とたずねる。それには答えず，秀治は幸太郎の将来の夢をたずねるが，まだ決まっていないという。秀治は「一杯勉強しておいて悪いことはないんじゃないの」と。幸太郎は「また絵画教室に行きたい」というが，真樹に言っても反対されるだけだとまだ言っていなかった。 　幸太郎は，また動物園に来ていた。園長は「毎日来ているね」と古賀に言う。古賀は「大竹さんになついてるんじゃないですか。大竹さん，ここのところ張り切ってる気がしますし」と。「家族の支えが一番だろうからね」という園長の言葉に，力なく返事をする古賀。その時園長に電話が。障害者雇用に力を入れていると雑誌に載って以来，問い合わせが続いていた。その頃，真樹は塾からの電話で幸太郎が行っていないことを知る。そんなことも知らず，幸太郎は途中まで輝明と帰り，また遊んで帰ると輝明が進めない道を行く。その姿をじっと見ている輝明。輝明が夕飯を食べに行くと，イライラしながら真樹が幸太郎の帰りを待っていた。輝明が食事中に，秀治も帰ってくる。真樹と秀治は，幸太郎のことを心配しながら話しているが，輝明はいつものように「お兄ちゃんお帰り」と挨拶をする。話に夢中で返事をしないと，また輝明は「おかえり」。それでも返事してもらえないと「お帰り」と繰り返す。いらだつ真樹は「大事な話をしているの!」と怒鳴りつけてしまう。秀治は真樹を止めながら「輝明ごめん。ただいま」と挨拶を返す。その頃，幸太郎はコンビニ前で絡まれそうになっていた。 　輝明は食事も終わり，自分の食器を洗う。その間も，秀治と真樹は幸太郎のことを心配しながら話し合っていた。すると輝明が「ちょっと遊んでから帰るって」と突然言い出す。輝明に質問をしながら，毎日動物園に行っていて，帰る途中にどこか遊びに行ったと言うことがわかった。真樹は幸太郎がどこに行ったのかと問い詰めるが，パニック状態になった輝明は「1903年・・・」とツール・ド・フランスの歴代優勝者名を列挙しはじめる。それでも問い詰めようとする真樹を押さえる秀治。輝明は，そのまま自分の部屋へ。「いつかこんなことが起きるんじゃないかと思ってた」と言い出す真樹。秀治はそれには何も答えず，幸太郎を探しに行く。ちょうどやってきたりなも一緒に。輝明は，ツール・ド・フランスのビデオを見ながら落ち着きを取り戻す。秀治とりなが必死に探しても，幸太郎は見つからない。8時を過ぎた頃，幸太郎が一人で帰ってきた。眼鏡が壊れている。何を聞いても答えない幸太郎。 　幸太郎が輝明の部屋に行くと，ビデオが流れたままで，輝明の姿がない。りなも秀治も，輝明の行き先を知らなかった。自転車がないので，自転車で出かけた様子。秀治は，あの大きな木の広場へ探しに行く。幸太郎も探しに行くと言い出すが，真樹が大反対する。すると「ヤダ!」と言うことを聞かない幸太郎。それでも真樹に止められると「離せよ!」と手を振り払って飛び出していく。幸太郎はりなと自転車で探しに行った。秀治と途中会うが，あの広場には輝明がいなかったという。また二手に分かれて探す。りなは堀田に電話で相談する。堀田は，自転車で出かけたなら行動パターンが限られるはず，「決まった道以外行ったことありませんでしたから」とアドバイスする。都古が以前住んでいたマンションの前に行ってもいない。するとりなは「幸太郎を探しに行ったんだと思う」と。光太郎が思いつき，あの道へ。予想通り，幸太郎と分かれた道に，なんとか先に進もうとがんばっている輝明の姿があった。りなは一安心し「あの道には行けないから」と，道を渡って近づこうとする。すると・・・ゆっくりとペダルに足がかかる。力の入った足で，ゆっくりとペダルを踏み，前進する輝明。りなが呆然として見守る中，幸太郎は嬉しそうに自転車で走り寄る。幸太郎の姿に気づくと，輝明も笑顔に。笑顔で見つめ合う2人の姿を，笑顔で見守るりな。幸太郎「帰ろう」。輝明「帰ろう」。幸太郎は「新しい道教えてあげる」とそのまままっすぐ進んでいく。躊躇することなく光太郎の後ろを付いていく輝明。途中で亀田の自転車を見つけ「あ，亀田さん」と。りなから電話で報告を受けた堀田は「自分から新しい道に行ったんですか!?」と驚く。その後も，輝明の行動を考え込む堀田。 　パーティー会場前で待っている河原の元に，走ってくる都古。先に入っていていいと連絡したが，夫婦同伴のパーティーに一人では入れないと文句を言う河原に，「ごめん」と謝りながらも何かしら感じている都古。入り口前で出逢った友人に，若くてキレイな奥さんといわれ，自慢げな河原。 　輝明の部屋で，輝明と幸太郎は話している。輝明は「眼鏡，壊れている」と気づく。お金を取られそうになって逃げたときに壊れたらしい。輝明は「お金取られたの?」と心配するが，取られなかったと答える幸太郎。その頃，真樹は，幸太郎の初めての反抗にとまどいを感じていた。秀治は，このとき初めて輝明が5千円あげた相手が幸太郎で，ゲームセンターで使ったということを真樹に伝えた。知らなかったのは真樹だけだった。真樹が「どうして?私は，母親なのよ」というと「母親なら，もっと幸太郎のこと考えたら」と秀治。真樹はいつだって幸太郎のことを考え，幸太郎のためにいろいろやってきたと主張する。そんな真樹に「自分のためなんじゃない?」と秀治。真樹は「あなたに私を責める資格があるの」と言われると「ないよ。全部任せっきりにしているから」とあっさり認める秀治。そんな秀治の態度に戸惑う真樹。 　その後秀治は，りなの所へ。りなは里江の体を心配するが，去年も精密検査が必要になったが大丈夫だったから，今度も大丈夫だろうと秀治は言う。りなに「今日は大変だったね」と言われると「いつかこんなことになるってわかっていたから」と笑顔の秀治。「結局，全部オレが悪いんだよ」。真樹のやり方では幸太郎もストレスがたまるとわかっていたのに，何もしなかったから。「そっくりだな，オヤジに」。りなは「そうでもないよ。お父さんは，自分が悪いってわかってても，絶対自分は悪くないって言う人だったから」と。幸太郎は輝明に「いいなぁ。輝明おじちゃんは」と。輝明が「どうして」とたずねると「おばあちゃん，いつも笑っているから。僕もおばあちゃんみたいに，笑っているお母さんが良かったな」という。 　翌日の朝。秀治家族と輝明の4人の朝食。眼鏡を買いに行く話をすると，幸太郎は「輝明おじちゃんも一緒に来て」と。「いいよ」と輝明。真樹と3人で眼鏡屋へ。真樹が選んでも，輝明の意見を聞いてから決める幸太郎。なんとか光太郎との雰囲気を良くしようと，明るく振る舞う真樹。眼鏡をかけてみて「これとこれ，どっちがいい?」と真樹が幸太郎にたずねると，「笑った顔」と輝明。怪訝な顔をする真樹と，はっとする幸太郎。幸太郎は真樹に「笑った顔」と答える。すると真樹は，鏡に映った自分の顔をじっと見る。その夜，秀治は真樹に絵画教室の話をする。絵画教室を辞めたのは小2の時。理由は，小3から塾に通うため。「もう一度通わせないか」と秀治。塾へ行く日にちが減るが，その分は秀治が勉強を見るという。「あなたが!?」と驚く真樹。秀治は，幸太郎が絵画教室に通っていた頃の絵を持ち出す。真樹もそれを懐かしそうに見ていたが，1枚の絵で止まる。それは＜大すきなおかあさん＞と書かれた，真樹の笑顔の絵。静かに泣き出す真樹。 　ツール・ド・フランスのビデオを輝明と一緒に見ていた幸太郎は「何がおもしろいの?」とたずねるが，返事がない。「わかんないの?」と幸太郎が言うと「わかんない」と輝明。幸太郎は試しに歴代優勝者名を言ってみる。「1903年モーリス・ガラン。1904年アンリ・コルネ。1905年・・・ルネ・ポチエ」。「ルイ・トゥルスリエ」と訂正する輝明。幸太郎は「1905年ルイ・トゥルスリエ」と復唱する。そのまま続けて「1906年」と言い始めると，「最初から」と輝明。幸太郎「えっ?」。輝明「最初から」。幸太郎「えぇ〜」。輝明「最初から」。幸太郎が「1903年モーリス・ガラン，1904年アンリ・コルネ，1905年ルイ・トゥルスリエ，・・・」と言い始めると，嬉しそうに聞いている輝明。 　TOP

＜第6話＞ 　動物園の事務所。メモを見ながら一人で飼育日誌を書き上げた輝明。三浦がそれを都古に見せる。都古は，三浦のサポートに礼を言う。輝明は，都古に褒められ嬉しそう。輝明が一人で日誌を書いたことを知った古賀は驚いた顔をする。いよいよ都古が動物園を辞める前夜，里江は輝明に，都古が動物園を辞めてもう来ないことを確認する。今までも何度も言ってきたが，理解できているかどうかわからない。りなも心配している。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。飼育日誌を書きました。都古ちゃんに褒められました。＞ 　ハガキの宛名は，すでに"河原都古"。そのハガキを投函し，いつものように動物園へ。一人でヤギの小屋を掃除している輝明の後ろの方では，古賀と都古が話している。都古は，輝明のことを古賀にお願いする。何も出来ないという古賀に，都古は「本当は自閉症のことよくご存じなんじゃないですか」と言ってみる。しばらく黙っていた古賀は「よく知ってるよ。勉強したけど，何の役にも立たなかった。自分の息子を目の前にすると，どうしたらいいのかわからなくなった。どうしても息子が自閉症ということを認めることが出来なくて」と語った。離婚して7年，息子には一度も会っていなかった。そして，古賀が他人に息子が自閉症だということを話したのも初めてだった。都古は，事務所でみんなに退職の挨拶をする。その帰り道，いつもの大きな木の前。都古「じゃね，バイバイ」。輝明「バイバイ」。いつものように別れる2人。家に帰った輝明は，心配そうに里江が見守る中，いつものようにうがい手洗い。 　いつものようにハガキを投函し，動物園へ。いつものようにヤギ小屋をそうじしている輝明の後ろで話をしているのは，古賀と新しい獣医。