僕の生きる道

２００３年１月７日（火）スタート
毎週火曜　２２：００〜２２：５４　フジテレビ

第１話 告知，余命１年 第２話 読まなかった本
第３話 封印された恋心 第４話 教師・失格
第５話 あばかれた秘密 第６話 悲しきプロポーズ
第７話 間違われた婚約者 第８話 二人だけの結婚式
第９話 一枚の写真 第１０話 最後の誕生日
最終話 愛と死 特別版 もう一つの僕の生きる道
スマスマ特別編 僕とあなたの生きる道〜ONE DAY〜


＜最終話＞

　教室。いよいよ受験が始まる。秀雄は「体調を崩さないように気をつけてください。今の力をちゃんと出せば，必ず合格します。あとは落ち着いて受験するだけです。みなさんはずっと勉強と合唱を両立してきました。それだけの力はあるんです」と励ます。しかし，廊下に出てくると，つらそうな様子。偶然通りかかった岡田が心配するが「ちょっと疲れただけです」と。岡田は心配そうに見守っている。
　病院で診察を受ける。「先生の予想はずれましたね」と秀雄。金田に余命１年と宣告されてから，もう１年以上たっていた。秀雄は「まだ入院しなくても大丈夫ですよね」と確認する。金田は入院を勧めたいと言うが・・・。秀雄もみどりも，今まで通り普通に生活することを望んでいた。それを聞いた金田は，入院せずにいくことを了承する。
　家に帰り，新しいタクトを取り出す秀雄。「買っちゃいましたね」。コンクールに向けて新しいタクトを買った。「合唱コンクールまでまだ１ヶ月以上あるんだよな」と秀雄がつぶやくと，「大丈夫。絶対出られるから」とみどり。
　＜余命一年の宣告から，すでに一年が過ぎている。僕達はなんとか変わりなく過ごしている・・・あっ，いや，１つだけ変わったことがある。彼女が僕を『秀雄さん』と呼ぶようになったことだ・・・僕は今も生きている＞

　受験をした生徒達の発表が始まった。次々と合格していく生徒達。秀雄のクラスは，発表のあった生徒はみんな合格した。あと残すは吉田１人。吉田なら大丈夫だろうとみんな安心していた。
　秀雄とみどりは，ダンボールに荷物を整理していた。みどりは，秀雄の小学生の頃の文集を見つける。「ヒョロリンって呼ばれていたんですね」とみどり。その文集をダンボールにしまい，秀雄はそこに「実家」と書いた。「これは実家に送る物です・・それからこれは死んだときに知らせて欲しい人が書いてあります」。その封筒を机の引き出しに入れる。引き出しには銀行や生命保険等の書類が入っていると教える。最後の日に向けて，準備が始まっていた。本棚の本もほとんどが片付けられていた・・・。その日の夜，ベッドに入ってから，みどりは「どうしてヒョロリンって呼ばれていたんですか？」と。秀雄は，小さい頃運動が苦手で，走り方も変だったようで「ひょろひょろ」走っていたから「ヒョロリン」になったと説明した。みどりは，小学生の頃は「みどりちゃん」。中学になってからは「みどり」と呼ばれていた。そんな話をしているうちに眠ってしまう秀雄。
　吉田の合格発表の日。職員室で秀雄とみどりは待っていたが，なかなか報告に来なかった。やっと来た吉田だったが，残念ながら不合格。「来年の合格めざしてください」という秀雄。だが，吉田は自信が無いという。本番になると緊張してしまい，実力が出せない。秀雄は「いつもの力を出せば合格できるんですから。合唱の本番，あさってです。練習通り歌えるように挑戦してみましょう」と励ます。
　教室では，受験の緊張から開放された生徒達が楽しそうに話をしていた。田中は「受験が終わって気が抜けたぁ」というが，他の生徒達に「合唱があるでしょ」と注意をされる。そこへ，吉田がやってきた。みんなに結果を報告する。でも吉田は「落ち込んでいられない。合唱あるから」と元気を出していた。みんなで楽しそうに練習に向かう。
　合唱コンクールの朝。秀雄とみどりは出かけようとするが，台所の蛍光灯が切れかかっていた。買い置きを取り出した秀雄は「帰ってから取りかえるから」と台所に置いて出発した。コンクール会場には，理事長をはじめ，先生方も応援に来ていた。控え室では，緊張しきっている生徒達が。一番緊張しているのは，吉田だった。２次予選を通過できるのは，５つの学校のみ。決勝は来週。秀雄の指揮のもと「この道」を歌う。歌い終わったとき，秀雄の手からタクト落ちる。そのまま倒れ込む秀雄・・・。
　金田の懸命な治療がすすめられるが，秀雄の呼吸が止まり，続いて心臓も止まってしまう。必死で，心マッサージを続ける金田。その間に，コンクールの結果が発表される。無事予選を通過することができた。まだ心マッサージを続ける金田・・・。
　診察室に，理事長とみどりが呼ばれる。金田は，今回はなんとか命をくい止めることができたが，胃の出血は止められず，もう退院することは無理だと説明する。「心の準備が必要かと思います」。人工呼吸器につながれた秀雄。みどりと理事長が見守っていたが，一旦自宅に帰ることに。家に戻ったみどりと理事長。みどりは「もうこの部屋には戻ってこれないんだね」とつぶやく。部屋の中には，ペアの歯ブラシやマグカップが。そして，台所に置きっぱなしになっていた蛍光灯に目が止まる。「替えてくれるって言ったのに。帰ってきたら替えてくれるって・・・」。
　やっと意識が戻った秀雄に，コンクールの結果を報告するみどり。その報告に，微かに微笑む秀雄。職員室では，教頭が「残すは，卒業式と３年Ｇ組の合唱のみ」と言うと，泣き出す赤井。太田は「悲しくないの。もって１年って言われたのに，２ヶ月も長く生きたんだから」。久保は「みどり先生がいたからかな」と。「きっとそうですよ」と岡田。「なんとか卒業式まで生きてもらいたいよ」と教頭。
　そのころ秀雄は，診察をする金田に「いつ退院できますか？今度の日曜日に合唱コンクールがあるんです。それまでに退院できますか」と。「残念だけど無理かな」と答える金田。
　なんとか起きあがれるようになった秀雄。田舎から母親もやってきた。学校の同僚達もお見舞いにやってくる。秀雄は先生達に「今まで僕のわがままを聞いてもらってありがとうございました。正直，教師をこんなに続けられるとは思っていませんでした。今は退院のめどがたたなくなりました。もしかしたら，仕事に戻るのはもう無理かも知れません。本当にありがとうございました」とお礼を言う。生徒達を心配する秀雄に，みんな合唱の練習をがんばっていると伝える久保。秀雄は，久保に「お願いがあるんです」と話す。その言葉を聞くと，みどりが秀雄にタクトを手渡す。それを，久保に差し出す。
　３年Ｇ組。久保が生徒達に「中村先生とみどり先生は，決勝に出られない。お前達だけで参加することになる・・・中村先生からこれを預かった」と，吉田に秀雄から預かったタクトを手渡す。「無理ですよ」という吉田に，久保は「お前がやるんだ。中村先生がそう言っているんだ」と。そして「みんなも，自分のためにしっかり歌え。それから中村先生のために」と生徒達全員に話す。吉田は１人でタクトを振ってみるが，自信がもてない。
　眠っている秀雄の手を握るみどり。するとそっと握り返してくる秀雄。秀雄は「みどりさん。僕のこと忘れないでくださいね」と。「はい」と答えるみどり。そして「でも，僕に縛られないでくださいね」とお願いする秀雄。みどりも「はい，わかっていますから。私はちゃんと生きていきます。でもどうしても会いたくなったとき，どうすればいいんだろう」と。「会いに来ますよ」という秀雄。「プロポーズをした場所覚えていますか？そこに来てください。必ず会いに行きますから」。
　金田は，ロビーに座るみどりを見つける。「先生。死ぬことって終わることじゃないですよね」とみどり。金田は「そうだよ」。ベッドの上で１人考える秀雄・・・。
　合唱コンクール当日。控え室では，生徒達が「中村がいないと無理」と不安がっている。リハーサルも上手くいかなかった。そのころ，病室の秀雄は時間を気にする。「みどりさん，金田先生を呼んできてもらえませんか？話があるんです」。ちょうど様子を見にやってきた金田に，秀雄は外出許可をお願いする。「合唱コンクールに行きたいんです」。金田は「医師として許可できない」と。「どうしてもダメですか？死ぬかも知れないからですか？」と尋ねる秀雄に，金田は「その危険もある」と伝える。秀雄は「このままベッドでおとなしくしていれば，少しは長くいきられるでしょう。でも，それは僕にとって生きたとは言えません。ボクは最後まで生きたいんです・・生きたい！」と強く訴える。それでも金田は「許可できない」と。
　母と二人きりになる秀雄。必死に秀雄の布団を直そうとする母に，「ありがとう・・・ありがとう母さん」。その秀雄の表情を見て，ハッとする母。もう秀雄の顔を見ることができない。顔を背け，ただただ秀雄の足をさするだけだった・・・。金田の元へ，秀雄がいなくなったことが伝えられる。病室に金田が行くと，母が「勝手をお許しください」と頭を下げる。１人，道を歩く秀雄。後から駆け寄ってきたみどりが，秀雄を支え，二人で歩く・・・。
　合唱コンクール会場。客席には，先生達が応援に来ていた。控え室の生徒達は，時間になり向かおうと立ち上がるが，どうしても自信がない吉田は立ち上がれない。そんな吉田に「指揮者がいないと歌えない」と赤坂がタクトを手渡す。ステージに上る生徒達。緊張しきった吉田は，腕が全く上がらない。指揮者が動かないので，歌い出すことができない。会場がざわめく。その時，杉田がハッとした顔で客席を見つめる。みどりに支えられた秀雄が入ってきた。みんなも秀雄に気づく。吉田も振り返り，秀雄を見つめる。吉田は，秀雄と目でコンタクトを取り，やっと自信を取り戻すことができた。しっかりと指揮をする吉田。一生懸命歌う生徒達。曲は，ずっと一緒に練習をしてきた「野バラ」。それを見守る秀雄。病院では，金田が，看護師の畑中に「明日死ぬとしても後悔しない？」と尋ねる。畑中は「後悔しない」と自信を持って答えていた。歌いきった生徒達を，優しい眼差しで見守る秀雄・・・。
　コンクールの結果は，３位だった。生徒達は，秀雄に報告しようと病院に向かおうとする。しかし，まだ秀雄は客席にいた。すぐに向かおうとするが，吉田がみんなを引き留める。客席で，秀雄はみどりと二人きりで話をしていた。秀雄は「ふと感じたんです。僕は余命１年と知ったとき，それまでの２８年間の人生を後悔しました。だから，残りの人生は，悔いの無いように生きようと思いました。そして生きました」。「はい」とみどり。秀雄は続けて「後悔したはずの２８年間が，今ではとてもいとおしく感じます。ダメな人生だったんですけど，とてもいとおしいです」。みどりは「はい」と答えながら，目からは涙がこぼれていた。哀しみを振り切るように「次は，卒業式とお別れ会ですね。お別れ会の料理，どうします？たいていは，サンドイッチとポテトですけど・・他に何がいいか考えましょうよ」と提案する。秀雄も「そうですね。考えておきます」と答える。
　そろそろ帰ろうとすると，生徒達がステージに戻ってきた。みんなで「仰げば尊し」を歌い出す。うれしそうに聞いている秀雄。先生達も，舞台袖で見守っている。秀雄は，ずっとステージの生徒を見ていたが，だんだん生徒達の姿がぼやけてくる。代わりに，今までのことが走馬燈のようによみがえってくる。合唱のこと，みどりとの楽しい日々・・・。みどりとの焼鳥屋での初デートのことを思いだし「砂肝」とつぶやく秀雄。「砂肝？焼き鳥もいいですね。昔，二人出よく行った焼鳥屋さんに頼んでみるとか・・・それより洋食はどうですか？いろんな料理を並べてもらって・・そうしましょうよ」とみどりが秀雄の顔を見ると・・・眠っているような秀雄の顔。その時が来たことに，みどりは気づいた。秀雄の手を握りしめ，寄り添うようにもたれかかるみどり・・・。もう，生徒達の歌声も聞こえない。二人だけの静寂の空間。

　５年後。陽倫学園に新しい教師がやってきた。あの吉田が，生物教師として戻ってきたのだった。秀雄が座っていた席に座る吉田。吉田が初授業をはじめようとすると，生徒達は一斉に他の教科の勉強をはじめる。あのころの自分たちと同じように。すると吉田は「机の上の物をしまってください」と。でも生徒達は無視。「しまいなさい！」と口調が強くなり，やっと生徒達はしまう。そして吉田は「昔，この学校に，中村秀雄という先生がいました」と秀雄が話した「読まなかった本」の話を生徒達にし始めた。それを廊下でうれしそうに聞いているみどり。
　みどりは，今までと同じ生活をしていた。理事長と二人の生活を。夕飯の相談をする理事長に，「寄るところがあるから」とみどり。みどりが向かった先は・・・あのプロポーズの場所・・大きな木の下だった。みどりは「秀雄さん。今日から吉田君が陽倫学園の教師になりました。生徒達に，秀雄さんの話をしてましたよ。それから・・同窓会をやろうという話も出ています。みんな元気だといいな・・・秀雄さん，私は元気です」。しっかりと話し，去っていくみどり。そんなみどりを，そっと見守っている秀雄の姿が・・・。
　＜僕は生きた。君がいてくれたかけがえのない人生を・・・世界に一つだけの，僕の人生を＞


＜第１０話＞

　職員室で退院報告をする秀雄。「こんなことがあった以上，仕事は続けるべきではないかも知れません。でも最後までやりたいんです。勝手なお願いだと思いますけど，よろしくお願いします」と頭を下げる。みどりも立ち上がり，一緒に頭を下げる。「オレたちはわかっているから」と久保。太田も「そうよ」と。みんなが見守ってくれている。教頭は，生徒達が心配だという。さすがに動揺している様子。「ちゃんと話します」と秀雄。さらに合唱部はどうしても認められないと言う。秀雄は「受験に支障がなければいいんですよね。僕とみどり先生に考えがあるんです」。
　教室へ向かう秀雄。秀雄が入っていっても，沈みきった生徒達。秀雄は「無事退院しました。みなさんが歌ってくれた歌，ちゃんと聞こえましたよ」と伝える。「そんな顔をしないでください。僕の命が残り少ないことは事実です。変えることのできない運命です。でも，迷いやおそれはありません。残りの人生をしっかりと生きるだけです。目標だってあります」と合唱コンクールの話をする。受験勉強と合唱が両立できれば続けられることになった。その条件は，今度の模試で，全員が第１志望校Ａ判定（合格圏内）を取ること。生徒達は「無理だよ・・・」とあきらめムード。しかし秀雄は「考えてみてください」と生徒に投げかける。教室を出た秀雄に，杉田が「ホントに怖くないの？・・・死ぬこと」と。「はい。怖くありません」と答える秀雄。
　＜僕は今，死ぬことをおそれてはいない＞

　中村家。机の上には，二人で撮った写真が飾られている。朝食時の話題は新婚旅行。「ピピ島は無理か・・残念だな」と秀雄。飛行機の中で何かあった場合大変なのであきらめた。「そのうち，近いところへ行きましょう。どこがいいですか？」とみどり。秀雄は「みどり先生と一緒ならどこでもいいです」と答える。ただ「できたら星がきれいなところがいいです」と１つだけ条件を。
　理事長室。教頭が，合唱部の存続について報告する。すでに保護者にも同意を得ているという。「初めてだね。君が私の顔色伺わずに何かを決めたの」と理事長。教頭は，どうせ無理だからと言うが「ホントに無理だと思う？合唱部続けさせたいって顔に書いてあるよ」と理事長。
　教室では，みどりの授業が終わった。生徒達は，みどりも秀雄も，秀雄の命が短いことを知っていて結婚したことを話している。「合唱コンクールもあきらめずにやろうとしている」「どうしてそんな風にやれるの？」と疑問に思う。すると田中が「チャレンジしてみなきゃいけないんじゃないの？」と。みんなも「無理って決まったわけじゃない」と気持ちが変わっていく。そんな中，吉田だけが「中村に同情しているだけだ」とまだ反発している。今度は赤坂が「本の話覚えている？」とみんなに問いかける。みんなはまだ秀雄の話を真剣に聞いていない時期で，ちゃんと覚えていない。赤坂は，自分に向けてのコメントだったので，しっかり覚えていた。それをみんなに教える。「読まなかった本」の話を。
　秀雄の授業が始まる。すると，みんな生物の教科書を広げる。逆に驚く秀雄。「僕が言うのもなんですが，生物は受験も模試も関係ないんじゃないですか？」。すると鈴木が「先生が言ったんじゃん。やれるだけのことはやってみましょうって」。「はい。やってみましょう」と微笑む秀雄。ただ，吉田１人は数学の教科書を広げていた・・・。合唱の練習に向かう秀雄とみどりが，帰ろうとする吉田と出会う。秀雄が「必ずＡ判定を取ってください」というと「僕は関係ないですから」と吉田。「わかりました。とにかくがんばってください」と秀雄が言うと，そのまま帰っていく吉田。

　中村家に，同僚達が遊びに来ていた。彼女を作ると意気込む岡田。しばらくは彼女を作らないと言う久保。結婚しようかなと言い出す太田。久保と太田は，なんだかいい雰囲気。みんなと楽しく食事。みんなが帰った後，みどりに背中をさすってもらう秀雄。「ちょっと食べ過ぎただけです。みんなにつられちゃって。楽しかったし」。秀雄をいたわりながら「吉田くんも歌ってくれるといいですね」とみどり。
　久保の授業を，みんな意欲的に受けている。田中は，次々に質問をしていく。するといらついている吉田が「授業のじゃまするなよ！」と叫び出す。今度は田中が「八つ当たりするな。成績落ちてんだろう」とやり返す。険悪なムードになるが，久保が二人を落ち着かせる。その日の昼休み。屋上で１人昼食をとる吉田の所へ，久保がやってくる。久保は「がんばっても上手くいかない時あるよなぁ」と。そう言うときには「どうするんですか」と吉田。久保は「彼女を変えるかな・・・冗談だよ」。吉田は「絶対に官僚にならなくちゃいけないんです」と打ち明ける。すると久保は「吉田がなりたいんじゃなくて，ならなくちゃいけないのか・・・お前がいいならいいけど」と。そして「中村先生が合唱やろうと思ったきっかけはお前」と伝える。勉強勉強でつらそうに見えたからだったと。その後，１人，ピアノの鍵盤をたたく吉田。そこへ赤坂がやってくる。「歌いたいなら歌えば」と。
　中村家。二人で仲良く餃子を作る。また，新婚旅行の話が出るが「模擬試験が終わってからじゃないと」と秀雄。まだ行き先は決まっていないが「楽しみだな」と秀雄。そのころ，病院の金田の元へ理事長がやってくる。理事長は，金田に相談に来ていたのだった。「二人の愛情が深まるほど，心配になるんですよ。別れが来たとき，娘はどうなってしまうのか・・・」。金田は「愛情が深いほど，楽しい時間を過ごした人ほど，残された後，再び楽しい人生を送っています。お嬢さんを信じてあげて大丈夫なんじゃないですか」と穏やかな口調で。
　夜。ベッドの中の秀雄とみどり。みどりは秀雄が主人公のお話をしていた。
　「むかーしむかし，あるところに中村秀雄という少年がいました。少年は歌がとっても好きでした。秀雄少年の夢は，テノール歌手になることでした。でも少年は，大人になり，高校教師になりました」。「ダメ教師でしたけど」と秀雄。みどりは続けて「秀雄青年は，その高校で，運命の人と出会います」。秀雄「それは秋本みどり先生です」。「二人のはじめてのキスは最悪でした」。秀雄「すいません。僕が悪いんです」。「でも二度目のキスは最高でした」。秀雄「すいません。よく覚えていません。あまりに舞い上がってしまったので」。「これからも二人は数え切れないほどのキスをするでしょう」。秀雄「するでしょう」。少しの沈黙・・・「眠い」とみどり。秀雄は「寝ましょう」といい，そしてそっとみどりのおでこにキスを。小さなベッドで寄り添うように眠る二人・・・。

　合唱の練習が終わると，急いで塾へ向かう生徒達。塾でも，図書館でも，通学途中でも，ファーストフード店でも，犬の散歩中でも，一生懸命勉強をしている生徒達。ただ１人，吉田だけがなかなかやる気が出なかった・・・。模擬試験当日。受験をしない杉田も，みんなの応援に顔を出した。問題を持ってやってきた秀雄「いよいよ模擬試験ですね。しっかりやってください」と。
　模擬試験の結果が出た朝。職員室で，封筒が渡される。教頭も結果が気になる。秀雄は「すごく嬉しかったんですよね。生徒達が勉強も合唱もがんばってくれて」と。「結果がどうであろうと，がんばったことはあの子達の財産になるんだからね」と太田。秀雄もそれは判っていた。秀雄が封を開けようとすると，みんなが気になるように見守っている。一人一人結果を確認する秀雄・・・。教室に成績表を持っていく。「成績表を配ります。結果ですが・・・・合唱続けられることになりました。全員Ａ判定です」と力強く発表する。みんな大喜び。大騒ぎの中，一人一人名前を呼んで手渡していく秀雄。放課後，みんなはうれしそうに合唱の練習へ向かう。気になることがある様子の赤坂。１人教室で考え込んでいる吉田の元へ，赤坂がやってくる。赤坂が「ホント素直じゃないね」というと「お前に言われたくない」と吉田。「私が素直じゃないってこと？」といきなり近づき，キスをする赤坂。「したいからしたの」。
　教頭は田岡の母と話をしていた。約束通り，合唱を続けるという報告。田岡の母は，合唱のことは納得したが，「この先，中村先生にもしものことがあって，それが受験シーズンだったら，どうなるのでしょう。子ども達は動揺するのでは？」と不安を語る。教頭は「お気持ちはわかります。しかし，中村先生に教師をやめて欲しいとは言えません。命にもしものことがおこるかもしれないのは，私達も同じです。中村先生は，たまたま余命が判っているだけです。中村先生に，教師を辞めろと言うことは，社会的に死んでくださいと言っているようなものです」と語る。そして「ぜひ観てもらいたい物があります」と，田岡の母に合唱の練習を見せる。息子の生き生きした表情を見て，何も言わず帰る母。それと入れ替えるように，入ってきたのは・・・吉田だった。歌に引きつけられるように近づいてくる吉田。指揮をする秀雄は，あのときの，少年秀雄が合唱に出会ったときの神父と同じように吉田を招く。吉田も，一瞬ためらいながらも，導かれるように合唱に参加する。
　充実した日々が続く。初夏になり，七夕を向かえる。どこからかみどりが笹を持ってきた。「願い事いっぱい書いてくださいね」。たくさん書いた短冊。その中には「少しでも長く一緒にいられますように　秀雄　みどり」というものも・・・。夏が来て，秋が来て・・・。金田は検査結果を見て驚く「体の状態，すごくいいよ。でも，無理しちゃダメ」と。秀雄も嬉しそう。そして，また冬がやってきた。
　秀雄の合唱の指導にも熱が入ってくる。まずは，予選を通過しなければならない。予選当日。緊張していた生徒達。その結果が，教頭の元に届いていた。職員室で秀雄に手渡され，その場で封が切られる。みんな心配そうにのぞき込む・・・。教室で，秀雄が生徒達に「予選，通過することができました」と報告すると，大喜びのみんな。秀雄が「次の模試も必ずＡ判定ですよ・・聞いていますか？」と叫んでも，誰の耳にも届かないほどの喜びようだった。
　放課後。秀雄が合唱の練習に向かうと，誰もいない。一旦教室に戻ってみるが，そこにも誰もいない。もう１度戻ってみると，みんなスタンバイしていた。いつも通り合唱の練習をしようとすると・・・「ハッピーバースデー」を歌い出す生徒達。最後にはクラッカーと花束，拍手でお祝い。秀雄の２９回目の誕生日だった。秀雄は感慨深そうに「２９歳になったんですね・・・２９歳です」と。すると，静まり返る生徒達。空気を変えるように，クラッカーをならし，拍手をするみどり。みんなも拍手。
　温泉に浸かる秀雄とみどり。新婚旅行にやっと来ることができた。きれいな星が見える露天風呂。満足そうな秀雄に「見つけるの大変だったんですよ。誕生日だし。新婚旅行だし」。「大満足です」と秀雄。そして「キスしてもいいですか」と近づいて行くが・・・二人で笑っている。夜，布団の中で，隣で眠っているみどりを見つめている秀雄。夜中，みどりがふと目を覚ますと，秀雄の姿がない。探してみると，ソファーに座る秀雄の姿が。上着を掛けようと近寄ると・・・秀雄は泣いていた。隣に座り，抱きしめるみどり。子どものように泣きじゃくる秀雄。「死にたくない・・・死にたくないよぉ」。泣きじゃくる秀雄を抱きしめながら，みどりの目からも涙がこぼれていた・・・。
　＜ボクは生きたい。もっともっと生きたい。僕は今，世界で一番幸せなのだから＞

＜第９話＞

　職員室で結婚式を挙げたことを報告する秀雄とみどり。みんな写真を見せて欲しいと言うが，写真は撮らなかったという。「今瞬間のできごとが，いつか過去になってしまうことを結婚式の時に思いたくなかったんだと思います。写真って後に残す物ですから」と秀雄が説明すると，意味が分からない赤井と岡田。久保・太田・教頭は・・・。すると秀雄は「教頭先生お願いします」と。教頭は「中村先生の体について話しておくことがあります」と話し始めた。
　授業前のSHR。秀雄は生徒達に結婚したことを発表する。相手はみどりであることも。最初はきょとんとしていた生徒達も，相手がみどりと知って笑い出す。本気にしていない様子。秀雄が，みどりは旧姓のまま仕事を続けると説明すると，またきょとんとする生徒達。秀雄の左手薬指の指輪に気づいた杉田が「おめでとうございます」と拍手をする。教室のあちこちから拍手が起こる。秀雄が去った後，教室では二人の結婚を驚いていた。最初はみどりとは釣り合わないと言う話をしていたが，秀雄が親身になってくれたことをみんなが話し始める。すると「似合っている」という風に変化していった。その流れで，合唱の話も。まだ参加していない生徒達も気にはなっているようだった。放課後，秀雄とみどりが階段を上っていき，体育館に向かうと，メンバーが６人に増えていた。杉田と田中の他に，田岡・近藤・黒木・鈴木が新たに参加。「全てのパートがそろいましたね」と秀雄が笑顔で言うと，「まだ判らないですよ」と生徒達。合唱の練習よりも，今日は秀雄とみどりのなれそめの方が気になるようだった。
　病院での診察の際，秀雄は金田に合唱のことを話す。「合唱を通じて生徒達に伝えたいことあるんですよね」と秀雄。しかし，金田は検査結果に気になる点が。「疲れたと思ったら体休めてね」とアドバイスする。秀雄は，学校の先生達に自分の病気を伝えたと。「結婚生活はどう？」と金田が尋ねると「イッヒッヒ」と金田のマネをする秀雄。「一般の新婚さんとは違いますよね。一般的には，将来のことを相談するんでしょうけど，僕達は，死に向けて決めなくちゃいけないことがありますから」と。そして「遺影なんですけど・・・僕みたいに余命が判っている人って決めておく物なんですか？」と秀雄は質問してみる。「どっちでもいいんじゃないの」と金田。秀雄は，写真館で写真を撮ってもらおうとするが，どうしても笑顔が作れない。時間だけが過ぎていく。「今日はやっぱりやめておきます」。
＜僕は素敵な顔で映りたい。人生最後の写真だから＞

　秀雄とみどりの部屋に，理事長が尋ねてきた。小さな食卓を囲む３人。「遅くなったけど」とお祝いを渡す理事長。「どんなところで生活しているのか見てみたかったから」と理事長。３人で手巻きずしを食べる。理事長は，みどりの味付けにいろいろ文句を言うが，「中村先生はおいしいって言ってくれるの」とみどり。その楽しそうなやりとりをみている秀雄。そのころ，太田・久保・赤井・岡田は居酒屋で飲んでいた。最初は，楽しんでいた赤井と岡田だったが，話の中に秀雄のことが出てくると，病気のことを考えてしまう。泣き出す二人。太田は「今のうちにとことん泣いておきなさい」と。久保も「二人の前では泣くなよ」。理事長をアパートの外まで見送りに来た秀雄。「今日はわざわざありがとうございました」と秀雄が挨拶すると，理事長は「家で一緒に暮らさないか」と。秀雄は，このままの生活を続けたいと言う。「いつかみどり先生は，再婚する日が来ると思います。だから短い間でも，僕はあの家に住まない方がいいんじゃないかと」と秀雄。そして「結婚を認めていただいてありがとうございます。お父さん」と。理事長も「こちらこそ，みどりをお願いします。秀雄くん」。
　秀雄とみどりの幸せな日々が続く。合唱の参加者も，少しずつ増えていき，クラスの大多数が参加するようになってきた。吉田と赤坂はまだ参加していなかったが，赤坂の方はどうも気になっている様子だ。みどりとの生活も合唱もうまくいっている秀雄だったが，どうしても写真の方は上手く撮れない・・・。
　順調に来ていた合唱だが，生徒達は親に反対されはじめていた。受験に影響すると。でも，合唱にはまりはじめていることも事実。吉田がバカにすると「息抜きになる」と。そんな中，授業開始前，秀雄が新たな提案をした。「合唱コンクールに参加しませんか？」。吉田は「何の意味があるんですか？」と質問してくる。すると秀雄は「吉田くんがこの学校にいる意味は何ですか？」と逆に質問する。「希望の大学に入るためです」と吉田。秀雄は「その通りです。でも高校生活はそのためだけではありません」と。いい大学に入り，いい企業に入り，会社内で出世し，たくさんの退職金をもらって，老後を豊かに過ごす・・・そんな将来のために，今を犠牲にしても，自分が歩いてきた道に足跡は残っていないんじゃないかと。「将来のことを考えることは大切ですが，その時その時もしっかり生きて欲しいんです。高校生である君たちが，今歩いている道にしっかりと足跡を付けて欲しいんです」。なぜそれが合唱なのかという疑問には「合唱でなくてもかまいません。ただ，歌が好きだから・・・子どもの頃歌手になるのが夢だったんです」と秀雄。放課後，合唱の練習に行くと，男子の姿が少ない。親に反対されている人がいることを知る。その時田岡の携帯がなる。母親が，合唱ではなく塾に行くように話している。
　部屋でみどりと話す秀雄。保護者からの反対の声が出ており，生徒達にも迷いが出始めてきていた。「父兄の方にも判ってもらえるといいんですけど」と秀雄。ふとビデオカメラが目に留まる。「片付けようと思って。どうしてつけようと思ったのか，今判ったので」と秀雄。病気を宣告され，今まで生きてきた２８年間を後悔した秀雄。「僕が歩いてきた道には，足跡が付いてないような気がしたからです。そして，残りの１年を悔いなく行きようと決心しました。でもちゃんと足跡を付けているのかどうか不安で，ビデオ日記を付けることで，自分が生きていることを確認したかったんだと思います。でももう必要なくなりました。ちゃんと足跡つけて生きていると言えますから」。「私も保証します」とみどり。みどりが今までのテープはどうするのか聞くと，「残しておかない方がいいと思います」と秀雄。
　放課後の教室。みどりは太田に相談している。「彼の写真やビデオ，残したいと思いますか？」と。太田は，嫌いになって別れたら全部捨ててしまうけれど「好きなのに分かれるんだもんね・・・」。二人の写真は１枚もないという。秀雄の田舎で取ってもらった写真はピンぼけ。「思い出は形で残すなってことなのかな」とみどり。