そこにはもう都古の姿はない。夕食の時，里江が翌日の休みに「何をしようか。チキンカレー作ってみる?」と持ちかけると「作らない・・・都古ちゃんの所へ行ってくる」と輝明。里江は，今までのように都古の家に行ってはいけないと話すが，「どうして?」と納得できない輝明。翌日。いつものように部屋の掃除をする輝明。机を拭いているとき，都古との写真が目に入る。リビングでくつろぐりなの所へ行き，「新しい住所」と都古の住所を見せ，行き方をたずねる。 　都古が昼食を作っていると，チャイムが鳴る。モニターに映るのは輝明の姿。一人で来れたことに驚く。輝明の手には，りなが書いた詳しい行き方の図入りの紙が。輝明は「都古ちゃんに手紙出したから」。「うん，待ってる」と都古。いつもの会話が出来たが，促されても部屋の中に入れない。そこへ河原も帰ってくる。なんとか部屋の中には入れたが，今度は座れない輝明。都古と河原が昼食をとっていても，座ることも，何も出来ない。都古に「ジュース飲まない?」と言われても「飲まない」と答えるだけ。都古は，お昼を食べたら河原の動物病院に行かなければならないことを話す。理解できない輝明。都古は「約束したから。結婚って言うのは，ずーっと一緒に仲良くしようって約束することなの。私は，河原さんと約束したの」。 　りなから，輝明が都古の所へ行ったと聞かされた里江は，都古には都古の人生があるからと，心配する。するとりなは，大学を出たら家を出ていいか・・・「私には私の人生があるから」と言い出す。里江はやりたいことがあれば応援すると言う。そこへ輝明が帰ってきた。いつもの手洗いうがいが終わると，里江は「都古ちゃんの所へ行ってきたんだって?」と話しかける。すると輝明は表情がこわばり「行かない・・都古ちゃんの所へもう行かない」と言い出した。里江が「どうして」と聞いても「行かない」と一言。そしてまたうがいをする。 　＜都古ちゃんへ　今日は都古ちゃんの家に行きました。都古ちゃんは河原さんと約束しました。もう行きません。＞ 　動物園の事務所で，輝明はマレーバクの資料を読んでいる。少し躊躇しながらも，古賀が輝明に話しかける。「お父さんはどんな人だった?」。答えられない輝明に，抽象的な質問だったと反省する古賀。輝明は「お父さんは2003年に死にました」と。古賀は「お父さんと遊んだ?遊ばなかった?」と質問を変える。輝明は「遊ばなかった・・・お父さんはお仕事です」。その言葉に，昔のことを思い出す古賀。妻からの早く帰ってきて欲しいという電話に，仕事中だからいつ帰れるかわからないと答えているが，古賀がいる場所は公園。電話からは妻の声以外に，息子の泣き叫ぶ声が聞こえてきていた。 　輝明は，動物園の帰り道，いつもの大きな木の前に来る。じっと木を見つめる輝明。そこには都古の姿はない。その輝明の姿を，偶然通りかかったあのロードレーサーが見守っていた。夕飯の食卓。秀治の家族も来ていたが，輝明はまだ帰ってきていなかった。やっと帰ってきた輝明。手洗いうがいを終え，席に着く。秀治に「何してた?」と聞かれても，何も答えず。「いただきます」と食事が始まるが，輝明は食べようとせず，席を立つ。そしてまたうがい。戻ってくると，秀治はまた「何をしてて遅くなったの?」と聞く。すると，また席を立ってうがいをする輝明。里江は秀治に「問い詰めるようなことはやめて」。都古の家に行ってから，こだわりが強くなっていた。りながそのことを秀治の家で説明する。都古の家に行ったことで，都古が今までと違うことがわかってきてストレスになっているんだろうと。真樹は"こだわり"がわからなかったが，説明されると「大変ねぇ」と言うだけ。秀治は，あれでも理解しようとしてくれているんだと言うが，りなは興味本位で聞いているだけだと怒る。都古が，ハガキにもう来ないと書いてあったことを心配して電話をかけてきた。家に来たときには，居心地悪そうだったと。里江は，仕事にも行っているし，心配はないと電話を切る。その話を聞いていたりなは，こだわりが強くなったことは言わないのかと言う。「もう都古ちゃんに頼らない方がいいと思う」と里江。そして，輝明が心配だから，翌日からの一泊人間ドックをキャンセルしようかと言い出す。しかし，りなは里江に何かあったときの方が大変だからと，人間ドックを勧める。輝明は，いつものように寝る前に都古にハガキを書く。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。チキンカレーを食べました。都古ちゃんの所にはもう行きません。＞ 　翌朝，ベッドから起き出すと，すぐにハガキを書く。 　＜都古ちゃんへ　昨日は動物園に仕事に行きました。チキンカレーを食べました。都古ちゃんの所にはもう行きません。＞ 　りなに見送られ，家を出ようとするが，玄関から出られない。前に進んでは後ずさりの繰り返し。心配そうに見守るりな。なんとか家を出て，いつものようにハガキを投函する。ただし，今日は投函の動作を2回・・・夜と朝に書いたハガキを2通出した。動物園では，朝会が始まろうとしていたが輝明の姿がなかった。珍しく遅刻してくる輝明。事務所にいるときには，イスの乱雑さが気になり，全てきちんと直し始める。机の上の物も，全てきちんと並んでいないと落ち着かなくなる。その様子を見て心配になった古賀は，三浦に「大竹さん変わりない?」と。三浦は輝明の変化に気づいていなかったが，「気にかけてて」と古賀。 　秀治の家では，真樹がカレーを作っていた。そこへ秀治から少し帰りが遅くなると電話が。真樹は「早く帰ってきて」と。実は，りなに輝明の夕飯を頼まれていた。そのりなの行き先は，堀田の所。最近の輝明の行動を相談していた。堀田は，里江が言うように都古に頼るのをやめるのもいいと思うと。さらに，結婚とはどういうことなのか，わかりやすく短い文で伝えてあげてとアドバイスする。帰り際，「私は私の人生を生きていいんでしょうか」と質問する。里江はいいと言っているが，本当はずっと輝明を見守って欲しいんじゃないかと。自分の気持ちを口に出したりな。すぐに「今の聞かなかったことにしてください」と帰ろうとする。すると堀田はそれには答えず「話したくなったらいつでもどうぞ」と言葉をかける。 　当直の古賀が食事をしていると，園長が忘れ物を取りに戻ってきた。忘れ物は，結婚記念日のプレゼント。これもいい夫と思われるためだと打ち明ける。園長は，古賀は離婚しなさそうに見えるからと，離婚したことを驚いていた。園長が帰っていくと，古賀は息子がいなくなったときのことを思い出す。妻からの電話に，仕事だからと探しに行くことを逃げようとするが，仕方なく帰って行く。帰り道，妻から電話が入り，花屋で見つかったから迎えに行って欲しいと言われる。その花屋が近づいてくると，人だかりが出来ていた。その人だかりの中に，泣き叫ぶ息子が。それを見た古賀は，何も言わずそのまま立ち去ろうとした。その時迎えに来た妻と出くわす。何も言わず見つめ合う2人。妻は，そのまま周りの人に謝りながら，息子を迎えに行った。 　秀治の家。輝明がカレーを前にして「カレーはやっぱりチキンカレー」と叫び続けている。やっと帰ってきた秀治に，「遅い」と文句をいう真樹は，鶏肉を切っていた。秀治と真樹が二人きりになると，秀治は「今日はありがとうな」と真樹にお礼を言う。でも真樹は，輝明が不安定なのに家を空けた里江に不満。さらにりなはあてにならないと。「何も考えてなさそう」。そして，里江に何かあったら，輝明は施設に預けるという結婚したときの約束を確認する。輝明は，ベッドに入るが，なかなか寝付けない。するとベッドから起きだし，電気をつける。そして，また電気を消し，ベッドへ。また起きだし，電気をつけ，電気を消し，ベッドへ。また起きだし・・・。 　仕事中に輝明が姿を消す。みんなで動物園内を捜索するが見つからない。家に電話をしても誰も出ない。三浦の話から，古賀が輝明のこだわりが強くなっていたことを心配していたことがわかると，園長は「どうして報告しなかったんだ!このことが表に出たら・・・」と，ふと本音が出てしまった。すぐに我に返り「起きたことは仕方がない」と，さらに捜索を進める。その頃，あのロードレーサーが何かを見つけ，ふっと笑顔になる。そして都古の部屋には，千晶が遊びに来ていた。郵便物の中に，輝明からのハガキが2通あり，心配になる都古。千晶は，それほど心配なのかと驚く。都古は，輝明のハガキは必ず1日1枚と決まっていて，それが破られるのは不安だと。そこへ古賀から輝明がいなくなったという電話が。古賀は，輝明がこだわっている場所等，心当たりがないかとたずねる。 　都古は，あの大きな木の前へやってきた。先に来ていた古賀が，寝ている輝明を見守っていた。輝明には，ロードレーサーの物と思われる上着がかけられていた。古賀は「大竹さんには，正直驚いている・・・側にいる人間がどう接するかで，カレの可能性はどんどん広がるんだな」と都古に語る。都古は「息子さんに会おうとは思わないんですか」というが，「今更なぁ」と古賀。離婚したときに，妻は息子に父親は死んだと伝えていた。都古「大竹さんの場合，死ぬってことがどういうことなのか，わかってるようでわかってないみたいですけど」。そして「よろしくお願いします。一つだけ大竹さんに渡してもらいたい物があります」と去っていく。 　夕方になり，目を覚ます輝明。ずっと側で見守っていた古賀に，「古賀さん。こんなところで油を売ってちゃいけないよ」と輝明。古賀が「こっちのセリフだ」というと，「こっちのセリフだ」と繰り返す輝明。古賀は「一緒に帰ろう，動物園に。帰りたくない?」。何も答えない輝明。すると古賀は「大竹さんへのハガキ。河原先生から」。「都古ちゃんから?」と，そのハガキを読んだ輝明は，安心した顔になる。古賀は「大竹さんのお父さん，がんばっていて喜んでいるよ」というすると輝明は「お父さんは，2003年に死にました」といつものように言った後で「お父さんは遠くに行きました」と，空を見上げ「いつ戻ってくるのかなぁ・・・」。はっとし，輝明を見つめる古賀。輝明「いつ戻ってくるのかなぁ」。古賀が「待ってるの?」とたずねると，空を見つめるだけの輝明。すると，古賀は下を向いたまま涙を流す。号泣する古賀の隣で，そっと立ち上がり「動物園に帰ります」と輝明。そして泣いている古賀を見た後，また空を見上げる。 　2人並んで動物園への道を歩いていく。輝明の手には，都古からのハガキが握りしめられていた。 　＜テルへ　テルは動物園の飼育係です。テルの動物園の動物たちが元気でいられるように，一生懸命お世話をしてください。約束です。＞ 　「約束です」と笑顔でつぶやく輝明。 　TOP

＜第5話＞ 　約束した時間を過ぎても都古がやってこないため，パニック状態の輝明。都古は，河原に「結婚しよう」と突然言われた。素直に喜べない都古は「結婚したいなんて一回も言ったことない」と突っぱねる。それでも河原は「オレは結婚したい」と。その時，空の容器が都古の目に入る。慌てて輝明の元にやってくる。パニック状態の輝明を見て，謝り続ける都古。「大丈夫だよ」と都古が言うと，今度は輝明は「僕を怒っちゃダメ!僕を怒っちゃダメ!僕を怒っちゃダメ!」と繰り返しはじめる。都古が「怒ってなんかいないよ」と言うと，輝明は「テルのせいでしょ!テルのせいでしょ!」と，あの時の都古の言葉を繰り返す。パニック状態は収まらない・・・。 　堀田の診察室。堀田は，都古に，混乱したときにフラッシュバックが起こり，その時の状態に陥ってしまうことがあると説明する。自分が悪かったと反省する都古。里江は「そういうこともある。私だって，輝明にあたっちゃったこと，何度もあるから」と。都古は「それだけテルを深く傷つけたってことですか」と心配するが，堀田は「話に，都古さんの名前が良く出てきます。一度お会いしたいと思っていました。輝明さんは，今でもあなたのことをすごく信頼していると思いますよ」と告げる。輝明は，誰もいないロビーで天気予報をじっと見ていた。里江と都古が戻ってくる。輝明は何事もなかったかのように「都古ちゃん，明日は晴れるって」。都古が自分の部屋に戻ると，まだ河原はいた。河原は「今日は帰った方がいいかな」というが，都古は「さっきの話本気なの?」と聞く。河原は「ああ，結婚したい」と自分の気持ちを伝え，「結婚のこと，考えておいて」と帰ろうとする。すると「する。結婚する」と都古。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。都古ちゃんと焼き芋を食べました。都古ちゃんと帰りました。＞ 　いつもの交差点。ロードレーサーが後ろからやってきて，彼の方から挨拶をしてくれる。輝明は，ロードレーサーの自転車をじっと見つめる。そして「60万円」と一言。ロードレーサーは「当たり。これ60万円」と言う。輝明が「積み立てしてます。60万円」と言うと，ロードレーサーは「買うの?・・・マネすんなよぉ」と笑う。「マネすんなよぉ」と繰り返す輝明。そんな輝明に驚くロードレーサー。信号が変わり，輝明はさっさと行ってしまう。近くの公園前で，光太郎が待ち伏せしていた。公園で捨て猫を見つけた光太郎は「こいつ元気ないと思わない?」と輝明にたずねるが，輝明は何も答えない。「わかんない?」と光太郎が言うと，「わかんない」と輝明。光太郎は「飼育係なのに」。 　都古の部屋。都古は，河原と自分の夕飯の準備をしている。河原は，都古の仕事についての話をする。結婚したら，自分の動物病院を手伝って欲しいと。都古は，そのつもりではいても，輝明のことが心配で動物園の仕事はすぐに辞められないという。「心配じゃなくなる日なんて来ないんじゃない?」と河原。そこへ輝明が子猫を抱えてやってきた。輝明は「こいつ元気ないと思わない?」とそのまま伝える。河原を見ると「河原さん，こんばんは」と挨拶する。人の名前は一度で覚えてしまう輝明は「河原さんは，都古ちゃんの先輩で獣医さんです」とインプットしている。子猫は元気になるまで，河原が病院で面倒を見ることになった。問題が解決し，都古が「じゃあね」と輝明に帰るように促しても，輝明は動かない。そこで都古は「ご飯一緒に食べる?」と。「食べる」と即答する輝明。輝明がいない大竹家の夕食。秀治達も来ていた。いつでも輝明を受け入れている都古に，彼氏はいないのかというりな。もし彼氏ができたら嫉妬するんじゃないかという秀治。そんな話を，心配そうに聞いている里江。 　都古の部屋。食事も終わったが，なかなか帰ろうとしない輝明に，都古は「そろそろ帰らないと」というが，「うん」と返事をするだけで立ち上がろうとしない。「遅くなっちゃうよ」と都古が言っても同じ。すると「河原さんは?」と輝明。河原は「オレも，そろそろ帰ろうかな」。これでやっと輝明も帰る気持ちになった。河原は，輝明と逆方向に帰る振りをして，また都古の部屋に戻ってきた。河原は「彼は，都古のことが好きなんじゃないの?・・・彼に恋愛感情ってあるの?」とたずねる。都古は「ないない」ときっぱりと否定する。「恋愛感情ってわかってないと思う。ただ，テルにとって私はいつも側にいる存在だったから，テルから離れるのは心配」と都古。輝明は，家に帰るといつものように手洗いうがい。そんな輝明にを見守りながら，里江は「早く帰らないと。都古ちゃんにも都合ってもんがあるでしょ」と諭す。でも輝明は「大丈夫。河原さんもいたから」と。輝明から河原のことを聞いた里江は心配になる。 　里江は，都古と2人だけで話をした。「輝明のこと，重荷になってない?」と里江。都古は否定するが，里江は「都古ちゃんには都古ちゃんの人生があって，いつかは必ず離れなきゃならない日が来るんだから」と。この言葉に，結婚を決めたことを告げる都古。「初めて家族になりたいと思った人」と。いずれは動物園も辞めることになるけれど，それを輝明に話したらどうなるか心配だとも言う。里江は「都古ちゃんの手を借りなくても生きていって欲しいし，そうできるって信じている」と，都古の肩の荷をおろしてあげようとする。都古は，このことは自分から輝明に話したいとお願いする。 　動物園で取材を受ける園長。偶然通りかかった輝明に話しかけ，障害者を雇用していることをアピール。それを見ていた都古と古賀。古賀は「ああいうタイプの偽善者が一番ダメなんだ」という。本社から評価されるために雇用しているだけで，「障害者のためじゃなく，自分のため。腹が立つよ」。でも都古は「無関心や何もしない人に比べたら，ずっといいじゃないですか」と。 　都古は，夜誰もいなくなった事務所で，園長に結婚することと，仕事を辞めることを伝える。ただし，後任が決まるまで仕事は続けると約束する。都古が「私が退職した後も，大竹さんのことよろしくお願いします」というと，「しっかりサポートしていくよ」と園長。園長の提案で，輝明はヤギの世話もするようになる。ヤギの世話の仕方を，三浦は丁寧にわかりやすく教えてくれる。世話だけでなく，日誌の書き方も輝明のペースで教えてくれる。食堂では，都古や三浦だけでなく，事務所の職員も一緒にご飯を食べている。「毎日カレー食べてるの大竹さんだけだから，チキンカレーに買えてくれても良さそうだよな」という三浦。すると・・・ある日，食堂のメニューにチキンカレーが追加される。その日はみんなでチキンカレーを食べた。こうして輝明は，職場の人たちに少しずつ理解され，テンジクネズミの説明・りんご切り・ヤギの世話と，一人でできることも増えていった。 　都古の部屋に，千晶が遊びに来た。すでに少しずつ引っ越しの準備が進んでいた。その荷物の中に，輝明からのハガキも。千晶「都古は返事書くの?」という質問に，都古は「書かない。これを書くことは，輝明にとって儀式みたいな物だから」と答える。千晶は「これからも続くの?」と。これには「離れてもこれだけは受け取ろうともう」と答える都古。 　りながテレビを見ていると，秀治がやってくる。どうやら自宅ではテレビもゆっくり見れない様子。その時電話が鳴った。里江がでると，都古からだった。明日結婚することと動物園を辞めることを伝えるという。里江は「ありがとうね。ずっと輝明のそばにいてくれて」と。このことを，秀治とりなにも伝える。りなは「ショック受けるかな」。秀治は「輝明も動物園を辞めるって言い出したりして」。そこへ輝明自身がやってくる。「お風呂はいる。お湯の温度は39度」と浴室へ行く。輝明がお風呂から出てくるのを待って，里江は輝明に話をする。「結婚ってわかる?」。輝明は，秀治が結婚したという事実はわかる。それに結びつけて話を進める。真樹は仕事を辞めて秀治と暮らすことがいいことだから，結婚して仕事を辞めたと。里江が「わかるわよね」と言っても，それには何も答えない輝明。その代わりに「僕も結婚するの」と。里江は涙をこらえながら「結婚する人もいれば，結婚しない人もいるの。結婚するのが良くて，しないのが悪いってわけじゃないのよ。結婚だけじゃない。輝明は，人より苦手なこと多いけど，それだって同じ。できることが多いことが良くて，少ないのが悪いってわけじゃないのよ」。ここまで言うと涙がこらえきれず，輝明の後ろに回り，話を続ける。「自分ができることを一生懸命やればいい」。黙って聞いている輝明。 　翌日，いつもの木の前。輝明「都古ちゃん，手紙出したから」。「うん待ってる」と都古。「ここにはいろんな思い出があるね」・・・子供の頃の2人。「テル!」「都古ちゃん!」とお互いを呼び合って遊んでいると，他の子供達が輝明をバカにしていじめる。うずくまるしかできない輝明。そんな輝明の代わりに，都古が怒って追い払った。幼い都古は「なんで怒らないの?怒れないの?