　職員室の教頭の元へ，保護者達が抗議にやってくる。秀雄とみどりも呼ばれ，話し合いが始まる。合唱に対してのクレームだった。３年生になってからの部活動は禁止されているのに，なぜやらせているのか。塾に遅れてまで何故やらせるのか・・・。「受験より大切なことはありません」という田岡母。秀雄は「高校生活それだけじゃありません」と自分の考えを変えない。一方，生徒達の中にも不安が広がっていった。自分たちが歌っている間も，勉強をしている人達がいる。「中村の言っていることもわかるけど・・」。そこへ田岡の母が，田岡を連れ戻しにやってきた。合唱部を解散すると話を付けたと。秀雄もそう言ったとみんなに伝える。その言葉に動揺する生徒達。田岡も，合唱に参加せず帰ろうと決心する。
　職員室では，教頭と秀雄・みどりが話し合いを続けていた。受験勉強に影響が出ないよう，練習時間などいろいろ配慮して続けたいという秀雄。「教師として最後にどうしても伝えたいことがあるんです」。自分の考えをしっかり伝えようとしていた秀雄だったが，急に倒れてしまう。救急車が来て，ストレッチャーで運ばれていく秀雄。みどりが付き添っている。そんな姿を帰ろうとしていた田岡と赤坂が目撃してしまった。二人が職員室に行こうとすると，動揺している岡田が「まだ死んだりしないですよね。まだ８ヶ月〜９ヶ月は大丈夫だって言っていたじゃないですか」と叫んでいる。そんな岡田に太田がビンタを。「死ぬわけないじゃない！」。そのやりとりを聞いてしまった田岡と赤坂。二人の姿を久保が発見し，「中村先生は大丈夫だから，騒ぐんじゃないぞ」と指導する。合唱のために集まった生徒達は，秀雄もみどりも顔を見せず，田岡の母が言った言葉もあったので，解散しようとしていた。そこへ田岡が戻ってきて「もうすぐ死んじゃうらしいよ。中村，もうすぐ死んじゃうんだって」と伝える。赤坂は，教室に戻り，残って勉強をしていた吉田に伝える。それでも，吉田は塾に行くから・・と教室を出ていく。
　病院で，金田から病状を伝えてもらうみどり。胃からの出血は止まったが，貧血がひどいので輸血が必要。貧血さえ改善されれば，３〜４日で退院でき，ふだんの生活に戻ることもできる。ただし，再出血の可能性もあり，食事がとれなくなったら再入院になるという。みどりが，眠っている秀雄のそばで手を握っていると，理事長がやってきた。入院に必要な物等を持ってきてくれた。理事長は「お前もしっかりしないとな。秀雄くんもがんばってるから」と。みどりは「お父さんこそしっかりね」と。そして理事長は「病気のこと知ってしまった子がいるらしいんだ」とみどりに伝える。
　体育館では，生徒達が座り込んで考えている。田岡は，母から帰るように電話が来るが，黙って切ってしまう。みんな，ここ数ヶ月の秀雄のことを思いだしていた。自分のために親身になって指導している秀雄の言葉を。受験だけでなく人生について語る秀雄の言葉を。すると杉田が黙って立ち上がった・・・。
　秀雄はまだ目を覚まさない。みどりが見守っていると，どこからか歌声が聞こえてきた。ブラインドをあげ，外を見ると生徒達が歌っていた。合唱で練習してきた「野バラ」を。その中には，合唱に参加していなかった赤坂の姿もある。秀雄の様子を見に来ていた金田も，廊下でその歌声に気づく。一生懸命歌う生徒達。その後ろには，吉田の姿が・・・。まだ目を覚まさなかった秀雄。生徒達が歌い終わり，みどりが秀雄のそばに戻ると，やっと目を覚ました。まだ意識がもうろうとしている秀雄にみどりは「ここは病院です。貧血を起こして，輸血が必要になりました。３〜４日で退院できるそうです」と説明する。秀雄は「歌が聞こえました。とってもきれいでした。天使達が歌っているのかと思いました」と。そんな秀雄に「写真が欲しいです。中村先生と一緒に写った写真が欲しいです。中村先生が倒れて，もしかしたら，このままだったらどうしようって，一瞬ですけど考えました。そうしたら，どうしても一緒に映うつった写真が欲しいと思いました。１枚だけでいいんです」と訴えるみどり。
　秀雄とみどりが写真館で写真を撮っている。＜歌い続ける決心をした僕達は，生きる希望に満ちている。その一方で僕達は，緩やかに心の準備をはじめている。やがて訪れる永遠の別れの日に向かって＞


＜第８話＞

　病院で，結婚をすることと，母にきちんと伝えたことを，金田に報告する秀雄「母は何度も謝っていました。代わってあげられなくて，と言う意味だと思います。結婚のことは喜んでくれました。彼女のお父さんのこと考えると申し訳ないと行っていましたけど」。みどりの父・理事長にはまだ話していない。明日，話をするという。「僕，結婚してもいいですよね？」と秀雄。金田は「ダメ」と微笑みながら。秀雄も笑いながら「またそう言うことを言う」と。「誰がなんと言ってもするんでしょ」と金田。「はい」と静かに答える秀雄。秋本家では，理事長が明日の食事会を楽しみにしている。その理事長に「中村先生のことで話しておきたいことがあるの」と真剣な面もちのみどり。初めて秀雄が胃ガンであること，長く生きられないことを伝える。理事長は「本当に９〜１０ヶ月なの？・・つらいなぁ」と同情する。みどりは「私は大丈夫」と。秀雄も，自分の運命を受け入れて前向きに生きていると伝える。理事長は「早く言ってくれれば，結婚，結婚とはしゃいだりしなかったのに」と言い出す。みどりは「結婚はおめでたいことだからいいでしょ」と。理事長は，みどりの言葉がすぐに理解できない。みどりは「私が信じた人を信じるって言ったでしょ」と言うが，結婚を賛成できない理事長。「結婚する必要ない」と。結婚を喜んでいたのは「中村くんを普通の男だと思っていたからだ」と。言い争う二人。「どうして病気じゃダメなの」と言うみどりに「死んでしまうからだよ！どうして死ぬと判っている男と・・」と理事長。「死ぬと判っているのは彼だけじゃない！世の中の男全部よ」と言い放ち，その場を去るみどり。
　次の日。みどりの家に向かう前，何度もネクタイを締め直す秀雄。秋本家のテーブル。理事長の前に並んだ二人。病気のことを知った理事長は「これからと言うときに残念だね。不公平としか言えないよ」と理事長としての言葉をかける。秀雄は「不公平だとは思っていません。病気になって，僕の人生は変わりました。でも，失ったことばかりではありません。得た物もあるんです。僕が得た一番大きな物がみどり先生です。一緒に生きていきたいと思った事です。どうか結婚させてください。お願いします」と，二人で頭を下げる。それでも理事長は「申し訳ないけれど，賛成することはできない」。「必ず幸せになります。どうかお許しください」と秀雄は頭を下げる。一緒に頭を下げるみどり・・・。
　ビデオ日記「理事長は，本当につらそうだった。でも，僕達は信じている。必ず判ってもらえること。必ず幸せになると」。

　秋本家。理事長が台所で洗い物をしている。その後ろ姿に「行くね」とみどり。「そんな娘に育てたつもりはない」と言う理事長に「こんな娘に育てたのは，お父さんとお母さん。１日も早く一緒に暮らしたいの。夜１人で眠るのは，中村先生にとってすごく怖いことだと思うから」と家を出ていく。秀雄の家に「来ました」とみどり。ちょうどみどりの荷物も届いたところだった。秀雄は「もう１度確認します。理事長につらい思いをさせたまま，僕達の生活始めていいんですね」。「はい。いつか必ず良かったと判ってもらえると信じていますから」とみどり。秀雄は「僕も同じ気持ちです」。二人で幸せそうに部屋の模様替えをする。
　＜僕達は一緒に暮らし始める。幸せになるために＞

　朝食をとる二人。「結婚式どうします？」とみどり。「みどり先生にお任せします」と秀雄が言うと，「私が決めていいんですか？」とみどり。秀雄が「はい」と返事をすると，「決めました」とみどり。秀雄が小さい頃歌を歌っていたあの教会で式を挙げたいと。「すごく嬉しいです」と喜ぶ秀雄。そしてみどりは「次は何をやります？どんどんやりたいことやらないと」と。「何がいいかなぁ」と考える秀雄。
　学校。岡田と赤井が一緒に朝食の話をしながらやってくる。また赤井が家を出てきて岡田の家にやっかいになっているらしい。「今度は，中村先生の家へ行ったら」と岡田。すると「ダメ！」と太田。久保が「彼女が来るかも知れないだろ」と岡田に。するとみどりが「私，彼女」と宣言する。驚いた岡田。ただし驚いたのは岡田だけ。もちろん，太田も久保も知っていて，赤井もなんとなく判っていたと。教頭は知らないだろうと思ったら，笑顔。「知ってたんですか」と岡田。
　３年生になって始めての生物の授業を始めると，急に席替えを訴える吉田。すでにくじで公平に決めたにもかかわらず，１人いらだつ吉田。勝手に自分で机を移動してしまう。家に帰ってから，秀雄はみどりに話す。「がんばりすぎて，いっぱいいっぱいなんですよね」と秀雄。みどりはいつも気楽でそんな経験はなかったと。秀雄は，小さい頃運動が苦手で仲間外れにされてつらい日々を過ごした。みどりが「どうやって抜け出したんですか？」と尋ねると，「歌でした」と教会で歌に出会ったときのことを思い出す。「次にやること決まりましたね」とみどり。
　授業開始前，「提案があります」と秀雄。放課後歌を歌おうと生徒達に提案する。突然の提案に驚く生徒達。杉田は嬉しそう。「一生懸命勉強することは楽しいことでしょう。でもやりたいことを我慢して勉強するのはつらいことだと思います。もちろん強制ではありません。僕が楽しいと思うことを提案しました」と。放課後，体育館に向かう杉田。階段の下では，田中が気にしながらも上に上がっていけない様子。通りかかった吉田がバカにすると，田中は上に上がれない。結局，合唱に参加したのは杉田１人だった。秀雄が指揮をし，みどりがピアノ。杉田が楽しそうに歌う。職員室で「杉田さん，楽しそうでしたね」とみどり。そんなみどりに「先に帰っていてくれますか」と秀雄。
　秀雄が向かったのは，理事長の所だった。「考え直してくれたのかな」と理事長。秀雄は「僕の気持ちは変わりありません。理事長には，おめでとうと言ってもらいたいんです」と。理事長は，みどりが結婚したがるのは理解できるが，秀雄まで言っているのが理解できない。「僕も望んでいます」と秀雄。理事長は，引き出しの中から小さな箱をとりだした。箱を開くと指輪が入っていた。「みどりが結婚するときに渡そうと思っていた。代々受け継がれてきた物だ。僕は父親として，これを渡すことはできない」と。
　家に帰ると，みどりが「学校に電話したけれど誰もいなかった」と。秀雄はトイレに行っていたときかもとごまかす。理事長にあっていたことは黙っていた。そしてみどりは，明日，先生達に結婚のことを発表しようと提案する。次の日，職員室で結婚を発表する二人。みんなは祝福の拍手。岡田は「将来は中村先生が理事長？」と言い出す。久保は話をそらすように「お祝いをしよう」と提案する。そんな騒ぎの中，つらそうな太田はそっと出ていった。屋上に，太田の姿。久保がやってくる。太田は「結婚だなんて。あまりにも素敵で・・でも，やっぱり悲しいし・・・嬉しくて・・悲しくて・・」と，久保にすがって泣きだす。
　螺旋階段の下。挙動不審の田中がいる。女生徒が階段を上っていくと，カメラを取り出し，盗撮。その現場を目撃した杉田。「むしゃくしゃしていたんだよ」といいわけをする田中。先生に言わないで欲しいと杉田に懇願する。二度とやらないと言うが「またむしゃくしゃしたらどうするの？」と杉田。そして「この前，ホントは歌いたかったんじゃないの？」とだけ言って，その場を去っていった。
　廊下で理事長にあった教頭は，みどりの結婚に対して「おめでとうございます」と。理事長は複雑な表情。そして，教頭にも秀雄の病気のことを話す。理事長は，理事長として「できる限り教師を続けられるように配慮してやってほしい」と教頭に依頼する。教頭は「中村先生はこの学校で良かったですね。できるだけ教師を続けられるなんて」と。「理事長としては合格かな」とつぶやく理事長。教頭は「今までしていらっしゃったことを思い出してください・・・立派な教育者です」と。でも，理事長は「中村くんの余命を知った途端，結婚に反対していた。娘のこととなったらこのざまだ。中村くんを差別的な目で見ている。立派な教育者だなんて・・・みどりが生まれたとき，この子もお嫁に行くんだなぁと思った。でも，こんな結婚，納得行かない。なんのためにみどりを育ててきたんだ。そんなことばかり考える」と。夜，１人でみどりの幼い頃のビデをを見ている理事長・・・。
　放課後の合唱に参加しているのは，まだ杉田１人。「１人で歌うのは歌いづらいですか？」と秀雄が尋ねると，「いえ。そのうち合唱できるようになりますから」と笑顔の杉田。職員室で，秀雄が教頭が病気のことを知ったことを伝える。「教頭先生，すごく気遣ってくれました」と秀雄。「ああみえて情があったりしますから」とみどり。そこへ教頭がやってくる。「理事長には言うなと言われているけど・・・理事長，熱を出して寝ているから・・それだけ」と言ってまた去っていく教頭。「行ってあげて欲しいってことですよ。行ってあげてください」と秀雄。
　病院で結婚式の話をする秀雄。「幸せ？」と金田。「はい。欲を言えば，彼女のお父さんに賛成してもらってから結婚したいんですけどね・・・どうしたら判ってもらえますかね」と秀雄。すると金田は「僕は反対されたことないから」と。秀雄は「全く人ごとだと思って」と笑う。金田は「遅くなったけど，結婚おめでとう」と祝福してくれた。「ありがとうございます。先生には心から感謝しています」と秀雄。
　家に帰ったみどり。リビングにはビデオがセットされたまま。スイッチを入れてみてみるみどり。そこへ，パジャマ姿の理事長がやってくる。「このころはお父さんと結婚するって言っていたんだぞ」と理事長。みどりは「私は，この家に生まれて幸せだった。でも，何のために生まれてきたんだろうって考えたとき，答えが見つかったことがなかった。今は違う。はじめていきる理由を見つけたの。今，中村先生と一緒に生きるために生きているの。結婚して，家族になって，彼を支えて，彼を見送るために生きているの」と話す。「そんな屁理屈聞きたくない。悲劇的状況に酔っているだけだ」と理事長。「自分自身の人生生きたい・・・それだけなの」とみどり。納得できず，苛出す理事長は，台所へ行きカップ麺を取り出す。みどりが「何か作ろうか」と言っても，その言葉を無視してカップ麺にお湯を入れる・・・。
　田中が教室に行くと，自分の机の中に楽譜を見つける。そのすぐ前で，笑っている杉田。放課後の合唱。まだ杉田１人しか歌っていない。田中は会談の下で躊躇している。歌っている最中，ふと杉田が歌うのをやめる。入り口には田中の姿が。「これで合唱になりましたね」と秀雄。田中も一緒に歌い始める。決して上手とは言えないが，一生懸命歌う田中。それを見守る３人。
　結婚式前日。秀雄の母に電話をする。「ごめんね。二人だけって勝手に決めちゃって」と秀雄。みどりに代わると，母は「本当にお世話になります。お父さんにきちんとご挨拶できずに・・・」と。「そのことは気にしないでください」とみどり。「本当にありがとう」と母は電話口で頭を下げる。次に，理事長にも電話をかける。リビングには，留守電にメッセージを入れる二人の声だけが響く。「信じてくださいとしか言えません。どうかお許しください」と秀雄。それを，リビングの隅で１人聞いている理事長。家族写真を手に取り「母さん，オレは間違ったことしているのか？」と話しかける。
　温室でのデート。これが独身最後のデートになる。「結婚してからもしましょうね」と秀雄。そこへ，老夫婦が写真を撮って欲しいと言ってくる。日付にこだわる老婦人。みどりが記念日なのかどうか尋ねると，結婚してちょうど５０年だという。老婦人も二人の様子に「新婚さん？」と。「明日結婚するんです」とみどり。老婦人は，祝福の意味を込めて「あなた達も５０年めざしてね」と言葉をかける。はっとする二人・・・。それでも「はい」と答え，去っていく老夫婦を見送る。自分たちも歩き出し，そっと手をつなぐ。「約束したいことがあります」と秀雄。
　教会で，二人だけの結婚式が行われていた。出席はしていなくても，秀雄の母も，金田も，二人のことを心の中で見守っていた。そして秋本家には・・・誰の姿もなかった。みどりが誓いの言葉に返事をする直前，教会のドアが開き，理事長が入ってきて，そっと座った。笑顔になる二人。理事長は，そのまま座って二人を見守っていた。その手には，あの指輪が・・・。誓いのキスをする二人。
　＜僕達は約束をした・・僕達は愛し合うことを約束した。僕達は５０年分愛し合うことを約束した＞


＜第７話＞

　みどりに病気のことを告げた秀雄。その次の日。みどりは体調不良を理由に学校を休む。心配する太田に「僕，病気のこと話しましたから」と秀雄は伝える。
　病院の金田の元へ，みどりが尋ねてくる。病気が治らないことを確認する。「彼は今どんな気持ちなんでしょう？」と言うみどり。金田は「中村さんの苦しみは，中村さんしか分かりません。彼の痛みを理解しようとしても無理なんです」と。自分は何ができるのかというみどりに，金田は「彼の話し相手になってください。つらいときにつらいと言える話し相手に」。
　秀雄がアパートに戻ると，みどりが待っていた。「ズル休みしました」と言うみどり。今まで通り接しようとするみどりに，「話したいことがあります」と秀雄。「みどり先生にはもっと早く話すべきでした。自分の体のこと，最初知ったときはホントに信じられませんでした。やけになったりもしました。でも今は，自分の運命を受け入れています。みどり先生と過ごした時間は，かけがえのない物になりました。ありがとうございました」と言う秀雄の言葉に「別れ話しているみたいですね」とみどり。秀雄は別れ話のつもりだった。「長く生きられないんですから」と秀雄が言うと「理由になりません。ずっと中村先生の蕎麦にいたいんです」とみどり。でも秀雄は「この先僕は体調が悪くなることでしょう。気持ちが不安定になって，自制がきかなくなることもあるでしょう。そんな僕の側にいようと思ったら，大変なエネルギーが必要です。それは自分を犠牲にすることですよ」と。みどりが否定しても「僕はそう思うんです。みどり先生のためじゃありません。僕がつらいんです。みどり先生に無理をさせているんじゃないかと思うと，僕が苦しくなるんです」。
　＜僕は願う。みどり先生が幸せになってくれることを＞

　学校で，模試の結果を渡す秀雄。その結果に愕然とする吉田。屋上では，久保がみどりに話をしている。「オレにはもうチャンスがないの？」と久保。「私には好きな人がいます」とみどり。久保が「中村先生？」と尋ねると「はい」と答え，去っていくみどり。秀雄は，模試の結果について吉田と面接をしている。吉田は「体調が悪かっただけです。次はトップに戻るし，志望校も変えません」と。面接が終わり，職員室に戻ると，久保が文部科学省の仕事をしていた。「そう言う仕事できるなんて，うらやましい」と言う秀雄に「ホントは優越感に浸っているんじゃないか？」と突っかかる久保。訳が分からない秀雄。そこへ太田が戻ってくる。入れ替わるように帰っていく秀雄。「内心は笑っているんだ」とふてくされている久保に「笑っていない！」と怒り出す太田。
　病院。金田に，みどりに病気のことを話したと報告する。「良かった。君に必要なのは，つらいときにつらいと言える相手だから」と言う金田。でも秀雄は「自分の辛さを誰かに話すつもりはない」と。自分の母親にも。週末実家に帰る予定だけれど，そこで病気のことを話せるかどうかもわからないと。
　太田は久保に秀雄の病気のことを教える。「冗談だろ。俺より若いんだよ」と久保。でも，秀雄の急激な変化を考えると，理解できる。「中村先生とみどり先生をそっとしておいて」と太田。みどりも知っていると，久保に伝える。
　秋本家。家族写真を見つめるみどり。「お母さんと結婚して良かった？」と理事長に聞くみどり。みどりの母親は，突然亡くなってしまった。「死ぬとわかっていたら，いろいろしてあげたかった」と言う理事長に，「何をしてあげたかった？」とみどり。「当たり前のこと」と理事長。作ってくれたご飯がおいしかったら，おいしいと言ってあげる等，そう言う当たり前のことを。その話を聞いて考えるみどり。
　次の日の朝。みどりは，「同僚」として夕食に誘うが，「やめておきましょう」と秀雄。理事長室では，勤務評定を持ってきた教頭に，理事長がみどりと秀雄が結婚する予定だと伝える。驚く教頭は，勤務評定を気にする。自分が思ったとおりの評定を，結婚後もして欲しいと頼む理事長。昼食時，新婚の赤井が夫婦喧嘩をして，家を出てきたことが発覚。岡田は，秀雄を合コンに誘うが，実家に帰るからと断られる。そんな中，久保が秀雄に近づき「帰りに話せるかな」と。
　久保と秀雄が喫茶店で話をしている。「麗子先生から聞いたそうですね」と秀雄が言うと，久保は「何でも言ってくれ。男じゃないとダメなこともあるだろうから」と。秀雄は「今までと同じように接してください」とお願いする。「もし自分が中村先生だったとしたらと，いろいろ考えた」と言う久保に「彼女がいる場合どうします？」と聞いてみる秀雄。久保は「彼女と別れる。彼女のために」と。秀雄は「僕も同じです。実際別れましたから」と笑顔で伝える。久保が「でもみどり先生は・・」と言っても「別れましたから」と笑顔で・・。
　そのころ，みどりは太田と一緒に帰っていた。みどりは，初めて太田が秀雄の病気を知っていたことを知る。「ふられちゃいました。ずっとそばにいたいって言ったんですけど」とみどり。理事長は，秀雄とみどりが結婚すると思いこみ，それを喜んでいるが，まだ病気のことを知らない・・・。
　家に帰った秀雄は，週末帰ると母に電話をする。週末，実家に向かう秀雄。幼い頃，歌を歌っていた教会へ入っていくと，そこにみどりの姿が。「どうして？」と不思議がる秀雄に「つい」と答えるみどり。２人で，あちこち歩く。みどりは楽しそうだが，秀雄は複雑。もう帰るというみどりに「僕の気持ちを揺さぶるようなことはやめてください。できるだけ，心穏やかに過ごしたいんです」と。みどりは「前に言っていたじゃないですか。将来のことを考えすぎて，今を見失っちゃいけないって。今日という日は，１年後１０年後のためにあるんじゃないんです。今日は今日のために過ごしたいんです。中村先生と」。「それは無理です。これで終わりにしてください」とお願いする秀雄。そこへ偶然通りかかる秀雄の母親。母親は，みどりを秀雄の婚約者だと思い，紹介するために戻ってきたと勘違いする。実家に戻り，すき焼きを囲む３人。母が席を立ったときに，どうしたらいいかみどりが尋ねると「とりあえずこのままでいてください」とお願いする秀雄。
　そのころ，久保は，岡田の合コンで盛り上がっていた。女性達は，みんな久保の話しか聞かない状態。赤井が騒ぎを起こしている間に，抜け出した久保は，太田を呼び出す。２人で飲みながら，久保は「オレって，人生なめていると思う？・・・ずっと人生なめていたんだよ。仕事も恋愛も，いつも思う通りになってきたし・・・中村先生のこときいて，みどり先生が自分の物になるんじゃないかって思った・・最低だ」と告白する。「今まで一番格好良く見える」と太田。
　実家で，母にわからないように薬を飲む秀雄。１人お風呂に入りながら「言わなきゃなぁ・・」とつぶやく。そのころ，母とみどりは，布団の用意をしていた。母が，みどりはどこで寝るのがいいのか相談すると「お母さんと中村先生が一緒に寝ればいいんですよ」と提案。そんなみどりに，母は，父親から初めてもらったネックレスをみどりに渡そうとする。「そんな大事な物いただけません」と言うみどりに「大事な物だからあげたいんだけど」と母。夜中，眠れない秀雄が起き出すと，母も起きてきた。母の肩をもみながら「話したいことがあるんだ」と。母は「結婚のこと？」。「父さんと結婚して良かった？」と母に尋ねる秀雄。「疲れる人だったから・・」と母。父は，いつも威張っていて，でも気が小さくて，自分中心で，母を振り回すような人だった。「僕は迷惑をかけないから・・甘えたり，わがままを言わないよ」と秀雄。次の日，実家をでる前，母は秀雄に「電車代」と封筒を指しだし，みどりにはお土産を手渡した。「秀雄のことよろしくお願いします」と見送る母。帰り道。秀雄の手を取り，手をつなぐみどり「少しだけですから。少しだけこのままでいてください」と。
　夜，病院へ行く途中，金田と出会う秀雄。金田にお土産を渡しに行ったのだった。いつものように診察室で話をする２人。みどりを婚約者と間違えられ，結局病気のことを話せなかったという秀雄の話を，笑って聞いている金田。「先生は時々ふざけたこと言いますよね」と秀雄。そして「参っちゃいました。結婚すると思って，すごく喜んでいたから」と秀雄が言うと，「しちゃえば。結婚」と軽く言う金田。すると急に態度を変え「すいませんでした」と帰ろうとする秀雄。そんな秀雄に金田は「こういう言葉知っている？『たとえ明日世界が滅亡しようとも今日私は林檎の木を植える』」。じっと金田の顔を見て考える秀雄。
　秀雄が家に帰ると，アパートの前には久保が待っていた。もし秀雄の立場だったら彼女と別れると言ったのは「ただのカッコつけ。やっぱり別れない。別れたくない・・・それだけを言いたくて」と。
　秋本家。みどりが母からもらったお土産を見ていると，新聞紙に包まれたネックレスを見つけた。考え込むみどり・・。理事長は，まだ秀雄の病気のことを知らず，秀雄との食事会を楽しみにしており，その話ばかりしている。ただ，みどりは全然話を聞いていない。その様子を不思議がる理事長。
　一方，秀雄は，母から手渡された封筒を開けてみる。中には現金の他に１枚のメモが。「誰かに甘えられたり，頼られたりすることで，幸せになれることもあるんだからね」。秀雄もみどりも考えた夜・・・。
　公園の広場。秀雄とみどり。秀雄は「帰り道のこと覚えていますか？みどり先生は，僕の手を握ってくれました。正直言ってあのとき心がすごく安らぎました。僕は，自分の運命を受け入れたと言いましたけど・・やっぱり怖いです。急にたまらなく怖くなったりします。これから先，もっとつらくなったり，もっと苦しくなったりするかも知れません。みどり先生，ずっと僕の側にいてくれませんか？・・・僕と結婚してください」とプロポーズをする。「はい」とみどり。
　家に帰り，みどりに母親のネックレスをつけてあげる秀雄。「母さんに報告しなくちゃ」と電話をかける。みどりにプロポーズしたことを報告する秀雄。そして「母さん，ごめんね・・・」。次の言葉が出ない秀雄を見て，そっと手を握るみどり。その手に支えられて，秀雄は母に伝える。「父さんにあったら伝えておくよ。父さんは，母さんに甘えてばかりで，わがままだったけど，母さんはすごく幸せだったって・・・僕，母さんより，早く父さんに会うことになりそうだから・・・母さん，実は僕・・・」。受話器を握りしめ，呆然とする母・・・。必死で話す秀雄の手を取り，そっと見守るみどり。
　＜僕達は誓った。２人で幸せになることを。たとえ明日，世界が滅亡しようとも，今日，僕達は幸せに生きることを＞