・・・怒れないならしょうがないか。私が代わりに怒ってあげる」。「私が代わりに怒ってあげる」と繰り返す輝明・・・都古は，輝明に新しい住所を書いた紙を手渡す。「引っ越すの。引っ越ししたら河原さんと一緒に住むんだ」。輝明は「河原さんは都古ちゃんの先輩で，獣医さんです」。都古は「河原さんは私の旦那さんになります」と新しいこと伝える。「河原さんと結婚するの。結婚パーティーやるから来てね。それから，すぐじゃないけど，動物園の仕事辞めるから。動物園のみんなが助けてくれるから，心配しないで。このまま動物園で働けるんだからね。テルは動物園の飼育係です」という都古の話に，何も答えない輝明。輝明が家に帰ると，心配そうに出迎える里江。輝明は，何事もなかったかのように，いつもの習慣を行うだけ。 　結婚パーティーの朝。りなも出席するため支度に忙しい。そこへ秀治が様子を見にやってきた。結婚パーティーに輝明が出席することを心配している。すると里江は「都古ちゃんは，秀治と違うの」。秀治と真樹の結婚式は，ハワイで2人だけの挙式だった。りなは「真樹さんが言ったんでしょ」と。輝明を出席させたくないから，そういう形にしたんだろうと。そこへ手にネクタイを持って，輝明がやってくる。輝明のネクタイは，秀治が締めてあげた。支度が完成すると，里江は，紙に書いた結婚パーティーの流れを出し，おさらいをする。一つ一つ，何をやるのか，どうしたらいいのか，輝明にもわかるように伝えていく。輝明は，都古に花束を渡す役目があった。 　受付には千晶がいた。緊張しきった輝明は，りなに促され会費を自分で支払う。会場に入ると，動物園の職員達も来ていた。曲がなり，河原と都古が入ってきた。じっと見ている輝明。進行は千晶。園長が挨拶をしていると，「長いなぁ」と古賀。古賀が歌を歌っていると「長いなぁ」と園長。その間，輝明は「カレーはやっぱりチキンカレー」と何杯もおかわりしていた。心配そうに見ている里江とりな。驚きながら見ている三浦。いよいよ輝明の出番。千晶に紹介され，花束を持って都古の方へ行くが，その隣に並んで立つだけ。なかなか花束を渡そうとしない。心配そうに見守る面々。突然，横を向いたまま，押しつけるように渡す輝明。りなは「今の何?怒ってるの?緊張しているだけ?」。「どうなのかしらね」と里江。輝明の本心は誰もわからない。都古の横に立ったまま動かない輝明。困った千晶が，「こちらにどうぞ」と促す。言われるままにそこをどいた輝明。最後は，河原の挨拶。うれしさに涙が止まらない都古。そんな都古の様子を，ずっと見ていた輝明は「都古ちゃん，どうして泣いているの?」と近づいてきた。「いいことなのに・・・いいことなのに」。輝明の言葉に，さらに涙がこぼれる都古。「そうだね，笑わなきゃいけないのにね」。じっと見ていた輝明は「都古ちゃん，僕が代わりに笑ってあげる」と言い，精一杯の笑顔を都古に向ける。輝明にとっては最高の笑顔を。「ありがとう，テル」と涙を流す都古。最高の笑顔のまま，都古を見つめる輝明。 　TOP

＜第4話＞ 　堀田の所にやってきた輝明。仕事についての話をしている。堀田が「職場の人と休み時間に話をしていますか」とたずねると，輝明は答えない。話をしていないことを堀田が確認すると「変なこというと叱られるので」と。そして輝明がすくっと立ちあがったので，堀田が「帰りますか」というと「帰りません。堀田先生，テンジクネズミの話を聞きたいですか」という。堀田が聞きたいと答えると「しょうがないなぁ。話してあげましょう」と誇らしげに語りはじめる。 　動物園での初給料。給与明細が渡されるが，そのまま中身も見ずに鞄にしまってしまう。都古によると，仕事をしたからお金がもらえるという関連性がわからず，仕事をしたからといってお金には執着していないらしい。それを聞いた三浦が「いい性格だなぁ」とつぶやく。するとすぐに都古が，正確の性じゃないと訂正をしようとするが，三浦も十分わかっていた。三浦と都古が話しているのを聞いていた輝明が突然「だろ」と言い出す。三浦の口癖「〜だろ」のマネだった。 　都古と輝明が帰る途中に焼き芋屋を見つけた。食べようと言うことになり，都古が2人分買ってくると，輝明はベンチにつもった落ち葉を，自分が座るところだけ落とした。そんな輝明の行動も，怒ることもなく，受け入れている都古。都古と別れ，一人いつもの交差点に来ると，あのロードレーサーと一緒になった。今度は彼の方から挨拶をしてくれた。ロードレーサーが乗る自転車を，じっと観察している輝明。家に帰ると，里江が輝明の給料を全ておろしてきて，輝明に仕分けをさせる。1ヶ月のハガキ代と昼食・ジュース代を引いた残りは，他に欲しい物がなければ預金しておくという里江。すると，りなが財布をねだる。でも輝明は「やだ」と断った。実は欲しい物があった。部屋からロードバイクのカタログを取り出し「これが欲しい」と。60万円するロードバイク。すると里江は，毎月5万円ずつ貯めて，1年後に買えるようにしようと。「積み立て」と里江が言うと，輝明も「積み立て」と。 　幸太郎が，100点のテストを見せるという口実でやってきた。本当の理由は，輝明にお金を返すことだった。幸太郎が300円を差し出すと「お金をもらったりあげたりしてはいけません」と輝明。幸太郎は「返すお金だから・・・ちょっとずつ持ってくるから1年で5千円」と説明する。「積み立て」と輝明なりに理解した様子。幸太郎は「ツール・ド・フランス，1968年」。輝明は，即座に優勝者名を答える。どの年度を言っても，すぐに答える輝明。嬉しそうな幸太郎が「どうやって覚えたの」とたずねても「わからない」という輝明。幸太郎が「また返しに来るね」というと「またっていつ?」と輝明。幸太郎は「おこづかいもらったら」と答える。幸太郎は自分の家に戻ると，秀治に「輝明おじちゃんは，頭Iいいの?良くないの?なんでツール・ド・フランスの歴代優勝者名を覚えているの」とストレートに質問した。秀治は，幸太郎にもわかるように「得意なことと苦手なことの差が大きいんだ。苦手なことが多いけれど，できることはすごくできるんだ。ツール・ド・フランスの歴代優勝者名は，写真を撮るみたいにして，頭の中に入れちゃうんだって」と説明する。その説明に嬉しそうな幸太郎の笑顔。その頃，輝明はいつものようにツール・ド・フランスのビデオを見ていた。 　一人食事をしている都古の元に，河原から電話が。今から来るという。ケーキをお土産にやってくる河原。何事もなかったかのように，雑談をする河原に，都古は「この前の話だけどどうする」と。本気にしてなかった河原だったが，もし本当だとしたら「都古のしたいようにすればいい」と言う。「都古の気持ち，一番に考えたいから」と。 　動物園の休憩時間。輝明も混じって，家族の話をしている。輝明は，自分の家族について，父親が3年前になくなったことや兄妹のことなど詳細に話し，最後に「都古ちゃんのお父さんとお母さんは，1999年に離婚しました」と。一瞬気まずい雰囲気になるが，都古は明るく対処した。その後その場にいなかった古賀の話になり，古賀が"バツイチ"だと言うことがわかった。輝明が「古賀さんはバツイチってことですか」と三浦の言葉を繰り返したところで，古賀がやってきた。古賀が「僕はバツイチです」と答えると「バツイチって何ですか」と輝明。すると古賀は「三浦さんに聞いてください」とまた行ってしまう。三浦は輝明に意味を教えた後「空気読めよ。内緒話は，もうできねぇな」と。「どうしてですか」と輝明。唖然とする三浦。 　キリンの世話をする古賀と都古。都古は，古賀が，輝明がここで働くことを良く思ってないんじゃないかとたずねる。古賀は「大竹さんのお父さん知っているの?・・・お父さんは大竹さんのことどう思ってた?」と都古にたずねる。都古は「お父さんなりに考えてたと思います」と答える。輝明は，中学の途中まで普通学級で学習していたが，やはり付いていくことが難しくなり，途中から障害児学級に変更した。しかし，輝明の父は卒業まで普通学級にいて欲しいと思っていた。それは，自分の子が自閉症だと認めたくないという気持ちがあったから。それを聞いた古賀は「どこも同じようなもんだな」とつぶやく。都古が「古賀さん，もしかして」というと，何も答えずに行ってしまう。 　動物園の帰り道，輝明と都古はまた焼き芋屋さんに出くわす。今度は輝明が「買ってくる」と。都古がベンチを輝明の分までキレイにしていると，輝明の手には一人分の焼き芋しかなかった。それでも，何も言わず，笑顔の都古。一人焼き芋を食べる輝明に，翌日の休みに一緒にどこか行こうと提案する。翌日。2人が出かけたのは海。砂浜で無邪気に砂山を作って遊ぶ2人。その後ラーメン屋へ行くと，輝明の目の前に割り箸や調味料がおいてある。もちろん輝明は，自分の分しか取らない。それでも気にせず，都古は1つずつ「○○取って・・・ありがとう」を繰り返す。2人でラーメンを食べている最中に，都古の携帯が鳴った。千晶から合コンの誘いだった。珍しくOKする都古に，驚く千晶。合コンでの都古は，妙にはしゃいでいた。合コン帰り，都古の家で，千晶は「何かあった?」と。合コンに参加することはなかったし，合コンではしゃぐのも珍しいと。都古は河原に言われた言葉を千晶に話す。すると千晶は「ずるいねぇ」と。 　輝明がリビングに降りてくると，りなが泣きながらドラマを見ていた。輝明は不思議そうにりなの顔をのぞき込む。しばらく，りなの様子を見ていたが，「お風呂はいる・・・お湯の温度は39度」と行ってしまう。 　朝，動物園の事務室に都古の欠席連絡が入った。39度の熱があるという。それを聞いた輝明は「お湯の温度は39度」。都古の休みに，困惑するのは三浦。都古もそれはわかっていたようで，輝明のことで困ったことがあったら電話するようにと伝言があった。園長は「いつまでも松田先生に頼るわけにいかんだろう。