＜第６話＞

　１人学校に戻る秀雄。給湯室で，自分の薬を見つけ，ほっとする。職員室に明かりがついていたので，覗いてみると，太田が１人残っていた。なぜか太田の表情は険しい。
　家に戻ったみどりは，母親の写真に，久保と結婚することはないと報告し，母親の希望通りにならないことを謝る。すると，後ろに理事長の姿が。理事長は，同じように写真に向かって「みどりにうそを付いていた」と告白。久保との結婚は，母親ではなく理事長の希望だった。みどりは，久保とおつき合いしないことを理事長に報告。「みどりがこの人だと信じた人を信じるから」と理事長。
　秀雄とみどりは，楽しそうにデートを重ねた。２人仲良く焼き芋を食べたり，ポップコーンを食べながら映画を見たり，遊園地で遊んだり，お好み焼き屋やカラオケにも。授業は，生徒は相変わらずだったが，秀雄は１人で晴れやかな表情。授業が終わって，廊下で太田を見つけると，「相談したいことがあります」と話しかける。「麗子先生なら，もうお気づきだと思いますが・・」と秀雄が言うと，一瞬ビックリする太田。僕がみどり先生のこと好きってこと」と幸せそうな顔をして秀雄は続ける。屋上へ移動し，「これってデートですよね？彼氏でいいんですよね」と太田に確認する秀雄。あまりの展開に，信じられないと言う。「全く予想付かないことがあると実感が湧かないですね。いいことも悪いことも」と秀雄。「悪い事って？」と尋ねる太田。答えにつまる秀雄。「私，口が堅いから，どんなことでも相談して」と太田。
　秋本家。理事長が電球の在処を尋ねるが，全く耳を貸さないみどり。一生懸命洗い物をしている。やっと気づき，その場所を教えながら「私がこの家でたらどうするの？」とみどり。「結婚するのか？」と心配になる理事長。
　病院で，診察を受ける秀雄。今の薬が効いているので，同じ薬を続けるという。秀雄の様子に「なにかいいことあった？教えて」と金田。秀雄は「もったいないことで，言えません」と。金田があっさり「あっそ」と言うと，自分から「彼女できました」と秀雄が報告。すると金田は「秋本さん？」と当てる。秀雄の表情が気になる金田が尋ねると，秀雄は「皮肉だなぁって思って・・・病気にならなかったら，ただの同僚のままだったでしょうから」と。みどりと約束のある秀雄は，急いで帰ろうとする。ただ，まだみどりには病気のことを伝えていない。「幸せそう」と見送る看護士に同意する金田だったが，何かが気になる様子。
　秀雄の家。みどりがおにぎりやおかずを並べている。味噌汁も作ってくるが「お椀がない」と言う秀雄。するとみどりは，箱を開けお揃いのお碗を買ってきたと言う。苦笑いする秀雄。秀雄の夢は，彼女がペアのマグカップを買ってくることだった。「お碗かぁ」と笑う秀雄。幸せそうな２人・・。
　＜神様お願いです。１分でもいいから時間を止めてください＞

　朝，一緒のベッドで目を覚ます２人・・・。秋本家。理事長が目を覚ますと，朝食を用意しているみどりの姿が。「いつ帰ったの？」と理事長が尋ねると「１５分ぐらい前」とみどり。「朝食は食べてこなかったんだ」と理事長が尋ねると「コーヒーだけ」と答えるみどり。そのころ，秀雄は薬を飲みながら，お椀を見つめていた。そして，ビデオ日記「神様。黙っている僕は，ずるいですか？これぐらい許してもらえますよね」。ビデオを切り「話さなくちゃいけないよな」とつぶやく。
　職員室で，いつものようにお弁当を食べている先生達。急に秀雄がむせると，異常反応をする太田。みんなはちょっと不思議がる。太田は，秀雄を呼び出す。「中村先生。病院通ってるわよね。薬の袋見ちゃったから」と切り出す。秀雄は「胃腸薬です」と答える。太田は「叔母が飲んでいたのと一緒だった。叔母は，本当に胃腸薬だと思って飲んでいたけど・・中村先生は違うわよね？私の目はごまかせないの」と。「お願いします。黙っていてください」と秀雄。太田は「仕事を続けて体は大丈夫なの？」と心配する。「しばらくは，薬を飲みながら仕事を続けていいと言われています」と秀雄。手術については「もう無理でした・・・あともって１０ヶ月ぐらいです」と事実を告げる秀雄。太田は「私の叔母は，医者に言われたよりもずっと長く生きたから。私にできることはすぐ言うのよ。体つらいときも」と優しく言ってくれた。別れ際「みどり先生は知っているの？」と太田。秀雄が「知りません。でも，話さなくちゃいけませんよね」と言うと，「私がみどり先生だったら，話して欲しいと思う」と太田。
　スーパーで楽しそうに買い物をするみどり。一緒にいる秀雄は厳しい表情で，カートを押している。そして意を決して「大切なお話があります」と言い出す秀雄。ここでは話せないことだと・・。そのころ，久保と太田が２人で飲んでいた。久保は，みどりと秀雄の仲が気になっている。「ホントは焦っているよ」と言う久保に「結婚はないかも」と言う太田。
　秀雄の家。鍋を食べながらも，険しい表情のままの秀雄。正座をして「お話があります」と切り出す。でも，その先を言い出せないまま迷っていると・・・「私も同じ気持ちです。私と結婚してください」とみどり。みどりは，秀雄の「大切な話」をプロポーズのことだと勘違いしていた。みどりの夢は，自分からプロポーズをいうことだった。困っている秀雄。理由がわからないみどりは「プロポーズの言葉，言いたかったですか？」と。結局，何も言えなかった秀雄。
　次の日の学校。赤坂が額に傷を作って登校してきた。そのころ，秀雄は太田と２人きりで職員室に。プロポーズされたことを太田に伝える。「冗談みたいな話ですよね。だって僕ですよ。普通あり得ないですよね。みどり先生，何考えているのかな」と秀雄。そして「話すの怖いんです。どう思います？もし結婚しようと思った相手が僕みたいだったら」と相談する。「そんなこと聞かないで。ただの仕事仲間ってことでも・・・」と泣きながら出ていく太田。
　理事長室。教頭が，勤務評定を提出している。秀雄の評価が難しいという。理事長が「この評価が，あなたの評価になります」と言うと，再度見直したいと戻っていく教頭。そこへ，久保が入ってくる。理事長は「みどりに好きな人ができた。君に失礼なことをしたと反省している」と謝る。久保が「中村先生との仲を認めていらっしゃるんですか？」と尋ねると，「娘が選んだ人ですから」と理事長。
　体育館で，赤井・岡田・久保がバスケをしている。なぜか１人燃えている久保。「久保先生，何かあったんですかね」と不思議がる岡田。
　
　職員室では，みどりと秀雄２人がそろっていた。そこへ，赤坂が，みどりの家に泊めて欲しいとやってきた。家庭で何かあったらしい。みどりは，自宅へ連れて帰る。豪邸の前でひるむ赤坂。家の中に入っても，驚くばかり。「やっぱり中村先生の所行きます」と言い出す赤坂。さすがにそれは認められない。悩みを聞こうとしても，赤坂は「みどり先生に話してもしょうがないですから。みどり先生に話したくない」と。
　秀雄の家。ビデオ日記「みどり先生と一緒なので，赤坂さんは大丈夫だと思う。それと・・明日こそ絶対話そう。病気のこと・・・あと生きられるのは１０ヶ月ぐらいだと言うこと・・・結婚はできないことを」と決心した表情で。カメラのスイッチを「切」にしておく。
　次の日。話をしたくないと言われたみどりの表情は冴えない。赤坂と面談をする秀雄。今日は自宅に戻るという赤坂に「家に帰って，傷が増えると言うことはないんですね？」と確認する。赤坂の傷は，両親の喧嘩を止めに入ってできた物だという。実は，父親の会社の経営がとても危険な状況だった。今日ぐらいに結果が出る。「大学，行けないかも知れない。世の中不公平ですよ。お金に困ることない人もいるじゃないですか。あんな豪邸，見たことないし，キレイだし。みどり先生は，悩みなんてないですよ。何もかも恵まれている人に，私の気持ちわかるわけありません！」と赤坂。その話を聞いていたみどり。
　秀雄の家。今度は，秀雄が１人明るくしようとしている。みどりに力うどんを作ってあげて。「赤坂さんの言うとおりですよね。私はずっと恵まれて育ってきましたから，大した悩みなんてないし・・」とみどり。秀雄は「そんなのウソですよ。悩みのない人なんているはずないですから」とみどりを元気づけようとする。みどりは「今まで深く悩んだことなかったです。温室でぬくぬくと育ってきたようなもんなんですよね。でも，つらいことが一つだけありました。母を亡くした時です。できることなら，もう二度と大切な人を失いたくありません」と。この言葉を聞いた秀雄は「コンビニに行っていきます」と出ていってしまう。外に出た秀雄は，みどりの「もう二度と大切な人を失いたくない」と言う言葉を考えていた。１人家に残ったみどりは，ビデオカメラの存在に気づく。近づいていき，カメラのスイッチに手が・・・。
　秋本家。みどりが一心にアイロンがけをしている。理事長は，みどりが帰ってきたことに気づいた。理事長が話しかけても，顔も見ずに返事をするみどり。
　学校では，赤坂が明るい顔で，父親の会社が持ち直したことを報告しに来た。「みどり先生に謝りたいです・・・神様っているんですね」と赤坂。職員室に戻り，みどりに赤坂のことを伝える秀雄。赤坂が待つ教室に向かう途中，久保と出会うみどり。久保は「まだあきらめていないから・・・食事誘いたいんだけど。ダメなら待つ・・何ヶ月でも，１年でも」。この最後の言葉にはっとするみどり・・・。
　病院。秀雄は「もっと早く言うべきでした。恋なんてするべきじゃなかったのかもしれません。先生。彼女が僕の病気を知ったらどうなるんでしょう」と相談する。そんな秀雄に，金田は「君は，病気のことを知ってどう変わった？君の人生どう動き出した？」と逆に質問する。
　秀雄の家。みどりは，旅行のパンフレットを見ている。新婚旅行の相談を秀雄にしている。秀雄が真剣に話をしようとすると，他の話をしてハナさせないようにするみどり。でも秀雄は「話を聞いてください」と。やっと病気のことを切り出す秀雄。
　「僕は１月の健康診断で，ひっかかって再検査の結果，病気が見つかりました。病名は，胃ガンです。僕の場合，かなり進行していて，肝臓にも転移していました。手術は無理で，抗ガン剤で治療をしていますが，今の医学では・・完治する見込みはありません。現在，もって１０ヶ月の命です。黙っていてすいませんでした」。
　最初は秀雄の顔を見ていたみどりも，途中から顔が見られない。そして「知っていました」と秀雄の顔を見ずに，さり気なく答えるみどりは「それで新婚旅行は・・」と話をそらそうとする。秀雄が「だから僕は後少しの命なんです」「みどり先生，僕を見てください」「いい加減にしてください」といくら言っても，みどりは・・・。ついに「結婚はできません」と言う秀雄。飛び出すみどり。秀雄が変わってからの言葉を思い出す・・・道端で号泣・・。一人残された秀雄は，ビデオカメラのスイッチが「再生」に動いていることに気づく。悲しげな顔をしながら，スイッチを切る秀雄・・・。
＜神様，お願いです。僕の運命を変えてください・・・・だめですか？＞


＜第５話＞

　ベッドに寝ている秀雄。ここ数日のことを思い出している・・・

　職員室。秀雄以外の先生達が，秀雄が本当に教師を辞めるのかどうか話していた。「理想通りには行かない・・大人になればいい」と言う太田。久保は「学校側はどう判断するのか」と。そこへ秀雄が出勤してくる。「やっぱり続けたいんです」と。教頭は，授業と生徒指導は控えるように確認する。秀雄の代わりに，みどりが教室へ。秀雄がしばらく担任ではなくなることを説明する。うつむく田岡。職員室に１人残る秀雄は，電話をとることも許されない。ボーっと座っている秀雄に，「何考えているの？」と太田が話しかける。太田は耳打ちし「あたり？」と。ビックリする秀雄。「私の目はごまかせないのよ」と太田。「参ったなぁ」と笑顔になる秀雄。
　土手を久保とみどりが歩いている。みどりは「久保先生と結婚を前提にしたおつき合いはできません」と言う。理由は「久保先生との結婚生活ってイメージできないんです」。久保は「とりあえず距離を置こう・・好きな人でもできた？」と。これには答えずに行ってしまうみどり。みどりは，家で理事長と食事をしているときに，珍しく仕事の話をする。「田岡君の話はウソだと思う」と秀雄の書いた手紙を差し出す。理事長は「中村先生の処分について，みどりと話すことは何もない」と。

　ビデオ日記。「２月１９日。田岡君の件の処分が出るのを待っている。こんな状況だけれど，とんでもないというか，脳天気な空想をしてしまった。しかも麗子先生にばれてしまった。その空想というのは・・・やっぱりやめておこう」と照れながらスイッチを切る。
　＜僕は，みどり先生とのキスを空想してしまったのだ＞

　職員室に電話が殺到していた。全て，黒木愛華の連絡先を教えて欲しいという内容だった。不思議がる先生達に，岡田が「これじゃないかなと」とアイドル雑誌を見せる。そこには，黒木の写真が。学校名と実名も載っている。教室でも，自慢げに話す黒木の姿が。そこへみどりが黒木を呼びに来る。職員室で話を聞くと「雑誌に出たかったんです」とあっけらかんとした黒木。みどりから，名前や学校名を出さないように注意を受ける。
　一方，みどりが杉田の進路指導をするが，いまだに志望校が決まらないと言う。何を聞いてもきちんと答えない杉田。
　みどりは職員室に戻ると，秀雄に杉田のことを相談する。秀雄は「杉田さんだけは生物の授業を来てくれるんですよね。だから大学うけるつもりがないんじゃないかと思うんです。他に何かやりたいことがあるのかも」と答える。