会社全体で取り組まないと」とみんなに告げる。一人寝込む都古。輝明は，一人でりんごを切っていた。そこへ古賀がやってくる。三浦はモンキーゾーンに行っていて，11時に戻ると伝言する輝明。その間も，りんごを切る手を休めない。古賀は「仕事慣れた?」と質問してみるが，輝明は「仕事慣れた?」と繰り返すだけ。その姿を見て，何も言わずでていく古賀。三浦が帰ってくるはずの11時。まだ帰ってこない。用意されたりんごは全部切ってしまった。待っているだけの輝明。三浦は，戻る途中で老夫婦に案内することになり，時間に戻れなかった。不安が募る輝明。11時も15分ほど過ぎた頃，ツール・ド・フランスの歴代優勝者名を列挙しはじめてしまった。そこへ三浦が戻ってくる。三浦は，早速都古に電話をした。電話をした頃には輝明も落ち着いてきていた。都古は，何もしない時間が続き不安になってしまったんだろうと伝えた。 　その日，帰り道で焼き芋屋がいても，全く気にせずそのまま通り過ぎた輝明。家に帰ると，里江に「都古ちゃん来なかった。39度」と告げた。里江は，熱で都古が休んだと理解し，すぐにおかゆを持ってお見舞いに行く。そして，何かあったときに一人じゃ不安だろうから，両親と連絡取り合うようにした方がいいと諭す。それでも都古は，父親も母親もそれぞれやっていて，自分も自立したからと。里江も帰り，また一人ベッドに横になる都古。寂しさが募り，意を決して河原に来て欲しいと電話をするが，河原は「妻の両親に会わなきゃならないんだ」と電話を切ってしまう。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。都古ちゃんが来ませんでした。三十九度でした。＞ 　輝明は，いつものようにハガキを投函し，動物園へ。事務室で待っていると都古がやってきた。嬉しそうにいつも通りの挨拶を交わす輝明と都古。都古は，すぐに仕事に行き，輝明もいつものようにテンジクネズミの説明をし，日常が戻ってきた。 　一人暗い部屋に帰る都古。そこに電話が。千晶からだった。千晶は，合コンで知り合った男の愚痴を言い始める。そして，「やりがいのある仕事っていいよね」と都古をうらやましがる。失恋しても，"仕事がある"と思えるだろうと。すると「仕事じゃ救われないよ」と都古。そして「河原さんと結婚したいみたい。だからもう会わない」と寂しそうに言った。 　リビングで泣きながらドラマを見ているりな。すぐそばで輝明も見ている。ドラマでは，雨の中傘を差す男が，泣きながらずぶ濡れになってやってきた女に傘を差しだしていた。 　朝，出勤前，雨の予報だからと傘を持って出ていく輝明。都古は，出がけに河原から電話が来るが無理に無視。そのまま傘を持たずに出かける。その日の仕事終わり，河原からの着信をずっと無視し続ける都古は，輝明と一緒に帰る。また焼き芋屋で都古が2人分の焼き芋を買い，輝明は自分の分だけ落ち葉を払い，二人そろって焼き芋を食べた。その間も河原からの電話の音がやまない。がまんをして，がまんをして，無視し続けた都古。そのうち雨が降り出した。当然のように，自分だけ傘を差しながら，そのまま焼き芋を食べ続ける輝明。ずぶ濡れになり，河原の電話を無視し，泣きながら焼き芋をほおばる都古。すると輝明は，傘を持ち替え，都古がぬれないように傘を差しだした。まっすぐ前を向いたまま，表情も変えず。輝明の優しい行動に，思う存分泣く都古。 　都古のマンションの前まで2人で傘をさしてやってきた。都古は，里江に借りた容器を持ってくるから「ちょっと待ってて」と。輝明は「ちょっとってどれ位?」と。「3分」と答え急いで自分の部屋へ。部屋の前には河原が待っていた。「帰って」と無理に冷たい態度を取る都古。そんな都古に河原は「妻とは別れた」と衝撃の告白をする。今朝届けを出したと。呆然とする都古。外では，傘を差したまま輝明が待っていた。約束の時間を過ぎても都古がやってこない。だんだん不安になり・・・ツール・ド・フランスの歴代優勝者名を言い始める輝明。 　TOP

＜第3話＞ 　動物園の朝会で，輝明が正式採用になったことが発表される。園長に「がんばってください」と言われるが，何も答えない輝明。都古は「何をどうがんばったらいいのかわからないんだと思います」とフォロー。すると園長は少し考え「元気にやっていきましょう」と言葉を換える。輝明は「冬は寒いから風邪を引くかもしれません。夏は暑いけど，風邪を引いたら長引くかもしれません。だから元気じゃないときもあるかもしれません」と。「その時はその時で」と園長が答えると，輝明も「その時はその時で」。そのやりとりを複雑な表情で見ている古賀と，楽しそうに見ている三浦。テンジクネズミの説明は，古賀から三浦に変わっていた。その側には，ジンジンの世話をしている輝明の姿が。 　幸太郎は，誇らしげにクラスで1番の96点のテストを真樹に見せたが，真樹は褒めるどころか100点じゃないことを責めるばかり。クラスで1番になったら新しいゲームを買うという約束も，なかったことになってしまった。夕食は，輝明の正式採用のお祝いとして，家族みんなで寿司を食べた。真樹が「がんばって」と言葉をかけるが，輝明は無言。りなが「『がんばって』って言われても，お兄ちゃんどうがんばったらいいのかわからないから」と説明するが，どうにも真樹には理解できない。まだ引っ越してから3ヶ月だから仕方ないという秀治。りなは「お兄ちゃん，いつも精一杯がんばってるんで，がんばってって言葉，かけないでくださいね」とさらにお願いする。やっぱり良く理解できない様子の真樹。話を変えて，今度の幸太郎の遠足の行き先が，輝明が勤める動物園だと話す。幸太郎は，困ったような顔をしている。 　遠足の日。幸太郎は輝明に会わないようにと，心配していた。しかし，テンジクネズミのふれあいにやってきたため，輝明と出くわす。知らんぷりをしようとした幸太郎だが，輝明は幸太郎の存在に気づくと「幸太郎」と声をかける。三浦に「おいです・・・お兄ちゃんの子です」と説明すると，三浦は気を利かせて，テンジクネズミの説明を輝明に任せようとする。突然説明を任され，しかも大勢の知らない子供達の前で固まってしまった輝明。ショックを受ける幸太郎。園長の前で，都古が突然任せるのは避けて欲しいと言うことをお願いする。ただ，たくさんの子供達の前で話すことは，慣れればできるだろうと。園長は輝明に説明をさせる方向で進めていこうと告げるが，その側で不安に思う古賀の姿が。輝明自身は「失敗した・・・失敗した」と繰り返している。今まで失敗体験ばかりで，"失敗"には敏感だった。「うまくできたときは，ちょっとしたことでも褒めてあげてください」と都古。家に帰ってから荒れている幸太郎だった。真樹に輝明のことを伝えるが，相手にしてくれない。真樹は「今度のテストは失敗しないようにがんばるのよ」とテストの成績ばかりに話を持って行く。塾へ向かったはずの幸太郎だったが，塾には行かずゲームセンターで遊んでいた。真樹は，秀治を連れて，里江に遠足の話をしにいった。真樹は「自分のせいで幸太郎がイヤな思いをしたっていうのはわかっているんでしょうか」と。これには「さぁ，どうだろう」と答える里江。「感情と表情が一致しないから，わかってるようでわかってなかったり，わかってないようでわかっていたり・・・」。そんな里江に，真樹は「大変ですね。自分の子供の気持ちがわからないなんて」と同情する。しかし里江は「大変とは思っていない。輝明と私にはそれが当たり前だから」と。 　三浦は，テンジクネズミの説明を輝明に任せてみるが，やはり言葉が出てこない。無理強いはせず，掃除をしてもらう。動物たちを見回っている都古の元に，河原がやってきた。怒っている都古だが，急に来たことに怒っているのではなく，そのことを喜んでいる自分にいらだっていると。河原のことで一喜一憂するのにもう疲れたと告げる。「もう会うのやめようか」と都古は別れを切り出す。そこへ輝明がやってきた。「都古ちゃん，こんなところで油を売ってちゃいけないよ」。都古は「いいんです。今はお昼休みだから」。河原がベンチに座り，都古も間を開けて座る。すると輝明は，その空いたスペースにちょこんと座る。河原も都古も何も話せなくなり，河原は帰っていった。「お昼行こうか」と都古。輝明は「また失敗した」。そんな輝明に「今日の夜，うちにご飯食べに来る?」と都古は誘う。「うん」と輝明。 　都古の部屋。嬉しそうにチキンカレーを食べる輝明。それをじーっと見ている千晶。すると輝明が「千晶さん，3秒以上僕のこと見ないでください」と言い出す。都古は，見られてると緊張するからだと教える。今度は輝明が千晶の胸をじーっと見て「おっきい」と一言。戸惑いながらも「サンキュー」と千晶が答えると，「さんきゅー」と繰り返す輝明。これも見たままいっているだけで，他に意味はないと教える都古。輝明は「僕も3秒以上見ませんから」と千晶に言う。人をじろじろ見ないようにと教えられたから。千晶がまた輝明を見るとカウントしはじめる。「大丈夫です。2秒でしたから」と輝明。一方，里江とりなの夕食。りなは，幸太郎が遠足での出来事を気にしているのかどうか心配している。 　りなは，公園に幸太郎を呼び出した。幸太郎にツール・ド・フランスの歴代優勝者名の用紙を渡し，輝明が全部暗記していると教える。しかし，普段の様子を見ているだけの幸太郎にはどうしても信じられない。輝明が休みだから聞いてみればいいと言うりな。里江が買い物に行っている間，シチューの材料を切っている輝明の所へ，幸太郎が気になってやってきた。そこへ電話のベルが鳴る。一瞬で緊張する輝明。こわごわ電話に出るが，受け答えがうまくできない。その様子を見ている幸太郎は，歴代優勝者名を覚えているわけがないと思った。幸太郎が「料理しているんですか」というと「切っているだけ。