　秀雄は，母から届いた宅配便の荷物を開けていた。そして母へ電話をする。宅配便のお礼だけで，「元気だよ」と病気のことは結局言えなかった。電話を切った後，急に苦しみ出す秀雄・・・。
　みどりは，杉田に何かやりたいことがあるんじゃないかと聞いてみる。秀雄の言うとおりだった。でもそれが何かは言わない。「反対されるのわかっているから」と杉田。それをみどりは秀雄に報告する。「夢を軽く口にしたくない気持ち，なんとなくわかりますけどね」と秀雄。みどりの夢は，ピアニストだった。秀雄は・・・「笑っちゃうようなことですから・・みどり先生，絶対に笑うんだろうなぁ」と。そして「歌手です。テノール歌手です」とあかす。「ちょっと笑います・・ウソです。すごく笑えます」とみどり。何を歌っていたのか聞かれ「乾杯の歌とか」と秀雄が答えると，階段を上って秀雄をピアノの前に連れていく。そして「乾杯の歌」を弾き出す。「歌ってください」とみどり，最初は嫌がっていた秀雄だったが，一緒に楽しそうに歌い出す。この楽しそうな２人の姿を，久保は見かけてしまう。ショックを受ける久保。
　理事長室で，理事長と教頭が田岡親子と話をしている。「中村先生を厳しく処分してくれますよね」と念を押す母親。理事長は，母親ではなく田岡本人に話しかけるが，答えるのは母親ばかり。理事長は「痛むのは足だけですか？他に痛むところはありませんか？」。他は大丈夫だという田岡に「本当ですか？一般的には胸が痛むもんですよ。うそをついたときには」と理事長。田岡は一瞬考えながらも「すいません。ウソです」と事実をあかす。今度は困った母親が「暴言に対する処分は!?」と言い出す。すると理事長は手紙を差し出し「これを２人で読んでください。中村先生がなぜそう言ったのかわかると思います。中村先生の指導が行きすぎたとは思っていません」。
　１人手紙を読む田岡。
　『僕は医者になりたいという君に，お願いしたいことがあります。僕は君に病気しか診ない医者にはなって欲しくありません。患者の中には命に関わる問題を抱えた人もいるでしょう。たった１人で病気と向き合っている人もいるでしょう。怖くて怖くてしょうがない人もいるでしょう。つまり，病気の痛みだけではなく，心の痛みもわかってあげられる医者になって欲しいんです。今の君は，命の尊さをわかっているとは思えません。まずは君自身の命のことを，たった１つしかない君の命のことを考えてみてください。僕は君は必ずわかってくれると信じていますから』
　理事長室に呼ばれた秀雄。理事長からは「明日から元通り指導に当たってください」と告げられる。今回のことについては，処分はなし。理事長は，手紙を拾った人から届けられ，自分で読んだだけでなく，ちゃんと田岡に渡したことを伝える。教頭が職員室で，処分なしと言う報告をする。みんなは喜ぶ。みどりの喜ぶ姿を見て複雑な久保・・・。
　病院で検査を受ける秀雄。金田に「先生の予言，当たりましたよ。僕に味方ができたんです」とうれしそうに報告する。そして「この先の予言も当たるんですかね。最初に味方になってくれた人は障害を通じて味方になってくれる人だって」と秀雄が言うと，「あれウソ」と。金田は「その人に病気のこと打ち明けることはできないの？」と言うと否定する秀雄。「その人だけには同情されたくないんです」と秀雄。秀雄が診察室から出てくると，偶然，みどりが友人のお見舞いにやってくる。でも，偶然，ついたてが通り，お互い気づかない。そしてみどりは廊下で金田と出会う。みどりが「中村先生の特別な人と思ったそうですが理由は？」と尋ねると「どうしてかわからないけど」と金田。みどりと別れた後，看護士が「今の誰でしたっけ？」と言うと「彼の運命の人」と微笑む金田。
　みどりは家に戻ると，理事長にお礼を言う。理事長は「お前に言われたからじゃない」と言う。

　学校で，薬を飲み忘れたことを思いだした秀雄。周りを気にしながら，給湯室で薬を飲む。そこへ田岡と萌がやってくる。慌てて薬を隠し，話をする秀雄。２人は手紙を読んで謝りに来たのだった。２人が去った後，今度はみどりが呼びに来る。黒木が学校を辞めると言い出した。薬をそのままにして行く秀雄。
　黒木は職員室で先生達と話をする。黒木は，雑誌に載ったことで，プロダクションから声がかかり，タレントになると言い出した。そのために学校も辞めてしまうと。先生達の説得も聞かない。教頭は「やめさせない」と。先生達も反対する人が多い。「中村先生は？」とみどり。秀雄は授業前に進路の話をする。みどりも一緒に聞く。「中には自分の夢を追いかけたいと思っている人もいるでしょう。夢には勉強すれば必ず叶うものとそうでないものがあります。努力だけでなく才能や運も必要とされるものです。そう言った夢をつかめるのは，ほんの一握りの人だけです。夢が叶わなかったときのことを考えてみてください。夢のために費やした時間は無駄になってしまうんです。どうなるかわからない夢を追いかけるのはどうかと思います。夢が叶わなかった時に後悔するのは君たち自身ですから」と話し，授業を始める。授業が終わると，黒木がやってきて，退学は取りやめるという。あまりにもあっさりしていた。みどりは，秀雄の言葉が引っかかっていた。そこへ杉田が険しい顔をしてやってきた。
　秀雄とみどりは，杉田と屋上に行き話を聞く。「私は自分の夢をあきらめるつもりはないから！」と力強く言う杉田。話をしてみると，杉田の夢は「歌手」だった。秀雄は夢の実現はどれだけ大変か，繰り返し話す。それでもあきらめないと言う強い意志を持つ杉田「何とかなるなんて思っていません。自分お手で何とかします。なれなかったときのことは考えていません。たとえ，なれなかったとしても，やれるだけのことをやったら後悔しません」と。秀雄はふと笑顔になり「それだけの気持ちがあれば，あなたは夢を追うべきです。誰かに反対されて決心が鈍るようならやめた方がいいと思います」と。杉田は小学生の頃から歌手になるのが夢だったという。「聴いている人を吸い込んじゃうような歌」を歌いたいという杉田。それが理解できる秀雄。秀雄は「絶対に歌手になってください。僕のためにも・・・応援しています」と。杉田は戻っていく。「杉田さんが生物の授業を聞いていたのは，中村先生に感じる物があったんじゃないですか」とみどり。
　職員室に戻り，黒木の件と杉田の決意を報告する。杉田を説得する気は無いという秀雄「夢がかなうかどうかじゃなくて，後悔するかしないかの方が大切なことのような気がするんです」。「きれい事なんじゃない？夢は叶わなくちゃ意味がない」と久保。それに対して秀雄は「そうですね。そうかもしれません。どういう進路指導が正しいのかわかりません。教師が進路指導をしていいものかもわかりません」と。久保は「生徒の将来を考えてるって言えるのかな」とくってかかる。秀雄は「将来を考えるからわからなくなるんです」と，『友人』の話をする。その友人は，将来のことばかり考えていて，人生８０年のつもりで生きていた。『彼』は将来のことを考えてとても堅実な道を歩いてきた。買いたい物も買わず，海外旅行も行かず，健康を考えて好きな食べ物も控え・・・でも，『彼』は突然あと１年しかいきられないことを知った。「将来のことを考えるのはとても大切なことです。でも将来を考えすぎて，今を見失ってはいけないのではないでしょうか」。
　みどりと帰りながら「僕，偉そうなこと言っちゃいましたかね」と秀雄。みどりは，秀雄が話した『友人』がどうしているのか尋ねる。「前向きに生きていますよ」と秀雄。そして，みどりに田岡の件のお礼を言い，お礼として食事に誘う。ＯＫするみどり。そのころ職員室では，太田が「変だった，中村先生向きになっちゃって」と，久保に話しかける。久保はそれほど気にはしていない様子。久保は太田を食事に誘うが，仕事があるからと言われ１人帰る。
　秀雄とみどりが食事を終え，歩きながら話していると「中村先生のこと好きですよ・・でも誤解しないでくださいね」とみどり。秀雄は「わかっていますよ。同僚としてって意味ですよね」と。すると「やっぱり誤解している。こういう意味です・・」といきなりキスをするみどり。呆然とする秀雄に「今度の日曜日映画にでも行きませんか？」とみどり。呆然としたまま「はい・・」と答える秀雄。２人を祝福するかのように花火が・・・。きれいな満月も浮かんでいる。
　＜僕はわからない。どうしてこんな事になったのか。全く理由が思いつかない。思いつくことと言ったら，満月の夜に何かが怒るというのはホントらしいと言うことだ＞
　１人学校に残っていた太田が，給湯室に行き，そこで秀雄の薬を発見する。薬のラベルを見て「この薬・・」と驚く太田。


＜第４話＞

　みどりに告白をした秀雄。「振られたも同然なんですが，ちゃんと気持ちを伝えていなかったので。それって何も始まってないんじゃないかなって」。それに対して，みどりは「中村先生の気持ちに答えることはできません」と。それでも「みどり先生の気持ちが聞けて良かったです。これできちんと終われます」と晴れ晴れとした表情の秀雄。立ち去ろうとする秀雄に「先生，変わりましたね」とみどり。

　次の日の朝。ビデオ日記。「恋を始めることができた。一瞬にして終わってしまったけど。たぶん，これが，僕にとって最後の恋になるような気がする。でも，自分の気持ちを伝えることができて，ホントに良かったと思う」と晴れ晴れした表情。
　授業では，他の生徒は相変わらず他の教科を勉強し始める。唯一授業を受けている杉田と目が合い，確認するように授業を始める。今までと違い，張り切って。
　放課後，久保と岡田が，野球をしている。岡田がみどりとの仲を尋ねると「ただの同僚」と久保。そこへ田岡が「お願いがあるんです」とやってくる。職員室でその内容が，教頭を中心に関係職員に伝えられる。田岡は，同級生の恋人・近藤萌に妊娠をうち明けられたと言う。両親には絶対知られたくない田岡は，久保に，子どもを生まないよう萌を説得してくれるように頼みに来たのだった。副担任のみどりが，萌と明日話し合うことになった。「明日」と聞いて「今日話しましょうよ」と言い出す秀雄。しかし，すでに生徒は下校してしまった後。それを言われて，やっと気づく秀雄。
　病院での診察。「昔は，今日できなかったことは，明日やればいいって思っていましたが，今はそう言うわけにもいきませんし・・病気を知ってからの１ヶ月はあっと言うまでした」。金田医師によると，薬が効果的に効いているらしい。「体きくうちにいろいろやっとかないと」と秀雄。金田が「職場で病気のこと理解してくれている人いるの？」と尋ねると，まだ誰にも伝えていないと秀雄。母親にも。「どうしても話せなくて。保険金の受取人が母なんです。保険金を母親に受け取らせるなんて，最大の親不孝ですよね」と秀雄。金田は「誰か病気を理解してくれる人がそばにいるといいんだけど」。
　＜１人で残りの人生を歩んでいくことになる。それが僕の運命だから＞

　体育館で，みどりは萌と話をする。「ほっといてください」と言う萌。親にも絶対に言わないで欲しいと。職員室では，田岡が先生達と話をしていた。田岡は「どうして説得してくれないんですか！僕の将来はどうなってもいいんですか」と自分のことしか心配していない。しかも，お金を払えば簡単に中絶させられると思っている。そんな田岡の態度に「人の命をなんだとおもっているんですか！」と激怒し，胸ぐらをつかむ秀雄。そこへみどりと萌がやってきた。実は，妊娠話は，田岡の気持ちを確かめたかったが為の萌の狂言だった。
　その日の夜。居酒屋でいつものメンバーが飲んでいた。そこに秀雄の姿はなかった。職員室で胸ぐらをつかんだ秀雄が話題に。みどり達が入ってこなかったら，殴っていたんじゃないかという意見と，秀雄はそんなことできないと言う意見と・・・。みどりが「最近，中村先生変わりましたよね。自分にうそをつかないで，一生懸命というか・・」と。しかし「人間そんな簡単に変われるものじゃない」と久保。そのころ秀雄は，１人職員室に残って，調べ物をしていた。
　次の日。先生方に資料を渡しながら性教育の必要性を説く秀雄。いくら必死になっても，誰も同調してくれない。教頭は「無理だね」と。保護者の反対を懸念している。性教育よりも受験勉強の方が大事と。秀雄はどうしても納得行かない。「命に関わることですよね」。でも受け入れてもらえなかった。資料は，夕べ残って調べた物だった。
　教室で，模試の結果を渡す秀雄。田岡は，何事もなかったかのように模試の結果に喜んでいる。その様子を複雑な思いで見ている秀雄。廊下であった教頭に再度訴えてみるが，教頭には「成績を上げるのが大事。時間がないんだから」と念を押される。「時間がないから言っているんです」と強い口調の秀雄。そこへ，みどりと久保が帰ろうと通りかかる。みどりは，秀雄のことが気になり振り返る・・・。秀雄が職員室に戻ると，太田が「熱くなっちゃって・・・失恋でもした？仕事に八つ当たりしちゃダメ。元気出してね」とアドバイスしてくれた。
　久保とみどりは食事をしていた。その最中，お互いの呼び方についての話題が。でも久保は「結婚したら，ねぇで十分だし。子どもができたら，パパママだから，関係ないか」と言い出す。みどりが家に帰ると，理事長がワインを勧める。一緒に飲みながら，この前の結婚パーティーの話に。「みどりと同じ事言っている人がいたね」と理事長。みどりは「誰でも考えること」と言うが，ふと考えてしまう・・・。
　秀雄は，家で，母親に電話する内容をメモし，練習している。でも向かったのは電話ではなく，ビデオ。ビデオ日記「２月１３日　母さんに言わなきゃいけないことはなかなか言えない。生徒達に言いたいことは言わせてもらえない。時間だけが過ぎていく・・・」。
　教室では，萌が田岡の態度に「別れたから宣言」をみんなにしてしまう。からかわれた田岡は，その相手と小競り合いに・・。昼休み。赤井・岡田・久保がお弁当を外で食べている。田岡が「熱くなっている中村先生についていけない」と言い出す。
　放課後，秀雄は，田岡との進路相談をしていた。進路の話の前に「もう２度と妊娠のおそれのあるようなことをしないですよね」と確認をとる。しかし田岡は「別れたから」とまじめに話を聞かず「やっぱり医学部目指すことにした」と。給料を気にしていたが，開業医の娘と結婚するという手もあると。そんな田岡に「命を預かる仕事です。もう君に医者を薦めようと思っていません。医者になるしかくなんてありません」と言い切る秀雄。話にならないと飛び出す田岡。話が途中だと引き留める秀雄。その言い争いで，階段で足をすべらせて落ちてしまう田岡。教頭と一緒に病院へ。田岡はＰＴＡ会長の母親と診察室から出てきた。田岡のケガは，足首の骨にヒビが入っているという。田岡は母親に，秀雄が突き落としたと言ってしまっていた。
　これが大問題となり，職員室で会議。理由がどうであれ，ケガをしてしまったこと・医者失格と言ってしまったことは事実なので，とりあえず，２年Ｇ組はみどりが担任に。はっきりするまでは，秀雄は自宅謹慎と言うことになった。その日，夜遅くまで残る秀雄。手紙を書いている様子。偶然，携帯を忘れたみどりが戻ってくる。秀雄は，田岡に伝えたいことを手紙に書いていた。２人で帰りながら，「１度拒絶されたら，わかってもらえないですよね」と言う秀雄に，みどりは，秀雄に改めて告白されて「びっくりしました・・・でも，あのときの気持ちちゃんとわかったと思います」と。そしてみどりは「何をそんなに焦っているんですか？時間に追われているみたい」と。秀雄は「明日があると思って生きるのをやめたんです」と。「死に直面したから？」と言い出すみどり。一瞬，驚く秀雄だったが，「崖から落ちたから・・あのときから変わりましたよね」とみどり。「そうです」と秀雄。
　秀雄の家。電話が鳴る。風呂上がりの秀雄は，電話に間に合わず，留守電に録音され始める。電話をしてきたのは，母親だった。景品でもらった電気ストーブが必要だったら，連絡をしてと言う内容。母の声に，どうしても受話器をはずして出ることができなかった秀雄。母親は，最後に秀雄の健康を気にしていた・・・。
　病院。今回のことを相談する秀雄。「組織にいるといろいろあるよね」と金田。「ホント無力ですよ」と言う秀雄に，金田は「君が信念を貫いていれば，きっと君に味方してくれる人が現れるよ」と。そしてふと思いついたように「その人は，ある日突然やってくる。一番最初に現れたその人を，絶対のがしちゃダメだ。その人は障害を通じて君の味方になってくれる」とアドバイス。でも「誰も味方になんかしてくれませんよ」と秀雄。
　自宅謹慎なので，出勤する必要がない。「洗濯でもしよう」と洗濯機を動かし，「電話でもしよう」とメモをもって電話へ。母親に電話するが，話し中。「話し中で良かった」。その時，電話のベルが鳴った。一瞬驚くが，相手は教頭だった。田岡の母親に謝罪する日程が決まったとの連絡。次の日の放課後。田岡の母への謝罪に，秀雄・教頭・みどり・久保が参加。田岡の母に会う前に，教頭は秀雄に謝罪内容を確認する。ケガをさせたこと・医者失格と言ったことが謝罪の対象だった。まずは教頭が田岡の母に謝罪。担任はみどりに変更し，進路指導は久保が担当することを伝える。秀雄は「不注意により，大けがさせてしまったことをお詫びいたします。また・・・」と医者失格について謝罪しようとするが，どうしても納得行かない。とうとう母親に妊娠騒動の話をしてしまう。「問題なのは・・彼は妊娠を望まないにも関わらず，妊娠を避ける手段を知っていたのにも関わらず，，それをしなかったんです。僕が言いたいのはですね・・」と言いかけて，教頭に止められる。母親は，妊娠騒動を納得せず，逆に怒りだしてしまう。教頭に退席を命じられる秀雄。最後に意を決して，田岡宛の手紙を母親に差し出すが，手で払われてしまう・・・。それを仕方なく拾って出ていく秀雄。平謝りの教頭。母親は「中村先生こそ，教師失格です」と言って出ていってしまう。しかし，最後にみどりは「妊娠騒動は事実ですから」と伝える。
　職員室に戻った秀雄。「間違いに気づいて欲しかったんです」。教頭は「間違っているのは君」と憤慨。秀雄は「僕は間違っていません！あの妊娠騒動が残した問題は，何も解決していないじゃないですか。何のケアもせずに性交渉し，妊娠すれば中絶すれば済むと，安易に考えている生徒に，間違っていると指導して何がいけないんですか！HIVの感染を他人事だと思っている生徒に，間違っていると指導して何がいけないんですか！間違っていると指導してやることが，僕達教師の，僕達大人のつとめなんじゃないですか！命にかくぁる大切あんことを指導するより，進学率を上げる教師の方が正しいとしたら，僕は教師を続ける気はありません！」と言って，帰っていく。秀雄が去った後，ゴミ箱に捨てられた田岡への手紙を見つけるみどり。１人怒りながら歩く秀雄。ふと立ち止まり，その場に立ちすくむ。
　理事長室へ教頭が向かう。理事長に「トラブルを起こした教師がいまして・・」と言うが，理事長はそう言う問題は教頭に任せると。ただ誰がトラブルを起こしたのか確認すると，秀雄だとわかる。ちょっとひっかかる理事長・・・。
　居酒屋では１人飲んでいる秀雄の姿が。「終わった・・・」とつぶやく。同じ頃，久保は，レストランでみどりを待ち続けていた。みどりが姿を現したのは・・・秀雄の隣だった。みどりは「中村先生の思いは，間違っていないと思います・・・どうしても今日中に伝えておきたかったので」と。
　＜みどり先生は，僕に味方してくれる一番最初の人なんだろうか。どうしてみどり先生が，隣にいるのかよくわからないけど，１つだけわかっていることがある。それは，みどり先生が，砂肝をオーダーすることだ＞
　秀雄の予想通り「砂肝２本ください」とみどり。微笑む秀雄。