ガスレンジは一人で使っちゃいけません。約束だから。約束は守らないといけません」と輝明。その言葉に，あることを思いついた幸太郎。「5000円ちょうだい」。輝明は「いいよ」と，昼食代から幸太郎に5000円手渡す。幸太郎は「僕に5000円くれたこと，誰にも言わないで。約束して」。「約束は守らなければいけません」と輝明。幸太郎がいなくなると，おこづかい帳に＜あげたお金　5000円＞と記す。残金は248円になってしまった。里江が帰宅すると，電話があったが誰からかわからないと輝明。それでも里江は，電話に出られるようになったことだけでもすごいと褒める。幸太郎が来たことも伝える輝明。何をしに来たのかは言わなかったが，里江は追求することはなかった。輝明からもらったお金を持って，ゲームセンターで遊ぶ幸太郎。 　＜都古ちゃんへ　今日は仕事が休みでした。ニンジンとタマネギとジャガイモを切りました。電話に出ました。＞ 　ハガキを投函し，動物園へ。動物園の前で都古に「手紙出したから」と輝明。「うん。待ってる」と都古。昼休み，都古が食堂に行くと，輝明の隣で三浦も一緒に食べていた。三浦が輝明の昼食代を立て替えたという。都古が返し，「珍しいね。忘れ物するなんて」というと，輝明は「カレーはやっぱりチキンカレー」と言うだけだった。次の日。都古が食堂に行くと，輝明の前で食べていた三浦が，またお金を立て替えたという。輝明は，財布は持ってきているけれどお金がないと。都古が「明日はちゃんとお金入れておいでね」というと，それには答えず「カレーはやっぱりチキンカレー」というだけ。 　仕事を終え，都古が里江に昼食代のことを伝えに来た。里江は話を聞き，都古を夕飯に誘う。秀治家族もやってきての夕食。秀治は，昼食代について輝明を追求する。「おこづかい帳を持ってきなさい」という秀治の言葉に，食事中でも従う輝明。輝明が持ってくる間の，秀治とりなのやりとりをうらやましがる都古は，両親とは連絡を取っていない様子。輝明がおこづかい帳を持ってくると，秀治は＜あげたお金＞について追求しはじめる。どんなに言われても，誰にあげたのか言おうとしない。「約束は守らなければいけません」と輝明は繰り返す。秀治は「本当のことを言った方がいいんじゃないか」というが，輝明は「うそをついたらいけません」というだけ。このやりとりを不安そうに見ている幸太郎と，その様子を見ているりな。輝明は「約束は守らなければいけません・・・うそをついてはいけません」と繰り返し言っているうちにパニックになり，ツール・ド・フランスの歴代優勝者名を列挙しはじめる。そのまま部屋へ行ってしまった。 　真樹は，輝明が言えないような人にお金をあげてしまい，トラブルになったり近所の噂になったりすることばかり気にしている。一方りなは，里江に，幸太郎にあげたのではないかという。おこづかい帳に書いてあった日に，幸太郎が来ていたと聞くと，確信を持つりな。その頃輝明は，ツール・ド・フランスのビデオを見て，平常心を取り戻していた。 　次の日。出勤時に里江は「これからは，お金をあげたりもらったりしてはいけません」と言い聞かせる。輝明が，出勤途中で出逢ったロードレーサーに挨拶をすると，今度は笑顔で挨拶を返してくれた。そしてテンジクネズミの説明に挑戦するが，やはり言葉が出てこない。古賀は「園長は自閉症知らないから正式採用できたんです」と意味ありげな発言をする。園長自身は，障害者雇用で本社から評価されるのを期待しているようだった。里江は，堀田に相談に来ていた。堀田は，大勢の子供達の前で話すことは訓練次第で可能だろうと。ただし，他に原因がある場合には，その原因についても対処してあげなければならないと伝える。 　りなは公園で幸太郎に話す。輝明が5000円あげた相手は光太郎だろうと。孝太郎は「約束を破ったんだ」と言うが，りなは否定する。「私の時もそうだった」とりな。りなも輝明からお金をもらった経験があった。輝明は，約束を守ることとウソをつかないこと，両方の教えを守ろうとしていた。「幸太郎にできる?」とりな。家に帰り，りなは里江に孝太郎のことを話す。ただし真樹には内緒という約束で。里江は，真樹と買い物に行くとき，お金をあげた相手がわかったか聞かれるが答えない。変わりに「たまには幸太郎のこと褒めてあげたら」という。すると真樹は「幸太郎は褒めると調子に乗ってダメになるタイプなんですよ」と笑っている。里江が留守の間，キャベツを切る輝明の所に幸太郎がやってきた。またその時電話が鳴る。今回もうまくやりとりができず，逆に怒鳴られてしまう。ふるえ出す輝明を見て，幸太郎は「貸して」と電話を替わる。「セールスはお断りです」ときちんと対応する幸太郎。ほっとした輝明は「ありがとう」と。すると幸太郎も「ありがとう。約束守ってくれて」。幸太郎が戻ろうとすると輝明が「僕のこと怒ってる?動物園のこと，怒ってる？」とたずねてきた。幸太郎は笑顔で「怒ってないよ」と言って去っていった。幸太郎を見送りながら「セールスはお断りです」と笑顔の輝明。 　またテンジクネズミの説明に挑戦する輝明。言葉が出てこない輝明に，掃除に戻ってもらおうと三浦が声をかけると，説明をはじめた。三浦と都古に見守られながら，覚えた説明をしっかり言う輝明。通りかかった園長と古賀も見守っていた。 　TOP

＜第2話＞ 　自分のイライラを輝明にぶつけてしまった都古は，翌朝動物園の前で輝明が来るのを待っていた。輝明が来ると，昨日のことを謝る都古。それでも輝明は「おはよう。都古ちゃんに手紙書いたから」といつも通り。都古が「輝明は全然悪くないから」というと，その言葉を繰り返す輝明。「本当にごめんなさい」と都古。すると輝明は，いつものように自転車のベルを鳴らし「行こう，都古ちゃん」。 　動物園の朝会。昨日のことについて謝る輝明。都古も「これからもいろいろあると思いますがよろしくお願いします」と頭を下げる。都古に促され，輝明も一緒に頭を下げた。それでも職員の間には微妙な空気が流れている。いつものように仕事を始める輝明。雨が降っていても，合羽を着て掃除をしている。そんな輝明を見つめながら，古賀と三浦は残り5日で終わりだと話している。正式採用はないだろうと。輝明が，今まで通りテンジクネズミの世話をしようとすると，三浦が止める。それを見ていた都古に，三浦はもう昨日のような騒ぎを起こしたくないからと説明する。それでも都古は「小さいことでもいいので何か担当してもらうとか」とお願いする。仕方なく三浦は，一番おとなしいジンジンの世話を輝明に任せることにした。ジンジンはだっこをしてえさを食べさせる。世話の仕方を伝え，「大竹さんの担当はジンジンです」と三浦。輝明は「大竹さんの担当はジンジンです」と繰り返す。古賀が子供達にテンジクネズミの説明をしている傍らで，ジンジンにえさをあげる輝明。そこへ，お客の一人がヤギのえさやりについて質問してきた。うまく答えられない輝明に，怒り出すお客。それに気づいた三浦は，お客に丁寧に説明した後，輝明に「大竹さんはお客さんと話さないようにしてください」と伝える。いつもの食堂での昼食。違うのは，輝明と三浦の距離。三浦は輝明と離れて，テーブルの一番端に座っている。それを見つけた都古は複雑な心境に。 　また輝明がジンジンにえさをあげていると，テンジクネズミとのふれあいタイムについて質問される。何を言われても黙ったままの輝明。怒り出すお客。仕方なく輝明は「大竹さんはお客さんと話さないようにしてください」と言うが，訳がわからないお客はさらに怒るだけだった。それを見つけた都古。園長の前で事情を説明する。実は，輝明は質問に対する答えはきちんとわかっていた。しかし「大竹さんはお客さんと話さないようにしてください」と輝明。園長に「誰かにそう言われたの?」と言われると「三浦さんです」と答える。非難の目が向けられた三浦は「わからないことがあったら呼んでくださいって意味で言ったんです」。都古は，輝明は言葉通りに取ってしまうと言うことを再度確認する。責められているような三浦。三浦は輝明と二人きりになると，「普通，ああいう場面で俺の名前出さないの」と責める。言ってもわからないとわかっていても，つい当たってしまう。そして「ちくってんじゃねえよ」と輝明に。 　夕食。食欲がない輝明を心配する里江。りなが「話があるんだけど」と言っても，まずは輝明のことが先決。それをわかっているりなは「仕事でイヤなことでもあった?」と輝明にたずねる。「あった」と輝明。そして「ちくってんじゃねえよ」と。そのまま席を立とうとする輝明に，話をする里江。仕事をしていればイヤなことも辛いこともあり，だけれどもみんな生きていくために働いている。「今度はやめないで続けよう」と。「はい」と答える輝明。そこへやってきた秀治は，今までどの仕事も続けられなかったし，いいことなんて何もないんだという。それでも里江は「絶対続けるの。輝明のためになるから」と譲らない。秀治が自分の家へ戻ると，今度は真樹が光太郎に「こんな問題できないの」「早くやりなさい」としかりつけている。これも「光太郎のため」と主張する真樹。母も妻も「子供のため」と言ってやっていることが理解できない秀治。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。大竹さんの担当はジンジンですと言われました。ちくってんじゃねえよと言われました。＞ 　都古の部屋。千晶がつまらない愚痴を言っているが，上の空の都古。そこへ突然河原がやってくる。千晶は気を利かせて帰るが，「来るなら電話をして欲しい」と河原を追い返してしまう都古。それでもドアが閉まると後悔し，後を追いかけようとする。その時電話が。河原から。すんなり許してしまい，受け入れる都古。 　りんごを切る三浦と輝明。輝明は「ちくってんじゃねえよって，三浦さん言いました・・・どういう意味ですか」とたずねる。「わからないの?疲れるなぁ」と三浦が言うと，輝明は「そこのイスで休憩してもいいですよ」と素直に受け取る。三浦はさらに疲れる・・・。そこへ，古賀が来月から三浦にテンジクネズミの説明を任せると言ってきた。嬉しそうに張り切る三浦。古賀が子供達の前でテンジクネズミの説明をしていると，その傍らにはジンジンにえさをあげている輝明の姿が。三浦も，仕事をしながら古賀の説明を一生懸命覚えようと耳を傾けている。夜，ベッドに入っても眠れない輝明。突然起き出し，りなの元へ。「りな，ちくってんじゃねえよってどういう意味」。 　テンジクネズミの部屋の入り口，座ったままジンジンの世話をする輝明。夜は眠れない。いつもの交差点で，あのロードレーサーに出逢い，またじっと見つめる。古賀のテンジクネズミの説明の傍らで，ジンジンの世話をする輝明，そして三浦の姿。食堂での食事も，相変わらず三浦と距離を置いたまま。家に帰れば，ツール・ド・フランスのビデオを見る。相変わらずの日常を過ごす輝明だが，どうしても夜は眠れない。 　ある朝。輝明が出勤した後に起きてきたりなが，夜ファミレスのバイトをはじめたと里江に伝える。実は，先日相談しようとしたことだった。「心配しないで」というりなに，里江は「りなのことは全然心配していないから」と家を出て行った。里江が向かった先は，堀田の元。食欲がなくなった輝明が心配だと相談してる。ただし，辛いことがあっても乗り越えて仕事を続けさせたいという気持ちだと伝えた。すると堀田は「一つだけ気をつけてください。ご存じだとは思いますが，輝明さんの場合は，感情と表情が一致しないことがあります。普通に見えて，我々が想像する以上のストレスを受けている場合があります」と母親にアドバイスする。 　いつものようにテンジクネズミの部屋の入り口で，ジンジンの世話をする輝明。その近くでは三浦が仕事をしながら説明の練習をしている。次の言葉が出てこないでいると，突然輝明が続きを言い始める。驚きながらも「全部覚えてるわけないよな」と信じていない。その後，突然輝明が倒れた。 　病院で点滴を受ける輝明。その側で見守る都古。里江も駆けつけてきた。里江に謝る都古。職場でうまくコミュニケーションがとれず，かなりストレスを受けていたらしい。夜も眠れなかったようだと。自分の責任だという都古に，里江も辛くても続けるように言った自分に責任があると。園長は職員達に，輝明は2〜3日休むと告げる。約束の2週間が経つことになるが，様子を見るという園長。「大竹さんから辞めるって言ってくるかもしれませんしね」と古賀。2人の会話を複雑な表情で見ている三浦。 　家に帰り，やっと眠ることができた輝明。秀治は仕事を続けることを反対するが，里江は続けさせたいと主張する。「輝明のことがそんなの恥ずかしいの」と里江。秀治が否定しても，「恥ずかしいから世間に出したくないの。そういうところ，お父さんにそっくり」と。そして「きっと支えてくれる人たちや場所があるはず」という。秀治は「健常者にとって，障害者の問題は他人事。他人のことにかまってる余裕なくて，自分のことで精一杯なんだよ。お袋もわかってるはずだよ。それが現実だって。輝明自身が苦しんでいる。お袋のやり方には」。輝明の枕元で，じっと輝明を見つめる里江。そんな2人を部屋の外から見つめるりな。 　里江が輝明の部屋で目を覚ますと，輝明の姿がない。輝明は，いつも通り動物園へ出勤していた。「自分から辞めるつもりはないみたいですね」という古賀。輝明がトイレに行くと，三浦が追いかけてきた。何か話しかけようとするが，なかなかできない。やっと「いつも黄色の服着てますよね」とたずねるが「はい」と答えるだけの輝明。その後の会話が続かない。朝会が終わるとき，里江がやってきて，今日限りで辞めさせたいと告げる。指導してくれた三浦に挨拶をし，輝明にも挨拶をするように促す。でも何も言わない輝明。そんな輝明をはさんで，里江は「無理しなくて言い」といい，都古は「ここで仕事したいの?」という。何も言わない輝明。突然猛然と歩き出した。行き先がわからず，困惑しながら付いていく一同。輝明は脇目もふらず，早足で歩いていく。たどり着いたのは，テンジクネズミの部屋。でもドアにカギがかかっていて，がちゃがちゃ必死にあけようとする。三浦がカギを開けると，ジンジン抱き上げ「大竹さんの担当はジンジンです」と言う輝明。その姿を見つめる一同。 　里江と都古。里江は「自分の子供の気持ちがわからないなんてね・・・輝明は，ここで仕事を続けたがっている。それでいいのかな」と相談する。都古は「はい。私もそう思います」と。都古は園長に輝明が仕事を続けられるようにお願いする。しかし園長の答えは「私は会社の利益を考えなければいけない立場なんだ」と。輝明が望むなら，遊びに来てジンジンの世話をするのはかまわないと。輝明が「さようなら」と帰宅の挨拶に来ると，慌てて引き留めたのは三浦。園長に「大竹さんの特技知ってます?テンジクネズミのこと全部覚えているんです」と伝える。すると輝明は「ちくってんじゃねえよ」と言い出す。「使い方間違ってるよ」と三浦。三浦が，テンジクネズミの説明をはじめると，その後を輝明が一語も間違えることなく言うことができた。驚く一同。 　帰り道。あの木に向かって，ツール・ド・フランスの優勝者と同じポーズをする輝明。自宅には正式採用を告げる電話がかかってきていた。古賀は「障害者の採用は，うちのイメージアップになるんですよね」と園長に。園長は「ガイドやってもらうのもいいかもしれないね。イメージアップになるなら，素晴らしいじゃないか」と。それには何も答えず帰ってしまう古賀。あの木の前，都古に向かってベルを鳴らす輝明。都古は「良かったね，正式採用」と言う。「正式採用」と表情を変えず繰り返す輝明。いつもの交差点。偶然，あのロードレーサーと並ぶ。輝明が「こんにちは」と挨拶するが，驚いているだけのロードレーサー。輝明がもう一度「こんにちは」と挨拶すると「こんにちは」と返してくれた。輝明は「僕の仕事は，動物園の飼育係です」と突然言う。「はぁ?」とロードレーサーが驚いている間に信号が変わり，輝明は誇らしげに自転車を走らせていった。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。ジンジンの世話をしました。正式さいようになりました。＞ 　TOP

＜第1話＞ 　静かな一室。輝明と精神科医の堀田が向き合っている。堀田が輝明に対して，記憶テストを行う。輝明は，一般の記憶力方法と違い，言葉通りに記憶をしている。しかも正確に。堀田は，輝明についていろいろ質問するが，「最近どうですか?」という質問をすると，輝明は困惑の表情を示す。結局出てきた言葉は「最近どうですか?」と繰り返しただけ。それ以外の，具体的な質問にはしっかり答えていく。最近，輝明は勤めていた弁当屋をやめた。輝明「僕はもう仕事に行きません。イヤなことを言う人がいたので」。堀田が「どんなことを言われたんですか」と質問すると，急に不安定になり，ツール・ド・フランスの歴代優勝者名を列挙しはじめる。パニックの一つだった。診察が終わり，自転車で帰ろうとする輝明。しかし，自転車置き場の自転車が乱雑で・・・輝明が安心して自転車を走らせることができたときには，キレイに自転車は並んでいた。車の交通量の少ない交差点。周りの人たちは車が来ないから，赤でも渡っていく。輝明「赤は渡ってはいけません」。周りの人たちは不思議そうに振り向く。その時，一人のロードレーサーが走り去る。その様子をじっと見ている輝明。帰宅すると，しっかりと手洗いうがいをし，自分の部屋へ。壁にはたくさんの絵が貼られている。自分で描いた自画像。自転車のポスターもたくさん貼ってある。部屋の中はキレイに整頓されており，タンスもしっかり中身が分類されている。キレイに並べられたビデオの中から，ツール・ド・フランスのビデオを取りだし，熱心に見始める。 　母・里江と2人の夕食。里江は，輝明に就職相談会への参加を勧めるが，輝明は「いかない」。イヤなこと言われたり，いじめられるから仕事はしたくないという。そこへ，兄・秀治が餃子を持ってやってくる。その餃子の温かさを確認し，自分でレンジに入れる輝明。それに夢中なので，里江と秀治の話は耳に入らない。秀治は，一般社会での就労はあきらめ，作業所で働くことを進める。しかし，里江は「障害者と健常者」という区別を嫌がっていた。そこへ，妹・りなが彼氏を連れて帰ってきた。そのまま自室へ。マイペースで食事を続ける輝明。里江は無理に就職を進めなかった。里江に，翌日デパートに行かないかと誘われると，輝明は「いかない・・・都古ちゃんのところへ行ってくる」と。 　部屋で手紙を書く輝明。＜都古ちゃんへ　今日は病院に行きました。堀田先生と話しました。ツールドフランスのビデオを見ました。＞。その手紙を自転車で投函に行く。そのまま都が獣医として勤めている動物園へ向かう。動物園の中で都古と出逢うと，「都ちゃんに手紙出したから」と。「うん，待ってる」と笑顔で答える都古。都古は輝明に弁当屋をやめた話を確認する。それも手紙で伝えていた。すると輝明は「都古ちゃん，こんなところで油を売ってちゃいけないよ」と告げる。そんな言葉にも笑顔で応える都古。 　夜になり，都古が里江に輝明の仕事の話をする。輝明は，仕事自体ができても，職場の人とのコミュニケーションの問題で仕事を続けることができない。自閉症についてなかなか理解してもらえないためだ。輝明には，知的な遅れがあるが，ツール・ド・フランスの歴代優勝者名を全部言うことができるため，本当は頭がいいんじゃないかと思われてしまう。都古は里江に，輝明が動物園の飼育係として働くことを勧めた。しかし，里江は，生き物を扱う仕事は責任があり難しいのではないかと心配する。