＜第３話＞

　家で，薬を飲む秀雄。今日からビデオ日記を始める。最初は，何を言うのかすぐに出てこない・・・。
　「１月２７日　残りの人生を精一杯生きたい。後悔しないように生きたい」

　職員室に一番乗りで，進路指導用の資料を見ている秀雄。さらに職員朝会では，うがいの話題から自ら発言をする。初めてのことに驚く教頭。その朝会で，赤井の結婚が発表された。朝会終了後，結婚が話題に。「中村先生は？」と聞かれ，最初は「僕はまだまだ先・・」と答えた途端，自分の現実に気づく・・・。
　病院。検査をして，現在飲んでいる薬だけでなく，点滴も勧められる。金田医師は，秀雄の様子に気づき「何かあった？」と。秀雄は「当たり前のことなんですけど，僕には結婚ないんだなぁって。今すぐ結婚しても，１年足らずで未亡人にしちゃうじゃないですか・・・それから，恋なんてしている場合じゃないですし・・・有意義に生活するって決めたんです。教師として，しっかりやっていこうと思っています」と。＜未来がないなら，今を大切に生きよう＞
　
　授業を始める前に，鈴木りながメイクをしていることに気づく。放課後職員室に来るように指導。さらに「授業中だけでも生物の勉強をしませんか」とクラスに問いかける。しかし，授業を始めると，いつも通り他の教科書を広げる生徒達・・・。放課後，鈴木は秀雄の言葉を無視して帰ろうとする。秀雄は，廊下で待っていて呼び止めるが，やはり帰ってしまう。
　田岡の進路面接。医学部を目指しているという田岡のために，資料を調べてきた秀雄。しかし，田岡は医学部志望をやめると言い出す。「思ったより給料が安いんですよね」と言うのが理由。秀雄が勧めても，今は全く行く気がないと。他の志望校を考えると出ていってしまう。
　職員室に戻ると，先生達が飲み会に行くという。珍しく，教頭のおごりで。秀雄も誘われるが「残ってやることがあるんで」と断る。飲み会は，大いに盛り上がっていた。教頭のおごりと言うことで，みんなはめちゃくちゃ注文をする。そのころ，学校に１人残っていた秀雄は，教室で生徒に生物の楽しさを伝える練習をしていた。でも，なかなか上手くいかない。そこへ偶然，理事長が顔を出す。「僕の授業を聞いてくれないんです」と残っている理由を話す秀雄。理事長は「遅くまでご苦労様」と一言言っただけで去っていった。秀雄が職員室を出ようとすると，みどりの手袋を発見する。拾い上げて握りしめる秀雄・・・。ふと我に返り，手袋は机に置いて帰っていった。そのころ，みどりは，久保と歩いていて，手が冷たそう。それを温めようと手をつなごうとする久保。きっぱり断るみどり・・。
　秀雄は家に帰り，ビデオ日記を録画する。
　「１月２９日　積極的に生徒に関わろうとした１日だった。全然うまくいかなかったけど，最初から上手く行くはずないから，もっとがんばろうと思う。でも１日仕事をがんばったという充実感がある。明日からもこの調子でやろう」。
　録画中は，元気な顔をしているが，録画を止めると，表情が曇る。

　職員室で，朝早くから１人調べものをしている秀雄。みどりが出勤してきて，自分の手袋を見つける。複雑な心境の秀雄。鈴木はメイクだけでなく，香水までつけてきて，クラスのみんなからも不評。しかもクラスの生徒が，赤井の結婚の話を始めると，いきなり帰ってしまう。秀雄が廊下で見つけるが，説得できず帰ってしまう。職員室に戻り，その話をすると，太田は「彼女の悩みは恋・・その相手は教師・・赤井先生」とズバリ当てる。それを聞いて，飛び出す秀雄。鈴木を追いかけていった。説得するが，やはり聞いてもらえない。仕方なく学校へ戻る途中，また胃が痛み出した・・。職員室に戻ると，秀雄の変化に「何かあったんですか？」とみどり。秀雄は「変ですか？」と。そしてそのまま授業に行ってしまう。その日の夕方。太田は「いつでも相談に乗るわよ。つらい恋をしているでしょ」と言う。秀雄は「好きな人なんていませんよ」と笑顔でごまかす。その日の夜，みどりは，久保と食事をしている。久保はデートのつもりだが，みどりにはその気はない。
　理事長室。理事長は，秀雄の教員データを見ていた。そこへ教頭が来たので，教頭がつける勤務評定を「しっかり見てから評価するように」と指導する。
　その日，鈴木は学校を欠席した。秀雄は，鈴木の家に行くことにする。みどりは，同姓だし年も「若い」から一緒に行くと言うが，頑なに１人で行くと言い張る。鈴木の家に行くが，家から出てきてもらえない。犬に吠えられるだけの秀雄。
　みどりは，家で理事長に「男の人が急に仕事にがんばるときは？」と尋ねる。理事長は，結婚したとき・子供が産まれたとき，その他には出世を考えたとき，もてたいと思ったとき・・と例を挙げる。でも，みどりはどれもしっくりこない様子。理事長は，赤井の結婚パーティのスピーチを考えていた。その話から，みどりはあこがれの夫婦像を語る。「子供が産まれても名前で呼ぶ会う夫婦」。これがみどりの理想だった。
　秀雄のビデオ日記。「１月３１日　まったく今日は笑っちゃう１日だった。昼休みに赤井先生がなれそめを話し出したし，その時に教頭先生が奥さんと上手くいっていないことをぽろっと言っちゃったし・・・・玲子先生はまだ僕のこと誤解しているみたいだったし・・それと・・犬には吠えられるし・・以上」。最初は笑顔で話していたが，ふと表情が曇る・・・。
　結婚披露パーティ。ちょっと遅れた秀雄。幸せそうな２人を見て，ふと考えてしまう・・・。同僚達と「乾杯」を楽しく歌う秀雄。歌の後に一言ずつ言うことに。秀雄は「赤井先生，美子さん，おめでとうございます」で済まそうと思ったが，もう少し，と言われ，「赤井先生の夢は幼稚園の運動会で子どもと走ることと聞きました。早くその夢が叶うといいですね。男の子が産まれたら，一緒にキャッチボールをしたり，プラモデルを作ったりするのかな・・・・大人になったら一緒にお酒を飲むのもいいですね。おじいちゃんおばあちゃんになっても，今と同じように名前で呼び合ってくれたらなぁって思います・・・そして，いつかどちらかが先に旅立つ日が来ると思います。その時に，後悔しないよう，たくさんの愛で，精一杯の愛でお互いを思い合ってください」と，後半は涙ぐんでいるようだった。感動のメッセージに，赤井自ら拍手。みんなが拍手をする中，自分と理想が同じ事に気づいたみどり。パーティーでは，花嫁のブーケをみどりが受け取った。
　ビデオ日記「２月９日　今日は，赤井先生の結婚パーティに行って来た。すごくいいパーティーだった。でも，僕達の歌はちょっと失敗だった。ちょっとひどかったかも・・でも花嫁さんも笑ってくれたし。みどり先鋭もよく笑ってた。笑顔が素敵で，すごくキレイだった。ブーケもらってうれしそうだったなぁ。ウエディングドレス着たら，もっときれいなんだろうなぁ・・・」と楽しく考えていると，ふと現実に戻る。ビデオを止め，テーブルをひっくりがし，ベッドに座ったままうなだれる秀雄。
　診察日でもないのに，病院に現れた秀雄。金田は，何かあったのか尋ねるが，秀雄は本心を語ろうとしない。「毎日充実しています。教師としてできるだけのことはしようとがんばっています。これが今を大切に生きると言うことですから」と。金田が「そう行きようと思ったのはどうして？」と尋ねる。「余命が１年だからじゃないですか・・・僕，間違っています？」と秀雄。金田は「君がホントにそう思っているのなら」と。「ウソなんかついていません」と秀雄。「だったらいいじゃない。君は自分の思ったとおりに生きているんだから」。複雑な気持ちで聞いている秀雄は何も答えない。
　学校に来ない鈴木の元にまた行く。今度は話を聞いてくれた。「勉強に打ち込めば，忘れることができますよ」と秀雄が言うと鈴木は「経験者？」と。「はい，忘れました」と答える秀雄「またすぐに誰かを好きになればいいじゃないですか。きっとこれから先いくらだって恋ができるんですから」。鈴木は「もうわかったよ」と学校へ行く約束をする。そして笑顔で「サンキュ」と秀雄にお礼。でも「間違っているよ。いくらでも恋ができるとか無理。好きになろうとして好きになるんじゃないよ。好きになっちゃうんだよ」と。鈴木と別れた秀雄は，土手で転ぶ。その場に寝ころんで「痛てぇぇ！」と叫びながらも，清々しい顔で青空を見上げる。
　みどりが生徒達とバスケで遊ぶ姿を見守る秀雄。そしてみどりに近づいていく。その足取りは力強い。＜うそをついていた。この恋を忘れようとしていたのは，余命１年だからじゃない。傷つくのが怖かったからだ＞。みどりに対面し「みどり先生。好きです。ずっとずっと好きでした」と告白。
＜ありのままの気持ちを伝えよう。それが僕にとって今を生きると言うことだから＞


＜第２話＞

　職員室。秀雄は，机の整理を始めていた。引き出しの中から，１冊の本を見つける。カバーがつけられたままの本。チャイムが鳴り，みどりと秀雄２人きりになる。「みどり先生，怒っています？あのことは忘れてください」と秀雄。みどりは「どうしてあんなことしたんですか？」と尋ねる。秀雄が「それは・・」と言い始めた途端，教頭が戻ってきてしまった。久保の数学の授業中，ひとり悩む赤坂栞。秀雄の進路面接では，絶対に志望校を変えないと言い張っていた。秀雄が「あと１年がんばるしかないです」と言うと「１年しかないんですよ！」と怒り出す。すると秀雄は「バカじゃないの」と一言。「受験ぐらいでそんなに真剣に悩むなんてばからしい・・・後１年じゃ無理です。あきらめるしかない」と言ってしまう秀雄。その秀雄もあきらめていた「僕には１年しかない。ただ待つしかない。人生最後の日が来るのを」。
　進路面接での暴言について，教頭に指導される秀雄。秀雄は「そんなちっぽけなこと，悩みに入らない」と。さらに「どうして怒っているんですか。生徒のことを思って怒っているんじゃないですよね。責任をとるのがイヤなだけですよね」と，教頭に反論し，さらに教頭の悪いところを指摘し始める。そんな秀雄の姿を，呆然と見ている先生達。
　その日の夜。秀雄を囲んで飲み会が行われた。教頭への態度について「心境の変化？」と聞かれるが「ないですよ」と。どんどんビールを飲み続ける秀雄「ここは僕，もちますから」と。「お金持ちですから。将来のためにコツコツと」と言う秀雄。「将来」「結婚」のために500万円貯めていた・・・。「今夜はぱーっと行きましょう」と１人元気を出す秀雄。部屋に戻り，ベッドに倒れ込む秀雄。秀雄が教会に行くと，聖歌隊が歌を歌っていた。そしてその前には，棺が。秀雄がのぞき込むと・・秀雄が眠っていた。飛び起きる秀雄。夢だった。そして時計の「カチカチ」と言う音におびえる。部屋中の電気をつけ，テレビをつける。それでも「カチカチ」と言う音が・・耳をふさぎ，おびえる秀雄・・・。
　授業中，急に苦しくなる秀雄。しかし，他の勉強をしている生徒達は全然気づかない。「自習にします」と教室を飛び出すと，唯一授業を受けていた杉田が追いかけてきた。心配する杉田に「大丈夫です」と答える秀雄。偶然通りかかったみどりに言われ，教室に戻る杉田。そしてみどりは「本当の事なんて生徒に言えませんよね。気分が悪いのは，昨日飲み過ぎたせいですよね」と秀雄を注意する。秀雄は「確かに，本当の事なんて言えませんよ」と答える。
　ＡＴＭで１００万円をおろす秀雄。向かった先は中華料理屋。テーブル一杯の料理。でも秀雄１人。テーブルを回転させながら，一口ずつ食べていく秀雄。同じお店の別室には，みどり・理事長・久保が会食をしていた。秀雄は，一口ずつ一通り食べると，スッと席を立つ。会計に向かう前，みどり達の姿を見つける。楽しそうに談笑する３人。会計を払う際「あっちの奥のテーブルの会計も払います」と秀雄。合計９万40円だったが，１０万を出しお釣りも受け取らず出ていく秀雄。みどりと理事長は家に戻り，会計のことを不思議がるが，相手が誰か想像もつかない。理事長は，しきりにみどりに久保を薦めるが，みどりはやっぱり乗り気ではなかった。ただ，理事長は，久保を薦めたのは母親だった，とみどりに告げる。次の日，赤坂が職員室に進路相談に来た。ただし久保の所へ。久保は「オレたちに相談しても，自分が勉強しないと希望の大学には行けないぞ」と。職員室を出ていく赤坂。「むかつく」とつぶやく秀雄。久保は生徒に聞かれることを死敗するが，「生徒じゃなくてあなたです」と秀雄。
　夜，アパートの前。家に戻るのかと思ったが，１台のタクシーがやってくる。秀雄はそれに乗り込み，向かった先は・・高級キャバクラ。秀雄は，身なりで判断され追い出されそうになるが，１００万円の札束をカウンターに差し出す。態度が一変。女性達に囲まれ「楽しい？」と聞かれる秀雄。無表情のまま「たのしい・・」と答える秀雄。自分の部屋に女性を連れ込むが，そのまま女性を寝かし，自分は床で寝る・・・「たのしい」とつぶやきながら。
　秀雄は病院に行き，金田医師と話をする。「あと１年って思ってましたけど，考え直しました。結構長いですよね，１年って・・・楽にしてください。死ぬことを考えると，やっぱり怖いんですよね。毎日毎日怖いんですよ」と秀雄。金田は「残りの人生それだけじゃない」。それでも秀雄は「何の痛みも感じないまま楽にしてください」と懇願する。金田が「このまま入院しましょう」と言うと，「楽にしてくれるんですね」と秀雄。楽にしてもらえると思った秀雄だが，金田は「そんなことは法が認めない。たとえ法が認めても，僕は認めない」。空きベッドを確認する間，秀雄は待合室へ。金田は，看護婦に目を離さないように言うが，その時，偶然にも待合室で老人が倒れ込んでしまう。その騒動に紛れて，秀雄の姿が消えてしまった。秀雄は，病院を出て行っていた。途中，残りの数十万円を募金して。通りかかった教会では，聖歌隊が「この道」を歌っていた。少年の頃と同じように，引き寄せられる秀雄。そして・・・がけの上に立つ秀雄。両手を広げ，飛び立つように・・・・。
　職員室。秀雄の机の上に花・・・を置いて，自分の生けた花を見ている太田。この日は，秀雄は無断欠勤をしていた。秀雄は，入院をしていた。目を覚ました秀雄。金田は「覚えていますか？」と。秀雄は，浜で発見された。診察券を持っていたので，こちらの病院に移送されたという。「僕は自分で死ぬこともできないんですか！」と秀雄。金田は「そうだ。君に自分で死ぬ権利はない」とある患者の話をする。娘の結婚式まであと１ヶ月。それまでがんばっていきたいと言っていたが，先ほど無くなってしまった・・「そう言う人，何人も見てきた・・僕には残りの君の人生を支える義務がある」と金田。
　久保とみどりが，秀雄の家を尋ねる。もちろん誰も出ない。その帰り道，久保はみどりを個人的に誘う。父親が勧めるからではなく，自分としてはどうなのか考えて欲しいと。その次の日，秀雄から学校に連絡が入る。そしてお見舞いに来る同僚達。職員室の机においたままだった，あの本も持ってきていた。秀雄は，自殺しようとした友だちを助けるため，崖から落ちたと説明していた。「崖から落ちるとき死ぬと思った？」と質問され「もちろん死ぬつもりでした」と。他の人達は「やっぱり死ぬと思ったんだ」と違う意味でとらえたが，この言葉に引っかかったみどりは，金田に会う。「本当に事故だったんですか？最近中村先生の様子がおかしかったので」とみどり。金田は「私は，患者さんのことを教えることはできません。でもお教えしましょう。本当に事故ですよ」とみどりに伝える。みどりが去ろうとするとき「あなたは中村さんの特別な人？」と金田は質問するが，否定され，そのまま別れた。
　売店で買い物した帰り，秀雄は，退院していく赤ちゃんを偶然見かける。なにか感じる物があったのか，新生児室をのぞきに行く。そこにはたくさんの赤ちゃんが寝ていた。公衆電話で，田舎の母親に電話する秀雄。「最近連絡していなかったから・・・元気だよ」と秀雄。唐突だったが「僕が生まれたとき，母さんどう思った？」と母親に尋ねる。母親の言葉に，涙する秀雄。母親に悟られないよう電話を切る秀雄。そして１人号泣する。一旦，病室に戻るが，あの本が目に留まる。金田が廊下を通りかかると，ベンチに座る秀雄を見つける。隣に座る金田。秀雄は「僕が読まなかった本です」と金田に説明をする。「１年って２８年より長いですよね」と秀雄。「そうだよ」と答える金田・・・。
　退院した秀雄が，あの本を持って授業に向かう。教室に入っても，生徒達は別の教科書を広げている。すると秀雄は「机の上の物をしまってください」と。それでもみんなは無視していた。「机の上の物をしまってください」と繰り返す秀雄。誰もきかないと「しまいなさい！」と珍しく口調が厳しい。不思議に思った生徒達は，秀雄の言うとおりにする。その言葉に立ち止まるみどりが廊下から覗いていた。秀雄は，本を示し「ここに１冊の本があります。この本の持ち主は，読みたいと思ったので買いました。しかし，今度読もう，今度読もうと思いつつすでに１年がたちました。この本の持ち主は，これを読む時間がなかったのでしょうか。たぶん違います。読もうとしなかった・・それだけです。そのことに気づかない限り，５年たっても１０年たっても持ち主がこの本を読むことはないでしょう・・・受験まであと１年です。みなさんの中には，あと１年しかないと思っている人もいるかもしれません。でも，あと１年しかないと思って，何もしない人は，５年あっても１０年あっても，何もしないと思います。だから，１年しかないと言っていないで，やってみましょう。この１年，やれるだけのことはやってみましょう」。まるで自分に言い聞かせているよう。その時，秀雄は母親の言葉を思い出していた。秀雄の問いかけに母親は「やっと会えたねって・・それから，この子のためなら自分の命は捨てられる・・そう思ったかな」。
　「僕に自分で死ぬ権利なんて無い。ボクは生きる。人生最後の日まで」。

＜第１話＞

　教会の聖歌隊が歌っていると，そこに１人の少年が引きつけられるように入ってきた。そして，そのまま一緒に歌い出す。歌は「この道」・・。

　生物の授業中。生徒達はみな別の教科を勉強している。秀雄の授業を聞いているのは１人・・・。教科書をもって保健室へ行こうとする男子生徒。秀雄は，あっさり保健室へ行くのを認めるが，他の生徒が文句。「自習にしますから」とその場を収める秀雄。授業後，秀雄のクラスの生徒が万引きをしたという。秀雄が店に行き，生徒を連れ戻す。職員室で指導をするが，秀雄の話をまともに聞き入れない生徒。ところが，後から来た久保が話をすると，生徒は納得し，二度とやらないと約束をする。「同じ事を言っているのにね」と教頭。同僚の１人がみんなのお昼を買ってくる。秀雄はいつも通りの減塩低カロリー弁当。そんな秀雄の元に，先日の健康診断の結果が届いた。開けるタイミングを逃し，そのままにしておく。進路面接をする秀雄。まだ希望大学が決まらない杉田に「なんで教師になったの？」と言われても「いろいろですよ」としか答えられない・・。

　急に雨に降られ，困っているみどり。そこへ傘を持った秀雄がやってくる。「入れてくれます？」とみどり。うれしそうに傘に入れてあげる秀雄。自分はビショビショになってもかまわない。お昼のお弁当の話題から，おいしい焼鳥屋へ誘うことに成功する。焼き鳥を食べながら，学校近くのおいしいお店を知っているから・・・と一緒に行こうと誘うと，みどりはあっさり承諾。でも，秀雄が思い切って日曜日に映画に行こうと誘うと，みどりはあっさり拒否。
　家に帰ってから，健康診断の結果を見てみる秀雄。そこには「再検査」の文字が。「めんどくさい。悪い所なんてないのに」と。再検査をうけ，その結果を聞くために病院を訪れた秀雄。待合室には，真っ白な服を着た少女が。その少女は，秀雄に「パパ，病気なの」と。「早く治ると良いね」ととりあえず答える秀雄に，少女は「今，死んじゃった」。その時，秀雄を呼ぶ声が聞こえ，診察室へ。金田医師は「結果は家族と一緒に聞いて欲しい」と深刻な顔をしている。最初は，気楽に考えていた秀雄だが，その言葉に「僕，何の病気ですか？」。
　診察室から，呆然と出てくる秀雄。道では普段通りにティッシュを受け取り，家に帰ってもいつも通りに手を洗い，うがいを・・・。でも，顔は呆然としたまま。呆然としながらも，日常は進んでいく・・・。「２８年間生きてきた。明日という日が，当たり前にやってきた。今までは・・・僕は今日，余命１年を宣告された」。

　学校へ向かう秀雄。呆然としたまま，普段通りに授業を進めようとする。前回と同じ授業を始めようとしても，気づいたのは前回ちゃんと聞いていた杉田だけだった。廊下で，みどりに再検査の結果を聞かれると「大丈夫でした」と答えるだけ。「じゃ，今夜の飲み会大丈夫ですね」とみどり。その夜，先生方でカラオケ屋へ。太田が１人で歌い続けている。そこに秀雄の姿はない。みどりがトイレに行くと，別の部屋で１人「涙くんさよなら」を歌う秀雄の姿が。何も知らないみどりは「向こうじゃ歌えないですからね」と自分もここで歌おうとする。すると，１人出ていく秀雄。家に戻ると，以前「ブービー賞」でもらったハンディカラオケを取り出し，「涙くんさよなら」を思い詰めた顔で１人歌い続ける・・・。
　次の日の朝。母親に電話しようと練習している秀雄。でも，なかなかかけられず。「後にしよう・・」と時計を見ると，遅刻ギリギリ。慌てて家を出ようとするが，思い直して，冷蔵庫からビールを出して飲みだしてしまう。秀雄の授業が自習になった。珍しい秀雄の無断欠勤に，生徒はあり得ないと驚く。遅れて学校に出勤した秀雄。教頭には「目覚ましがならなくて」と言い訳。教頭が出ていき，職員室にはみどり１人が。秀雄はみどりに「僕はふられたって事ですよね？どうして僕じゃダメなんですか？」と問いただす。何を言っても大丈夫だという秀雄。みどりは，秀雄はまじめでいい人だが「小さくまとまっている・・・人の顔を伺っていて，自分の考えを言わないじゃないですか。私は，自分の考えをしっかり持っていて，それを行動に移せる人にひかれます」と。立ち去ろうとするみどりに，ホントはビールを飲んでいて遅刻したと言う秀雄。不思議に思いながらも去っていくみどり。秀雄は，廊下ですれ違った久保に「みどり先生は，久保先生みたいな人と結婚するんでしょうね・・ふとそう思った物ですから」と。久保は「まだまだ独身でいたいよなぁ。人生長いんだから」。みどりの家では，理事長である父が，久保をみどりに薦める。しかし，みどりはそれほど乗り気ではない。
　秀雄は，家でラーメンを作っていた。卵を見ると賞味期限が切れている。「大丈夫かな」としばらく悩んでいる。刻々と時間が過ぎる・・「いつまで悩んでんだよ！」と卵をたたきつける秀雄。時間は刻々と過ぎていく。その卵を買いに出た帰り，不良グループにかつあげされる。素直にお金を渡そうとすると，財布ごと取られてしまう。さらにぼこぼこにされて倒れる秀雄。そんな秀雄に，銀行のカードを示し「暗証番号・・教えてください」と不良達。ぼこぼこにされた秀雄は「教えてください」と逆に切り出す。「教えてくれよ！なんで僕なんだよ！お前らみたいやつじゃなくて，何で僕なんだよ！」と不良達につかみかかる。
　次の日。病院へ向かう秀雄。勝手に診察室に入っていき，他の人が治療中でもかまわず，金田医師に問いただす。「間違いじゃないですか!?」と。秀雄は自分の人生を語り始める。「今まで僕は地道に生きてきました。高校の時は，いい大学に入れるよう一生懸命勉強をしました。ふわふわと女の子とつきあったりしませんでした。そして希望の大学に入れました。就職は一般企業も考えましたが，あっちこっち転勤するのを避けたかったので，高校教師になりました。転勤を避けたかったのは，結婚して家族を持ったときのことを考えたからです。僕は別に大きな成功とかを望んだことはありません。毎日平穏無事に暮らせれば良いんです。小さいことはいろいろありますよ。でも大きなトラブルは一度もなく過ごしてきました。そんな僕が，こんな目に遭うわけないんですよ。おかしいとおもいませんか!?そんなの不公平ですよ！何かの間違いなんです。そうですよね!!」。そんな秀雄を黙って見守っていた金田医師は「そうだね。君がそう思うなら，間違いかもしれない・・・でも，１つだけ確かなことがある。それは，今，君が生きていると言うことだ」。診察室を出ていく秀雄。「告知は重荷だったのかも」と言う看護婦に，金田医師は「キミはどう思う？やっぱり不公平だと思う？」と。
　結局その日は学校に現れなかった秀雄。秀雄の無断欠勤に，初めて同僚達が心配する。久保の「女関係じゃないだろうけど」と言う言葉に，ふと不安になるみどり。住所を頼りに秀雄の家を尋ねるみどり。チャイムを押すが留守。帰ろうとすると，ブランコに乗る秀雄を見つけた。みどりは「私のせいじゃないですか」と尋ねる。秀雄は「どうして僕がそんなことで傷つくんですか・・ボクは無難に生きてきた人間です。そう言う人生がいいと思ってそうしてきたんです。だから，ああいうことを言われてもショックなんてうけません」と。みどりは「はっきりさせておきたかったんです。長いつきあいになると思うので」と仕事上でのつきあいが続くだろうと。そんなみどりに，いきなりキスをする秀雄。「僕だってやろうと思えば，こういうことできるんです。でもあえて無難な道を歩いてきたんです。僕は自分の生きてきた道を一度だって後悔したこと無いんです」と言って去っていく秀雄。
　１人，小学校の時の卒業文集を読み始める秀雄。将来の夢は，テノール歌手。そして「幸せな人間になりたい。幸せな人間とは，後悔のない人生を生きている人」と言う自分の言葉を見つける。ラーメンをすすりながら，「後悔のない人生」と言う言葉がリフレインされる。涙があふれてくる。「本当は，後悔している。あのころ思い描いた人生を生きてこなかった。２８年間も生きてきたのに・・・」。号泣する秀雄・・・。