それでも都古は，輝明にはあっているんじゃないかと言う。実はすでに園長には話をしており，輝明に会ってくれるという返事をもらっていた。そこへ輝明がやってきた。「お風呂はいります」。都古は，輝明に飼育係として働かないかという。すると輝明は「都古ちゃんの動物園・・・やる」と答えた。里江は「仕事しないんじゃなかったの」と言うが，それには答えず「お風呂はいる・・・お湯の温度は39度」と浴室へ向かっていった。 　翌朝。里江に黄色いネクタイを締めてもらい，「かっこいい」と言われると，嬉しそうに「かっこいい」と繰り返す輝明。りなが部屋から来ると「おはよう」という輝明。りなはそれに答えず，なんでスーツ姿なのかをたずねる。しかし，輝明は「おはようは?」。寝ぼけ状態だったりなも「あ，おはよう」と。挨拶が終われば，きちんと答えられる輝明。飼育係の仕事と聞いて「ハードル高いんじゃないの」というりな。動物園の事務室で，園長の久保と面談をする。とりあえず，2週間仕事をしてみてから判断すると告げられる。輝明と里江が帰ってから，久保は職員に，まずは知ることからと自閉症に関する資料を手渡した。その日の夜，飼育係として働くことを知った秀治は反対したが，里江は聞かなかった。秀治の家族も呼んですき焼きを食べることにしたが，息子・幸太郎勉強のこともあり，断固拒否する妻・真樹。それでも姑との関係もあり，偽りの姿で食卓を囲む。真樹に言われ，勉強に打ち込む幸太郎の夢は「東大生」。その先のことは考えてないのか，答えられない。そんな会話の中，マイペースで食事を続ける輝明。「ごちそうさま」というと，さっさと食器を片付けに行く。それを見て「輝明さんを見習わないと」と無理矢理幸太郎に食器を洗わせる真樹だった。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園へ面接に行きました。　園長さんと話しました。　動物園で働くことになりました。＞ 　動物園での朝会で，輝明が紹介される。たくさんの知らない人に囲まれ，困惑する輝明だったが，都古と目が合い，都古の笑顔を見て安心したのか自己紹介することができた。都古も「大竹さんの対応に困ることがありましたら，私を呼んでください」と付け加えた。動物園のふれあい広場が輝明の仕事場になった。直接輝明に仕事を教えるのは三浦。その上司・古賀は「困ったことがあったら松田先生呼んで」とさっさと行ってしまう。三浦はとりあえず「これでここの掃除をしてください」とほうきを手渡す。都古の元へ三浦がやってきた。ほうきを持って立ったままの輝明の姿が。都古は，具体的な指示をするようにお願いする。抽象的な会話ができないと。その例として「最近どう?」という質問には答えられないと教える。三浦は，実際にほうきではいて，仕事の内容を教える。そのあとふと気になり「最近どう?」とたずねてみる。輝明の表情が変わり，困惑しているのがわかる。結局出てきた言葉は「最近どう?」。また三浦が都古の元へやってきた。キレイなっても，まだ掃除を続けているという。都古は，判断ができないから，具体的に「一往復したら終わり」というように作業の終わりを教えて欲しいとお願いする。また三浦がやってくる。今度は食堂。都古が行ってみると，「カレーはやっぱりチキンカレー。カレーはやっぱりチキンカレー・・・」と繰り返し言い続ける輝明の姿が。輝明は，カレーが大好きだったが，チキンカレーしか食べないというこだわりがあった。こだわりがあるのも自閉症の特徴の一つ。しかし，食堂のカレーはポークカレー。都古は，ちょっと考え，カレーの上に唐揚げを載せてあげた。嬉しそうに食べ始める輝明。三浦のラーメンはのびきってしまっていた。それなのに輝明は「さめちゃった。もっと早くチキン持ってきてくれれば良かったのに」と。頭に来る三浦だったが，都古は「悪気ありません。人の気持ちわからずに，ついイヤなことを言ってしまうのも，自閉症の特徴の一つなんです」と止める。次の仕事は，えさの用意。リンゴを「2cmに切ってください」と三浦。また三浦が都古の元へ。今度は，定規を使ってきちんと2cmを測りながらリンゴを切る輝明の姿が。言葉通りにとるので，2cmと言われたら2cmに切るんだと教える。そんな輝明の姿を，古賀が窓の外から見つめていた。都古は三浦に「彼を責めるようなことは言わないようにお願いします」と。 　夕方。一人家で待っている里江。そこへ輝明が帰ってくる。輝明は，いつも通り手洗いとうがい。仕事について知りたい里江は，その合間を縫って，タイミング良く質問していく。答えも輝明のタイミングで返ってくるので，せかさずに待っている。手洗いうがいが終わると，さっさと自分の部屋へ行く輝明。 　＜都古ちゃんへ　今日は動物園に仕事に行きました。そうじをしました。りんごを切りました。＞ 　都古の部屋に，友人・千晶が遊びに来た。郵便受けには輝明からのハガキが届いていた。＜都古ちゃんへ　今日はどこにも行きませんでした。ツールドフランスのビデオを見ました。＞。その手紙を見て，千晶は「姪っ子か甥っ子?」というが「幼なじみ」と言う答えに不思議に思った。都古は，千晶に輝明のことを説明する。輝明からの手紙は，必ず「都古ちゃんへ」で始まり，3行で絶対に終わる。「偏見あった?」という千晶に，「そういうのよくわからない頃から一緒だったから」と。幼い輝明と都古。一本の木の周りで，「テル!」と走る都古を，「都古ちゃん!」と自転車のベルを鳴らしながらテルが追いかける。ずっとそうやってきた。都古の手料理を褒める千晶は，彼氏にも食べさせているのかと。しかし，都古の彼は妻子持ち。奥さんじゃないから料理は作らないという。 　朝，ハガキを投函し，動物園へ向かい，掃除・りんご切り，テンジクネズミの世話，昼食は唐揚げを載せたポークカレーと言う輝明の日常が始まった。働き始めて1週間がたった。「良くやってるみたいだね」という久保に，古賀は「今のところは」と冷たく答える。動物園からの帰り，都古と一緒に帰る。幼い頃と同じように，都古の後ろからベルを鳴らす輝明。そして，あの木のところで別れる。都古は，彼・河原とデートだった。帰り際，河原が妻が旅行に行く日，一晩一緒に過ごしたいという。しかし，都古は拒否する。しつこく河原はお願いするが，都古の返事は変わらなかった。河原を見送ったあとの都古は，寂しげな表情をしていた。輝明と堀田。動物園の飼育係として働き出した話をする。輝明は「都古ちゃんは，いつも助けてくれます。都古ちゃんは，絶対に僕を怒りません。都古ちゃんは，絶対に僕にイヤなこと言いません」。輝明の"絶対に"という言葉に，一抹の不安を感じる堀田だった。 　動物園。輝明は，いつものようにテンジクネズミをケージに入れ，戻す作業をしていた。その時，ピエロが持っていた風船が割れる音が。その音に驚き，ケージを落とす輝明。一斉にテンジクネズミが逃げ出す。体を震わせ，大声で叫び出す輝明。予期せぬ状況にパニック状態になってしまった。その状況を知らなかった三浦は，途中でテンジクネズミを見つけ不思議に思う。輝明の元には都古が駆けつけた。都古に諭され，やっと落ち着いた輝明。総出でテンジクネズミを捜索。徐々に暗くなる中，なんとか見つかっていくテンジクネズミ。残りミーナという一匹が残っていたが，捜索は明日にしようと言うことになった。今回のことを謝り，説明をする都古。その時輝明がいないことに気づく一同。まだ探しているのではないかと言うが，都古は電話で確認する。輝明はもう自宅にいた。自分の勤務時間が過ぎたので帰ってしまったのだった。都古は謝り，説明しようとするが，「自閉症の特徴の一つですか」と冷たく言う古賀。都古を見る職員の目は冷たかった。久保は，２週間という約束だから「残り５日，よろしくお願いします」と。輝明は，母親に諭されていた。仕事が残っている場合は，時間が過ぎても働くこと。今回はテンジクネズミが全部見つかるまで帰ってはいけなかったこと。一つ一つ，教えなければいけないことだった。 　仕事を終え動物園から出てきた都古の元へ，河原から電話が。やっぱりどうしても会いたいと。一度は断った都古だったが，急いで夕食を作り始めた。あまりに慌てたため，包丁で指を切ってしまった。ごちそうがテーブルに並べられたが，まだ河原はやってこない。そこへ電話が鳴った。当直の三浦からで，テンジクネズミのミーナが見つかったが，元気がなくて心配だと。河原を待つ都古は，駆けつけられない。返事に困ると，携帯が鳴る。旅行先で妻が体調を崩し，迎えに行くから来れないという河原。仕事ができたから大丈夫と言い張る都古だった。すぐに動物園へ駆けつけた。門の前には輝明がいた。「ミーナ探さないと」という輝明に「もう見つかったらいいよ」と都古らしくない，ちょっと冷たい言い方だった。ミーナの治療が終わり外に出てくると，まだ輝明がそこにいた。「もういいって言ったでしょ」とさっさと行ってしまう。輝明は都古を追いかける。いつものように。輝明「仕事しに来たの?」。都古「うん」。輝明「夜なのに?」。都古「うん」。納得がいかない輝明は，また「夜なのに?」。「そういうときもあるの」と抽象的な答えをする都古。やっぱり納得がいかない輝明は「夜なのに?」と繰り返し聞いてしまう。都古は無視をした。輝明は，ベルを鳴らす。いつものように，都古を呼ぶベルを。すると振り返った都古は，いつもの都古じゃなかった。「テルのせいでしょ！テルがミーナ逃がしたからいけないの！テルが逃がしたから，ミーナの具合が悪くなったの！テルが逃がしたから，私が来なくちゃいけなかったの！そんなこともわからないの！」と怒鳴ってしまう。今までみんなにやらないで欲しいとお願いしたことを自分でやってしまった。泣き出す都古。輝明は・・・「1903年・・・」。ツール・ド・フランスの歴代優勝者名を，不安げな表情で言い続けていた。 　TOP